農園日誌Ⅱー活きることーPARTⅥー荒れ地の開墾

31.2.20(晴れ)最高温度17度、最低温度6度

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                  草木堆肥の切り返し作業

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10日程前に積み上げた堆肥を切り返している処。

通常は半月程で切り返しを行うが、水分が多すぎたことと、混ぜ込みが荒かったため、
早めに切り替えし作業を行い、乾燥した草と
湿った草を交互に
混ぜ合わせながら積み上げている。

この切り返し作業によって、新たな空気が入り、発酵が早く進む。
微生物・放線菌が増殖することにより、発酵熱が発生したため、白い煙が出ている。
第一次発酵時の温度は60~70度まで上がる。


「活きること」PARTⅥ
2009年12月―荒れ地の開墾(農園を開いてから6年目)

 近くの農業者から約4反の荒れ地があるのだが、地区の者達は竹藪になっている畑をなんとかしてくれないかと言っている。半分ずつ分け合って開墾しないか?と相談があった。
行ってみれば、葛や竹に覆われ、ひどいブッシュとなっていた。
取り敢えず、農園を手伝ってくれていた神戸からきた中田君と一緒に、草刈り作業から始めた。
竹や葛の根だけではなく、石はあるは、生活ゴミはあるはで、切り払い、拾い集め、焼き払い、農作業や収穫作業と並行して、開墾作業だけで一ヶ月半を要した。
それからが、また、大変である。
ラクターとタイヤシャベルとツルハシやスコップなどを使い、根を堀り上げ、また、繰り返しトラクターで丹念に耕す。何とか畑の体を為すには、それからさらに6ヶ月を要し、土作りや次から次と出てくる竹の根の除去に3年間を費やすことになった。

 この畑は、5番の畑となり、佐藤自然農園の圃場は、一気に5反半までに拡がった。とは言っても、すぐに戦力になるわけでは無い。
この時点で、草木堆肥歴7年以上の2番の畑と6年目の3番の畑、そして、5年目の4番の畑は、みな金ラベル級の畑となり、5番の畑は、まだまだ赤ラベル級でしかなく、むかし野菜としては、戦力外であった。
例えば、開墾してから2年目に、大根の種を蒔き皆で食べてみた。
化学肥料により汚されてはいないものの、大味で、香り薄く、食感も悪い。スタッフ達の顔を眺めて、どうか?と聞いてみたが、誰も要らない!と言う。結局、みな潰して緑肥となった。
普通の野菜より美味しいのにスタッフ達も舌が肥えてきたものだ。自分たちが食べてみて、納得できないものは、やはり出荷はできない。
 
むかし野菜の評価(販売価格)基準

草木堆肥歴3年未満;赤ラベル級、販売例、じゃがいも500g―140円
草木堆肥歴3年以上5年未満;銀ラベル級 販売例、じゃがいも500g―
                              160円
草木堆肥歴5年以上;金ラベル級 販売例、じゃがいも500g―180円
当然に、以上のように各級によって、販売価格は異なる。
 
赤ラベル級は、やはり草木堆肥歴2年以上(少なくとも6回以上は堆肥を振っている)で無いと、出荷に堪えない。
例外として、化学肥料にまみれていない畑は(その代わり雑草に覆われる)土壌に微生物層ができており、草木堆肥を降り続ければ、2年を経過しなくとも、味は赤ラベル級として出荷に堪えうる。
現在耕作地で化学肥料(畜糞も同じ)と農薬や除草剤を使用している慣行栽培の農地は、化学物質に塗れ、窒素過多土壌になっており、微生物層が無く草木堆肥を施肥し続けても蘇るのに3年以上を要する。

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通常の有機野菜作りの前に、当農園は草集めから始まり、剪定枝の破砕作業や雑木林から落ち葉を集め、2~3ヶ月かかりで草木堆肥を作り、それが出来上がるのを待ち、畑に草木灰と一緒に畑全面に振る。
手間が掛かること夥しく、近年の農業では誰もしない。その意味では世界でたった一つの農園なのかもしれない。
草木堆肥作りは先ず、集めてきた草を厚さを均等に5センチ程の高さに敷きその上に配合飼料を食べさせていない牛糞を2センチ程の高さに重ね、さらに葉っぱや破砕屑を厚さ3センチに置き、トラクターで混ぜ合わせ、高さ1.5メートルにタイヤシャベルで積み上げる。


 当農園では、味・香り・食感・そして旨みによって評価するようにしている。化学肥料・農薬・除草剤で汚染されていない畑では、2~3年以内に味香りは、ある程度は出てくるが、3年以上経過した土壌でないと歯切れの良い食感は得られない。旨みとなると、5年~10年を要する。

農園のスタッフ達は、味覚の訓練を常にしておかねばならない。新規で野菜を取り始めた方の中で、いきなり、「やさしい味ですね」と表現してくれるお客様がおられる。
味香りが濃い、生命力がある、美味しいなどと言って頂けるお客様は多いが、時折、本物の野菜を見分ける神の舌をお持ちの方がおられるようだ。
うかうかとはできない。
 
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剪定枝の破砕作業の風景。日本に数台しか無い破砕機。ご苦労なことに日立が製作したが、誰も必要としないため、現在では受注生産をしているらしい。剪定枝は造園業者が捨て場所に困っており、喜んで当農園に持ち込む。
当農園では、これも大変な作業なので、月に一回は破砕をする日を決めている。

「美味しい野菜とは」
 美味しい野菜作りは、土作りにあり。
土壌は山野の土壌が最高レベルにあり、永年蓄積され続けた草木の栄養素が蓄えられている。
例えば、植物に含まれている炭水化物や脂肪・タンパク質などは、微生物の餌になり分解していく。
木質等の硬いリグニン・セルロースなどは放線菌(黴)により分解される。
そこには、自然の営みがあり、上は動物から下は菌糸類までの植物連鎖の体系がある。あるものは、食い合ったり、共存したりと、しっかりとした自然循環システムが形成されている。
だから、自然が保たれているのであり、もし、彼ら微生物や菌糸類が居なければ、枯れた木はいつまでもそのままであり、死んだ動物もそのまま残ることになる。恐ろしい光景が想像できます。
オー157もサルモネラ菌も山野の土壌には生息している。但、その有害菌が増殖しないシステムを自然は作り上げている。それが自然循環の仕組みです。

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二次発酵時の切り返しの際、びっしりと白い菌糸類が張り付いている。
こうなると、堆肥作りは早い。後は、微生物や放線菌の増殖活動に委ねる。

ちなみに、保健所の指導により、常に無菌状態のしている加工所では、一旦外からサルモネラ菌が持ち込まれたら一気に施設全体に蔓延してしまい、食中毒を起こしてしまいます。
つまりは、有機物を補給し続け、それを食べる無限大の種類の微生物等が生息している土壌環境こそが、真の有機農業と言うことになる。
その基準で日本の有機JAS農業や世界のオーガニック農業を眺めてみると、その基準には到底合致しないことになる。有機JASであれ、オーガニックであれ、化学薬品や抗生物質などに塗れた畜糞多投の農産物となり易い。
 
 有機野菜の概ね90%以上が畜糞肥料主体である。鶏糞・豚糞・牛糞には、海外から輸入された穀類(配合飼料)が餌として与えられており、そこには、滅菌剤・抗生物質・化学薬品が多量に含まれている。
これなら、化学肥料と大差なくなり、さらに悪いことに、抗生物質は病害から家畜を守るために滅菌剤としての効果がある。分かりやすく言えば、本来の有機農業とは土壌に微生物層を作り、畑を育てて行くべきものであるはずが、逆に微生物や放線菌を殺してしまうことになると言う訳です。
最近の研究では、抗生物質に汚染され続けると、人としての抵抗力(抗体が減る)が無くなり大病を患いやすくなるとの報告が出されている。無菌食品が必ずしも良いとは言えないのです。
むかし野菜の草木堆肥にも牛糞は約10%ほど発酵促進剤として使われているが、その牛糞は、牧草しか食べていない繁殖牛の糞であり、鼻にツンと来る臭いはしない。(繁殖牛は肥えると子を産まなくなる)

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半日がかりで作った草木堆肥。これから明日の雨を待ち、水分補給をしてから、厚めの
ビニールを掛け発酵を促す。微生物は直射日光を嫌う。
 
有機栽培では農薬が全て悪いと思われがちですが、畜糞主体の有機農業や化学肥料しか使わない慣行栽培では、化学物質のみならず、窒素過多土壌(有害な硝酸態窒素が野菜に多く含まれくる)になり易く、これこそが一番の問題なのでは無いかと気づかされた。そこで私が選んだ農法は、先人達が行っていたむかしの日本の自然循環農法であったことはおわかり頂けたと思う。

 私が数年がかりで理解した「やさしい味がする野菜」と言った表現を数人のお客様からご指摘頂いたことは、本当に嬉しかった、と同時に、凄い舌を持っておられると驚いたことも分かって頂けると思う。
 
それでも、この荒れ地は、化学肥料に汚されて居らず、しっかりと微生物層はできており、活きている土であったため、3年後には、赤ラベル級として、立派な基幹の畑となっていた。
農作業とは、正に土木作業でもある。開拓者の気持ちが分かる。
 
残念なことに一緒に開墾作業を行った中田君は家庭の事情で郷里の神戸に帰ることになってしまった。
その間にも入れ替わり、農業志望の若者達が当農園の門を叩いたが、短い人で一週間も持たない。長くとも半年しか続かないなどを繰り返していた。

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これが開墾した5番の畑の全景です。どうです、きれいな畑になっているでしょう。
誰もこれが、当時荒れ果てた竹林だと思わないでしょう。
今では当農園の主力の畑となっている。