農園日誌Ⅱー「活きること」ーPART17ー現代有機野菜の課題点


2019.5.15(水曜日)晴れ、最高温度26度、最低温度17度

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4.28の農園体験会にて、約100余名の家族が種を蒔いた畝。
見事に不均一に、密集して蒔いて頂いた。その痕跡の残るサラダセットです。
農園主は覚悟の上で、片目を瞑って眺めておりました。

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       収穫体験の一コマ。スナップエンドウと小松菜の収穫風景

二班に分かれたので、混み合わず、みなさん、楽しんで頂けたようで、特に子供さんは、始めて本格的な農園での体験は、真剣な顔で、一日農業者になりきっていた。
おそらく、こんな農園体験は全国にも例が無いことでしょう。

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            これが我々が蒔いたサラダセットの畝です

よく見てみると、サラダセットの合間に、夏野菜であるピーマンが顔を覗かせている
夏野菜が生長する合間に春野菜が一緒に同居している風景。
肥沃な圃場を最有効に活用している。


「活きること」PART16
2015年5月5日     現代有機野菜の課題点
 
 欧州にはオーガニックと言う言葉がある。日本では有機農業である。
処が、日本の有機JAS規程に該当する農業では、世界基準であるオーガニックと言う定義には該当しないらしい。どうやら、日本基準の有機JAS野菜は信用されていないようだ。
この欧州から発したオーガニック(有機農業)は、ある事件から動き始めたようだ。
17世紀、硫安(窒素肥料)が発明され、欧州の農業生産力は飛躍的な進歩を遂げた。
欧州大陸は大きな河川が多く、大陸の地中は地下水脈で繋がっている。
窒素肥料が大量に撒かれ続け、硝酸態窒素に置き換わり、欧州全土の地下水系に流される。これは毒素であり、それから2世紀が過ぎ、緑(青)色の血液を持った子供が生まれた。
そのことに憂慮を抱いた欧州の学者たちが、窒素肥料農業(近代農業)に変わるものを探し、行き着いたのが、日本の農業を学ぶことであった。これが欧州のオーガニックの始まりである。
当時、日本では、里山から芝を刈り、田畑の草を刈り、わずかな畜糞(おそらくは鶏や農耕用の牛の糞及び人糞など)を加え、1~2年がかりで発酵させ、草木堆肥を作り、田畑に施肥して穀類や野菜を育てていた。私が言うところの自然循環農業を有史以来行っていた。
 
皮肉なことに、日本は、その頃から、農業先進国である欧州や米国の近代農業を政府の肝いりで推進していた。窒素肥料・農薬・機械化大規模農業です。農園主がまだ小さい頃はわずかながら、日本の草木堆肥は残っていたが、すぐに消滅し、近代農業の国に変貌していた。
やがて、欧州のオーガニックを真似て、消費者保護の名目で有機JAS規程が作られ、現在に至っている。
この段階で、日本のむかしながらの自然循環農業は一旦、途切れ、有機農業(JAS規程)として新たに登場することになった。

途切れたとお話ししましたが、実は古来からの自然循環農業を継続していた農家もわずかながら残っていたのですが、彼らは、国の定めた有機農業とは異なることにされてしまったからです。
最もその当時の有機野菜の主体は、牛糞や鶏糞にわらを混ぜた厩肥、若しくは、米糠・油粕・魚腸・海藻などを使うぼかし農法でした。
ここで日本の有機農業(広義)はその出発点から大きな矛盾を抱えてしまった。
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機械も無いむかしの人達は、畑から草を刈り取り(これはいまでも同じだが)里山から柴を切り出し、わずかな農耕用の家畜や人糞(発酵促進剤)をその上に振り掛け、1年がかりで草木堆肥を作っていた。
この木や葉っぱには、無限の微生物や放線菌が棲んでおり、地中深く根を下ろす木は、地球からバランスの良いミネラル分を摂取している。この微生物達とミネラル分が土を育てる
今では、破砕機で剪定枝を破砕し、草・牛糞(放牧)を三層に積み上げ、トラクターで混ぜ込み、タイヤローダーで積み上げ、夏場は、約1ヶ月ほどで草木堆肥を作ることができる。
それでも現在の農業者は、その手間を惜しみ、簡易な窒素肥料や配合飼料の入った畜糞を使い、野菜を育てている。
今までも一体何人の方にこの草木堆肥の作り方を教えたかしれないが、残念ながら、それを実践されておられる農家の人は居ない。

 
当農園は、むかしからの草木堆肥を使った有機農業(自然循環農業)を現在に復活させており、国の定めた有機農業(JAS規程)とは一線を画しております。それと区別するために「むかし野菜」と称している。今ではこの草木堆肥しか使わない農法は当農園しか残っていないようです。
当農園の自然循環農業は、剪定枝(葉っぱも含む)を破砕し、草を刈り取り、むかしのように発酵促進剤として、わずかな牛糞を使用している。
その牛糞は、肥育牛のように配合飼料(抗生物質・薬品が混入)を与えず、草を中心とした餌を与えた
繁殖牛(肥えると子を産まなくなる)のものを使用している。このことにより、圃場に微生物や放線菌を駆逐する抗生物質や化学物質を極力持ち込まないようにしている。
 
ここで知って頂きたいことは、オーガニック農業の先進国であるオーストリアやドイツなどは、緯度的には日本の北海道に当たる。そこでは、寒冷気候であり、害虫の発生は微々たるものであることを・・・
実際には、近年の温暖化によって害虫の異常発生が続いており、北海道と長野県の一部以外では、無農薬栽培は極めて困難になっている。有機JAS規程はその発足から大きな問題点を抱えていました。
 
有機JAS規程の骨子
肥料も農薬も化学合成していないものを使うこと。
有機物なら何でもよいこと。
店頭で売る際は、有機JASの認定を受けていない場合、有機野菜と表示してはならない。
但し、認定の当初は厳しい査定や検査が必要であるが、一旦取得すると、後は、書類査定で良いのです。
 
そんな経緯から、有機野菜は無農薬野菜と言った定説が出来上がってしまい、現実には季節によって異常発生する害虫被害により、完全無農薬では野菜ができず、建前と本音の板挟みになった有機農家のために、国は最近になって「有機無農薬」と言う表示を禁止するに至った。
 
欧州のオーガニックの多くは、消費者(市民)が現場の農業にも加わっており、契約栽培に近く、農園マルシェでも求められる。
日本の消費者が流通(スーパー・有機専門の流通)に依存するのとは大きな違いがみられる。
そのため、欧州では生産者と消費者の距離が近く生産現場を常に見ていることになる。
そう言ったことも、日本の有機野菜への信用度が薄いことに繋がっているのかもしれない。
 
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              ビーツの畝

生産者と消費者の距離感があり過ぎるのが日本の農業の現実です。欧州のオーガニック農場では、消費者は良く農園を訪れ、非常に日常的な接し方をしているようだ。これだと生産者と消費者の対話は進み、農業者がどのような考え方で野菜を育てているのか、消費者が何を望んでいるのか、常に対話ができている。
このビーツですが、一般的には、日本の消費者には馴染みが無い。実は、このビーツの赤い茎が甘くて美味しいのです。
当農園では10年以上前からビーツを育て、この茎の食べ方まで消費者にお知らせしてきた。その他にも、芽キャベツ・筍芋・エシャロットなど、滅多に市場に出回らない野菜も日常的に育て、お届けしている。
農園体験会も消費者との距離感を少しでも縮めるために、当農園は半ば義務としてその体験会開催をし続けている。


それでは、実際の有機野菜の現場を覗いてみよう。
有機栽培の場合、畜糞主体の肥料・米糠油粕主体のぼかし肥料・スーパーや家庭ごみなどのコンポスト肥料が主流であり、そこに稲わらを加えたりしている人もいる。欧米では畜糞肥料が主なようだ。
ここで大きな課題が発生している。
放牧牛や平飼い自家製飼料の鶏糞(実際にはほとんど無い)ならば、問題はないのだが、多くの畜糞は外国産の飼料を使っている。その配合飼料には畜舎で病気が蔓延しないために、病原菌を撃退する抗生物質や多種類の薬品が入っている。
これらの化学物質や抗生物質有機肥料として畑に撒かれると、本来は微生物や放線菌などによって土壌を育み土を健全に育てて行くのが持続可能な有機農業の筈が、土壌はケミカル物質に次第に汚染され、抗生物質によって微生物は駆逐されていくことになる。
とある有機農家を訪れてみると、土はごわごわで、団粒化は進んでいない。つまりは微生物層が土壌に育っていない。高校を卒業し、いきなり当農園で学んだ22歳の青年が、そこの土に触れ、「お父さん土が固いし、野菜は黒々としていますね」とすぐに気がついたようでした。
 
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             耕耘する前の土

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             耕耘した後の土

お分かり頂けるだろうか?これは草木堆肥歴16年の圃場の土です。
通算80余回ほど、草木堆肥を施肥し、土作りを行ってきた2番の圃場です。団粒化と言って、土が砂状に粒々になっており、鍬を入れるとさらさらとした感触で、草取りをすると、小指の力だけで草は抜ける。
有機物残渣や微生物の死骸が核になり、団粒化していく。草木堆肥で土作りを行うと、一年間でおよそ数センチしか土はできていかない。従って3年間を掛けて、10センチほど土が育っており、根の浅い葉物がようやくできる。
5年を経過すると、15~20センチの深さまで団粒化が進み、実物などの根を深く下ろす野菜ができはじめる。
この二番の圃場は、50~60センチの深さまで団粒化が進み、何を作っても良くできる。
所謂、保水力・保肥力を有し、空気も入りやすくなる理想の土となる。
当然に野菜はプラチナ級の味香り・旨み・歯切れの良い食感が得られる。
ちなみに、研修生として入った後藤君の圃場は、草木堆肥を降り始めて二年目に、高菜の種を蒔いてみた。彼は、期待していただろうが、二ヶ月経っても成長が遅く、ついには、高さ12センチにしか育っていないのにも拘わらず、早くも莟立ちし始めてしまった。
畑を借りる前、化学肥料や除草剤を使っていたのだろう。微生物は棲んで居らず、地力が無いせいだ。
他方で、7番の圃場は借りて二年目で葉物が立派に育った。この圃場は、5年間放置され、雑草に覆われており、草取りは大変だったが、微生物層ができており、二年目で早くも団粒化が見られた。


次に、硝酸態窒素の問題がある。
窒素肥料を多用している慣行農業(近代農業)、畜糞肥料(彼らは堆肥と呼んでいるが)を多用している有機農業では、いずれもその土壌は窒素過多に陥り易い。(私はこれを畜糞の科学肥料化と呼んでいる)
野菜は困ったことに土壌に窒素分があればあるだけ吸収しようとする性質を持っている。そして、成長し続けることになる。
野菜の体内に吸収した窒素分は、イオン化して体内に吸収し成長するが、余剰な窒素分は硝酸態窒素とし体内に留まる。こうして、硝酸態窒素の多く含まれた野菜は収穫され、市場に出荷される。結果として、消費者は、硝酸態窒素を常時摂取することになってしまう。
草木堆肥しか無かった時代のむかしの野菜(自然循環農業)は当然に低窒素(高炭素)栽培であった。

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低窒素栽培で育った野菜は、品種にもよるが、淡黄(緑)色をしている。
高窒素栽培で育った野菜は、深緑色をしていることが多い。

 
※低窒素栽培に於ける完熟野菜の仕組み
土壌に窒素分が多いと、野菜はその体内にミトコンドリアと言う成長酵素が無限に生まれてくる。
土壌に余剰窒素があれば、ミトコンドリアは生まれ続け、成長を促す。野菜には炭水化物とデンプンが多く蓄えられ、やがてある程度に大きくなると出荷される。慣行栽培野菜や畜糞主体の有機野菜を食べてみると、やや苦みを感じてしまう。これはデンプンの苦みです。
他方で、低窒素土壌で育った野菜は、土中の窒素分を吸収できなくなると(土中に窒素が切れる)、成長が止まり、体内に蓄えたデンプン質等を分解し、エネルギーに換え(イオン化)野菜は生き残ろうとする
その過程で生まれてくるのが糖質やビタミン類です。これが完熟野菜です。
さらに言えば、低窒素土壌でも野菜が生長できるのは、ミネラル分があるからです。ミネラル分は常に土中に補給し続けないと、土壌は次第に痩せてきます。
このミネラル分をバランス良く多く含んでいるのが、実は、土中深く根を張る木であり、葉っぱです。
マントルには地球創世過程で、ミネラル分が多く残っております。
この完熟野菜は、低窒素土壌でしかあり得ない仕組みと言うことになります。
 
私は自然循環農業を行っていて、いつも思うのは、この自然なやさしさと味香りや旨味の高さや歯切れの良い食感を感じていると、昔の人達は随分と美味しい野菜を食べていたんだな、と言うことです。
先人たちの叡智にも感心しております。

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              じゃがいもの花

じゃがいもの花が咲き揃う年は農作物の出来が良いのです。
久しぶりの良い季候に感謝、感謝です。