農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2020.1.8(水曜日)雨後晴れ、最高温度16度、最低温度12度

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      孫たちの冬休み、みんなで幼苗のポット揚げ作業を手伝う

 

2020.1.8 農園お任せ発送について

 

明けましておめでとうございます。

今年も変わらずよろしくお付き合いのほどお願いいたします。

 

17年前、佐藤自然農園を開いて以来、続けている「農園お任せ野菜」と言う配送方式を、農園スタッフ達は当たり前のように行っている。

このことについて原点に帰って改めて考えてみようと思います。


除草剤・添加物・ホルモン剤などの化学物質に塗れた日本の現在の「食」環境に、気づき、不安を感じ始めた消費者は、より健全な「食」を求めて、全国生協などから食料品を購おうと考え始める。
そうした消費者の中には、届けられる農産物、特に(有機)野菜について、違和感を抱く方も現れる。
その違和感は、健全だと信じていた有機野菜が揃いすぎており余りにもきれいであったり、味香りも乏しく筋っぽく美味しくないと感じたり、畜糞の臭いを感じたりなど、様々である。
そのような意識の高い消費者は、ネットで探したり、口コミで紹介され、生産農園から直接農産物を買い求めてみようとする。
そんな消費者の方に対して、農園では、先ずはお試し購入(隔週二回)をお勧めしている。他の野菜との味香りやナチュラルな姿の違いに気がついて頂くために、あえて二回のお試しとした。

唯、残念なのは、そんな意識の高い消費者は、年々減ってきているように思える。

原発ショックは今では遠い過去のものになっているのか、食への関心が薄れてきつつあるように感じるのは私だけであろうか。(被災地は今でも大きな苦しみの中におられるのに)病気の恐れがでてきたとか何か特別なきっかけが無い限りはそんなに増えては行かないのかもしれない。

農園直取引の場合、生産者側から見ると、下記の課題が出る。
○生産者はスーパー(有機野菜専門流通店も含む)などとは異なり、消費者の要望するアイテムだけを揃えるというわけにはいかないし、一農園でそれだけ、多種類の野菜を育てることも出来ない。
有機及び自然栽培の場合、露地栽培が基本となり、季節に沿った旬菜しかなく、気候変動も激しく、一年間を通して安定した生産が難しく、農園出来合の野菜しか揃えられない。
○健全な野菜を求めている消費者に対して、農業者も自分が納得できない野菜を、種類を揃えるために他から取り寄せてお送りする事はしたくない。そこが流通業者との違いである。

こうして佐藤自然農園は、「むかし野菜の邑」グループを結成し、農法・出荷基準を揃え、年間百種類以上の野菜・果菜類・穀類などの生産を行い、「お任せ野菜の配送」と言う事になっていった。

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天原木椎茸栽培農家、田北さんの椎茸の圃場。彼は美味しい野菜作りセミナー開催の際、偶々その受講生であった。「ハウス栽培(これも原木椎茸には間違いない)と露天栽培の価格が違わないのはおかしい」と言っていた。彼の言葉に耳を貸し、それでは、露店原木椎茸の美味しさと品質を消費者に分かってもらおうではないか、と言って、定期購入のお客様への定番メニューとした。

 

このお任せ野菜の配送には、消費者側にとっても、幾つかの課題が出てくる。
○自分が好まない野菜も入るし、経験したことの無い野菜では調理の仕方も分からな い。生産者お任せの野菜が届いても料理のレパートリーの少ない、あるいは、共働きの家庭にとっては送られてくる野菜の量に恐怖感すらある。
○今までは、今晩の献立を考えて、その都度、野菜等の食材をスーパーにて買い求める習慣が染みついている。一方的に送られてくる野菜を使って料理を組み立てる考え方に慣れていかねばならない。
これはレストランではさらに深刻で、素材を活かすことに慣れていないシェフを悩ませる事にもなる。
○一種類の大量の野菜が届いても困るし、家族構成・食習慣の異なるご家庭に、全員一律的な量を届けられても困る。

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どんこ椎茸は、最高級の乾燥椎茸になる。これを生椎茸として、皆様へお送りしている。さらに、彼らはもち米を作っており、丸餅として、むかし野菜の定番メニューとなった。

 

そこで、農園では、毎週「今週の野菜」ブログをホームページ上に掲載し、野菜・穀類などの調理方法などの紹介、年に1~2回、全員のお客様へ、野菜の量・品目の確認・調整なども定期的にインタビューを行いながら、個々のお客様の要望にできうる限り答えようとしている。
一品目の量は食べきれるだけの少量にし、品目数も13~15品目と多種類にし、毎週幾つかの野菜は変更していく。根物・根菜・葉物・果菜・サラダ系のバランスを図り、彩りも考え、楽しい野菜メニューとした。そのためには、定番野菜と特殊野菜も適度に混ぜながら、数段階での種蒔きを行いながら、野菜が途切れることのないような栽培方式を確立していった。

その結果、当初は、送られてくる野菜の量と種類の多さに困惑している方もいたが、次第に、送られてくる野菜に合わせて一週間の献立の組み立てが上手に成り、今までの様に無駄な買い物をして、冷蔵庫で野菜をダメにして行くことも少なくなる。さらに、スーパーへは一週間に一度だけ行けば済むようになり、無駄な買い物を控えるようになってくると言った利点も出てくる。
野菜が美味しいということは、素材を活かした調理方法と味付けを行うようになり、何より、食卓が楽しくなり、家族の会話が進むことに繋がっていく。自然野菜を食べ続けることによって、体は自然治癒能力を取り戻し、家族が健康になっていく。
(そのようなメールが届くことが、スタッフには励みになっている)

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定期配送も17年経過する中で、野菜のみでは無く、様々な加工品などが加わってきた。漬物・味噌・自然農のお米・お餅・黄な粉・干し柿・果物・麦製品・惣菜(コロッケ・野菜饅頭)・お菓子類などである。
時代経過と共に、おかず中心の食生活から、副食・惣菜・菓子類などを求めるようになってきている。
時代のニーズ変化は、健全な野菜だけお届けすれば良いと言うことではなさそうである。その変化に合わせて、当農園もその欲求に応えていかねばならない。

野菜に、バラエティに富んだ加工品が加わってくると、生産者側(届ける者)と消費者側(届けられる者)の意思確認が課題となってくる。

野菜・漬物などの野菜をメインとした食品群は、「お試し購入」時点で、「生産者からのお任せ野菜となり、畑の出来合の出荷となります」との合意を得て、定期購入へと進めている。
つまりは、お任せ配送であるとの契約は成立していることになる。
しかしながら、穀類・穀類の加工品・惣菜やお菓子類・海産物加工品などは、お客様との合意(契約)外のことになり、一方的に生産者側から送り届けるわけにはいかない。
かと言って、品目毎に毎回送るアイテムの確認や合意を取ること(個別オーダー方式)は、生産者側も消費者側も余りにも煩雑であり、現実的では無い。

農園直売所を持つと、訪れる一般消費者の反応や意見を直接、伺うことが出来る。
売れ方を見ていると、加工品の人気度(支持度)が分かる。
そこで、その支持率の高かった商品と食卓への必要度を秤に掛けて、その商品へのインタビューを添えて、一回のテスト販売を試みることにした。その商品に対して、「必要なし」の回答を寄せられた方には、今後の定期発送便には入れないこととし、お客様の意思確認を行う。
又、自然農米と同じように、ケーキなどのお菓子類については、「個別オーダー方式」を採用する方向で検討し始めている。
このようにして、オーダー方式による加工品の発注と言った双方にとって煩雑なことを避け、2百数十名の定期購入のお客様の需要満足度を保とうとしている。

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農園で、定番の惣菜を一品作ろうとした。ジャガイモは美味しい。玉葱も美味しい。それだけでは、評判のコロッケにはならない。折角、添加物を加えないのであれば、パン粉も自家製で行こうと決めた。

古代麦ブレンドの小麦粉でパンを焼き、砕いて手作りパン粉を開発した。これが中々に面倒ではあるが、ジャガイモ等の野菜に麦の香りが加わった。これで、どこにもないコロッケになった。

 

この「農園お任せ配送」は、「むかし野菜の邑に集う消費者の方々の健全な食を支える」と言った趣旨で始めた方式であり、それだけの自信と自負心は持っていた。
それ故、多少強引に野菜等のメニューを押しつけてきた経緯がある。
(勿論、体が拒絶反応をする野菜まで押しつけていた訳では無い)
その根底には、農園には、「食育」と「健康」と言うテーマがあるからでした。
どの野菜も何かの機能と役割を持ってこの世に存在している。あまり意味の無いサプリメントに頼るのでは無く、その自然界での大きな役割を負って生まれてきた数多い種類の野菜達を、好き嫌いせずにバランス良く、毎日適量に体に取り込むことによって、人は健康で居られる。
例えば、鉄分を多く取り込む野菜、カルシューム・マンガンを多く取り込んでいる野菜、ビタミンA・Bなどの細胞を活性化させてくれる成分を多く持つ野菜、あるいは、腸内細菌を活性化してくれる乳酸菌他の菌類も棲んでいる。それらが複合的になって一つの役割を担っていることもある。

今年は、「定期購入方式」・「農園直販」の両面での活性化を図っていかねばならない。そして、この農法を未来へと繋ぎ、ここに集う生産者と消費者が共に語り合える「むかし野菜の邑」を目指して行こうと、農園主は考えている。