農園日誌ー社会的存在価値ーPARⅦ-商品開発

29.3.29(水曜日)曇り時折小雨、最高温度14度、最低温度4度

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                 ようやく新施設に移転する

 計画実行までほぼ一年半を要して、今日、出荷作業を新しい建物で行った。
写真はほぼ箱詰め作業が完了したところ。
偶々、地元局OBSの丸一日の取材が入り、てんやわんやで一日が終わった。
明日は、作業ができるように施設の整備を若い三人にしてもらう。
研修生二人と農園主は8番の残りの玉葱畑の除草作業が待っている。

明日午後からは、米作りに挑戦するために、平野さんの指導により、、先ずは、育苗トレイの土取り作業を行う。
自然農のお米作りを若い農人達に是非教えてほしいと頼み込む。
先生は当グループの最長老の平野さんにバトンタッチする。

これで、野菜から始まり、穀類生産、水稲作りまで、学ぶことになり、グループ内で
農産物加工も含めて、ほぼ自活できる体制が出来上がる。
いよいよ、「むかし野菜の邑」の原型が出来上がることになる。

社会的存在価値―PARTⅦ-先人達の叡智を学ぶ  
                                     
§Ⅱ.商品開発
マーケティングの手法は、孫子の兵法に似ている。
先ずは、敵に勝つべく武具を揃え、兵を鍛え、一糸乱れぬ統制を命じ、戦える部隊を作り上げる。勝つための戦略・戦術を練り上げ、部隊に厳しい戦闘訓練を課し、強兵を作る。
これは商品開発に似ている。
様々な試行錯誤と多くの時間を重ね、マーケットで戦えるだけの目指す商品の品質と品揃え(商品ライン)を作り上げる。
 
敵を知り、おのれを知れば、常に百戦百勝す。
マーケットの中の既存の商品群の品質(特性等)と消費動向(消費行動の形態やニーズの色合い)を分析し、自己の商品の特性と課題点を知り、どの消費者領域で、どのような戦略で勝ち残っていくかなどの対策を練る。
これが差別化戦略(商品の特異性)であり、ターゲット戦略(その品質を求めている消費者層)である。
 
 現在の農産物は、化学肥料・農薬(特に浸透性農薬やサリン系農薬)・除草剤・ホルモン剤抗生物質などの化学的物質に満ちている。有機農産物にしても例外ではない。
畜糞(飼料に含まれる化学物質)多投による野菜の体内に硝酸態窒素(窒素過多)などの有害物質が内包され、人体への悪影響を及ぼす可能性が高まっている。
この危険性に気付き、あるいは、感じ始めている消費者層も増え始めている。さらに、現在農業は、施設栽培(ハウス等の管理栽培)全盛の時代でもある。
寒暖差・風雨・太陽の光・虫の害などに晒されながら、自然の中で逞しく育った露地野菜の姿は次第に少なくなっている。農家は栽培リスクが多く、成長スピードの遅い露地栽培から離れてきている。
 
それならば、露地栽培・自然循環で育った「自然農産物の商品化」ができたら・・・と農園主は考え続けた。そして、それを25年の時間をかけて実践してきた。
それが、草木堆肥による(木に含まれているミネラル分や微生物・放線菌を活かしたまま、土に戻す)自然循環農法であった。ミネラル不足となる概念先行型の自然農の欠点を補う草木堆肥がそれも克服できると考えた。
それが先人達の叡智を受け継ぐ日本古来からの自然循環農法であり、むかし野菜と称した。
 
農法が決まると、次は、商品ラインが必要となる。
消費者と直接向き合おう(直販)としたら、いつも同じ野菜を送り続けてもお客様はすぐに飽きてしまう。自分がお客さんだったら間違いなく飽きる。
当農園も次第に商品アイテムが増えていき、今では年間百種類を超えている。
毎週、あるいは、隔週にお届けする野菜は一回につき、10~15種類にも及ぶ。それも毎週新たなメニューを加えながらの発送が続く。
農園主は、毎年変化する気候条件を意識しながら、野菜が途切れないように、頭の中のコンピューターが長い経験に基づき、次々と作付計画を指示し続けることになる。
 
さらに、野菜・穀類などの農産物生産と同時並行して模索し続けてきたことがある。
無添加醗酵食品である漬物・味噌・その他加工品の製造であった。

ところがその冒頭から問題が出てきた。漬物原料の野菜はグループ内農園で生産されており、問題は無いのだが、味噌となると、麹菌を宿らせるお米はグループ内に自然農生産者がいるが、大豆小麦の生産者はいない。
となると、他から仕入れるわけにもいかず(自然農の大豆や小麦などマーケットには無い)新たな田んぼを借り入れ、畑作転換のための土作りから始めねばならなくなった。
2~3年の失敗を重ね、大豆・小麦・とうもろこしの自然農生産を始めることになった。

80代の老夫婦から、こんな評価を頂けた。
「この野菜はむかし食べた懐かしい味がする。この味噌は間違いなくむかしの醗酵した手作り味噌だよ。やはり美味しいね」と・・・そうなんです。それが分かって頂ける人に巡り合えることが、嬉しいし、楽しいのです。物作り屋の醍醐味ですね。

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先日、県の主催する
「農の雇用事業」に
雇用主側として
農業を試みたい若者を求めて、ブースに出店してみた。

その勧誘(?)をしている処。

説明の冒頭から、勧誘をするつもりはないが、と前置きして

農園の説明を行う。
話しながらやはり場違いであったかな、との思いが湧き出てくる。
多くの人達は、只、農業をやってみたいとの感覚を持っているようだった。
これは「田舎暮らしがしてみたい」と同じで、どのような農業を目指したいかの思いは全く感じられない。
当グループが目指す「結いの仕組み」による独立した農業者を育てる、と言う処からは相当な距離感を感じた。迷う若者達が漂流していた。


グループ内に露天原木椎茸の生産者がいる。
彼と出会ったのは、私が由布市で美味しい野菜作りのセミナーを開催した時でした。
その受講生の一人であり、質問を受けた。
「私は、ハウスや施設栽培の原木椎茸は作りたくないんです。あんな実が痩せて味香の薄い椎茸ではなく、露天で、自然条件に晒されて美味しく育った椎茸を作りたいのです」
さらに彼の悩みを聞く。
「それでも乾燥椎茸にしたら、以前のようにはドンコやコウシンの一級商品もそんな施設栽培の乾燥椎茸とそんなに価格の差がつかず、それが悔しいのです」
私は彼にこう言った。
「それなら、一度圃場に行きましょう。その上で、乾燥するためには油代が嵩み、そんなに頑張っても利益は出ないでしょ。露天原木椎茸生産の苦労はよくわかりますよ」
「こうしましょう。その高級ドンコを生椎茸として、出しましょう。我々は自然循環農法で生産している同行者です。私の販売している消費者層にはきっと理解してもらえますので、一緒に頑張りましょう」と・・・
このようにして、絶対にマーケットでは手に入らない最高級ドンコ椎茸がむかし野菜のお客様達の食卓に今では並んでいる。新しい「ドンコ生椎茸商品」の誕生である。
ついでに、もう一つ、彼には庄内産の美味しい糯米を生産してもらい、自宅の竈で蒸した糯米をお餅として製造してもらっている。関東の方にはまる餅は珍しい商品となる。
今ではむかし野菜グループの一つの人気商品となっている。当農園の自然農の大豆からできた黄な粉(大豆粉)がお供としてついている。
 
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農園のティータイム

春休みで長女の処の孫が一人で遊びに来ていた。今年小学校に登る。

わけぎの袋詰めをしてもらう。
「どうか楽しいか」と聞いてみる。
楽しい!と一言。
この子らの未来の社会が明るいことを願う


むかし野菜グループの野菜・乳酸菌醗酵味噌や漬物・生椎茸・お餅・黄な粉などは、その固有名詞からみれば、他者の物と同じではあるが、中身は全く異なる新規開発商品となっている。
野菜は全国的にも例の無い草木堆肥のみ(施肥する肥料は一切使わない)施肥する自然循環農法であり、自然農のお米や小麦と大豆からできた醗酵食品であるお味噌はマーケットには無い差別化商品となっているからです。それは漬物や黄な粉も同じことです。
これが商品開発です。
さらには、ここ大分では、地元の小麦粉(中力粉)を使った「だご汁」や黄な粉でまぶした「やせうま」が中食として愛されてきました。子供は大好きでした。
最近では、家庭でも滅多に作られなくなってしまいました。
これを自然農の小麦粉で、作る。レシピも添えてお客様へ送る。
他の地域ではこのような食文化は見られません。
これも「商品開発」ということになります。
 
視点を変えれば、農業の世界にも、差別化商品として、あるいは、新規開発商品として、
様々な可能性があることを、知って欲しいのです。
その裏側には、廃れていく昔ながらの健康であった時代の食文化を、現在の飽食の時代に復活させたいという強い思いがあります。
おばあちゃん達には古き良き時代の食の復活に、若いお母さん達には、まったく新しい食文化の提案となることでしょう。