農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2020.1.8(水曜日)雨後晴れ、最高温度16度、最低温度12度

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      孫たちの冬休み、みんなで幼苗のポット揚げ作業を手伝う

 

2020.1.8 農園お任せ発送について

 

明けましておめでとうございます。

今年も変わらずよろしくお付き合いのほどお願いいたします。

 

17年前、佐藤自然農園を開いて以来、続けている「農園お任せ野菜」と言う配送方式を、農園スタッフ達は当たり前のように行っている。

このことについて原点に帰って改めて考えてみようと思います。


除草剤・添加物・ホルモン剤などの化学物質に塗れた日本の現在の「食」環境に、気づき、不安を感じ始めた消費者は、より健全な「食」を求めて、全国生協などから食料品を購おうと考え始める。
そうした消費者の中には、届けられる農産物、特に(有機)野菜について、違和感を抱く方も現れる。
その違和感は、健全だと信じていた有機野菜が揃いすぎており余りにもきれいであったり、味香りも乏しく筋っぽく美味しくないと感じたり、畜糞の臭いを感じたりなど、様々である。
そのような意識の高い消費者は、ネットで探したり、口コミで紹介され、生産農園から直接農産物を買い求めてみようとする。
そんな消費者の方に対して、農園では、先ずはお試し購入(隔週二回)をお勧めしている。他の野菜との味香りやナチュラルな姿の違いに気がついて頂くために、あえて二回のお試しとした。

唯、残念なのは、そんな意識の高い消費者は、年々減ってきているように思える。

原発ショックは今では遠い過去のものになっているのか、食への関心が薄れてきつつあるように感じるのは私だけであろうか。(被災地は今でも大きな苦しみの中におられるのに)病気の恐れがでてきたとか何か特別なきっかけが無い限りはそんなに増えては行かないのかもしれない。

農園直取引の場合、生産者側から見ると、下記の課題が出る。
○生産者はスーパー(有機野菜専門流通店も含む)などとは異なり、消費者の要望するアイテムだけを揃えるというわけにはいかないし、一農園でそれだけ、多種類の野菜を育てることも出来ない。
有機及び自然栽培の場合、露地栽培が基本となり、季節に沿った旬菜しかなく、気候変動も激しく、一年間を通して安定した生産が難しく、農園出来合の野菜しか揃えられない。
○健全な野菜を求めている消費者に対して、農業者も自分が納得できない野菜を、種類を揃えるために他から取り寄せてお送りする事はしたくない。そこが流通業者との違いである。

こうして佐藤自然農園は、「むかし野菜の邑」グループを結成し、農法・出荷基準を揃え、年間百種類以上の野菜・果菜類・穀類などの生産を行い、「お任せ野菜の配送」と言う事になっていった。

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天原木椎茸栽培農家、田北さんの椎茸の圃場。彼は美味しい野菜作りセミナー開催の際、偶々その受講生であった。「ハウス栽培(これも原木椎茸には間違いない)と露天栽培の価格が違わないのはおかしい」と言っていた。彼の言葉に耳を貸し、それでは、露店原木椎茸の美味しさと品質を消費者に分かってもらおうではないか、と言って、定期購入のお客様への定番メニューとした。

 

このお任せ野菜の配送には、消費者側にとっても、幾つかの課題が出てくる。
○自分が好まない野菜も入るし、経験したことの無い野菜では調理の仕方も分からな い。生産者お任せの野菜が届いても料理のレパートリーの少ない、あるいは、共働きの家庭にとっては送られてくる野菜の量に恐怖感すらある。
○今までは、今晩の献立を考えて、その都度、野菜等の食材をスーパーにて買い求める習慣が染みついている。一方的に送られてくる野菜を使って料理を組み立てる考え方に慣れていかねばならない。
これはレストランではさらに深刻で、素材を活かすことに慣れていないシェフを悩ませる事にもなる。
○一種類の大量の野菜が届いても困るし、家族構成・食習慣の異なるご家庭に、全員一律的な量を届けられても困る。

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どんこ椎茸は、最高級の乾燥椎茸になる。これを生椎茸として、皆様へお送りしている。さらに、彼らはもち米を作っており、丸餅として、むかし野菜の定番メニューとなった。

 

そこで、農園では、毎週「今週の野菜」ブログをホームページ上に掲載し、野菜・穀類などの調理方法などの紹介、年に1~2回、全員のお客様へ、野菜の量・品目の確認・調整なども定期的にインタビューを行いながら、個々のお客様の要望にできうる限り答えようとしている。
一品目の量は食べきれるだけの少量にし、品目数も13~15品目と多種類にし、毎週幾つかの野菜は変更していく。根物・根菜・葉物・果菜・サラダ系のバランスを図り、彩りも考え、楽しい野菜メニューとした。そのためには、定番野菜と特殊野菜も適度に混ぜながら、数段階での種蒔きを行いながら、野菜が途切れることのないような栽培方式を確立していった。

その結果、当初は、送られてくる野菜の量と種類の多さに困惑している方もいたが、次第に、送られてくる野菜に合わせて一週間の献立の組み立てが上手に成り、今までの様に無駄な買い物をして、冷蔵庫で野菜をダメにして行くことも少なくなる。さらに、スーパーへは一週間に一度だけ行けば済むようになり、無駄な買い物を控えるようになってくると言った利点も出てくる。
野菜が美味しいということは、素材を活かした調理方法と味付けを行うようになり、何より、食卓が楽しくなり、家族の会話が進むことに繋がっていく。自然野菜を食べ続けることによって、体は自然治癒能力を取り戻し、家族が健康になっていく。
(そのようなメールが届くことが、スタッフには励みになっている)

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定期配送も17年経過する中で、野菜のみでは無く、様々な加工品などが加わってきた。漬物・味噌・自然農のお米・お餅・黄な粉・干し柿・果物・麦製品・惣菜(コロッケ・野菜饅頭)・お菓子類などである。
時代経過と共に、おかず中心の食生活から、副食・惣菜・菓子類などを求めるようになってきている。
時代のニーズ変化は、健全な野菜だけお届けすれば良いと言うことではなさそうである。その変化に合わせて、当農園もその欲求に応えていかねばならない。

野菜に、バラエティに富んだ加工品が加わってくると、生産者側(届ける者)と消費者側(届けられる者)の意思確認が課題となってくる。

野菜・漬物などの野菜をメインとした食品群は、「お試し購入」時点で、「生産者からのお任せ野菜となり、畑の出来合の出荷となります」との合意を得て、定期購入へと進めている。
つまりは、お任せ配送であるとの契約は成立していることになる。
しかしながら、穀類・穀類の加工品・惣菜やお菓子類・海産物加工品などは、お客様との合意(契約)外のことになり、一方的に生産者側から送り届けるわけにはいかない。
かと言って、品目毎に毎回送るアイテムの確認や合意を取ること(個別オーダー方式)は、生産者側も消費者側も余りにも煩雑であり、現実的では無い。

農園直売所を持つと、訪れる一般消費者の反応や意見を直接、伺うことが出来る。
売れ方を見ていると、加工品の人気度(支持度)が分かる。
そこで、その支持率の高かった商品と食卓への必要度を秤に掛けて、その商品へのインタビューを添えて、一回のテスト販売を試みることにした。その商品に対して、「必要なし」の回答を寄せられた方には、今後の定期発送便には入れないこととし、お客様の意思確認を行う。
又、自然農米と同じように、ケーキなどのお菓子類については、「個別オーダー方式」を採用する方向で検討し始めている。
このようにして、オーダー方式による加工品の発注と言った双方にとって煩雑なことを避け、2百数十名の定期購入のお客様の需要満足度を保とうとしている。

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農園で、定番の惣菜を一品作ろうとした。ジャガイモは美味しい。玉葱も美味しい。それだけでは、評判のコロッケにはならない。折角、添加物を加えないのであれば、パン粉も自家製で行こうと決めた。

古代麦ブレンドの小麦粉でパンを焼き、砕いて手作りパン粉を開発した。これが中々に面倒ではあるが、ジャガイモ等の野菜に麦の香りが加わった。これで、どこにもないコロッケになった。

 

この「農園お任せ配送」は、「むかし野菜の邑に集う消費者の方々の健全な食を支える」と言った趣旨で始めた方式であり、それだけの自信と自負心は持っていた。
それ故、多少強引に野菜等のメニューを押しつけてきた経緯がある。
(勿論、体が拒絶反応をする野菜まで押しつけていた訳では無い)
その根底には、農園には、「食育」と「健康」と言うテーマがあるからでした。
どの野菜も何かの機能と役割を持ってこの世に存在している。あまり意味の無いサプリメントに頼るのでは無く、その自然界での大きな役割を負って生まれてきた数多い種類の野菜達を、好き嫌いせずにバランス良く、毎日適量に体に取り込むことによって、人は健康で居られる。
例えば、鉄分を多く取り込む野菜、カルシューム・マンガンを多く取り込んでいる野菜、ビタミンA・Bなどの細胞を活性化させてくれる成分を多く持つ野菜、あるいは、腸内細菌を活性化してくれる乳酸菌他の菌類も棲んでいる。それらが複合的になって一つの役割を担っていることもある。

今年は、「定期購入方式」・「農園直販」の両面での活性化を図っていかねばならない。そして、この農法を未来へと繋ぎ、ここに集う生産者と消費者が共に語り合える「むかし野菜の邑」を目指して行こうと、農園主は考えている。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.12.25(水曜日)曇り後雨、最高温度14度、最低温度3度

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               3番の圃場の冬景色

 

今年は観測史上最も温度の高い冬となっているそうだ。

温暖化が進んでいるのでしょうね。

例年の冬は白い世界に変わっているのだが、今年はビニールトンネルの数も少なく、

グリーンが目立つ畑となっている。未だ氷点下を経験していない。

 

2019.12.25 今年の一年間を振り返ってみれば・・

今年も今日で出荷は終わり、農園は10日間ほどの休園に入る。
農作業は、由布市庄内の麦蒔きも終わり、数張りのビニールトンネルを張り終えれば今年最後の仕事は終わる。問題だったのは、草木堆肥が底を付き来年早々の畑作りができないこと。
丁度、原料の草が手に入り難い季節となっており、急遽、周辺の草を刈り、掻き集め、何とか一月中の植え込みのための堆肥は確保した。
長い間行ってきた自然栽培農園の倣い症で、野菜の在庫が無い、売上が減った、などと言うことより、むかし野菜の生命線である草木堆肥が無いことのほうが、より農園主の心を貧乏にさせてくれるから不思議である。

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こちらは5・6番の圃場。来春用の野菜、ここには色彩豊かな蕪類・大根系の野菜が多く植えられている。

定期購入のお客様から今年はブロッコリーが届かない。好きなので植えてください、とのメールが届いた。植えているのですが、育っていないのです。一見順調な農園風景に見えますが、実は、今年の異常気象で、野菜の歯車が狂っているのか、株は大きくなっているのですが、ブロッコリーの実の成長が遅れているのです。

宅配による定期購入のお客様の場合は、お任せメニューであるため、野菜80%、漬物・味噌・穀類セット(麦ご飯・ブレンド粉・黄な粉など)15%、干物・果物・その他加工品5%と言った構成比率である。
これに対して、今年から始めた農園マルシェ(直販所)に訪れるお客様のお買い上げ頂く構成比率は、野菜45%、穀類15%、菓子類40%となっている。直売では、野菜の購買量が少ないのです。
直売所では、野菜60%、穀類等20%、菓子類20%の販売構成が望ましいのですが・・
関東においても野菜を主とした専門店は、弁当・惣菜・菓子の比率が上がって行き、所謂八百屋さんそのものが立ち行かなくなっている。

一般家庭では、共働き家庭が増えて、中々料理をしなくなっていることも大きな要因の一つではあるが、専業主婦のいるご家庭でも同じような傾向が続いている。
野菜や食材に気を掛けて、家族の健康を考えて良品を選び、家庭料理を重視し、不要な買い物を倹約する賢明な母親像も今では遠い過去のものになっていくのかもしれない。

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当農園では、安全で栄養価の高い野菜を生産している。健全な野菜作りには、手間とコストが掛かるため、一般市場と比較して、1~2割ほど高い。お客様の買い方を見ていると、価格が高いため、野菜を前にして躊躇している姿が垣間見える。
他方では、お菓子類(こちらも手間が掛かってはいるが)にはすーっと手が伸びる。菓子類はほぼ毎回完売状態となっている。ありがたいことではあるが、やや複雑な気持ちになる。

定期購入されておられるお客様へは、隔週配送の場合、野菜だけで14品目程度、漬物味噌・穀類・干物などが2品目程度お送りしている。
初めて定期購入される方の多くは、少量多品目なのが良いと喜ばれているが、中には、野菜が消費できなくなり、中止されたり、月一購入に変更なされる方も少なくはない。
その都度、調理例の提言や形にこだわらず野菜を使いまわすことをお勧めしてはいる。
唯、日本人の食生活は、野菜をほとんど使っていないのだな!と実感させられることが多い。
10年以上ご継続されておられる方も多く、その方々は、総じて野菜が好き、と言う訳ではなく、料理を楽しんでおられる方ではないかと推察される。野菜が美味しいと食卓が楽しくなり、家族だんらんが生まれる。それを願いながら農園から産出される多種類の野菜を組み合わせてお送りしている。

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ネット記事を見ていたら、「安倍政権が切り捨てる日本の食と農。日本だけが輸入する危険な食品」「日本の食と農が崩壊する」などのニュースが飛び込んできた。
これだけ、本音と建て前が分離している政権も珍しい。「日本の農業は守る」と言う言葉の裏には、すでに経済産業省が進める自動車・鉄鋼・電力などの業界優先の政策が打ち出されている。
その輸出を引き替えにして農産物輸入関税を大幅に引き下げ、農産物自由化を進めている。先ずは酪農家にしわ寄せが行っている。牛肉の食糧自給率はすでに36%、豚肉は48%まで低下。
牛乳については北海道の酪農農家は壊滅状態に追い込まれている。
欧州・アメリカなどでは、農業(特に露地栽培や酪農)には手厚い補助金(ほぼ生産額と同額100%の補助)が出されている。国内の食糧確保と国土保全のため、安全政策としての補助金の姿がある。
日本では、補助金内容に制約が多過ぎて、偏り、しかもわずか20~30%程度に過ぎない。日本では農業政策も相も変わらず「助けてやっている」と言う考え方である。これでは、欧米と農産物の価格競争をしても勝てるわけは無い。実にアンフェアーである。ちなみに当農園は農協出荷はしないため、国から1円の補助金ももらっていない。

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自然栽培による大豆の圃場。枯れ葉剤である除草剤を使わないため、草に覆われ、収量は慣行栽培(化学肥料・除草剤使用)の1/3以下となる。それだけに自然栽培の大豆や穀類は単価も高くそれだけ貴重品なのです。

アメリカへの関税引き下げによって2035年には牛肉の食糧自給率は10%以下に、牛乳は日本から消えていく。(当然に国産乳製品もです)
穀類・果実類が次に来る。遺伝子組み換えや成長ホルモン剤・ゲノム編集作物の解禁が進むであろう。
2019年、すでに食品にゲノム編集食品の表示義務も無くなりました。アメリカでも危険と言われ一部販売を自粛している発がん性の極めて高い除草剤成分「グリホサート」や成長ホルモン剤の使用表示もしなくて良くなっております。
日本の食の安全神話はすでに無いことは前回もお伝えしました。唯、それらのことに関心を示そうとしない消費者の意識はどうしたものか?日本全体がモルモット化しようとしているのにです。

欧州では、1989年から成長ホルモンを使用したアメリカ産の牛肉を輸入禁止にしています。中国もロシアもです。

安全・健全・品質には、コストがかかると言うことを忘れてはいけません。我々がすべきことは、安全で安心なものを作ってくれる生産者とそれを支える消費者が手を結ぶことではないでしょうか。
欧州のスイスでは、1ケ80円の卵のほうが1ケ50円の卵より売れているそうです。
1ケ50円の卵は生産現場も分からない輸入品だからです。

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むかし野菜には、5人の若いスタッフがそれぞれ独立農園主として、共同作業を行いながら働いている。健全な食作りを目指して通常の農業と比較してかなり過酷な労働を休みも無く行っている。

彼らの支えは、皆様の健全な食を支えているという自負心のみです。

 

今年の一年間は、送料一斉値上げと約6か月間のホームページ閉鎖(アクシデント)によって、お客様が減少し、苦しい一年間でした。
家計が苦しく定期購入を泣く泣く断念しなければならないと言うメールが寄せられる際は、こちらも辛くなってしまう。送料の大幅値上げには参りました。
それでもむかし野菜を慈しんで頂いたお客様にはこのようにお伝えしております。
エンゲル係数がどうのと言う前に、健全な食を切り詰めるより、無駄な費消を抑える努力をなされたほうが良いと思います。ご家族のご自身の健康は決してお金では贖えないものですよ。と・・・

果たして来年はどのような年になるのか?各国が自国主義に偏り始め、権力が集中してしまっている。政治や行政に、腐臭が漂っている。権力者は自分を律する事を知らない。国民のためと言う言葉がいかにも軽く空しく響く。取り巻きは権力者に忖度し、物事が歪められていく。
それが社会にも拡がり、権力者への忖度が会社という狭い世界で蔓延しており、権力者の監視の役割を担うべき報道も真実を避けて行こうとしている。

自己に籠もり、他を思いやらず寛容性を失い、政治や社会には無関心を装う。負の連鎖が続いている。
まるで、第二次世界大戦前夜のような風習が拡がっていく。

一人一人が自立し、未来のある子供達の将来に思いを馳せることが大切なのでは無いでしょうか。
そうであれば、他を思いやり、政治社会に無関心ではおれないはずなのだが・・・

次週は、農園日誌はお休みを頂きます。
来年は、皆様にとって良き年となるようにお祈りしております。

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農園日誌Ⅲ-むかし野菜の四季

2019.12.18(水曜日)曇り、最高温度18度、最低温度11度

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          弥富ブレンド粉で焼いたパウンドケーキ

 

 「麦に味香りがある」このことに皆様は驚かないでしょうか?

農園主は驚きました。去年のことですが、草木堆肥歴4年目の穀類の圃場から採れた麦を食べてみました。最初は弥富ブレンド粉(筑後いずみ小麦と弥富もち麦)をだんご汁にして食べた際、もともちした食感の他に、口の中に広がる麦の香り、そしてその後に来る麦の味にびっくりしました。

むかし農法で栽培した麦は美味しいのです。むかしの人達はこれを食べていたんだな!と実感した瞬間でした。

 

 「麦物語」-2

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今週から麦蒔きが始まった。去年と同じく小麦・裸麦・弥富もち麦(古代麦)の三種である。
今の課題は、大豆・麦類・とうもろこしなどの自然栽培雑穀類による加工品の商品開発、そして、消費者への紹介をしながらの販売活動であり、ブレンド粉を使ったむかしおやつ作りの普及活動である。
何故自然栽培の穀類にこだわっているかというと、今の穀類は、除草剤が恒例化しており、品種改良が進み過ぎて、あるいは、輸入穀類はポストハーベストの問題が大きいなど、本来は命を繋ぐ筈の「糧」となる穀類が健全性からは程遠い存在になりつつからです。むかし野菜としては、野菜・穀類・加工品の三つを食の柱として考えて行こうとしている。

現代病(アレルギー・癌・アトピー等)への対策として、草木堆肥を使って、除草剤を排して5年掛かりで土作りをしてきた圃場での穀類生産(自然栽培)がようやく軌道に乗りつつある。

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加工品の開発に当たって、折角自然素栽培の原料ができたわけだから、その素材を活かしながら危険と言われている化学物質の排除を考えざるを得ない。
加工品製作に、ベーキングパウダーなどの化学合成添加物の塊を加えたら意味が無い。

グルテン含有量の少ない中力小麦の半全粒粉と古代麦の全粒粉の素材は、ドライイーストでパンを焼いても、中々に膨らんでくれない。
商品開発の方向性として、中力小麦粉と弥富麦の粉のブレンドを行った。
当初、小麦粉8:古代麦2の割合で粉にしてみたが、伸びず纏まらずで失敗。
それではと言うことで、小麦粉9:古代麦1の割合でブレンドし、試作を繰り返した結果、ようやく何とかやや硬く食べ難さはあるものの、良い結果が出せた。

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それでもイメージしているパン他の商品開発ができずに悩んでいたら、うちのお客様であるNご姉妹がこれらの素材に興味を持って頂き、パン作りにご協力を頂くことになった。イースト菌の代わりに天然酵母を開発し、小麦粉を膨らませるために、古代麦から起こした天然酵母を元種に使用する事にしてみた。

※この弥富もち麦(古代麦)は、味香りが強烈であるなど個性が強い。その反面、グルテンはほとんど無く、膨らまず、伸びが悪く、纏まりにくいなどの難点がある。
唯、この品種改良を全く行われていない麦は、グルテンフリーと言うだけでは無く、ハイグルテンの優性遺伝子とは真逆にむしろ劣性遺伝子(抗体反応を抑える)を多く持っていると考えられる。
人間の麦に対する抗体反応を抑える役割を担わせようと考えた訳です。勿論、麦アレルギー症状を発症させないためです。この試み(使用実験)は未だ改良中ではあるが、一応の成功を収めている。

※抗体の異常反応がアレルギーであり、ハイグルテン増加のための無理な品種改良の結果、麦アレルギーを引き起こしたわけです。人の体(抗体)は異物が入ったと感じて排除に乗り出す作用がアレルギー反応と考えられます。現在の科学では、このことの解明や明確な解決策を未だ見いだしておりません。

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        コロッケに使う自家製パン粉(ブレンド粉使用)

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ここから、商品開発が次第に加速し始めて、おいもだんだん(石垣餅)・やせうま・クレープが商品として店頭に並び始め、パウンドケーキ・焼き菓子・ドーナツ・クッキー・ビスケット、そして、ハードパン等を製作した。アレルギー対応も考慮して、卵・ベーキングパウダー(亜鉛化合物)を排除させるという徹底ぶりであった。
次に考えたのが、消費者には馴染みのある日常的に食卓に並べられるコロッケである。
旨みを引き出すために、玉葱・葱・セロリなどを通常より倍以上加えた。
これもパン粉を使うため、アレルギー対策として市販のパン粉を避けて、ブレンド粉を使用したハード系パンを焼き、それを砕いてパン粉とした。実に手間のかかる作業行程となった。
販売価格は「農園の売り」の商品にこだわり、1ケ100円とした。原価は加工手間を除いても50%を越していた。完全な赤字となる。

今年、春頃から始めたささやかな農園マルシェの商品棚も、菓子類・コロッケなどが加わり、随分と賑やかになってきた。
女性陣の商品作りの奮闘と男性陣のビラ配りなどにより、徐々に周辺のお客様にも知られるようになってきており、マルシェに訪れて頂くお客様も新規客50%、お馴染み様50%と半ばするようになってきた。
水曜日は近在の方が多く常連さんで支えられ野菜中心に売れており、日曜日は新規客が多く、比較的遠方の方も混じり、加工品中心に売れている。
野菜饅頭は今では農園の定番商品として定着しており、ケーキ類は完売状態、コロッケは10ケ・20ケと注文が入り、お客様もそれが目当てで訪れてくれる方もいるほどになっている。
農園主としては、喜んで良いのか、憂えて良いのか・・・うちは野菜屋さんなのにと、複雑な心境ではあるのだが・・・

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そうした中、課題となっているのが、ベーキングパウダー(膨らし粉)も使わず、グルテンの少ない麦を使い、アレルギー対応など、健全な食の在り方をご提案しているのだが、何分にも生地は硬く、出来上がった商品は歯ごたえがあるものの、一般商品とは距離がある。
直売所に訪れる消費者の方には、なじみの薄い、と言うか、今ではマーケットを席巻しているふわふわとした食感とは程遠い特定商品群とならざるを得ない。
農園の商品コンセプト(健全な食の提案)を守りながら、如何に一般消費者に近づけていくか、あるいは、
あくまでも距離を置いたものとしていくか?大きな課題となっている。
来年は、この課題と向き合う一年となりそうだ。

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別府の保育園にて、父兄会などの催し物がある日、むかし野菜のスタッフ一同がやせうまなどをその場で作り、無料試食会の一コマ。当日は、農園人気の野菜饅頭をお母さん達の手によって販売された。

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この保育園に通っておられる子供さんの母親が、農園の定期購入のお客様であり、その子供さんにこの野菜饅頭を食べさせたところ、小麦アレルギーを持つこのお子さんに何らのアレルギー症状も発症しなかった。

それが契機でこのイベントへの参加となった。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.12.11(水曜日)曇り、 最高温度15度、最低温度6度

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                 大豆の収穫風景

 

雑草に覆われているため、草刈り機で大豆と草を刈り取り、大豆だけを全員で拾い集め

脱穀機に掛ける。

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慣行農業(除草剤・化学肥料・農薬使用)ならば、一反に付き3~4袋(一袋30kg

採れるものが、その半分1.5袋程度しか採れない。雑草に負けてしまうのです。

自然栽培と簡単に言うけれど、収量は少なく、リスクと労力の塊となる。

 

 

2019.12.11  「麦物語」-1


今年も残りわずか。草木堆肥によって育てた約一町二反(3,600坪)の穀類畑には、大豆が「ここよ」と言っているかのように雑草に埋もれてわずかに顔を出している。
枝や葉っぱも程良く枯れて小さな実が今にもこぼれそうに見える。
先ずは、雑草にも負けず育ってくれた愛しい大豆を収穫してやらねばならない。
慣行栽培と違って、化学肥料はおろか、除草剤・農薬も一切使ってはいないため、雑草の勢いが強い。
しかも、面積が広く除草作業は難航する。収量は慣行栽培のほぼ半分程になる。
おそらくは、草木堆肥施肥、除草剤・農薬を使わない穀類生産は当農園だけかもしれない。それほどに貴重な自然栽培大豆であり、麦です。

 

※小麦アレルギーは、ハイグルテン使用に品種改良を繰り返したことが大きな要因ではあるが、農園主は、穀類生産には欠かせないこの除草剤の慢性的な使用も大きな要因では無いかと疑っている。
その意味では、大豆アレルギーも全く同じである。

 

収穫後は、性能の悪い色彩選別器で選り分け、その後手作業(目視)でさらに選別する。
来年初め頃からは、これも平野さんの自然栽培のお米を蒸して、米麹を作る。3日ほどして、麹の花が咲いたら、今度は大豆を蒸して、海の塩を使って味噌を仕込まねばならない。
原料全てが自然栽培と言う味噌も商業的生産では、全国でも当農園しか無いと思われる。
嫌みの無い深い味わいが、全てのお客様の支持を得ている。大豆が自然栽培だけに多くは採れないため、現状では、一回当たり、300gしか送れない(年に6回が限度)。
今年は面積を広げ、お一人様、500gはお送りできるかもしれない。

 

最近、ある統計データが発表された。日本人は癌による死亡が多いとのこと。特に朝食メニューの味噌汁・漬物・干物が癌多発の要因では無いかと言う記述があった。つまりは、塩分過多となっているためであると結論付けていた。
とんでもない推論であり、今時朝食に絵に描いたような味噌汁・漬物・干物の朝食を毎日摂っておられる人はそんなに多いわけでは無い。それでも癌発生が多いのには、他に別の要因があるはずである。
日本ほど、食品添加物に溢れた国は無い。約3,800種類の食品添加物が国によって認められている。米国の二倍強となっている。さらには、お米を始め、穀類栽培に慣行的に使われ続けている除草剤も実に怪しい。むしろこれら生産・加工の両面からの化学物質使用が癌発生の要因として疑っているのは、私だけだろうか・・・

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大豆を収穫し終えた暮れなずむ穀類畑に、草木堆肥を撒いている。煙は堆肥の発酵熱です。この時季、使用量が増えるため、草木堆肥を作りこなさないため、作ったら1~2ヶ月内に使ってしまう。堆肥を撒くと一緒に、苦土石灰・焼き灰・蛎殻も撒く。

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ラクターで耕耘しながら、麦の畝幅に揃え、同時に麦の種を蒔く。

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種を蒔きながら、管理機で、土寄せを行う。

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翌日の夕方、ようやく一枚の麦の圃場が完成した。来年の1月、芽を吹き、麦踏み、さらに除草のため、管理機で土寄せを行う。

 

そのことはさておいて、大豆の収穫を終えた圃場に、早速に堆肥を入れて麦作りの準備をしなければならない。できれば年内に中力小麦・裸麦・古代もち麦の3種類の麦蒔き作業を終えたい。
これは女性陣も含め農園スタッフ全員での作業となり、年末まで、野菜の生産管理もあるため、この麦作りに忙殺される。
これらの穀類は、主に加工品となって、定期購入のお客様の元へ届けられるか、農園マルシェに来て頂くお客様にお買い上げ頂くことになる。

中力小麦は筑後イズミと言う九州での気候適性が高い品種であり、味も良く、なかなかの良品である。
裸麦は大麦とは異なり、収穫脱穀の際に、ほとんどの殻は飛ばされ、玄麦状態となる。
このいずれも、目安では50%精麦としており、栄養価を大きく損なわないようにビタミンB類をかなり残している。そのため、真っ白にはならない。その分、味香り・栄養価ともに高い。
古代もち麦は、当初、1リットルを分けてもらい、3年がかりで量を増やしていった。
この古代麦は、弥富麦と言って、日本古来から作られていた原始麦であり、味香りが特に高く、おそらくは、小麦アレルギー対策としては相当に有効であると考えた。
そのため、実験として、小麦アレルギーに子供さん達に加工品(野菜饅頭・やせうま・石垣餅・パンなど)を作って、試食してもらった。今の処、約1名の子供さんに少しだけアレルギー反応が出た。
今では、その子供さんもこの古代麦ブレンドだけは、食べられるようになった。

 

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味噌を仕込み、約一年醸造発酵させ、開封する際、わずかばかり緊張が走る。

黴や悪性菌が出ていないか、心配していたが、まろやかな美味しい味噌が今年も出来ていた。ホッとする。

 

(これらの穀類を使った加工品)

無添加醸造味噌 → 大豆(50%) : 自然農米(50%) & 海塩
原料全てが自然栽培と言うものは市場には無く、人気NO1の加工品となっている。

自家焙煎黄な粉 → 大豆100%
自家焙煎の黄な粉は、出荷直前の週に焙煎し、味良く、香り高い大豆を感じる一品となっている。

蒸し大豆    → 大豆100% 竈で蒸し上げる
蒸し大豆は竈で大量に蒸し上げるため、味わい深く、特に子供さんに高い支持を得ている。

麦ご飯セット  → 裸麦(90%) : 弥富もち麦(20%)
五穀米などと違って、麦ご飯セットは、ご飯の味を一流に押し上げてくれる。

自家焙煎麦茶  → 裸麦100%
麦茶はむかしの農家しか知らない本物の麦茶になっており、冷・温両方で楽しめる

ブレンド粉   → 小麦粉(90%) : 弥富麦(10%)
アレルギーにも対応可能であり、むかし野菜の邑での直販所のお菓子作りには不可欠となっている。
ブレンドの率は、試行錯誤の上、ようやく落ち着き、このようになった。

今では、これら穀類加工品は、農園の一つの顔として定着し始めている。

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麦ご飯セット; 裸麦8:弥富もち麦2のブレンド。(紫がかった色が古代麦)

この麦ご飯セットでアレルギーが出たと言う例は今まで無かった。

大変に失礼な言い方ですが、そんなに有名な銘柄米でなくとも、この麦セットを加え、炊飯することによって、一流の味香り・旨みがご飯から漂ってくる。

 

但、ブレンド粉については、むかしおやつ・焼き菓子・饅頭・お焼き・ケーキ・パン・コロッケなど、幅広く商品開発を進めているが、グルテンが少なく、ベーキングパウダーも使わないために、所謂市販のふわふわ状態にはならない。この古代麦がくせ者であり、纏まりが悪く伸び難く水分量の調整が難しく、今でも試行錯誤の繰り返しである。それでもこの深い麦の味香りは何としてでも市場に出したい。
これについては、次回の麦物語-2でお伝え致します。

農園が目指している「健全で健康的な食作り」のテーマはかなりハードルが高いのが実情である。
唯、この麦物語は、自然素材の持つ素朴さと深い味わい、そしてやさしさについては、かなり高いレベルに近づいていることは間違いが無い。
これは大量生産では無く、都度製造する事の出来る小規模生産であるからできるのです。
最もそれだけ手間は掛かることになるのですが・・・

かっては、これら穀類の粉は、石垣餅・流し焼き(クレープのようなもの)・やせうまなどの「むかしおやつ」として、おばあちゃん、そして、お母さんの味の代名詞になっていた。
今では、無添加健康食品とでも呼ぶのかもしれないが、そんなものでは無い素朴さと美味しさがある。

 

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春4月頃、一斉に麦の穂が出てくる。この穂を見るとほっとする。と同時に何故か心が豊かになる。

命の糧ですね。農耕民族の血なのでしょうか。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.12.4(晴れ)最高温度14度、最低温度4度

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12月初冬、ビニールトンネルが農園を覆った。今年は一ヶ月遅れてのトンネル張りとなった。この風景を見ると、ようやく冬になったのだと実感する。これから剥ぐったり、閉めたりの作業が続く。

 

2019.12.4  草木堆肥と完熟野菜の話

 銀行員時代、融資を担当し始めてから、順風満帆な融資先とは縁が無く、不思議と今にも生き尽きそうな会社ばかり寄ってきていたように思う。銀行員としては破格であったのか、何時しか、銀行上層部からは、再建屋・銀行やくざのレッテルを貼られていた。諦めや放り出すことのできない性格のため、悪戦苦闘を重ねている途中にも拘わらず、事業にようやく芽が出そうになってきた頃、後ろから矢が飛んできたり、社長の親族から横槍が入ったりで、事業再建屋を続けることにも意味を感じなくなってきていた。
次女が大学を卒業し、就職が決まったその月、辞表を提出した。同じ苦労するのなら、衰退していく地域や農業の活性化の方が、生き方としてはまともなのではないか、と思うようになっていた。
有機野菜及びその農産品の加工品などの商品化」をテーマとした有機生産農園をスタートさせた。

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除草作業を終えた2番の畑の夕景。空気は冷たく畑全体をピーンと張った静けさを感じる。それでもどこか穏やかで懐かしさとやさしさに満ちている。私はこの時季の農園が好きだ。

ここには、まだトンネルは張られていない。1月ともなると、氷点下の日々が続き、凍結防止にここも一部

トンネルに覆われる。

二番の畑は草木堆肥歴17年になり、プラチナ級の美味しい野菜が育つ。

有機と言えば、先ずは畜糞であり、油粕・米糠であり、魚腸・骨粉なども試してみた。
処が、どうしても野菜に生き生きとした味香りが乏しく、美味しくはならない。
これはどうやら窒素過多なのではないか、と疑い始め、江戸時代の文献を読んだり、子供の頃の野菜の作り方やかすかに残っていた草木堆肥の記憶を辿り、思い切って草木主体にした堆肥作りを始めた。
二年を経過したところから、野菜に深みと味香りが出始めた。何より、筋を感じなくなってきていた。手応えを得て、窒素分の多い肥料は一切絶った。畑に施肥するのは、草木堆肥一本と決めた。
畑の土は、草木堆肥によって年間約3~5センチほど、団粒化(ふかふか状態)が進む。ちなみに、草木堆肥歴17年の二番の圃場は歩けばバウンドしてくる。40~50センチ程の深さに団粒化が進んでいる証左である。
草木堆肥は一つの圃場で野菜が年間3~4回転する度に入れ込むため、入れれば入れるほど、野菜は美味しくなっていく。土壌は微生物層・菌糸層によって、年々耕されていく。雨が降った際に、時折、圃場がキノコに覆われていることがある。これが江戸時代の文献にあった「土が肥えていく」ということであった。
うれしかった。土が自然のままの状態に蘇ったということです。

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草木堆肥を切り返しした処(第一次発酵後、酸素を補給してやるため行う作業)

湯気が出ております。第一次発酵では、70度まで温度が上がり、二次発酵では50度に届く。木屑葉っぱ・草などの有機物が微生物・放線菌によって分解される際に、菌の増殖途上に熱が出る。白く見えるのが放線菌であり、残念ながら微生物は人間の目には映りませんね。草木には無限大の種類と量の微生物や放線菌が棲んでいる。

 

(美味しい野菜とは)
この話は多分に観念的な説明となっており、これだけでは、納得はいかないでしょう。
農園主は少ない知恵を働かせて考えた。先ずは、美味しい野菜とは何?から定義付けしてみた。
官公庁では、「美味しい」の定義は多分に個人差があり、定めようが無いとしているのだが・・

近頃は、やたら甘さだけを求めて美味しいと言っている人が多いようだ。果たしてそうだろうか。
甘いに越したことは無いが、個々の野菜にはそれぞれの個性がある。苦みの無い春菊などおそらく味も無く、食べられたものでは無い筈。
数年以上草木堆肥で土作りをした圃場で育った春菊は、苦みはあるが、特に軸には甘ささえ感じるし、春菊の独特の灰汁やえぐさは感じなくなる。私も春菊は苦手だったが、今では好物の一つになっている。
甘いだけのトマトは美味しいと言えるのだろうか?畑でもいで、口に入れたときの鼻にツンと来る味香りと酸っぱさがやってくる。そして最後に甘さというか旨みが口いっぱいに拡がる。
生食では無く、調理に使ってみれば、甘いだけのトマトの如何に美味しくないことか。

私は、野菜の美味しさをこのように定義した。


・程良い甘さ
・野菜の個性が光る味香り
・噛んでいるうちに口の中で溶けていく歯切れの良さ(筋を感じない)
・最後に旨み

では、このような野菜はどうしたらできるのか?
それを考えるには、野菜の生理について少し勉強する必要がある。

 

野菜が生長するには、窒素の力が必要である。
窒素分が圃場にあると、野菜の中にミトコンドリアと言う成長酵素(生育を促す)が生まれる。
この窒素分が圃場の中に過多状態になっていると、いつまでもこのミトコンドリアは増え続けてしまい、
大人になってもまだ成長し続けようとしてしまう。
野菜の内部にはデンプン及び炭水化物が増え続けて、その状態で収穫を行うのが化学肥料による慣行栽培や畜糞を使った有機野菜である。それを食すると苦みを感じてしまう。デンプンは苦いのです。
さらに窒素の力で急成長する野菜は細く、倒れないために繊維を多く作ります。食べると口の中に繊維が残り、子供さんなどは、飲み込むタイミングが分からず、野菜嫌いになっていくようです。

 

◇野菜には固有の味香りがある

草木堆肥は土壌を自然に近づけていきます。そのため、その土壌で育つ野菜はその野菜固有の性質を引き出してくれます。
現代の農業では、何を食べても同じ味がするというか、その個性を感じられなくなっております。
人参臭いから食べられないとか、セロリ臭いから嫌だとか、現代人は無味無臭に慣らされつつあります。
化学の力を使って無臭空間を作ったりしており、日本人の繊細な香り感覚や味覚が失われようとしております。しかも生活空間には化学物質が溢れており、次第に自然治癒能力なども損なわれていきます。

 

旨みとは、どうやらミネラル分と関係しているようです。
海の塩や岩塩は、食べたら辛いだけではなく、やや旨み(雑味)を感じます。
これはこれらの塩には、唯辛いだけの化学合成した塩化ナトリュームと違って、ミネラル分が多く含まれているからです。
野菜には個性があり、独特の香りや味がすると申し上げましたが、それでもやはり嫌な味香りはあるものです。その原因は、野菜の「灰汁やえぐみ」から来ているようです。
ミネラルバランスの良い草木堆肥(低窒素農法)によって育った野菜には、この灰汁やえぐみを感じません。その替わりに、旨みが出てきます。舌の付け根の部分で、感じるこの「えぐみ」や苦みが、旨みに変わっているのです。

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                   草木灰

剪定枝の破砕作業中、腕よりも大きな枝や葉っぱを選んだ後の細かい枝などは、燃やして草木灰とする。「むかしむかし、おじいさんが枯れ木に花を咲かせましょう」と言って灰を振りかけているむかし話しは、実は本当のことだったのです。

草木にもミネラル分はあるのですが、それを燃やすとさらに凝縮したミネラルの塊となります。このミネラルは、生命体の細胞の再生には欠かせないものであり、当農園は蛎殻・草木灰、そして草木堆肥とトリプルで圃場に常に補給している。

 

「完熟野菜」

草木堆肥によって土作りを永い間行うと、圃場には、微生物・放線菌によって自然循環機能(浄化機能)が働いて、ふかふかした団粒構造(砂状の土)となり、保気力(空気層)・保水力・保肥力のある土となります。
この土壌で育った野菜達は、肥料が無くとも草木堆肥によってもたらされる低窒素とミネラル分によって、根張り(無数の鬚根)が良くなり、基部がしっかりとし、茎が太く、葉っぱや実は厚く、繊維が張らず、歯切れ良く、肉厚に育ちます。
草木堆肥の窒素供給量は最初少なく、その間、野菜は窒素分を求めて沢山の根を張ろうとします。土中の栄養価(窒素・ミネラル等)を鷲掴みにするのです。
一ヶ月ほど経過(根や基部がしっかりしてきた頃)すると窒素分が増え始め、急成長を開始します。
二ヶ月ほど経過すると、今度は窒素の供給量が急速に減退します。
そうすると、成長酵素ミトコンドリア)の増殖が止まり、成長がゆっくりとなります。
野菜は生き残りたいので、自ら蓄えたデンプン・炭水化物を糖質・ビタミンに変換し、エネルギーに変えようとします。当然に野菜は甘くなります。
これが完熟野菜の原理です。さつまいも・果物などの追熟と同じなのですね。

ちなみに、慣行栽培のお米作りの現場では、穂が出始めると、追い肥えをするところもあります。出来高を上げるためですが、この米粒は大きいばかりで、美味しくありません。完熟を妨げていると言う訳ですね。

 

この野菜の成長に合わせた肥料分の調整能力は、ミネラル分がある草木堆肥(低窒素)以外には成し遂げられない。先人達の叡智は計り知れない。野菜が完熟し美味しくなっていく生理現象をむかしの農業者は科学的な知識が無くとも知っていたことになります。
江戸時代に残された農業本に書かれていたことは、難解であったけれども、このことを記していたのかもしれません。

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年末年始と農園は10日間ほどの年に一回のお休みを頂く。そのお休み前に、毎年やや増量の年越し野菜達を皆様へお送りしている。その際に、色々とあるけれども、欠かせない野菜の一つに白菜・キャベツがある。何とか年末に間に合わせるためにこの二番の畑(プラチナ級)に、育てている。

噛むと口の中で溶けていく。繊維を感じさせない歯切れの良さが、本当の野菜の美味しさなのかもしれない。

野菜にも命があります。それを食べるときに貴方の命を頂き、私の命を繋いでいきますと言うのが、「頂きます」なのですね。

 

最後に美味しい野菜とは、栄養価が高いと言うことを意味しているのです。
私達スタッフと定期購入して頂いている230余名のお客様、そして、最近始めた農園マルシェ(直販)に来て頂くお客様達しかこのむかし野菜には接していない。
いにしえの味香りのする野菜をそこに集まる人達しか食べてはいない。随分とむかしの人達は美味しい野菜を食べていたんだな!と思うと、なんだか食卓が楽しくなる。そんなメールがよく届く。

 

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.11.27(水曜日)曇り、最高温度19度、最低温度12度

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             定植を待つ秋野菜の苗達

 

今年の気候は明らかにおかしい。温暖化はとりかえしのつかない程進んでいるようだ。

11月初旬から、一ヶ月ほど雨が降らず、一見穏やかな気候が続いた。本来は、この時期は大陸の寒気団の南下と太平洋高気圧(暖気)のせめぎ合いが起こる季節。

それがようやく11月下旬頃からようやくそのせめぎ合いが始まった。

そのために、秋雨前線が停滞し、週一で天気が目まぐるしく変わってくるこの季節特有の気候となってきた。秋野菜にとっては、成長を促す待望の雨をもたらしてくれた。

そこで、農園主は考えた。

この冬は暖冬傾向が続くとすれば、冬の白菜の種を蒔いても、あるいは、冬の人参の種を蒔いても成長してくれるのでは無いかと・・

このように、通常の季節と毎年変化してくる気候に対して、現在の露地栽培の農業者は知恵を巡らせていかねばならない。

 

2019.11.26  日本古来からの草木堆肥は何故消えた

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                堆肥作りの風景

除草した草をベースに、配合飼料を食べさせていない放牧牛糞を重ね、その上に剪定枝の破砕屑と葉っぱを置き、トラクターで混ぜ合わせた処。この後、タイヤローダーにて2メートルほどの高さに積み上げ、微生物・放線菌の力で発酵を促す。

 

 会社を辞めて農業を心出す前に、栃木県から関東周辺・長野・岐阜などを回って、むかし農法を探し回ったことがある。農業雑誌を参考にしたのだが、残念ながら私の意に叶う農業はついに見つけられなかった。その後、偶々、東京に監査の仕事で行っていた時に、レンタカーを借りて埼玉の川越の芋農家を探してみようと試みた。
埼玉川越は、柳原吉保が大名に任じられた際に、稲作りが難しい関東ローム層の地で、さつまいもを奨励していた。空っ風が強く吹くため、畑と畑の間に、防風(砂)林を作ることを指導したそうだ。
その落ち葉を利用して、葉っぱ堆肥を作っていたとの記述が残っていた。
その葉っぱ堆肥を探しに探し、諦めて道路脇駐車場に車を止めていた時に、ふっと横を見ると、葉っぱが山のように積み上げられていたではないか。ようやく見つけた。
早速、直売所を尋ね、葉っぱ堆肥を見せてもらうことにした。
今では、この葉っぱ堆肥を作っている処は二軒しかないそうだ。地下に数メートルの横穴を掘り、大量のさつまいもが貯蔵してあった。
今では、全国に有名な川越芋のブランド(品質)を守っているのは二所帯しか無い。
おじいちゃんにお聞きすると、このようにおっしゃった。「うちは、主に関東以北のお客様に定期的にお届けしている。一年間にさつまいも一作しか作らない。他の野菜を植えると肥料が必要となり、そうなると、サツマイモの味が落ちてしまう。むかしからのお客様の信頼を裏切れないから!」
後にも先にも、今でも、当農園の他に、草木堆肥を使っている農家はその一軒しか知らない。25年経過した現代でもその農法が続いていることを願う。

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       太い木や細かい枝、しつこい草や蔓などを焼いて草木灰を作っている。

 

化学肥料も大量の畜糞も無い時代、昔の農人は如何にして農産物を育てていたのだろう。
歴史を遡って調べるにしても、江戸時代くらいの文献しか探れない。あまり多くも無い農業本を読んでも、私の拙い知識では、難解で意味も良く分からなかったが、土作りの記述はかなり多く残されていた。
それによると、山間地と集落の間には、里山があり、常に手入れをして、落ち葉や柴を集めていた。
圃場の近くに穴を掘り、稲わら・もみ殻・葉っぱ・柴・萱、そして、草を集めてきて、人糞(家畜の糞はそんなに多くは無かった)を振り掛け、何層にも重ねて1年掛かりで、草木堆肥を作る。その草木堆肥を何代も掛けて、圃場に入れ込み続け、土作り(土を肥やす)を行ってきた。
さらには、草木を焼き、その灰を圃場に撒き、現代の石灰(酸性防止)と同じ中和剤を作っていた。
江戸時代、八百八町の住民が住んでいたと言われる長屋から出される人糞の量は半端ではなかった。その大量の人糞の汲み取り搬送の権利を巡って、よく喧嘩が起きていたそうだ。それら大量の人糞は汲み取り業者から近在の農家が買い取っていたそうだ。
畑の隅にむかしは、肥え坪が置かれており、よくそこに落ちたものだ。おそらくは、むかしも人糞に草などを入れて発酵させて、今で言う追肥として使っていたと思われる。

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                放牧牛糞の山

この牛糞は、空いた田圃を借り、草を植えて、繁殖牛の放牧を行っている畜産農家から届けてもらったもの。その餌のほとんどは草。牛舎には、おが屑を敷き詰め、牛糞を早い周期で回収しており、アンモニア臭もあまり無い。そのため、牛糞特有の臭いはほとんどしない。蠅も少ない。

それに対して、肥育農家の牛糞は、配合飼料がほとんどのため、独特の悪臭を放つ。これは牛糞の管理もさることながら、配合飼料による臭いである。輸入配合飼料は抗生物質・滅菌剤などの薬品漬けとなっている。

 

その草木堆肥を使った自然循環農業は、戦後まで続いていた。次第に、アメリカ方式の機械化・化学肥料・農薬の近代農業が大量生産・農家の浮揚を旗印として、次第に日本の農業を席捲していった。
1960年代頃は、草木堆肥を使った農業はほとんど見られなくなってしまっていた。
その後、化学肥料・農薬の近代農業に対するアンチテーゼとして、有機農業に取り組む農家、それを支持する市民層達によって、厩肥・稲わらなどを使った堆肥作りが行われ始めた。
処が、1980年代後半になって、「消費者を守るため」と言った名目で、有機JAS法が制定された。
これによって、戦後、あるいは、戦前から続いていた草木堆肥などを使った日本古来の有機農業は国によって、全面否定された形となってしまった。
有機JASの認定を取得しなければ、有機野菜として認めないことにされてしまったからである。

 

有機JAS規程
有機物なら何でも良い。化学合成された肥料・農薬は使わない」その趣旨は概ねこれだけではある。
国の認定を受けた検査者から調査を受け、一年間に一回かなり複雑で面倒な書類を提出し、農産物には一枚50銭のシールを貼り付けることが義務付けられた。この規制は一回有機JAS審査を通れば、手間は掛かるが、書面提出だけで良いようで、後の追跡調査は建前のみとなっている。
また、この法令は、生産者への支援は一切為されない、一方通行の規制となっている。

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破砕機で剪定屑を作り、より分けた葉っぱを集めている。この中に計測不能なほどの微生物と放線菌が棲んでいる。炭水化物などは微生物が分解し、リグニン・セルロースなどの硬いものは放線菌が分解する。

この有機JAS法施行に対して、今まで有機野菜を生産していた農家の多くは、そっぽを向いたり、有機野菜生産を止めてしまった方も多い。
その結果として、日本での有機の歴史は一旦終わり、法令(形)だけの有機野菜となってしまったようだ。
勿論、国の法律を守り、懸命に取り組んでおられる有機農家もおられるが、当農園は、形だけの有機農家に格下げされることを拒み、本来的な有機農業を志向しており、自然栽培、若しくは、むかし野菜として、日本古来からの草木堆肥を復活させて、現在に至っている。
ちなみに、日本の有機野菜は、評価が低く、世界のオーガニック野菜の認定は受けられないと言うか認めてもらえていないことは、如何にも建前や形だけの有機野菜としての評価しか受けていないということになってしまい、有機野菜発祥の地である日本人としては、なんとも情けない話ではある。

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除草作業の後、広い圃場から収集してきた草を溜め込む。この作業が中々に辛い。

おおよそ、草5:牛糞2:葉っぱ等3の割合で混ぜ込む。牛糞は発酵促進剤として必要となる。むかしの人達は人糞を使っていた。

 

確かに野山から葉っぱを集めてくること(当農園では、造園業者が持ち込む剪定枝を破砕している)除草した草を軽トラックで収集して回ること、それらを重ねて草木堆肥を作り続けること、いずれも労力の塊であり、根気の要る作業である。
それでもむかしの農人に比べれば、破砕機はあるし、トラックはあるし、混ぜ合わせるトラクターはあるし、堆肥を積み上げるタイヤローダーなどの機械があり、恵まれている。それでも、窒素分の多い畜糞を蒔いたり、化学肥料を施肥したりすることから比べれば、10倍以上きつい作業が必要となる。
如何に美味しく安全な野菜を作っても、消費者に認めて頂けないのでは仕方が無いことなのだろうが、現在の農業者は、手間を惜しみ、労力を惜しみ、「美味しく安全な野菜を作り続ける」と言った農業者としての誇りを失いつつあるように見える。
政治も、メディアも、一般の消費者もそんな頑張っている農業者や職人を評価してはもらえないのかもしれない。つまりは、正当な価値を評価することが難しい時代になっている。

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        左から、破砕機・タイヤローダー・トラクターの三種の神器

このような機械が無い時代、むかしの農人はさどや大変であったろう。農園主も始めた当初は、この草木堆肥作りは全て手作業で行っていた。


それでも、むかし野菜を食べてくれる子供さん達の笑顔や定期的に野菜を購入して頂いている方からの「美味しい」の一言が私達を動かせ続けている。

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農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.11.20(水)晴れ、最高温度18度、最低温度7度

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            晩秋の圃場の風景(3番の畑)

 

11月の晩秋になって、相変わらず雨が降らない。蒔いた種はようやく発芽しているが、一向に大きく育たない。(織布のベタ掛けにより乾燥を防いでいる)

ひたすら、雨を恋い焦がれて待っている。農人の水遣りでは生きているのがやっとの

状態。

この時季は太陽が傾いているため、強い太陽の熱がないため、圃場の表面が乾燥せず、初秋の長雨によって、地中に水分が残っているので、何とか、保っている。

 

 

2019.11.20. 種子の話

 

最近では少なくなってきたが、「F1を使っていない野菜は無いですか」「在来固定種の野菜のみ食べたいのですが」などの問い合わせが時折寄せられていた。
当農園では、何があるのか?と考えてみると、わずかには存在している。
島らっきょ・エシャロット・わけぎ・とうがらし・紫蘇・蔓紫などである。
これらは、随分とむかしから自家採取(と言うより、種を残し、毎年植えている)、あるいは、こぼれ種によって、芽を吹いた苗を毎年、植え替えている。となれば、(品種改良)交配されていない固定種と言うことになるのかもしれない。

さて、「在来、あるいは、固定種とは一体何だろうか?」「交配品種、所謂F1品種を何故嫌っているのか?」これは遺伝子組み換え(遺伝子に新たな遺伝子を組み込む)・ゲノム編集(遺伝子の一部をカットし別の種子を人工的に作る)とも異なる。
但し、F1の種は、ゲノム編集されていないと言う保証は無い。ここに難しさはある。

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つまりは、こう言うことだ。
農家が早く育つ品種、あるいは、見栄え良く大きく育つ品種を望んでいるとすると、その特性を有する優勢遺伝子だけを残し、劣性遺伝子を切り捨てる操作を行うことも可能であり、種子メーカーは、その特性を持つ優勢遺伝子を持つであろう他の野菜と掛け合わせる事を繰り返し、新たな品種を作り出す。唯、これは相当に手間と時間とコストがかかる。
ゲノム編集ができるならば、その方が早く確実に新たな品種を生み出すことが出来る。
日本政府に聞いたわけでは無いが、世界に先駆けてゲノム編集を解禁した理由もその当たりでは無いかと容易に推測できる。ゲノム編集解禁の理由が篩っている。「自然界でも突然変異で新種が出来るわけだから、区別する事が出来ない」としている。
最近、やたらと甘くなるトマトの種子が出回り始めている。消費者が望むからと言う理由だけでは、容易に容認できるものではないと思うのだが・・・
ちなみに、当農園では、トマトには、適度な酸味と味香りがあり、旨みがある昔ながらのトマトの種をいつも探し続けている。これすら最近では酸味のあるトマトを突然に廃番したりしており、実に苦労して種子を探し続けている。最後は欧州から直輸入するしか無くなるのかもしれない。

 

古来から、種子は交配を繰り返して今の種子に至っている。自然交配か人工交配かの違いはあるが・・・
確かに交配し難い品種もある。例えば、胡瓜・南瓜・冬瓜などである。これらは皆「瓜科」である。
これなら在来固定種と言えるのかもしれないが、但、わずかながら、同一「科」の中で、交配はしている。
問題なのは、アブラナ科である。
小松菜・青梗菜・水菜などの葉物野菜や白菜・キャベツ・ブロッコリー・大根・蕪など多くの野菜は、ほとんどアブラナ科に属する。この科の野菜は、放って置くと、勝手に交配し、亜青梗菜・亜赤蕪などになったりする。
「自家採取はやっていないのですか?」との問い合わせについては、必ず、「不可能」と回答するようにしている。自家採取専用のハウスを持ち、都度自家採取するなど、一体どれだけの手間とコストが掛かるのか、農家で無い方には分かるまい。

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      アブラナ科の代表である白菜とキャベツ(2番の畑)

収穫をしていると、時折、蕪と白菜、小松菜と白菜の相の子ができていることがある。

これはF1の種子を作る際に掛け合わせたものの本性が現れて来るのだろう。

 

在来・固定種の種を多く取り扱っている「野口種苗」と言う種子メーカーがある。
彼も、在来固定にこだわっている方々に対して、実に興味深い事をおっしゃっている。
「固定種の蕪があり、それを何十年も作り続けていると、いつしか、奇形が出来たり、小さくなったりして、より難しくなっていく。時には、他の品種と交配を行い、種子を健全にしていかねばならなくなることも必要である」
平家の落人部落があり、山里深く永年住み続け、同族婚姻を繰り返していると、次第に虚弱体質になったり、奇形児が生まれたりして、やがてはその一族は死滅してしまう事もある。
自然の神からの警鐘である。法律では兄弟親子の婚姻は決して認めていないのはその理由の一つである。

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季節はこれから冬に向かう。この季節は、色とりどりの野菜で農園は賑わいを見せる。

中でも蕪・大根の色彩は赤・白・ピンク・紅・紫・黒と、随分と目を楽しませてくれる。

これらのほとんどが交配によって新たに作られた品種である。在来・固定にこだわるのも良いのですが、そうすると、その方は、いつも同じ野菜を食べなくてはならなくなる。それほど、在来固定種は少ないのです。

 

種子については、私なりに思うところがある。
甘さ・大きさ・育て易さ・見栄えなどを優先させ、そのための優性遺伝子ばかりの種子を作り出すために、人工的に交配を繰り返したり、遺伝子カットによるゲノム編集をしたりすることは、種子の本来有している遺伝子のバランスを壊すことに繋がる。
むしろ、劣性遺伝子の中に含まれている自然との調整機能をも壊すことになり、アレルギー・アトピー・癌などの現代病を引き起こすことに繋がっていくのではないか。
自然とは異なる異物を体内に入れる際に、人間が拒絶反応を起こし、様々な現代病を引き起こしている。
それは、遺伝子組み換え(ゲノム編集も含む)であったり、無理な改良を重ねた種子であったり、若しかして、農産物生産に多く使われ出した除草剤であったり、梨などに多く使われているホルモン剤であったり、浸透性農薬であったり、薬品漬けになった畜糞や化学合成肥料・農薬であったりするのでは無いかと言った懸念を私は強く抱くようになった。

単に自然を壊していると言うことでは、多分に情緒的な批判でしか無い。むしろ、人間の欲望や思惑によって、こうしたケミカル依存をすることに、自然の神からのしっぺ返しが来ているのでは無いか。
これは20数年の農業の中で、感じていることです。
現在の自然界の環境は、ケミカル物質に覆われている。そんな中で、可能な限り化学物質を圃場に入れない農業を目指している。結果として、当農園では、有機農産物と言われることにも違和感を持っており、自然循環農業(自然栽培)と称している。

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大豆を収穫した後に、枯れた大豆の枝等を風の無い日に一斉に野焼きする。ご近所の方々には、大変

ご迷惑をお掛けするが、この後、直ちに耕して来年用の麦の種蒔きが待っている。

除草剤を使わないために、雑草も生い茂っており、一緒に焼いてその灰が次の麦作には

有効なのです。むかしから、農家では行っており、畑の風物詩となっている。それでも、むかしから農業を

営んで来られた方は、理解していただけのですが、移り住んで来られた方から、すぐに消防署に通報が行くこともしばしばです。これも時代を映しているのでしょう。