農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.11.13(水曜日)曇り、最高温度22度、最低温度12度

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             玉葱の定植作業-8番の畑

 

ようやく玉葱5万本の植え込み作業をほぼ終えた。残り3千本となった。

例年この8番の畑で最後となる。腰を屈めた形での植え込み作業は流石に堪える。

この後、春先から延々と除草作業が続くと思うと今から溜息が出る。

農園では、他の農家と違って、草取り作業を省くため、あるいは、(成長を促すため)地温を上げるための黒マルチはしない。

除草作業をしないことは楽ではあるが、自然の厳しさと触れあわない成長は、やはり、ハウス栽培と通じるところがあり、肥大し過ぎたりで、何より、美味しくない。

 

2019.11.13  年間百種類以上の野菜生産

今年も玉葱の植え込みの時季が来た。
11月は野菜の生育が厳しい厳冬期を控えて一年間のうちで、野菜植え込み・種蒔きに最も気を配らねばならない月となる。
先ずは、玉葱の定植。玉葱は、冬場に根を張り、春先に成長する性質をもっている。家庭で最も必要とされている野菜であり、一年に一回しか採れないため、二百数十名の定期購入のお客様のために、かなりな量を一度に植え込まねばならない。今年は約5万本を見込んでいる。全て一本一本手作業での植え込みとなる。収穫時期をずらすため、極早生から始まり、早稲・中早稲・赤玉葱と続き、スタッフ全員総出の作業となる。

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8番の畑に玉葱を植えるために土作りに行ってみると、わずかしか植えていなかったはずの冬瓜が、畑にごろんごろんと転がっていた。初霜が降りて葉っぱが枯れて、今まで見えなかったため、気がつかなかった。

南瓜は今年もダメだったが、何故か冬瓜の当たり年になってしまった。

※冬瓜は冬の瓜と書く。れっきとした夏野菜である。長持ちして冬期に暖かいスープ料理にして食べるため、この名前が付いた。

さらに、春に出荷予定のスナップエンドウ・実エンドウ・絹サヤエンドウ・そら豆の種蒔きがある。
一度、初春頃、種蒔きを試みたが、やはり満足に実を付けてはくれなかった。これも玉葱と同様に冬場に根を張り、基部を充分に生育させないと美味しい満足のいく実は育たない。

 

最低温度が10度を切り始めると、発芽率が極端に低下するため、葉野菜・大根・蕪類などは一週間単位で種蒔きを行い、どうにか発芽させておかねばならない。発芽させてしまえば、ビニールトンネルにより保温してもらい、生育は何とかなる。とは言っても、太陽や雨に当ててやらねば軟弱な野菜となってしまうため、気候を読みながら剥ぐったり、開けたりの管理は必要となる。
育苗ハウス内で苗を育ててきた白菜・キャベツ・ブロッコリー・レタス系の定植作業もこの時季と重なる。これらの主にアブラナ科の野菜達は、晩秋から中春にかけて最も作り易いが、どちらかと言うと、晩秋から初春のものが一番美味しい。余り温度が上がると適さない冬野菜と言えそうだ。

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この時季は、次第に寒くなってくる気候であり、最高温度が10度を切ると、発芽し難くなるため、二週間に一度、都合、5段階に分けて種を蒔く。例えば、葉野菜の場合、最低5畝は用意しておかねばならない。そうしないと、厳冬期を過ぎた2月~3月に掛けて葉野菜がまったくないと言うことになってしまう。そのため、かなりな面積の圃場が必要となり、気候を読みながらの種蒔き作業が続く。

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大豆の収穫が終わると、直ちに耕し、草木堆肥を振り、畝立てを行い、麦を蒔く。

発芽しておよそ4週間経過した頃、スタッフ総出で麦踏み作業を行う。

 

次に迫ってくる年中行事は穀類畑である。
晩秋に収穫を待っている大豆が約一町歩(3,000坪)待っている。内訳はと言うと、佐藤自然農園が約5反(1,500坪)、後藤農園が2反半、小原農園が2.5反、田北農園が1反。
これらの穀類専用畑では、大豆と麦の二毛作を行っている。大豆収穫後、雑草に覆われた畑を耕して、草木堆肥を撒いて、裸麦・小麦・古代もち麦の種蒔きが待っている。

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大豆を煎って黄な粉を作る。この作業もむかしながらの手順がある。入り終わった大豆は熱を取り、先ず、製粉機にて粗めに砕く。おもむろにトウミにて手作業でふるって殻を飛ばす。次にさらに細かく粉にしてようやく黄な粉となる。

 

このようにこの時季は、スリーシーズンの秋野菜・冬野菜・春野菜の種蒔きが重なってしまうため、さらには、大豆・小麦などの穀類の収穫及び種蒔き作業が年の暮れまで続く。誠に忙しく、どこの圃場のどこの畝が空いているのか、どこに何を植え込むか、何段階で種を蒔くか、苗や種の手配、重なり合う作業手順管理、などなど、ついでに頭の中も、常に気を張ってフル回転しており、ボーッとしているわけにはいかない。
それも激しい気候変動を先読みしながらの作業となる。露地栽培とは、マニュアルで作れるものでは無く、積み重ねてきた経験と読み、そして、自然の神様を味方に引き込む農業者の勘働きの世界である。

 

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これはビーツ。農園ではすでに10数年前から皆様にレシピを付けてお出ししている。

定番は何と言ってもボルシチであるが、酢漬け・サラダにもできる。葉っぱはともかくとして、この赤い茎は炒め物などにすると甘く味香りがあり、美味しい。

 

ある農家の方が「年間百種類以上の野菜の生産なんて、どうかしている。しかも四季の変化の中で必ず訪れる端境期を乗り切れるのか?そんなことが実際にできるのか?」と言っていた。現代農業の常識からすれば、無理なのであろう。むかし農業では当たり前のことなのだが・・・
但、こちらはこちらなりに、出来るのか?ではなく、しなければならない事情がある。
当農園は、私たちを信じて待っておられるお客様方へは、「自然循環農業の農産物しか届けない」「品質を同じくする」「何より安全でかつ健全であること」などの暗黙の約束事があり、その信頼を裏切るわけにはいかない。そのためには、品質をある程度揃えるために、何としてもグループで全ての農産物を育てねばならない。

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例えば、レタス系と言っても様々な種類がある。玉レタス・半結球レタス・コスレタス・フリルレタス・

サニーレタス・サンチュ・サラダ菜・トレビス等々、用途によって様々な食感・味香りがある。

当農園は、サラダセットと言って、水菜・辛し水菜・マスタード・スイスチャート・ルッコラ・赤ほうれん草などおよそ10種類の野菜をセットにしている。農園の人気NO1の地位を得ている。


いつも同じ野菜では如何に物分かりの良いお客様でもすぐに飽きられてしまう。となれば、健全、かつ、高品質な年間百種類の農産物を作り続けるしかないではないか。と言った事情である。
年間百種類の野菜とは言っても、わざわざ数えたわけでは無い。それくらい多いという意味に過ぎない。

 

日本の四季がフォーシーズンと言う訳でも無く、実際には、夏野菜と春・秋・冬野菜のツーシーズンに近い。つまり、日本の気候は大まかに分けて雨期(秋から始まり、極寒の冬が到来し、やがて春になる)と乾期(梅雨明けの7月~9月までの酷暑と乾燥気候)に分かれてきた。
雨期と言っても雨ばかりとは限らない。時には、一ヶ月ほど雨が降らない時季もあったりする。
それでも、春夏秋冬、それぞれの季節には柱(出荷の軸)となる野菜が存在する。
例えば、現在種蒔きをしている豆類(絹莢エンドウ・スナップエンドウ・実エンドウ・空豆)は間違いなく4月~6月初旬までの春野菜の軸となる。それが終わる頃、6月~7月のインゲン豆も初夏野菜の軸となっている。
6月下旬~8月初旬頃は、何と言っても露地トマトである。その頃、茄子類・ピーマン系・トウガラシ系が夏野菜の顔となる。但、最近の温暖な気候では、ピーマン系・トウガラシ系などが、9月~11月初旬まで、秋野菜の軸となっているから面白い。秋の落ち茄子も美味しい。
晩秋野菜と言えば、何と言っても、大根類・蕪類がその代表的な野菜となる。この時季の大根・蕪は、白・黒・深紅・赤・紫・ピンクなどの色彩に富んでおり、我ながら美しいと思う。
冬になると、キャベツ・白菜・葉野菜・レタス系が軸となってくる。これらは、害虫被害が遠のく冬場にこそ、その存在感が増し、しかも、より美味しくなる。

その間を埋めていくのが、胡瓜・牛蒡・南瓜・冬瓜・さつまいも・黒大豆の枝豆・栗・生椎茸などの定番野菜である。彩りとしては、セロリ・ビーツ・人参・パプリカ・赤玉葱・トレビスなども加わってくる。

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これは花盛りの馬鈴薯畑。このように野菜の花は清楚で美しく、忙しい農園ライフの中で、疲れた体を時には癒やしてくれる。ちなみに、馬鈴薯の花が咲いてからおよそ3週間で収穫時期を迎える。
 

このように、当農園としては、先ずは軸となる野菜を生産の柱として、消費者の食卓を四季の野菜で埋めていくために、生産メニューを決めて行っている。
お客様の食卓を彩るために、端境期をかいくぐって、次々と野菜が現れ、ついには、年間百種類の野菜が農園に拡がっていったに過ぎない。
お客様への直接販売とはこういうことになるが、現代農業の常識から言えば、野菜が春夏秋冬、よく繋がっているものだと感心している。これを受け継いで行く若い農人達に頑張れ!と言うしか無い。

 

 

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.11.8(金)曇りのち晴れ、最高温度20度、最低温度11度

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                玉葱の定植

 

今年は赤玉葱も含めると約5万本ほどになる。

全て手植えとなり、堆肥振り・畝建て・植え込み作業が急ピッチで行われている。

玉葱は日常最も使う野菜の一つであり、そんなに単価も取ることもできないが、ご家庭での必需品でもあり、何しろ、植え込みの量は半端ではない。

例年のこの時季の農園の行事であり、一つの風物詩でもある。

 

 

2019.11.6 農園直売所は八百屋さんとお菓子屋さんになる!

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水曜日に直売所を開いてから今月で8ヶ月経過した。日曜日開催に踏み切ってからほぼ1ヶ月を経過。
未だ、大分市場には浸透していない。ここは我慢比べとなっている。
テレビ等のメディアを通せば、多くの消費者に届く効果は高くそれなりの意味はある。但、これは反響が大きい分、一過性に成り易く反動が余りにも大きい。
九州一円にテレビ放映されると、いきなり、2,500余名の問い合わせが殺到し、自然野菜にも限りがあるため、500名に絞って何とかお届けしたが、一年以内に470余名の方が脱落した。
今回は、地道にチラシを配ったり、団地新聞に載せたりで、口コミを誘発しようとしている。若いスタッフ達も自主的に団地にチラシを配り始めた。それが何より嬉しい。


水曜日の直売は20余名の固定客が入れ替わり訪ねてきてくれている。

日曜日は、菓子類・パン・惣菜・おやつ類なども揃えており、次第に固定客も付き始めてはいる。その方々による口コミにより、時折、新規のお客様も来られるようにはなった。客層は少し異なる。
消費者とのコミュニケーションもややぎこちなくも進んでいる。農園主もできるだけ、若いスタッフ達に任せてあまり出ないように気をつけている。ここは彼らが自立していくためには、正しく正念場となっている。
唯、今までお世話になったメディアに頼ろうとする気持ちが無い訳では無いが、今は我慢の時である。
そうした中、徐々にではあるが、野菜の旬の説明、食べ方の紹介、古代もち麦ブレンド小麦粉の使い方麦ご飯セットの紹介、漬物や味噌などの詳細説明などがようやく彼らの口から伝えられるようになりかけている。

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日曜日は野菜及びブレンド小麦で作ったお菓子やコロッケの販売だけではなく、試食会も行っている。

立て込んでいない時間帯には、じっくりとスタッフもお客様と話し込んでいる。

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ブレンド小麦粉と農園で採れた大豆を焙煎した黄な粉によるやせうま

 

かっては、どこの街でも八百屋さんがあった。市場から、あるいは、直接農家から仕入れてきた旬の野菜が店頭に並べられ、「奥さん!この茄子は今が落ち旬です。小さいがうまいよ。ああ!鍋なら良い葱が入っているよ。それとこの聖護院大根が合うよ。やや苦みがあるのが特徴だが、油揚げや豚肉と甘辛く似ても美味しいよ」などと料理方法から美味しい時季まで紹介し、かれらは、農家の代弁者でもあった。
お客様もその店主から進められた野菜を選んでおり、八百屋さんに行ってから今夜の献立を考えていた。
一昔前は、良き時代のコミュニケーション文化があった。
八百屋さん・魚屋さん・肉屋さんは、大規模ショッピングモールに変わり、売り手側と買い手側の会話は今では無い。野菜の健全性・美味しさなどの質は大きな価値を持たない。専門的な知識や美味しい料理方法などの情報のやりとりも無い。
言うなれば、専門的な知識もあまり多くない者同士が売り買いを行っていることになる。
これでは、何が健全で良質の野菜であるか?美味しい野菜とは何か?栄養価とは何か?など、分かりようが無い。結果として、見た目・新鮮そう・安全そう・価格などにより野菜を選ぶしか無くなる。
そんな状況が長らく続くと、果たして消費者は農産物の質を見定めようとしているのか?それすら疑問に思えてくるようになる。
効率優先の大量流通の世界はこんなものだ。これでは、健全で良質な野菜を生産する農家は育たない。

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何かと問題のベーキングパウダーを使わず、麦から起こした天然酵母を使用した苦心のパウンドケーキ。

 

当農園では、草木堆肥による低窒素・高ミネラルな自然循環農業により、野菜や穀類を育てている。
そのため、常に販売において、啓蒙・啓発的な説明や紹介の仕方が求められている。
この野菜が他の有機野菜や慣行栽培による野菜とどう違うのか?除草剤・高窒素肥料を使わない穀類の美味しさと安全性の紹介や説明、穀類の味香りがする野菜饅頭・コロッケ・パン・ケーキなどの紹介、やせうま・クレープ・石垣餅などのむかしおやつ作りの勧めなど、お客様に紹介するテーマも多い。
そのため、店頭において、四苦八苦しながら、お客様とのコミュニケーションに取り組んでいる。
習うより慣れろ!で、そのうち、大分の消費者にも理解して受け入れて頂ける日が来る。

むかし野菜の邑の農園直売所は、八百屋さんになったり、お菓子屋さんになったり、ひたすら頑張り続けていくしか無いのである。

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農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

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            葉野菜がずらっと並ぶ2番の圃場

 

この畑は草木堆肥歴17年のプラチナ級の圃場。

奇跡的に害虫被害が少ない。それでも大人になり掛かっている白菜などは、外葉や基部には虫がびっしりと付き、丸裸になるのも時間の問題となり始めている。

 

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一見きれいそうに見えていた白菜もカメラを寄せてみるとこの通り。

一週間、予定を早めて急遽出荷に踏み切った。全量出荷するまでに2週間以上かかる。

果たして間に合うか?

 

 

2019.10.30  自然との語らい「恵みの雨と命の太陽」

 

かっての日本の気候は、あるいは、日本の農業は、温暖な風土で、季節の移り変わる中、太陽の光と雨が良い周期で交互にやってきていた。梅雨や台風も一つの気候の周期であった。
処が最近の日本の気候は、極端から極端に変動し続け、農業者にとっては、かってのように安定した農産物作りが難しくなってきている。夏は酷暑が続き、一滴の雨も降らない時季が続いたかと思えば、今度は一転して太陽が覗かず、じめじめした蒸し暑い日々が続く。
このような気候の時が、実は、害虫の異常発生になり易い。暑さで抑えられてきた害虫の卵や幼虫がこの高温・高湿度で一斉に土中から解き放たれる。野菜の幼苗など一溜まりも無く、その異常発生が生育し始めた葉野菜の成長時期にぶつかれば、一週間で、一つの畝が壊滅してしまうほどの凄まじさとなったりする。
加えて、大根・蕪などの畝が葉っぱの虫喰いだけでは無く、土中に異常発生した線虫・コガネムシの幼虫・夜登虫などにより喰われる。傷を修復するため、表面に瘡蓋が出来、根や蕪が茶色に変色硬化し、商品とはならなくなり、全滅してしまう。それを見る度に、農業者の顔は曇る。
アブラナ系の葉物・根菜類はすでに3回全滅している。それでも諦めず4回目の種蒔きを行っている。

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自然循環農業を行う農人は、この時期、種蒔きや育苗管理にチャレンジし続ける不屈の精神力が問われる。そんな時、直販所でいきなり飛び込んでこられたお客様が、何故こんなにお高いの!と言う声が頭をよぎる。
最近では、そんな今年のような気候が交互にやってくる。
施設栽培に頼らず、自然のままに農産物を育てて行く。これも自然循環農業が生み出す美味しく健全な野菜作りに掛けているからに他ならない。

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虫害によって、まばらになった蕪の畝

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それでも二週間間隔で種を蒔き続けている。祈るような気持ちで!

 

こんなことがあった。関東のあるお客様から一通のメールが届いた。二児の母親からである。
この方は、すでに二回むかし野菜を中断している。その理由が一つは義母が「そんなに費用を掛けてまで九州から野菜を取らなくて良い」といつも喧嘩になっており、離婚もできなくて一度は定期購入を止められた。二回目は、エンゲル係数とかの話題が夫婦間で話し合われ、やはり、泣く泣く野菜配送を中止されたと言った経緯があった。
むかし野菜を中止された後、近在の高級スーパーにて、有機野菜を買っていた。処が、子供さん達が全く野菜を食べなくなってしまった。夫婦で叱りつけても、さらに食べない。
仕方なく、東京の有機専門卸店から無農薬野菜を買い始めた。
両親が野菜を食べることを強要し続け、諦めたのか、今度は、子供さん達が、「味付けを濃くしてくれ」と言い始めた。半ば義務的に野菜を食べたとしても、美味しくないものは、食べたくないですよね。
メールにはそれらの事情や経緯が克明に綴られていたが、ご夫婦で話し合った結果、「量を落として野菜を隔週にて再再度送って欲しいとのこと」

以下のようにこちらから返信を打った。
「子供さんは、本物の野菜の美味しさを知っておられますね。草木堆肥しか施肥しない土壌には、ミネラル分が多く含まれ、永年草木堆肥を施肥し続けた土壌は肥えていきます。そのため、低窒素でも育つわけです。低窒素で育った野菜は完熟野菜となります。デンプンが分解され、糖質とビタミンに富んだ美味しい野菜ができます。低成長であるため、筋が無く肉厚ジューシーとなり、子供さんの口の中で溶けていきます。それを未だ汚れていない舌は感じているのですね」
「自然循環で育った野菜は栄養価の面でも慣行栽培や畜糞主体の高窒素栽培とは異なり、栄養価に富んでおります。計測する事は適いませんが、おそらく10倍以上は糖質ビタミン・ミネラル分は多く含まれていると思います。従って同じ量で量れば、数倍は安いことになりませんか?」
「量を少なくとのことですが、それだと、貴方はかなり損をする事になります。送料コストは同じなのですよ。私はそのため、足を棒にして大分県無添加干物を探し出し、工場を説得し、野菜と一緒にお送りしたり、自然農の米と除草剤を排した自然栽培の穀類(味噌・ブレンド小麦粉・麦ご飯セット等々)を時折同封しております」
「私達にはお客様(この農産物当を共有する意味で仲間達)の健康を守っているとの自負心を持ってこの仕事に取り組んでおりますよ」
「子供さん達には、本物の持つ力とそれを作っている人達への思いを大切にしていて下さい。きっと大きくなった時、価値観の分かる大人として、貴方達の役に立つ日が来ると思いますよ。とお伝え下さい。ありがとう!」と締めくくった。

 

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これは一昨年10月末頃の5番の圃場の風景。

左は2~3月頃出荷予定のブロッコリーの幼苗。右は3月頃出荷予定の大根の幼苗。

この年は、良き秋が来ており、苦労せずに野菜が育った秋であり、余り悲壮感はなく

楽観的な雰囲気が圃場に流れていた。

白い布はパオパオと言って、虫除けと保湿・保温効果のあるベタ掛け幼の織布。

今年の様に湿度が高く害虫の異常発生する年の場合は、余り長く掛けていると、蒸れたり、地面から湧き出てくる害虫にやられてしまう。

 

とは言っても、太陽と雨は野菜にとっては、自然の恵みであり、露地栽培では、雨を待って、一斉に種蒔きを行う。水遣りだけでかなりの労力を使う。葉野菜や蕪大根などは、種を蒔いて3~4日で芽を吹く。
その後、一週間は水遣りを行わねばならないが、雨の前々日に種を蒔けば、うまくいくと一回の水遣りで済むこともある。やらねばならない事の多い露地栽培では、自然の力を借り、できうる限り省力化していかねばならない。
直射日光が弱まり暑さが薄れる晩秋の季節には、発芽や生育条件が整い、野菜の種蒔きには最適時季となる。但、最低温度が10度以下になると発芽がし難くなり、最高温度が15度を下回ると、生育が遅くなり、最低温度が5度を切ると、ビニールトンネルなどで野菜の発育を守ってやらねばならなくなる。
露地栽培は、常に気候を読み、農業者独特の勘働きで管理していくことにはなるが、「自然に順に」が重要となる。
正に、露地栽培は自然との語らいの日々である。

今年の秋冬は、やや高温多湿になりそうな予感がしており、従来の季節より、種蒔きの時期を約1ヶ月ほど、遅らせた方が良いように思える。
例えば、今までは人参の種蒔きは10月初旬までに、であったが、今年は11月初旬頃まで蒔けそうで、「白菜は10月初旬までに定植する」が、今年は、「11月初旬頃まで定植できる」に変えても良さそうである。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.23(水曜日)曇り後雨、最高温度25度、最低温度16度

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      育苗ハウスの中で育てているレタス・白菜・キャベツの苗

 

5日前に種蒔きをした。8月下旬頃からこれで4回目の種蒔きである。

日照不足と湿気、それに加えて害虫による被害により、守られている筈の育苗ハウス内でも、溶けていったり、徒長してしまったり、新芽を食べられたり、幼苗に育ったのは極くわずか。トレイの表面が茶色っぽいのは栴檀の実を砕いて虫除けにしているため。

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何とか育った白菜とキャベツを定植したばかりの2番の圃場。

本来であれば、これにレタス・ブロッコリーが加わり、3・5・7・9番の圃場には

満杯の秋野菜が植えられている筈であった。

7番の葉野菜が害虫により食べ尽くされ全滅してしまい、約一ヶ月間出荷が出来ない事態に追い込まれている。蕪も、今、芽が出たばかりの状態である。うかつであった。

もっと早く手を打つべきであったと後悔している。

害虫の多発が予測できていたのに・・・

 

むかし野菜の四季

2019.10.20. 自然栽培の小麦粉を使った菓子・惣菜の開発

 

害虫被害の多発は、毎年5月中旬頃から11月初旬頃まで続く。中でも秋野菜の種蒔き適期である8月下旬~10月中旬頃までは、種の蒔き直しが続き、まともに幼苗が育たない。育ったとしても害虫被害によって、あるいは、暑さや湿気によって、いびつな野菜しか出来ない。
最近の数年はそれを繰り返しているが、農業は気候変動の洗礼を受けて次第に厳しさが増している。
特に、当農園のように低窒素露地栽培である自然循環農業の場合は、さらに厳しい。
その10月中旬を過ぎた頃から、寒が訪れるまで、毎週、葉物・根菜・巻物(白菜・キャベツ類)の種蒔き作業が続く。この時季に種を蒔いて、発芽させ、せめて幼苗にまで、育てておかないと、秋冬野菜は畑にまったく無いことになってしまう。
この時季は、幼苗を守るため、葉物野菜などには農薬を使わねばなら無くなってしまった。
使う農薬は害虫を瞬殺する農薬であり成分分解が早い。緩効性(農薬効果が長く持続する)及び浸透性(野菜に染み込み、虫を殺す)農薬は使えない。土を汚し、微生物・放線菌を殺してしまうからである。
但し、農薬散布の頻度は一週間に一度の慣行農業、あるいは、2~3週間に一回の減農薬ほどでは無い。
野菜もせめて小学生程度にまで育ってしまえば、よほどの害虫多発事態でない限りは、野菜の生命力に委ねる。
人間の子供さんでも、幼い時期は大人が守ってやらねばならないのと同じである。

 

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   これは全て裸麦。約2反の面積があり、別に古代麦1反、裸麦3反、

   中力小麦(筑後イズミ)4反、合計麦系の圃場が10反(3,000坪)ある。

 

むかし野菜では、現在、除草剤・農薬を排した草木堆肥による自然栽培の穀類を育てている。土作りも進み、去年頃から本格的な生産態勢に入っており、今年かなりな麦の生産ができた。
大麦は止めて、裸麦・筑後イズミ(九州固有の小麦)・古代もち麦(弥富麦)の三種である。
裸麦は焙煎して麦茶にしたり、古代もち麦と合わせて「麦ご飯セット」にした。すでにファンが多く付いており、分かってくれる方には、ご飯が美味しくなったと大好評であった。
問題だったのは、小麦粉のほうだ。
筑後イズミは中力小麦であり、味香りも良く、うどん・団子には最適なのだが、グルテンは少なく、パン系には向かない。古代もち麦は流石に原始麦であるだけに、味香りの強さは麦の中でも群を抜いている。
しかも、交配を繰り返していない固定種であり、アレルギー・アトピー体質の改善に効果があることが分かった。数人の高度アレルギーの子供さんに試してもらった。結果は、一人だけアレルギー反応が出た。
それもひどくはならず、引き続き少量試してもらっているが徐々に慣れていっているようだ。

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左側が古代もち麦(弥富もち麦)、髭が無くやや紫色がかっている。収量は他の麦の

1/4しか採れない。如何にも原始麦の臭いがしてくる。それだけに味香りは極めて濃い

扱いもかなり難しい。古代人はこれを雑炊などにしたり、あるいは、粉に引き団子のようなものを食べていた。現代人より遙かに健康であったろう。


この古代もち麦の味香りと現代病対抗力を何とか活かせないかと、試行錯誤が始まった。
中力小麦粉の半粒粉と古代もち麦全粒粉をブレンドしてみる。先ずは、パン作りはグルテンが無い分、難航を極めた。
試行錯誤の上、ブレンド割合が決まった。乾燥イーストでは膨らまず、ついには、麦から起こした天然酵母菌を開発し何とかパン風にはなった。
そのことから、化学物質の多く含まれたベーキングパウダーを使わずにパウンドケーキができ、クッキーなどの焼き菓子なども開発した。このブレンド小麦粉は焼き菓子などとは相性が良いことも分かった。
この粉で焼いたパン粉を使い、さくっとした食感のある美味しいコロッケも完成した。
従来から人気のあった野菜饅頭・石垣餅・やせうまに加えてピロシキも商品開発が進み、これで、何とか菓子類や惣菜などの加工品の商品ラインが完成しつつある。
お客様であったN姉妹の商品開発に向けた試作品作りの助成がようやく日の目を見ることになった。
今も、絶え間ない菓子類や惣菜の商品開発や改良が続いている。

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石垣餅。古代もち麦を全粒粉にしてブレンドしており、もちもちとした食感となり、

随分と腹持ちが良い。腸がきれいになりそうだ。しかも噛み応えがあり、美味しい。

 

5年間の草木堆肥による土作りから始めて、除草剤・農薬・化学肥料を排して、苦労して生産された穀類を素材にした。現代病に対応できる健全な菓子類・惣菜作りを行った。麦の味香りがし、素材感に溢れ、美味しく健全な食品とはなった。
但、体に良いものは、食べ難い菓子類や惣菜にはなり易く、その商品開発がどれだけの消費者に、その価値を評価してもらえるのか、それが難しい。230余名の既存の定期購入のお客様からは確実に高い評価を頂けてはいる。
すでに、麦ご飯セット・麦茶・ブレンド小麦粉・黄な粉は定期的に配送に入れ込んでいる。

特筆すべきは自然農米・自然栽培大豆・海の塩で醸造した味噌が一番人気であり、次に麦ご飯セットと続いている。
この方々は、自然栽培の農産物を元々求めていた訳であり、何の問題も無い。
課題は農園直販に訪れてくる消費者である。その消費者の方に如何に伝えられるかが、今、大きな課題となっている。

 

 

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.16(水曜日)晴れ、最高温度25度、最低温度15度

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              12月の出荷野菜達

最近の数年は特に野菜の最盛期は12月頃になってしまっている。この時季、農園の野菜は年間を通して一番種類が多いし、かつ、美味しい。

 

むかし野菜の四季―「旬菜の国」

 

この処、日曜日にも農園マルシェを開催している。9月29日より始めて明日で3回目となる。
農産物の質や健全性を命題としている農園であるため、口コミでしかお客様を呼べない。果たして一度お見えになられた方がリピートしてくれるのか、何人お見えになられるかは全くと言って読めない。
とは言っても、安さや特売ではなく、自然栽培のちょっとプレミアム商品となるため、市場啓発啓蒙をし続けていくしか無い。
特別な農産物とは行っても、野菜は日常商品であるためか、そんなにお客様を呼べない。どうしても加工品・惣菜・菓子類などの非日常的商品が必要となるため、その加工品作りに時間を取られ、女性陣は農作業には使えなくなってしまっている。

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10月中旬と言えば、夏野菜が終わりかけ、秋野菜へ移行していく端境期に当たる

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日曜日にコロッケ・パウンドケーキ・パン・ドーナツ・やせうま・野菜饅頭などの加工品を販売しているため、女性陣は最近それにつきっきりとなってしまっている。


この季節、育苗ハウス内では、カンラン系・レタス系などの秋野菜の苗作りが忙しい時季である。今まで、女性スタッフがが担当していたが、菓子類・惣菜などの加工品作りに追われており、やむを得ず今は、農園主が種を蒔いている。
彼女は育苗担当であったため、野菜の種を管理している。
丁度、ブロッコリーの種が切れていたため、種物屋さんに種を発注してくれるように頼んでいた。
帰ってきた種物屋さんの答えが「ブロッコリーの種蒔き時季は過ぎており、無理では無いですか」であった。彼女に文句を言っても仕方が無いが、「一体何年やっていると思っているのか?そんなことは分かっている」と言ってしまった。

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12月初旬頃、虫に喰われながらも、頑張ってようやく巻き始めた白菜。農園主はほっとしている。

「白菜は何故無いのですか?」との消費者の声が怖い。

その時、ふと、思った。日本は四季の国である。正確にはそうであった。
秋野菜は、むかしは、8月盆明けに種を蒔け!であった。処が、現在は蒔いても蒔いても育苗ハウス内で溶けてしまったり、露地では虫に食われてしまったり、暑さでやられたり、湿気に負けてしまったりの繰り返し。それでも、種を蒔かなければ秋野菜は何時までも出来ない。ダメ元で、現在の処、少なくとも三週間間隔で三回は種を蒔き直している。
ようやく秋野菜が順調に育ち始めるのが、10月中旬頃になる。
それでは、秋らしい秋が無く、夏が終わったと思ったらすぐに冬になったりする気候のため、露地野菜が育ちにくくなり、秋になっても白菜が、ブロッコリーが畑に育っていない年も出てくる。
そこで、当農園の場合は、10年も前頃から、種物屋さんが言う処の旬菜のセオリー(蒔き時)を無視するようになっており、それが農園の倣い症になってしまっている。

近時は、異常気象が当たり前のようになっており、その気候の変化に応じて、気候の先読みをする。
しかもセオリーと農業者の経験と勘の世界が農園主の頭の中でガラガラポンをし、年によっていずれを採るかを決めているような気がする。半ば博打で、半ば動物的な勘の世界であるのかもしれない。
今の処、概ねそれは大きく外れずに、成功する年の方が多くなっている。
これでは若いスタッフ達に種の蒔く時期や育て方を覚えろ!と言うのもやや無理があるのかもしれない。
年々自然循環農業の、露地栽培の難しさが増しているように思えてならない。

来週の出荷予定野菜に、蕪類を考えている。と言うのも、葉っぱはほとんど虫に喰われてこれ以上待っていても成長はしないと見極めた。ならば、葉っぱを落としてでも蕪の出荷を実行し、次の種蒔きに備えた方が良い。見たところ、全体の1/5程度しか出荷には堪えられないようだ。残りは漉き込んで畑の肥料となる。

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紫大根。葉っぱはすでに虫に喰われ、軸のみになっている。ついには、実にまで虫が食い込んでいる。すでに実の上部は虫にやられている。その部分から腐れが始まる。10月中旬の無残な大根。

葉っぱが無くなり、成長不足のため、肥大仕切っていない。通常の1/3の価格で出荷する。

かって、自然農を行っている農業者に問うたことがある。もし、害虫が大量発生したらどうしますか?と
聞くと、その畑は当分の間、捨てますと・・・その方は、農業では生活できずに、他にアルバイトに行って生計を維持しているとのこと。現在その方は農業を止められている。
このように一旦害虫に覆われた圃場は、害虫の寄り付き難い野菜、例えば、ほうれん草や人参に変えて葉物野菜系は、他の圃場に移す事を行う。自然栽培の場合は、リスクヘッジのため、一反(300坪)単位であちこちに畑を点在させた方が良い。そのため、植付け計画はさらに難しいことになる。
但し、ほうれん草・人参類と言えどもそれを好む害虫は必ずといって居ることには変わりは無い。
去年であったか、その年も害虫が異常発生していたが、ほうれん草の葉っぱを食い尽くした軸の先っぽで夜登虫が死んでいた。ほうれん草にはシュウ酸と言う毒素が含まれている。
そのため、夜登虫はほうれん草や人参には来ない筈であるが・・・害虫被害はそこまで来ているのである。

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晩秋の野菜畑。寒が訪れ、ゆっくりとゆっくりと成長している「静」の世界。私はこの時季の農園が好き。

 

このように四季の国である「日本は旬菜の国」からかなり遠ざかりつつあることを認めなければ、自然栽培を続けていけない。このことを知識の無い消費者へどうのように伝えていって良いのか、頭が痛いことである。
消費者への直接販売を行う当農園としては、年間百種類以上の野菜を作り続けていかねばならない。
その難しさは、農業を多少なりとも囓っている人にとっては、有り得ないことだとすぐに分かる。
一つ一つ異なる性格を持つ野菜の育て方となると、少々の経験では習得できないことになる。
しかも成長の極めて遅く、リスクの高い低窒素自然栽培ではさらに難しくなってくる。
そうなると、当農園は自分では自覚は無いが、ノウハウの塊ということになるのか・・
先人達は、極く普通に多種類の野菜を育てる知恵を持っていたのだが、但、今の気候はすでに普通では無くなってしまっている。
日本の四季が消えていく。「旬菜の国」は何処に行くのか・・・・

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.9(水曜日)晴れ、最高温度26度、最低温度19度

 

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          きれいに整備された二番の圃場

この圃場だけは、奇跡的に害虫被害が少ない。理由は分からない。

このため、農園では、10カ所以上に畑を分散させている。リスクヘッジのため。

 

むかし野菜の四季―土中から湧き出る虫達

 

季節は10月に入った。農園では、秋野菜の主力となる葉物野菜・大根蕪類・白菜・キャベツ類などの種蒔きや定植を行う。秋野菜は本来、8月下旬頃から9月に掛けて種蒔きを行うが、何しろこの気候である
酷暑が終わる間もなく、秋雨前線や台風の接近によって日照不足は続くし、常に雨が降っている状態が虫たちには、繁殖し易い環境が整っている。
このため、発芽した途端に新芽が喰われ、何とか虫の難を逃れた畝でも少し野菜が成長し始めた途端気がついたら葉っぱはすだれ状に喰い荒らされ、惨めな状態を晒し始め、やがて命尽きて落ちていく。
野菜農家にとって悩みの季節ではある。

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茶色に変色したサラダ蕪と、すだれ状になりかろうじて蕪の原型を留めている中蕪

奥のサラダ蕪はこの後、撤去した。中蕪はもう少し様子を見ることにした。


この時季、一度目の種蒔きは8月下旬~9月中旬頃に行う。今までの経験では、第一陣がまともに育ったという実感は無い。収穫できたとしても、葉野菜は穴だらけで、葉を無くした蕪などはやせ細り傷だらけとなり、とても商品には成らない。丁度今頃の出荷となっている筈である。
第二陣は9月下旬頃の種蒔きとはなるが、これすら、すでに葉っぱの1/3は無くなっている。
そして、10月、秋も終わろうとしているこの時季、祈るような気持ちで種を蒔いている。

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この日、ジャガイモ・九条葱の土寄せ作業と併せて、大根・蕪類などの第三陣の種を蒔いた。種を蒔いた跡にパオパオ(織布)をベタ掛けしている。湿度保持のため。

農園主は二番の圃場に第一陣のキャベツを定植した。

 

これを避けるためには、浸透性農薬で土中消毒を行った後、防虫ネットを張るハウス栽培か、土中消毒の後、一週間毎に絶え間なく緩効性農薬(薬の持続効力が強いため残留性が高い)を出荷直前まで遣り続けるかの選択を迫られる。
有機栽培であろうと、慣行農業であろうと、避けられない気候変動の、あるいは、自然の摂理の現実がそこにある。虫たちも生き残るためには必死なのです。


※浸透性農薬; ネオニコチノイド系農薬が多いが、要するに根から吸収させ、その野

        菜の葉っぱを囓ったら害虫が死ぬと言う農薬の事。

 

これに対して、有機JAS法制定以前のむかしの有機農家では、幼苗時、あるいは、第一次成長時期に、2~3回ほど、瞬殺効果のある劇薬を散布する。後は、野菜の成長により、多少の害虫が取り付こうとも野菜の旺盛な生命力に任せ、収穫まで農薬散布はしない。
この農法を当農園は取っている。そのため、時には害虫が食べ尽くすか、人が食べるかの競争になることもしばしばである。


※劇薬; 劇薬指定されている農薬は、農業者にとっては甚だ危険であるが、消費者にとっては実にやさしい農薬である。劇薬は分解(無能力化)速度が早く、条件によっては半日か一日で分解されるように設計されている。何故なら、人に触れたり吸い込むと危険であるからである。
分解には、光合成分解・水溶性分解・微生物分解及び自然分解がある。

有機JAS規程では、むかしの有機農家のそんな知恵も知識も活かされないまま「化学合成した農薬は使わない」とだけ規程がある。それ故に有機の圃場では建前と現実が遊離してしまい、甚だ信用力に欠ける。このこともあり、世界のオーガニック野菜の認定は、日本の有機JAS野菜には適用されない。
有機発祥の地である日本人としては誠に悲しいことである。

これらの基本的な知識も無く、現実を知らされていない消費者の理不尽な声は、懸命に安全な野菜作りを目指している本来の自然循環型農業を行っている農業者にとっては、辛い現実もある。
「農薬を使っているのですか?」「無農薬では無いのですか」と叫ぶ消費者の声はとても冷たく聞こえてくる。
有機JAS規程が消費者に有機とは無農薬のことであると言う概念を植付け、消費者から無農薬ですよね!と念を押され、「そうです!」と頷かざるを得なくなった有機農家の無念を知っている。
それもあってか、近時、国も「有機無農薬」と言う表示を禁じている。おそらく、押し寄せてくる気候変動の中で、現実的では無いとようやく悟ったのかもしれない。それでも最早遅い判断であったと言わざるを得ない。
その厳しい理想と現実の挟間の中で、有機農業者は減り続けており、同時に有機農業を目指す若者も減少の一途を辿っている。
とても一人でこの厳しい農業環境に立ち向かっていける人は少ない。

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今年の夏、酷暑だけではなく、日照不足と湿気、押し寄せてくる害虫の群れに、夏野菜はほとんど壊滅状態となった。

これは大量発生したカメ虫による被害の本の一部です。


当農園では、その最初から、数人の共同作業でスタートしているため、一人農業を志向する人は出てこない。農業は互いに支え合って生きていかねばならないことをうちのスタッフ達は体験で知っている。
唯、彼らには一度たりとも甘い言葉を掛けたことは無い。
自然循環農業とは、元々、社会の中では、圧倒的なメジャーになることはなく、大成功となる事も無い。
自然の中で生かされており、雑草であり、生き物である。唯、誰にも忖度して生きることも無く、社会の理不尽さに抗って生きていくことはできる。それ故、心はいつも自由でありたいと思う。

 

そんな若者達に闘い続けていくことを教えているつもりではある。

 

それでも、今年から始めた農園直売の中で、見ず知らずの多くの消費者と触れあい、自分たちの試みや生き方を話すと良い。その方々との触れあいの中から、生きていくことの意味や楽しさを学び取って欲しいと願っている。
個々に訪れてくる消費者の多くは自分たちの仲間であることを実感して欲しいとも思う。その方々の大切さを心に刻んで欲しい。

 

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試食コーナーで歓談しているお客様達。野菜を買い求めているお客様へ孫の一人が

お世話を焼いている風景。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.2(水曜日)曇り、最高温度30度、最低温度24度

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        2019.9.20.現在の雑草に覆われた大豆畑

7月に草刈り機と管理機で除草作業を行うも、二ヶ月後はこんな感じに草に覆われてしまっている。大豆も大きく育っており、草刈り機や管理機は最早入れられない。

このまま大豆が育つか、草に負けてしまうか待つしか無い。

 

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2019.7.3.全員でようやく発芽した大豆畑の除草作業をし、この後、管理機を使って土寄せを行う。

 

「むかし野菜の四季」ー実りの秋―除草剤


春から夏にかけて草が生い茂り始め、「夏草はしつこい」と言われている。
それでも最近の日本では、梅雨が明けると、途端に酷暑がやってくる。梅雨時期に夏草を刈り取る間もなくしつこく夏草が茂り始める。暑い盛りに何度も草刈り機や手作業で除草をし続けねばならない。
それでも酷暑の中は、流石の雑草もやや抑えられるが、初秋頃から勢いを盛り返し、旺盛な勢いで繁り始める。例えば、露地の人参など、種まきから収穫までに最低4回は除草に手を割かれる。
農業にとって過重な労力のかかる除草作業は大きな課題となっている。
それでも自然栽培を標榜している当農園では、草を抑える黒マルチは使用していない。産業廃棄物の山となることも嫌だが、外気や太陽・風雨との交流を妨げ、野菜の自然生長を阻害しているためである。

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じゃがいもの土寄せ作業

一畝に二列ジャガイモの種を蒔き、発芽し、この程度まで成長すると、土寄せを行う。

この時、同時に除草作業を兼ねる。大きな草は手で抜き、小さな草は鍬で掻き込んで根元に寄せ、さらに深く鍬を入れ、葉っぱ毎、土を被せる。

葉物や根菜などは、成長するまで最低3回は除草作業が必要となる。除去した草は集め草木堆肥の原料とする。

 

野菜畑の場合はまだ良い。これが穀物畑となると、広すぎるために、手作業での除草が事実上できない。
そのため、穀類栽培では、水田も含めて除草剤散布が当たり前になっている。このことを消費者は知らない。除草剤には人体に有害な成分が多く含まれ、生命のDNA(遺伝子)を変質させる危険がある。
最近急増してきた穀物アレルギー・アトピーは、これが大きな要因ではないかと農園主は考えている。何しろ穀類は御飯・パン・麺類・菓子類など、人が生きていくためには不可欠な主食となっている。

特に問題となるのは、ゲノム編集によって生産される小麦・大豆・とうもろこしなどである。遺伝子組み換えの穀類は、より強力な除草剤を使用しても死なない穀類の種子のことである。危険な農薬(除草剤)を吸い込んだ小麦や大豆を人間や家畜が食べているのですから・・・


 2019.9月、国はゲノム編集の野菜や穀類を解禁した。聞こえは良いが、遺伝子組み換え穀類を日本で販売することを許すことに繋がる。メディアもこのことを正確には伝えようとしていない。
アメリカの大統領に日本の農業を攻めても良いとしたことであり、国を挙げて、メディアも黙認し、国民の健康をまもろうとする気概は無い。一党独裁状態にした国民の責任であり、そのことが何より悲しい。

さらには、穀類栽培には、農薬の散布を二回以上は行う。それよりも課題となるのは、窒素肥料を多く投入しなければ、粒は小さく、タンパク質(小麦の場合はグルテン)が増えない。そのため、農業普及センターでは、化成肥料などの追肥を呼びかけているほどである。
様々な化学物質がかなりの量、圃場に蓄積していき、農産物の体内には硝酸態窒素(毒素)が残される。
これを数十年繰り返していった結果が現代病の多発では無いだろうか・・・
むかし野菜の邑グループでは、この大きな課題に数年前から取り組んできた。

数年前、新たに水田を借り、穀類畑に変えていった。
水田は湿田と乾田に分かれる。水分が常に多い湿田では、深水管理と言って、常に水を張り、水田に水を環流させておき、山からの栄養素を常に取り入れ続け、深く水を張っているため、雑草が生え難い。
さらに米糠を投入すると、稲より背の低い雑草は呼吸ができなくなり、除草にも繋がる。これが自然栽培(無肥料・無農薬)のお米である。
乾田は、稲作には不向きではあるが、麦や大豆栽培には適しており、当農園はこれを借り受け、穀類畑へと転換しようとした。勿論草木堆肥のみ施肥し、土のチカラを付けようと試みた。
処が、除草剤も使わないため、いつも草に負けて穀類が生長しないばかりか、全滅してしまうこともしばしばであった。それでも何とか収穫までに漕ぎ着けた小麦は、背が低過ぎて、コンバインに掛からない。
農業試験場の所長が言っていたことが頭をよぎる。
「佐藤さん、除草剤も使わない、化成肥料も使わないでは、絶対に麦は出来ません。できたとしてもグルテンはほとんど無く、商品にはなりませんし、買う人も居ません」

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穀類畑は、大豆・麦(小麦・裸麦・古代麦)・とうもろこしなどの二毛作を行う。

この穂は古代麦であり、髭が小さく、熟すと紫色(通常の麦は黄金色)に変る。

5年前はわずか1リットルの種をもらい受け、5年掛かりで増やしていった。

一粒であり、実は小さく、収量は通常の麦の1/4程度となる。

 

それでも若いスタッフ達と頑張り続け、5年が経過した。ようやく土が育ち、ある程度の量まで採れるようになった。先ずは、裸麦と古代小麦(日本の原生種)のセットをした「麦ご飯セット」と「弥富ブレンド粉」を試作した。
アレルギーなどの現代病に対応できる麦の生産しか頭に無かったのだが、粉にして食べてみたら、麦に味があり、香りがあり、甘みまであるではないか。その美味しさに驚かされた。中でも日本原生種である古代麦は、味香りが強く、粘りがあり、圧倒的な存在感がある。
唯、少量しか採れない、調理しにくい、個性が強すぎる、粉が纏まりにくいなどの難点があり、九州産の筑後イズミ(中力小麦)とのブレンド比率に苦労したが、何とか、その美味しさを保ちつつ、ようやく「弥富ブレンド粉」が完成した。
裸麦と古代もち麦をセットした麦ご飯セットは、すんなりと商品として完成した。唯のお米が別物の麦ご飯に変身していた。

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昔懐かしい小型の小判型にした。弥富パンを作り、手作りのパン粉を使用した。

これで丸ごと全ての材料がむかし野菜の邑の野菜(農産物)である。肉は違いますが。

そのため、アレルギー体質の方にも対応できる。

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パウンドケーキ(かぼす風味)

かすかなカボスの香りが心地よく、何より、麦の香りがしてくる何処にも無いケーキが

誕生した。危険な化学物質が入っているとされているベーキングパウダーも排した。

 

ここから、やせうま・クレープ(流し焼き)・団子汁・石垣餅・野菜饅頭などの中間食、弥富パン粉を使ったコロッケ・ピロシキなどの惣菜、グルテンが少ないためパンとは呼べないかもしれないが、弥富パン・パウンドケーキ・ドーナツ・クッキーなどの菓子類が誕生していった。
全て現代病への対応を考えて、製作したものであり、ベーキングパウダーなども排して、麦から起こした天然酵母を使用している。
9.29より、これら穀類を原料とした加工品も含めて、毎週日曜日、農園マルシェを開催し始めた。
大分市場の消費者が支持してくれるかどうか、これから、さらに新たな闘いが始まる。