農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.11.13(水曜日)曇り、最高温度22度、最低温度12度

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             玉葱の定植作業-8番の畑

 

ようやく玉葱5万本の植え込み作業をほぼ終えた。残り3千本となった。

例年この8番の畑で最後となる。腰を屈めた形での植え込み作業は流石に堪える。

この後、春先から延々と除草作業が続くと思うと今から溜息が出る。

農園では、他の農家と違って、草取り作業を省くため、あるいは、(成長を促すため)地温を上げるための黒マルチはしない。

除草作業をしないことは楽ではあるが、自然の厳しさと触れあわない成長は、やはり、ハウス栽培と通じるところがあり、肥大し過ぎたりで、何より、美味しくない。

 

2019.11.13  年間百種類以上の野菜生産

今年も玉葱の植え込みの時季が来た。
11月は野菜の生育が厳しい厳冬期を控えて一年間のうちで、野菜植え込み・種蒔きに最も気を配らねばならない月となる。
先ずは、玉葱の定植。玉葱は、冬場に根を張り、春先に成長する性質をもっている。家庭で最も必要とされている野菜であり、一年に一回しか採れないため、二百数十名の定期購入のお客様のために、かなりな量を一度に植え込まねばならない。今年は約5万本を見込んでいる。全て一本一本手作業での植え込みとなる。収穫時期をずらすため、極早生から始まり、早稲・中早稲・赤玉葱と続き、スタッフ全員総出の作業となる。

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8番の畑に玉葱を植えるために土作りに行ってみると、わずかしか植えていなかったはずの冬瓜が、畑にごろんごろんと転がっていた。初霜が降りて葉っぱが枯れて、今まで見えなかったため、気がつかなかった。

南瓜は今年もダメだったが、何故か冬瓜の当たり年になってしまった。

※冬瓜は冬の瓜と書く。れっきとした夏野菜である。長持ちして冬期に暖かいスープ料理にして食べるため、この名前が付いた。

さらに、春に出荷予定のスナップエンドウ・実エンドウ・絹サヤエンドウ・そら豆の種蒔きがある。
一度、初春頃、種蒔きを試みたが、やはり満足に実を付けてはくれなかった。これも玉葱と同様に冬場に根を張り、基部を充分に生育させないと美味しい満足のいく実は育たない。

 

最低温度が10度を切り始めると、発芽率が極端に低下するため、葉野菜・大根・蕪類などは一週間単位で種蒔きを行い、どうにか発芽させておかねばならない。発芽させてしまえば、ビニールトンネルにより保温してもらい、生育は何とかなる。とは言っても、太陽や雨に当ててやらねば軟弱な野菜となってしまうため、気候を読みながら剥ぐったり、開けたりの管理は必要となる。
育苗ハウス内で苗を育ててきた白菜・キャベツ・ブロッコリー・レタス系の定植作業もこの時季と重なる。これらの主にアブラナ科の野菜達は、晩秋から中春にかけて最も作り易いが、どちらかと言うと、晩秋から初春のものが一番美味しい。余り温度が上がると適さない冬野菜と言えそうだ。

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この時季は、次第に寒くなってくる気候であり、最高温度が10度を切ると、発芽し難くなるため、二週間に一度、都合、5段階に分けて種を蒔く。例えば、葉野菜の場合、最低5畝は用意しておかねばならない。そうしないと、厳冬期を過ぎた2月~3月に掛けて葉野菜がまったくないと言うことになってしまう。そのため、かなりな面積の圃場が必要となり、気候を読みながらの種蒔き作業が続く。

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大豆の収穫が終わると、直ちに耕し、草木堆肥を振り、畝立てを行い、麦を蒔く。

発芽しておよそ4週間経過した頃、スタッフ総出で麦踏み作業を行う。

 

次に迫ってくる年中行事は穀類畑である。
晩秋に収穫を待っている大豆が約一町歩(3,000坪)待っている。内訳はと言うと、佐藤自然農園が約5反(1,500坪)、後藤農園が2反半、小原農園が2.5反、田北農園が1反。
これらの穀類専用畑では、大豆と麦の二毛作を行っている。大豆収穫後、雑草に覆われた畑を耕して、草木堆肥を撒いて、裸麦・小麦・古代もち麦の種蒔きが待っている。

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大豆を煎って黄な粉を作る。この作業もむかしながらの手順がある。入り終わった大豆は熱を取り、先ず、製粉機にて粗めに砕く。おもむろにトウミにて手作業でふるって殻を飛ばす。次にさらに細かく粉にしてようやく黄な粉となる。

 

このようにこの時季は、スリーシーズンの秋野菜・冬野菜・春野菜の種蒔きが重なってしまうため、さらには、大豆・小麦などの穀類の収穫及び種蒔き作業が年の暮れまで続く。誠に忙しく、どこの圃場のどこの畝が空いているのか、どこに何を植え込むか、何段階で種を蒔くか、苗や種の手配、重なり合う作業手順管理、などなど、ついでに頭の中も、常に気を張ってフル回転しており、ボーッとしているわけにはいかない。
それも激しい気候変動を先読みしながらの作業となる。露地栽培とは、マニュアルで作れるものでは無く、積み重ねてきた経験と読み、そして、自然の神様を味方に引き込む農業者の勘働きの世界である。

 

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これはビーツ。農園ではすでに10数年前から皆様にレシピを付けてお出ししている。

定番は何と言ってもボルシチであるが、酢漬け・サラダにもできる。葉っぱはともかくとして、この赤い茎は炒め物などにすると甘く味香りがあり、美味しい。

 

ある農家の方が「年間百種類以上の野菜の生産なんて、どうかしている。しかも四季の変化の中で必ず訪れる端境期を乗り切れるのか?そんなことが実際にできるのか?」と言っていた。現代農業の常識からすれば、無理なのであろう。むかし農業では当たり前のことなのだが・・・
但、こちらはこちらなりに、出来るのか?ではなく、しなければならない事情がある。
当農園は、私たちを信じて待っておられるお客様方へは、「自然循環農業の農産物しか届けない」「品質を同じくする」「何より安全でかつ健全であること」などの暗黙の約束事があり、その信頼を裏切るわけにはいかない。そのためには、品質をある程度揃えるために、何としてもグループで全ての農産物を育てねばならない。

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例えば、レタス系と言っても様々な種類がある。玉レタス・半結球レタス・コスレタス・フリルレタス・

サニーレタス・サンチュ・サラダ菜・トレビス等々、用途によって様々な食感・味香りがある。

当農園は、サラダセットと言って、水菜・辛し水菜・マスタード・スイスチャート・ルッコラ・赤ほうれん草などおよそ10種類の野菜をセットにしている。農園の人気NO1の地位を得ている。


いつも同じ野菜では如何に物分かりの良いお客様でもすぐに飽きられてしまう。となれば、健全、かつ、高品質な年間百種類の農産物を作り続けるしかないではないか。と言った事情である。
年間百種類の野菜とは言っても、わざわざ数えたわけでは無い。それくらい多いという意味に過ぎない。

 

日本の四季がフォーシーズンと言う訳でも無く、実際には、夏野菜と春・秋・冬野菜のツーシーズンに近い。つまり、日本の気候は大まかに分けて雨期(秋から始まり、極寒の冬が到来し、やがて春になる)と乾期(梅雨明けの7月~9月までの酷暑と乾燥気候)に分かれてきた。
雨期と言っても雨ばかりとは限らない。時には、一ヶ月ほど雨が降らない時季もあったりする。
それでも、春夏秋冬、それぞれの季節には柱(出荷の軸)となる野菜が存在する。
例えば、現在種蒔きをしている豆類(絹莢エンドウ・スナップエンドウ・実エンドウ・空豆)は間違いなく4月~6月初旬までの春野菜の軸となる。それが終わる頃、6月~7月のインゲン豆も初夏野菜の軸となっている。
6月下旬~8月初旬頃は、何と言っても露地トマトである。その頃、茄子類・ピーマン系・トウガラシ系が夏野菜の顔となる。但、最近の温暖な気候では、ピーマン系・トウガラシ系などが、9月~11月初旬まで、秋野菜の軸となっているから面白い。秋の落ち茄子も美味しい。
晩秋野菜と言えば、何と言っても、大根類・蕪類がその代表的な野菜となる。この時季の大根・蕪は、白・黒・深紅・赤・紫・ピンクなどの色彩に富んでおり、我ながら美しいと思う。
冬になると、キャベツ・白菜・葉野菜・レタス系が軸となってくる。これらは、害虫被害が遠のく冬場にこそ、その存在感が増し、しかも、より美味しくなる。

その間を埋めていくのが、胡瓜・牛蒡・南瓜・冬瓜・さつまいも・黒大豆の枝豆・栗・生椎茸などの定番野菜である。彩りとしては、セロリ・ビーツ・人参・パプリカ・赤玉葱・トレビスなども加わってくる。

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これは花盛りの馬鈴薯畑。このように野菜の花は清楚で美しく、忙しい農園ライフの中で、疲れた体を時には癒やしてくれる。ちなみに、馬鈴薯の花が咲いてからおよそ3週間で収穫時期を迎える。
 

このように、当農園としては、先ずは軸となる野菜を生産の柱として、消費者の食卓を四季の野菜で埋めていくために、生産メニューを決めて行っている。
お客様の食卓を彩るために、端境期をかいくぐって、次々と野菜が現れ、ついには、年間百種類の野菜が農園に拡がっていったに過ぎない。
お客様への直接販売とはこういうことになるが、現代農業の常識から言えば、野菜が春夏秋冬、よく繋がっているものだと感心している。これを受け継いで行く若い農人達に頑張れ!と言うしか無い。