農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

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            葉野菜がずらっと並ぶ2番の圃場

 

この畑は草木堆肥歴17年のプラチナ級の圃場。

奇跡的に害虫被害が少ない。それでも大人になり掛かっている白菜などは、外葉や基部には虫がびっしりと付き、丸裸になるのも時間の問題となり始めている。

 

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一見きれいそうに見えていた白菜もカメラを寄せてみるとこの通り。

一週間、予定を早めて急遽出荷に踏み切った。全量出荷するまでに2週間以上かかる。

果たして間に合うか?

 

 

2019.10.30  自然との語らい「恵みの雨と命の太陽」

 

かっての日本の気候は、あるいは、日本の農業は、温暖な風土で、季節の移り変わる中、太陽の光と雨が良い周期で交互にやってきていた。梅雨や台風も一つの気候の周期であった。
処が最近の日本の気候は、極端から極端に変動し続け、農業者にとっては、かってのように安定した農産物作りが難しくなってきている。夏は酷暑が続き、一滴の雨も降らない時季が続いたかと思えば、今度は一転して太陽が覗かず、じめじめした蒸し暑い日々が続く。
このような気候の時が、実は、害虫の異常発生になり易い。暑さで抑えられてきた害虫の卵や幼虫がこの高温・高湿度で一斉に土中から解き放たれる。野菜の幼苗など一溜まりも無く、その異常発生が生育し始めた葉野菜の成長時期にぶつかれば、一週間で、一つの畝が壊滅してしまうほどの凄まじさとなったりする。
加えて、大根・蕪などの畝が葉っぱの虫喰いだけでは無く、土中に異常発生した線虫・コガネムシの幼虫・夜登虫などにより喰われる。傷を修復するため、表面に瘡蓋が出来、根や蕪が茶色に変色硬化し、商品とはならなくなり、全滅してしまう。それを見る度に、農業者の顔は曇る。
アブラナ系の葉物・根菜類はすでに3回全滅している。それでも諦めず4回目の種蒔きを行っている。

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自然循環農業を行う農人は、この時期、種蒔きや育苗管理にチャレンジし続ける不屈の精神力が問われる。そんな時、直販所でいきなり飛び込んでこられたお客様が、何故こんなにお高いの!と言う声が頭をよぎる。
最近では、そんな今年のような気候が交互にやってくる。
施設栽培に頼らず、自然のままに農産物を育てて行く。これも自然循環農業が生み出す美味しく健全な野菜作りに掛けているからに他ならない。

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虫害によって、まばらになった蕪の畝

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それでも二週間間隔で種を蒔き続けている。祈るような気持ちで!

 

こんなことがあった。関東のあるお客様から一通のメールが届いた。二児の母親からである。
この方は、すでに二回むかし野菜を中断している。その理由が一つは義母が「そんなに費用を掛けてまで九州から野菜を取らなくて良い」といつも喧嘩になっており、離婚もできなくて一度は定期購入を止められた。二回目は、エンゲル係数とかの話題が夫婦間で話し合われ、やはり、泣く泣く野菜配送を中止されたと言った経緯があった。
むかし野菜を中止された後、近在の高級スーパーにて、有機野菜を買っていた。処が、子供さん達が全く野菜を食べなくなってしまった。夫婦で叱りつけても、さらに食べない。
仕方なく、東京の有機専門卸店から無農薬野菜を買い始めた。
両親が野菜を食べることを強要し続け、諦めたのか、今度は、子供さん達が、「味付けを濃くしてくれ」と言い始めた。半ば義務的に野菜を食べたとしても、美味しくないものは、食べたくないですよね。
メールにはそれらの事情や経緯が克明に綴られていたが、ご夫婦で話し合った結果、「量を落として野菜を隔週にて再再度送って欲しいとのこと」

以下のようにこちらから返信を打った。
「子供さんは、本物の野菜の美味しさを知っておられますね。草木堆肥しか施肥しない土壌には、ミネラル分が多く含まれ、永年草木堆肥を施肥し続けた土壌は肥えていきます。そのため、低窒素でも育つわけです。低窒素で育った野菜は完熟野菜となります。デンプンが分解され、糖質とビタミンに富んだ美味しい野菜ができます。低成長であるため、筋が無く肉厚ジューシーとなり、子供さんの口の中で溶けていきます。それを未だ汚れていない舌は感じているのですね」
「自然循環で育った野菜は栄養価の面でも慣行栽培や畜糞主体の高窒素栽培とは異なり、栄養価に富んでおります。計測する事は適いませんが、おそらく10倍以上は糖質ビタミン・ミネラル分は多く含まれていると思います。従って同じ量で量れば、数倍は安いことになりませんか?」
「量を少なくとのことですが、それだと、貴方はかなり損をする事になります。送料コストは同じなのですよ。私はそのため、足を棒にして大分県無添加干物を探し出し、工場を説得し、野菜と一緒にお送りしたり、自然農の米と除草剤を排した自然栽培の穀類(味噌・ブレンド小麦粉・麦ご飯セット等々)を時折同封しております」
「私達にはお客様(この農産物当を共有する意味で仲間達)の健康を守っているとの自負心を持ってこの仕事に取り組んでおりますよ」
「子供さん達には、本物の持つ力とそれを作っている人達への思いを大切にしていて下さい。きっと大きくなった時、価値観の分かる大人として、貴方達の役に立つ日が来ると思いますよ。とお伝え下さい。ありがとう!」と締めくくった。

 

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これは一昨年10月末頃の5番の圃場の風景。

左は2~3月頃出荷予定のブロッコリーの幼苗。右は3月頃出荷予定の大根の幼苗。

この年は、良き秋が来ており、苦労せずに野菜が育った秋であり、余り悲壮感はなく

楽観的な雰囲気が圃場に流れていた。

白い布はパオパオと言って、虫除けと保湿・保温効果のあるベタ掛け幼の織布。

今年の様に湿度が高く害虫の異常発生する年の場合は、余り長く掛けていると、蒸れたり、地面から湧き出てくる害虫にやられてしまう。

 

とは言っても、太陽と雨は野菜にとっては、自然の恵みであり、露地栽培では、雨を待って、一斉に種蒔きを行う。水遣りだけでかなりの労力を使う。葉野菜や蕪大根などは、種を蒔いて3~4日で芽を吹く。
その後、一週間は水遣りを行わねばならないが、雨の前々日に種を蒔けば、うまくいくと一回の水遣りで済むこともある。やらねばならない事の多い露地栽培では、自然の力を借り、できうる限り省力化していかねばならない。
直射日光が弱まり暑さが薄れる晩秋の季節には、発芽や生育条件が整い、野菜の種蒔きには最適時季となる。但、最低温度が10度以下になると発芽がし難くなり、最高温度が15度を下回ると、生育が遅くなり、最低温度が5度を切ると、ビニールトンネルなどで野菜の発育を守ってやらねばならなくなる。
露地栽培は、常に気候を読み、農業者独特の勘働きで管理していくことにはなるが、「自然に順に」が重要となる。
正に、露地栽培は自然との語らいの日々である。

今年の秋冬は、やや高温多湿になりそうな予感がしており、従来の季節より、種蒔きの時期を約1ヶ月ほど、遅らせた方が良いように思える。
例えば、今までは人参の種蒔きは10月初旬までに、であったが、今年は11月初旬頃まで蒔けそうで、「白菜は10月初旬までに定植する」が、今年は、「11月初旬頃まで定植できる」に変えても良さそうである。