農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.9(水曜日)晴れ、最高温度26度、最低温度19度

 

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          きれいに整備された二番の圃場

この圃場だけは、奇跡的に害虫被害が少ない。理由は分からない。

このため、農園では、10カ所以上に畑を分散させている。リスクヘッジのため。

 

むかし野菜の四季―土中から湧き出る虫達

 

季節は10月に入った。農園では、秋野菜の主力となる葉物野菜・大根蕪類・白菜・キャベツ類などの種蒔きや定植を行う。秋野菜は本来、8月下旬頃から9月に掛けて種蒔きを行うが、何しろこの気候である
酷暑が終わる間もなく、秋雨前線や台風の接近によって日照不足は続くし、常に雨が降っている状態が虫たちには、繁殖し易い環境が整っている。
このため、発芽した途端に新芽が喰われ、何とか虫の難を逃れた畝でも少し野菜が成長し始めた途端気がついたら葉っぱはすだれ状に喰い荒らされ、惨めな状態を晒し始め、やがて命尽きて落ちていく。
野菜農家にとって悩みの季節ではある。

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茶色に変色したサラダ蕪と、すだれ状になりかろうじて蕪の原型を留めている中蕪

奥のサラダ蕪はこの後、撤去した。中蕪はもう少し様子を見ることにした。


この時季、一度目の種蒔きは8月下旬~9月中旬頃に行う。今までの経験では、第一陣がまともに育ったという実感は無い。収穫できたとしても、葉野菜は穴だらけで、葉を無くした蕪などはやせ細り傷だらけとなり、とても商品には成らない。丁度今頃の出荷となっている筈である。
第二陣は9月下旬頃の種蒔きとはなるが、これすら、すでに葉っぱの1/3は無くなっている。
そして、10月、秋も終わろうとしているこの時季、祈るような気持ちで種を蒔いている。

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この日、ジャガイモ・九条葱の土寄せ作業と併せて、大根・蕪類などの第三陣の種を蒔いた。種を蒔いた跡にパオパオ(織布)をベタ掛けしている。湿度保持のため。

農園主は二番の圃場に第一陣のキャベツを定植した。

 

これを避けるためには、浸透性農薬で土中消毒を行った後、防虫ネットを張るハウス栽培か、土中消毒の後、一週間毎に絶え間なく緩効性農薬(薬の持続効力が強いため残留性が高い)を出荷直前まで遣り続けるかの選択を迫られる。
有機栽培であろうと、慣行農業であろうと、避けられない気候変動の、あるいは、自然の摂理の現実がそこにある。虫たちも生き残るためには必死なのです。


※浸透性農薬; ネオニコチノイド系農薬が多いが、要するに根から吸収させ、その野

        菜の葉っぱを囓ったら害虫が死ぬと言う農薬の事。

 

これに対して、有機JAS法制定以前のむかしの有機農家では、幼苗時、あるいは、第一次成長時期に、2~3回ほど、瞬殺効果のある劇薬を散布する。後は、野菜の成長により、多少の害虫が取り付こうとも野菜の旺盛な生命力に任せ、収穫まで農薬散布はしない。
この農法を当農園は取っている。そのため、時には害虫が食べ尽くすか、人が食べるかの競争になることもしばしばである。


※劇薬; 劇薬指定されている農薬は、農業者にとっては甚だ危険であるが、消費者にとっては実にやさしい農薬である。劇薬は分解(無能力化)速度が早く、条件によっては半日か一日で分解されるように設計されている。何故なら、人に触れたり吸い込むと危険であるからである。
分解には、光合成分解・水溶性分解・微生物分解及び自然分解がある。

有機JAS規程では、むかしの有機農家のそんな知恵も知識も活かされないまま「化学合成した農薬は使わない」とだけ規程がある。それ故に有機の圃場では建前と現実が遊離してしまい、甚だ信用力に欠ける。このこともあり、世界のオーガニック野菜の認定は、日本の有機JAS野菜には適用されない。
有機発祥の地である日本人としては誠に悲しいことである。

これらの基本的な知識も無く、現実を知らされていない消費者の理不尽な声は、懸命に安全な野菜作りを目指している本来の自然循環型農業を行っている農業者にとっては、辛い現実もある。
「農薬を使っているのですか?」「無農薬では無いのですか」と叫ぶ消費者の声はとても冷たく聞こえてくる。
有機JAS規程が消費者に有機とは無農薬のことであると言う概念を植付け、消費者から無農薬ですよね!と念を押され、「そうです!」と頷かざるを得なくなった有機農家の無念を知っている。
それもあってか、近時、国も「有機無農薬」と言う表示を禁じている。おそらく、押し寄せてくる気候変動の中で、現実的では無いとようやく悟ったのかもしれない。それでも最早遅い判断であったと言わざるを得ない。
その厳しい理想と現実の挟間の中で、有機農業者は減り続けており、同時に有機農業を目指す若者も減少の一途を辿っている。
とても一人でこの厳しい農業環境に立ち向かっていける人は少ない。

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今年の夏、酷暑だけではなく、日照不足と湿気、押し寄せてくる害虫の群れに、夏野菜はほとんど壊滅状態となった。

これは大量発生したカメ虫による被害の本の一部です。


当農園では、その最初から、数人の共同作業でスタートしているため、一人農業を志向する人は出てこない。農業は互いに支え合って生きていかねばならないことをうちのスタッフ達は体験で知っている。
唯、彼らには一度たりとも甘い言葉を掛けたことは無い。
自然循環農業とは、元々、社会の中では、圧倒的なメジャーになることはなく、大成功となる事も無い。
自然の中で生かされており、雑草であり、生き物である。唯、誰にも忖度して生きることも無く、社会の理不尽さに抗って生きていくことはできる。それ故、心はいつも自由でありたいと思う。

 

そんな若者達に闘い続けていくことを教えているつもりではある。

 

それでも、今年から始めた農園直売の中で、見ず知らずの多くの消費者と触れあい、自分たちの試みや生き方を話すと良い。その方々との触れあいの中から、生きていくことの意味や楽しさを学び取って欲しいと願っている。
個々に訪れてくる消費者の多くは自分たちの仲間であることを実感して欲しいとも思う。その方々の大切さを心に刻んで欲しい。

 

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試食コーナーで歓談しているお客様達。野菜を買い求めているお客様へ孫の一人が

お世話を焼いている風景。