農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.16(水曜日)晴れ、最高温度25度、最低温度15度

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              12月の出荷野菜達

最近の数年は特に野菜の最盛期は12月頃になってしまっている。この時季、農園の野菜は年間を通して一番種類が多いし、かつ、美味しい。

 

むかし野菜の四季―「旬菜の国」

 

この処、日曜日にも農園マルシェを開催している。9月29日より始めて明日で3回目となる。
農産物の質や健全性を命題としている農園であるため、口コミでしかお客様を呼べない。果たして一度お見えになられた方がリピートしてくれるのか、何人お見えになられるかは全くと言って読めない。
とは言っても、安さや特売ではなく、自然栽培のちょっとプレミアム商品となるため、市場啓発啓蒙をし続けていくしか無い。
特別な農産物とは行っても、野菜は日常商品であるためか、そんなにお客様を呼べない。どうしても加工品・惣菜・菓子類などの非日常的商品が必要となるため、その加工品作りに時間を取られ、女性陣は農作業には使えなくなってしまっている。

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10月中旬と言えば、夏野菜が終わりかけ、秋野菜へ移行していく端境期に当たる

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日曜日にコロッケ・パウンドケーキ・パン・ドーナツ・やせうま・野菜饅頭などの加工品を販売しているため、女性陣は最近それにつきっきりとなってしまっている。


この季節、育苗ハウス内では、カンラン系・レタス系などの秋野菜の苗作りが忙しい時季である。今まで、女性スタッフがが担当していたが、菓子類・惣菜などの加工品作りに追われており、やむを得ず今は、農園主が種を蒔いている。
彼女は育苗担当であったため、野菜の種を管理している。
丁度、ブロッコリーの種が切れていたため、種物屋さんに種を発注してくれるように頼んでいた。
帰ってきた種物屋さんの答えが「ブロッコリーの種蒔き時季は過ぎており、無理では無いですか」であった。彼女に文句を言っても仕方が無いが、「一体何年やっていると思っているのか?そんなことは分かっている」と言ってしまった。

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12月初旬頃、虫に喰われながらも、頑張ってようやく巻き始めた白菜。農園主はほっとしている。

「白菜は何故無いのですか?」との消費者の声が怖い。

その時、ふと、思った。日本は四季の国である。正確にはそうであった。
秋野菜は、むかしは、8月盆明けに種を蒔け!であった。処が、現在は蒔いても蒔いても育苗ハウス内で溶けてしまったり、露地では虫に食われてしまったり、暑さでやられたり、湿気に負けてしまったりの繰り返し。それでも、種を蒔かなければ秋野菜は何時までも出来ない。ダメ元で、現在の処、少なくとも三週間間隔で三回は種を蒔き直している。
ようやく秋野菜が順調に育ち始めるのが、10月中旬頃になる。
それでは、秋らしい秋が無く、夏が終わったと思ったらすぐに冬になったりする気候のため、露地野菜が育ちにくくなり、秋になっても白菜が、ブロッコリーが畑に育っていない年も出てくる。
そこで、当農園の場合は、10年も前頃から、種物屋さんが言う処の旬菜のセオリー(蒔き時)を無視するようになっており、それが農園の倣い症になってしまっている。

近時は、異常気象が当たり前のようになっており、その気候の変化に応じて、気候の先読みをする。
しかもセオリーと農業者の経験と勘の世界が農園主の頭の中でガラガラポンをし、年によっていずれを採るかを決めているような気がする。半ば博打で、半ば動物的な勘の世界であるのかもしれない。
今の処、概ねそれは大きく外れずに、成功する年の方が多くなっている。
これでは若いスタッフ達に種の蒔く時期や育て方を覚えろ!と言うのもやや無理があるのかもしれない。
年々自然循環農業の、露地栽培の難しさが増しているように思えてならない。

来週の出荷予定野菜に、蕪類を考えている。と言うのも、葉っぱはほとんど虫に喰われてこれ以上待っていても成長はしないと見極めた。ならば、葉っぱを落としてでも蕪の出荷を実行し、次の種蒔きに備えた方が良い。見たところ、全体の1/5程度しか出荷には堪えられないようだ。残りは漉き込んで畑の肥料となる。

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紫大根。葉っぱはすでに虫に喰われ、軸のみになっている。ついには、実にまで虫が食い込んでいる。すでに実の上部は虫にやられている。その部分から腐れが始まる。10月中旬の無残な大根。

葉っぱが無くなり、成長不足のため、肥大仕切っていない。通常の1/3の価格で出荷する。

かって、自然農を行っている農業者に問うたことがある。もし、害虫が大量発生したらどうしますか?と
聞くと、その畑は当分の間、捨てますと・・・その方は、農業では生活できずに、他にアルバイトに行って生計を維持しているとのこと。現在その方は農業を止められている。
このように一旦害虫に覆われた圃場は、害虫の寄り付き難い野菜、例えば、ほうれん草や人参に変えて葉物野菜系は、他の圃場に移す事を行う。自然栽培の場合は、リスクヘッジのため、一反(300坪)単位であちこちに畑を点在させた方が良い。そのため、植付け計画はさらに難しいことになる。
但し、ほうれん草・人参類と言えどもそれを好む害虫は必ずといって居ることには変わりは無い。
去年であったか、その年も害虫が異常発生していたが、ほうれん草の葉っぱを食い尽くした軸の先っぽで夜登虫が死んでいた。ほうれん草にはシュウ酸と言う毒素が含まれている。
そのため、夜登虫はほうれん草や人参には来ない筈であるが・・・害虫被害はそこまで来ているのである。

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晩秋の野菜畑。寒が訪れ、ゆっくりとゆっくりと成長している「静」の世界。私はこの時季の農園が好き。

 

このように四季の国である「日本は旬菜の国」からかなり遠ざかりつつあることを認めなければ、自然栽培を続けていけない。このことを知識の無い消費者へどうのように伝えていって良いのか、頭が痛いことである。
消費者への直接販売を行う当農園としては、年間百種類以上の野菜を作り続けていかねばならない。
その難しさは、農業を多少なりとも囓っている人にとっては、有り得ないことだとすぐに分かる。
一つ一つ異なる性格を持つ野菜の育て方となると、少々の経験では習得できないことになる。
しかも成長の極めて遅く、リスクの高い低窒素自然栽培ではさらに難しくなってくる。
そうなると、当農園は自分では自覚は無いが、ノウハウの塊ということになるのか・・
先人達は、極く普通に多種類の野菜を育てる知恵を持っていたのだが、但、今の気候はすでに普通では無くなってしまっている。
日本の四季が消えていく。「旬菜の国」は何処に行くのか・・・・