農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2020.1.15(水曜日)曇り、最高温度9度、最低温度2度

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             ツァーサイ(中国野菜)

存在感があるでしょう。葉緑素の塊です。放射線に伸びた姿が特徴的で、誰かが「コサージュ」のようですねとおっしゃった。主には炒め物にするが、実は煮魚に合う。冬に育つ希少な品種です。暖かい時期に育てると上に伸びてこのようにきれいな放射線状には育たない。

 

2020.1.15 「社会的存在価値」

現在の農産物は、化学肥料・農薬(特に浸透性農薬やサリン系農薬)・除草剤・ホルモン剤抗生物質などの化学的物質に満ちている。有機野菜と言えども、畜糞(飼料に含まれる化学物質や抗生物質)主体であれば、野菜の体内に硝酸態窒素(窒素過多)も含めて有害物質が内包され、人体への悪影響を及ぼす可能性が高まっている。
この危険性に警鐘を鳴らしている学者も多く、それを感じ始めている消費者層も増え始めている。
一方、現代農業は、野菜生産が容易な施設栽培(ハウス等の管理栽培)全盛の時代である。
気候変動・寒暖差・風雨・太陽の光・虫の害などに晒されるため、生産リスクの高い露地野菜から多くの農家は、離れてきている。
それならば、自然の中で逞しく育つ露地栽培・自然栽培農産物の商品化ができら・・・と農園主は考え続けた。それが、先人達の叡智を受け継ぐ日本古来からの草木堆肥による(木に含まれているミネラル分や微生物・放線菌を活かしたまま、土に戻す)自然循環農法であった。現在では、日本だけでは無く世界にも残されていない農法です。

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これは9番の圃場。佐藤自然農園にて研修を終えて、独立農園としてむかし野菜に所属している。7年目の後藤さんの圃場です。この圃場は土作り(草木堆肥による)4年目の「銀ラベル級」の圃場となりました。微生物・放線菌層が深さ18センチ程度までに棲んでいる腐植土になっている。(一年間で3~5センチ、腐食が進む)土作りには時間がかかるのです。

 

農法が決まると、次は、商品ラインが必要となる。
消費者と直接向き合おう(直販)としたら、いつも同じ野菜を送り続けてもお客様はすぐに飽きてしまう。自分がお客さんだったら間違いなく飽きる。
当農園も次第に商品アイテムが増えていき、今では年間百種類を超えている。
毎週、あるいは、隔週にお届けする野菜は一回につき、10~15種類にも及ぶ。それも毎週新たなメニューを加えながらの発送が続く。
農園主は、野菜が途切れないように、頭の中のコンピューターが長い経験に基づき、毎年、毎季、変化し続けている気候条件に対応しながら、次々と作付計画を指示し続けることになる。

さらに、野菜・穀類などの農産物生産と同時並行して模索し続けてきたことがある。
無添加醗酵食品である漬物・味噌・その他加工品の製造であった。
漬物原料の野菜やお米はグループ内農園で生産されているが、味噌及び穀類加工品となると大豆・小麦の生産者はいない。
となると、自然農の大豆や小麦などマーケットには無く、あったとしてもかなり高価なものとなる。
新たな田んぼを借り入れ、畑作転換のための草木堆肥による土作りから始めねばならなくなった。
2~3年の失敗を重ね(時には全滅の年もあった)、ようやく、大豆・小麦・とうもろこしの自然農生産が軌道に乗ってきた。

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由布市下市の後藤さんの麦畑。2018年度の裸麦の収穫風景。この年までは草木堆肥しか施肥しないため麦の背丈が足らず、かなりの量の麦を無駄にした。2019年度より、本格的な収穫ができるようになった。麦は窒素分を好む。そのため、元々低窒素の草木堆肥では、生育は無理だと、農業普及所の研究員が指摘していたが、土作りが進んだ2019年度から収量が飛躍的に増え、定説をようやく覆し、昔ながらの草木堆肥での自然循環農法の在り方を示すことができた。まさしく、古代からの農法の復活であった。

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これが2019年度の裸麦の成長した姿です。しっかりした麦が出来た。しかも、その味香りの豊かさに農園主すら感動した。

 

グループ内に露天原木椎茸の生産者がいる。
彼と出会ったのは、私が由布市で美味しい野菜作りのセミナーを開催した時でした。
その受講生の一人であり、質問を受けた。
「私は、ハウスや施設栽培の原木椎茸は作りたくないんです。あんな実が痩せて味香の薄い椎茸ではなく、露天で、自然条件に晒されて美味しく育った椎茸を作りたいのです」
さらに彼の悩みを聞く。
「それでも乾燥椎茸にしたら、以前のようにはドンコやコウシンの一級商品もそんな施設栽培の乾燥椎茸とそんなに価格の差がつかず、それが悔しいのです」
私は彼にこう言った。
「それなら、一度圃場に行きましょう。その上で、乾燥するためには油代が嵩み、そんなに頑張っても利益は出ないでしょ。露天原木椎茸生産の苦労はよくわかりますよ」
「こうしましょう。その高級ドンコを生椎茸として、出しましょう。我々は自然循環農法で生産している同行者です。私の販売している消費者層にはきっと理解してもらえますので、一緒に頑張りましょう」と・・・
このようにして、絶対にマーケットでは手に入らない最高級ドンコ椎茸がむかし野菜のお客様達の食卓に今では並んでいる。新しい「ドンコ生椎茸商品」の誕生である。
ついでに、もう一つ、彼には庄内産の美味しい糯米を生産してもらい、自宅の竈で蒸した糯米をお餅として製造してもらっている。関東の方にはまる餅は珍しい商品となる。
今ではむかし野菜グループの一つの人気商品となっている。当農園の自然農の大豆からできた黄な粉(大豆粉)がお供としてついている。

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米麹と大豆を等倍で合わせたもの。これからこれをミルで混ぜ込み(砕き)、味噌玉にした後、樽に漬け込む。むかしながらの本醸造味噌(無添加・天然塩)となる。原料全てが自然栽培の味噌は全国にも例が無い

正しくオンリーワンの味噌となる。

 

むかし野菜グループの味噌や漬物・加工品の原料は、草木堆肥施肥する自然循環農法によるものであり、原料の全てが自然栽培となれば、市場に出回っているその他の加工品とは、全く異なる新規開発商品であり、これは市場創造商品と言うことになる。

視点を変えれば、農業の世界でも、差別化商品として、あるいは、市場創造的(新規開発)商品として、様々な可能性があることを、知って欲しいのです。
その裏側には、廃れていく昔ながらの健康であった時代の食文化を、現在の食の安全を脅かされ始めた飽食の時代に復活させたいという強い思いがあります。
70代以上の方にとっては、古き良き時代の食の復活となり、若いお母さん達には、まったく新しい食文化の提案ということになります。
ここに私達のグループは、「社会的存在価値」のある存在であり続けていきたいと考えております。
同時に、唯、「儲ければ良い」との社会的風潮にも苦い思いを抱いており、農園主は、現在、失われつつある事業体の「社会的責任」と言う概念を強く感じております。

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                   野菜饅頭の仕込み風景