むかし野菜の四季ーPART2

2021.10.15(金)晴れ、最高温度28度、最低温度17度

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          端境期の畑は夏野菜と秋野菜が同居

 

左端から茄子・ズッキーニ・ほうれん草・人参・白菜・里芋と夏秋混成に

植わっている。この状態が11月中旬頃まで続きます。

畑は晩秋にもなると秋冬野菜一色になり、時が止まったかのように「静」の

農園風景となり、私はその時季の畑の風景が一番好きですね。

 

農園は今、夏野菜の撤去と秋野菜の種まき・定植作業が一段落し、やや落ち

着きを取り戻してはいるものの、お客様が漸増しており、出荷する野菜が

少なくなってきており、農園主としてはやや心細い気持ちになっている。

端境期になると毎年同じことを繰り返し、秋野菜の成長の遅さにやきもきと

することになる。

そんな際、捨て植え(できるかどうか分からない野菜のこと)の野菜がいつも

助けてくれる。まさに綱渡りの毎日です。

 

 

むかし野菜の四季

 

「日本の農業の現状」

野菜は本来、味香りや五味や食感などにそれぞれの個性があり美味しさがあります。

時には微量な毒素も含んでいます。これは虫などの外敵から身を守るためのもので

化学肥料や畜糞・ぼかし肥料などの高窒素肥料で育った野菜は、短期間で急成長

するため野菜の個性である味香りを無くしていき、葉肉は薄くなり、倒れないよう

に筋張っていきます。

そのため、害虫の好む食糧となります。そこで肥料の開発が進めば進むほど、害虫

対策として農薬が不可欠となって行きます。近代農業では化学肥料と農薬がセッ

で開発が進められました。(有機肥料も同じです)

有機肥料も畜糞が主体であり、ハウスなどは米糠・油粕・骨粉などのぼかし肥料も

使われておりますが、いずれにしても窒素分は多く、高窒素栽培となっています。

そのため、化学肥料とほとんど同じことになり、農薬使用は不可欠です。

 

勿論、自然栽培でも害虫の発生は抑えられません。にんにく・とうがらし・ドク

ダミなどを使った忌避剤でも他の畝に逃げて行き今度はその畝が被害を受けます。

結果として害虫対策にはなりません。

そのため、有機であれ自然栽培であれ虫の発生しにくい寒冷地でなければ農薬を

多少は使わなければ、野菜を育てることはできません。(農薬の話は後ほど詳述致

します)

よく自然農であれば害虫は寄りつかなくなると主張しているサイトがありますが、

自然界にそんな農場があったら怖いですね。念のために・・・

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野菜には炭水化物とデンプンが蓄積され続け、糖質やビタミンへ変換されないまま

出荷されます。肥料過多で育った野菜は苦い味がします。それはデンプンが苦いか

らです。

野菜は基本的には窒素で生長します。地中に窒素分があれば野菜の中に成長酵素

ミトコンドリア)が発生し野菜の成長を促します。そのため、慣行栽培(化学

肥料と農薬)、若しくは畜糞栽培の場合、土中の窒素分が消えない限りは、野菜は

成長し続けることになります。野菜は困ったことに土中に窒素分があればあるほど

吸収してしまう性質を持っているのです。

すると、野菜の中に吸収された窒素分は野菜の体内で生きるエネルギー源として

硝酸態窒素へ転換されます。ここで問題となるのが高窒素土壌で育った野菜は消化

されない硝酸態窒素が野菜の体内に蓄積され続けます。硝酸態窒素は毒素なのです。

化学肥料施肥の歴史が長い欧州において、戦後すぐに「血液が青いブルーベービー」

が生まれたのです。

当時これは大騒ぎになり、硝酸態窒素による農地の汚染を防ぐために有識者達が

低窒素栽培の農法を探し回り、見つけたのが、日本の昔ながらの有機栽培でした。

こうした経緯があり、今から100年ほど前の日本の農業を学んで欧州にて

「オーガニック野菜」が生まれたのです。

 

※硝酸態窒素;野菜に取り込まれた窒素分は硝酸態窒素(毒素)に変化し、イオン

化して野菜に吸収され成長を促す。化学肥料であれ畜糞であれ米糠・油粕であって

も高窒素肥料となる。野菜は土中に窒素分があればあるだけ取り込んでしまう性質

を持っている。有り余った窒素分は野菜や土中に硝酸態窒素で残る。従って、高窒

素栽培の野菜にはこの毒素である硝酸態窒素が多く含まれていることになる。あ

る意味では残存農薬より問題が多いかもしれません

 

皮肉なことに当時、日本では食糧増産を目指し、遅れた日本の農業を近代化させる

ためにアメリカ型の大規模機械化農業を推奨しており、狭い農地をフル回転させて

他品種栽培が主流であった高集約型農業から単一栽培である近代農業(粗放型農業

)へまっしぐらとなっていました。

狭い国土と小規模の農地しか無い日本の農業は元来大規模農業には不適であり、

アメリカとの農産物価格差が数倍ある中では、むしろ高品質農産物で対抗すべき

でした。

日本の農業政策は農協頼みとなり、衰退していく日本の農業に何ら具体的な改善策

を打ち出せておりません。その農協の全国組織では、組織が膨らみその組織を維持

するために金融業に精を出し、本来、農業者を助けて農業振興を行うべき農協の姿

とは遠く離れております。

農政=農協という構図は、国の規制だらけとなっており、自由な農業を阻害し、

農業者の自立を押さえ込んでおり、農協に属さないと、国の支援は実質ゼロとな

ります。メディアも農政・農協に忖度しており、こうした農業の実態は報道され

ません。

 

他方、欧州のオーガニック規程を真似て国民保護という名目で「有機JAS法」を

制定し、奨励政策では無く「規制」に乗り出しました。様々な方法で古来からの

有機野菜を復活させようとしてきた日本の有機農家は有機野菜を名乗ることも出来

ず、ほぼ壊滅しました。

窮屈で日本の気候にそぐわないこの有機JAS野菜は、余りにも実効性が乏しく、

信頼性や信憑性が薄いと言う事で欧州のオーガニック野菜の認証を得られていま

せん。

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さらに課題となるのが膨大な手間の掛かる除草作業です。日本の高温多湿な風土

では雑草除去作業に時間を費やされるため、恒常的に除草剤を使っている農家が

ほとんどです。

当農園は草を抑えるための黒マルチ(地表面を黒いビニールで覆い、穴を開けて

そこに野菜を植える)は使いません。黒マルチは科学的には呼吸しているのです

が、自然とのやりとりはし難い。ハウス栽培に近いものがあり、温室栽培に似て

おります。

そのため、例えば、当農園では人参の草取りは最低三回は行います。

高窒素栽培による硝酸態窒素・農薬・除草剤などにより、日本の農業もアメリ

並みに持続不能な粗放農業へと変わってしまいました。

 

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  むかし野菜で採れた自然栽培の穀類の使った惣菜・お菓子の販売風景

             (農園マルシェにて)

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.10.8(金)晴れ、最高温度31度、最低温度17度

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                  白長茄子

 

相変わらず太陽の日差しは強く、連日季節外れの猛暑が続いており雨も降らない。

そんな中、茄子類は流石に秋の訪れを感じているのか、成長が遅く秋茄子の風情が

漂っており、終わりが近づいている。

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         秋のズッキーニと胡瓜、右隣は黒大豆

 

この季節は秋野菜への繋ぎの時季に当たり、本格的な秋野菜となるまで、夏野菜を

植えます。生育期間は短く中秋の季節までです。黒大豆は枝豆にします。

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

「農法の分類」

当農園のお試しセットを申し込まれるお客様から有機野菜と表示した野菜を取って

はみたものの、見た目がきれいで形が揃っており、果たして安全なのか、

どのような農法なのか、その見極めがわからない、と言う質問が多い。

そんなお客様に当農園の野菜を送ると「そうです。こんな野菜を探していたのです」

と、まだ箱を開けたばかりなのにメールが入る。

確かに農業現場から見ても有機JAS法が制定される以前の有機野菜生産農家のほう

が分かり易く生産者はそれぞれのプライドを持っており安全性や健全性はむしろ

高かったように思える。

そこで、消費者も含めてこれから新たに農業を行おうと思っておられる方にとっ

ては、現在行われている農法の大まかな分類も必要でしょう。

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              農園マルシェの風景

 

慣行農業・・化学肥料・農薬・除草剤などを使った近代農業、ほとんどが農協など

を通してスーパーなどで売られている。マーケットの98%以上がこの野菜です。

低農薬などと表現している慣行農業もありますが、どのような農薬をどの程度使用

しているのか、実に曖昧です。通常マーケットに出ている野菜は虫食い一つあって

もいけませんので最低でも一週間に一回程度の農薬(種類によっては危険度が高い)

は使用しておりますが、これも低農薬の部類に入っているようです。

 

非公認の有機野菜・・有機JAS認定を取得せず、独自の有機肥料を使って生協・有機

専門卸を通して販売を行っている。ただ、自称有機野菜を言っている生産者・流通

会社もあり、実態はわかりにくい。

「大地の会」などは会独自の規格を作り消費者へ販売しているケースもあります。

有機JAS認定取得の煩雑さと手間を嫌って独自の有機肥料を使っているようです。

その有機肥料も畜糞・油粕・米糠などが多く、どうしても窒素過多になっています。

藁や草などを使っている堆肥に近いものもありますが、成長が遅いため、窒素分の

多い有機肥料を使いがちです。マーケットの1.5%程度でしょう。

 

有機JAS認定・・有機JAS認定のマークが付いており、有機専門の卸屋を通して販売

している農家が多い。国からの支援も販売機会点も乏しく、煩雑な手続きと現実対

応し難い規約に嫌気がさしているのか、年々減少しているようです。その結果マー

ケットの0.2%程度しかない。

 

自然農農産物・・無肥料・無農薬栽培としており、ほとんどが家庭菜園レベルであ

り、生産量は限られており、不安定でもあり、小さなグループを形成している場合

が多い。その実態はわかりにくい。

ごく一部に焼き畑農業も存在しているが、こちらのほうが自然農と言っても分かり

易い。

 

自然栽培・・窒素分の少ない草木堆肥によって土を育て、土の地力によって農産物

を育てる。

土作りに最低3年を要し、この農法で農産物を生産できるまでには多くの年月が

掛かります。そのため、この無肥料栽培(低窒素栽培)を筆者は当農園の他2軒

しか見ていない。

実際には土作りに10年以上を掛けてフカフカ・サラサラの土に育ててからが美味

しく栄養価の高い野菜ができます。この栽培方法がこの本のテーマです。

この栽培方法をとっている農業者は数えるほどしか居ないでしょう。

自然栽培農産物と言うワードは公認の言葉ではありませんが、自然循環農業のほう

が通りが良いようです。有機野菜とは一線を画しており、「むかし野菜」と言うべ

きかもしれません。

尚、肥料を使わず、草木堆肥しか施肥しない農園は当農園しかないと思います。

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            アフリカ原産の四角豆の花

透き通ったようなブルーの花を咲かせ、農業者の目を楽しませてくれる。

素揚げにして食べてみると、これが美味しい。

むかし野菜では一年を通して端境期を作らず、季節の変わり目にも何かの野菜を

繋いでいく。この四角豆もその一つです。待っている定期購入者(仲間達)の

ためにも「野菜が無いのです」とは決して言えない。

 

農法より農薬の使用のほうがクローズアップされているが、実は、使われている

肥料の方が重要なのです。最も私が言うところの危険な農薬や除草剤を恒常的に

使用している農業は大きな問題なのですが、化学物質が多く含まれた肥料・畜糞

や肥料過多で育った農産物も危険性は同じなのです。

未来へと繋がっていかねばならない「持続可能な農業」には、健全な土壌が大切

です。

そういった視点でこれらの農法を見比べてみると、今までとは異なった問題点や

価値観が見えてきます。

マーケットに存在している農産物の98%は慣行(近代)農法から産出されたも

のです。ただ、他の2%の農産物はマーケットでは見えにくく、自ら探さねば出

会えないものです。

全国の有機農園と称している生産者及びグループのホームページをご覧になって

ください。

そこに記述あるいは、紹介されている肥料及び堆肥がどのようなものなのか、どの

ような作り方をされているのか、詳細な説明が無いようです。土作りを説明して

いるホームページがあれば、分かり易いですね。

無農薬などとうたっているほかは、詳しく紹介されておらず、観念的で曖昧な表現

しか見当たらず、言葉だけが踊っているように見えるものもが多いのも残念です。

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.10.1(金)晴れ、最高温度30度、最低温度18度

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                サラダセットの畝

 

夏野菜が終わりに近づき、ようやく葉野菜の代表であるサラダセット(数種類の

野菜のセット)や小松菜・青梗菜が虫に食われながらも何とか育ってきた。

 

本の出版などがあり、しばらく、お休みしておりましたが、今月から農園日誌

を掲載して参ります。

「失われた先人達の叡智」が自然栽培の入門編でしたが、今回掲載していく

ブログは実践編の出版を念頭に置いた内容となりますので、やや難しくなって

くるかもしれません。よろしくお付き合いください。

 

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           土寄せする前の九条ネギの畝

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           土寄せが完了した九条ネギの畝

 

土寄せは除草作業と根元に酸素を供給してやる作業を兼ねています。

畝下の土をネギの根元に掛けてやり、同時に草を埋め込んでいきます。

そして、この土寄せは深く掘りあげることによってネギの根に酸素を供給して

やることになります。白根の部位が地中に埋まりますと、光合成をするために

さらに上に伸びようとします。

この作業を2~3回繰り返し、太く立派なネギに育ちます。

尚、九条ネギは分厥品種であり、一本のネギが数本に増えていきます。

香りの九条ネギ、味の一本ネギと言われております。

 

1.プロローグ 「日本の農業の歴史」

 

むかしは肥料と言えるものは、草・葉っぱ・柴・人糞くらいしかありませんでした。

それらを混ぜ合わせてほぼ1年間熟れさせた草木堆肥を田畝に施肥しておりました。

それに加えて肥え坪が必ず畑の角にあり、人糞を入れては草や藁などを加え、熟ら

せてから施肥しておりました。子供の頃はよくその肥え坪にはまっていました。

小学校3年生の頃から肥たごを担いで畑に出ておりました。

イカと瓜が好きでそれが食べたい一心でした。私が子供の頃は、スーパーなども

無く、野菜やスイカなどは自分で作るしか無かったのです。

草木堆肥は土作りのための元肥と呼び、肥え坪は野菜を太らせる肥料でしょうか。

 

19世紀、欧州において硫安と言う化学肥料が誕生し、近代の農業は化学肥料に

より野菜を量産する農業へと次第に変わっていきました。農産物の生育期間は

およそ半分に短縮し、生産量は飛躍的に伸びました。

ただ、日本に化学肥料が普及し始めたのは戦後ということになり、戦前の日本は

肥料栽培と言う点においては農業後進国だったわけです。

私がまだ幼少の頃までは、畑の角に草木堆肥場が残っておりましたが、束の間の

記憶にしか残っていませんでした。

日本では戦後、化学肥料肥え坪肥料の併用期間がしばらく続き、昭和30年の

後半になると、肥え坪も無くなり、日本古来からの草木堆肥作りも急速に姿を消

していきました。

化学肥料の普及とともに、農薬の種類も増えていき、化学肥料と農薬の併用を行

う近代農業のことを慣行農業と呼びます。

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             草木堆肥の切り返し作業
ど迫力でしょ。菌類や微生物が増殖中ですからその発酵熱で煙が出ているのです

この草木堆肥の中に無限大の菌類が棲んでいるのです。

コロナの真っ最中ですが、人間も菌類の一つであることをお忘れ無く・・・

 

 

日本が近代農業(慣行農業)に向けて突き進んでいる時期に、欧州では日本の戦

前の農法である有機農業を学び、オーガニック(有機)農業が近代農業のアンチ

テーゼとして行われるようになりました。誠に皮肉な話と言うしかありません。

これに合わせて日本でも有機農業の復活を唱えるグループが出始めました。

その農法は様々でした。牛糞などと藁を混ぜて厩肥を作ったり、海藻や骨粉・

魚腸を米糠に混ぜ込んだり、米糠・油粕を発酵(ぼかし肥料)させたり、様々な

有機農業が生まれていました。その多くは、土作りのための堆肥(元肥)と言う

より有機肥料と呼ばれるものでした。

この有機野菜の時代が約20年間続き、それこそ群雄割拠ともいうべき様々な工夫

がなされていました。

今から15年前頃、日本では有機JAS法なるものが国によって一方的に制定され

有機JASの認定を受けないと有機野菜と言う名称は付けてはならないと言うこと

になり、多くの有機農家は自尊心を傷つけられ、有機JAS認定を拒み、かつ、

高齢化も進み廃業していった有機農家が多かった。

 

有機JAS

有機物ならば何を使っても良い、化学合成された肥料及び農薬は使ってはな

らない」と言うことが基本ではあるが、様々な制約があり毎年煩雑な報告書を

提出し、商品を出荷する際は一枚50銭のシールを貼らねばならない。その規約

にはとても現実的とは言えないようなものもあり、いかにもお役所的なものも多

く、農業現場から見ると首をかしげるような部分も多い。

一番問題となるのは、一度取得してしまえば、事実上立ち入り検査も無く逆に緩

い法規ともなっていることです。

多くの消費者も何が有機栽培なのか分からなくなってしまいます。

その煩雑さと曖昧さから、年々有機JAS認定の農家が減っている。この法規には

規制のみで、有機農家へは国からの保護や支援はほぼ無いに等しいのです。

 

政府の農業軽視の姿勢が顕著になり始めており、農業人口の減少に歯止めがか

からない。

このまま無為無策が続いていると近い将来、深刻な食糧危機がもたらされること

を憂慮しています。

地球温暖化と異常気象により、成長が早く見栄えの良いハウスなどの施設栽培が

主流となり、天候に左右される露地栽培農家は減少の一途にあります。

本来、自然とともにあるべき有機栽培もその主流はハウス栽培へと傾きつつあ

ります。

 

異常気象の連鎖の中で害虫の異常発生が繰り返され、除草剤や危険な種類の農

薬が日常的に使われており、農産物の安全性が脅かされている。

県の広報室からこんなニュースが流される。「農家の皆様、ただいまカメムシ

異常発生しております。一斉に農薬を散布してください」

これは農産物をカメムシ被害から守るためには県全体で一斉に農薬を散布しなけ

れば効果が無いからです。

そんな状況下で、近年は「有機無農薬」という概念が先走り、これは流石に国も

非現実的であるとしてこの用語を使うことを禁止せざるを得なくなったのでしょう。

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       9月末、むかし野菜の邑の農園マルシェの風景

 

 

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2021.4.28(水)曇り後雨、最高温度20度、最低温度12度

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                じゃがいもの花

 

じゃがいもの花が咲いたら、およそ3週間で収穫の適期となる。

春作では、じゃがいもの種類は多い。男爵・アンデス(赤)・メークイン

シャドークィーン(紫)・北あかり(黄)とそれぞれ用途は違う。

 

(戦後日本の農業推移ーその一)

 

 むかしは肥料と言えるものは、人糞くらいしかありませんでした。それも

そんなに大量に確保することはできません。肥え坪が必ず畑の角にあり、

人糞を入れては草や藁などを加え、熟らせてから施肥しておりました。

それだけでは足らず、草木堆肥を数年掛かりで作り土を育て、むかしの農業は

全て低窒素農業でした。

18世紀、欧州において硫安と言う化学肥料が誕生し、近代の農業は肥料によ

り野菜を育てる農業へと変わっていきました。農産物の生育期間はおよそ半分

に短縮し、生産量は飛躍的に伸びました。

日本に化学肥料が普及し始めたのは、戦後ということになります。

農業後進国だったわけです。

私がまだ幼少の頃までは、畑の角に草木堆肥場が残っておりましたが、束の間

の記憶に過ぎません。

日本では戦後、化学肥料と人糞の併用期間がしばらく続き、昭和30年の後半

になると、肥え坪も無くなり、日本古来からの草木堆肥作りも急速に姿を消し

ていきました。

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           ジャーマンカモミールの花が満開 

3番の畑にはこぼれ種で毎年カモミールの花が咲く。

この時季に合わせて、春、フレッシュハーブティセットをお客様にお届けしている。

 

野菜は本来、味香りや五味や食感などにそれぞれの個性があり、時には微効な

毒素を含んでいます。これは虫などの外敵から身を守るためのものです。

化学肥料や畜糞などの高窒素肥料で育った野菜はこの個性を無くしていきます。

そのため、害虫の絶好の食糧となります。そこで化学肥料の開発が進めば進む

ほど、農薬が不可欠となって行きます。近代農業では化学肥料と農薬がセット

で開発が進められました。

勿論、自然栽培でも害虫の発生は抑えられません。よく自然農であれば害虫は

寄りつかなくなると主張しているサイトがありますが、自然界にそんな農場が

あったら怖いですね。念のために・・・

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3月初旬、種を蒔いたビーツ。5月中旬頃、出荷予定。赤い茎が一際目立つ。

「野菜の血液」と言われ、血管を開き、コレステロールを除去してくれる。

女性にとって血液の循環を良くしてくれる優れものの野菜です。

 

 高窒素栽培で育った野菜は生育期間は短く急成長するため、倒れないように茎

には固い繊維があり、葉肉は薄く、食べると繊維が口に残り歯切れが悪く、

苦い味がします。野菜には炭水化物とデンプンが蓄積され続け、糖質やビタミ

ンへ変換されないまま出荷されます。デンプンは苦いのです。

野菜は基本的には窒素で生長します。地中に窒素分があれば野菜の中に成長

酵素ミトコンドリア)が発生し続けます。そのため、慣行栽培(化学肥料

と農薬)、若しくは畜糞栽培の場合、土中の窒素分が消えない限りは、野菜は

成長し続けることになります。

それらの野菜の中に吸収された窒素分は野菜の体内で硝酸態窒素(毒素)とし

て残ります。野菜は困ったことに土中に窒素分があればあるほど吸収してしま

う性質を持っているのです。

化学肥料施肥の歴史が長い欧州において、戦後すぐに「血液が青いブルーベー

ビー」が生まれたのです。地下水脈が繋がっている欧州では化学肥料によって

地中に硝酸態窒素が染み込み、飲み水が汚染され始めていたのです。

当時これは大騒ぎになり、有識者達が低窒素栽培の農法を探し、見つけたのが

日本の昔ながらの有機栽培でした。

こうした経緯があり、欧州にて「オーガニック野菜」が生まれました。

 

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農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2021.3.15(月)晴れ、最高温度16度、最低温度8度

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           春3月、すももの花が満開となる

 

李(すもも)は去年あまり実を付けず、植えてから4年目を迎える今年は、

少しは実を付けてくれるだろう。

ただ、すももが実を付けるのは6月中旬頃になるため、梅雨時期と重なり、

腐ってしまうことが多い。一昨年はかなりな収穫があり、定期購入のお客様

には随分と楽しんで頂いた。

 

 「失われた先人達の叡智」ー日本古来の有機農業の復活ーというタイトルの

本の執筆もようやく終わり、3月下旬には発刊する予定です。

10数年間、書き続けてきた農園日誌の集大成版でした。それをいざ!本に

するとなると、これが大変な作業でした。6ヶ月間も要しました。

この本の内容を消費者向けにするのか、農業を志す人向けにするのか、悩みま

したが、結局、入門編と致しました。

ただ、書き終わってみると、物足らず、これでは実際の農業現場ではどうして

良いか分からず、中途半端な気持ちだけが残りました。

例えば、草木堆肥をどの程度振れば良いのか、巻物(白菜やキャベツ)などの

窒素分を欲しがる野菜はどうするのか。木もの野菜(茄子・トマト・ピーマン)

などの追肥はどうするのかなどなど、一切伝えていない。

これから、自然栽培の実践などの農業本(専門編)の執筆を始めようと考え

始めてはいる。気力が回復すればの話ですが・・・

 

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               エンドウ豆の手

 

10本の畝にエンドウ系の豆を植えており、蔓が登り易いように枝付きの竹を

差し込んでいる。今年は例年より早く実を付けそうです。

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           花が咲き始めている空豆(二番の畑)

4月から7月初旬は、豆類のシーズンとなる。

4月中旬は絹莢エンドウ、スナップエンドウ、4月下旬は実えんどう、5月は

空豆、6月はインゲン豆へと続く。

 

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            除草作業を終えた人参の畝

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             除草作業中の小葱の畝

この小さな命は圧倒的に旺盛な草に負け、除草作業を怠ると、いつのまにか

消えて無くなってしまう。この草取り作業が農家の悩みの種です。

一人で行うと朝から夕方まで掛けてまるっと2日ほどを要する。

 

初春、農園には小さな命があちこちで人の手を待ちながら育っている。

この時季、農業人は種蒔きに、定植作業に、除草作業に追われ、休んでいる

暇は無い。

 

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季-2

2021.3.3(水)晴れ、最高温度11度、最低温度3度

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                キャベツの定植

 キャベツは春キャベツ(品種名)を植える。昨今の消費者は使い切りサイズの

野菜を好む。それなら、小さく、歯切れの良いサラダにも向く品種の方が良い。

お客様には交互にお届けできるようにと、白菜も同時に定植している。

隣に見えるのは、エンドウ豆系3種。豆が登りやすくするため竹の枝を残して

支柱としている。

キャベツ・白菜は去年の秋から春にかけて年間を通して7~8段階で定植する。

 

(露地栽培の危機)

蕪類の球が育っていない。葉っぱだけ大きく葉を広げている。

色蕪が大きく育っていると思って、引いてみると球は極端に小さいのにすでに

莟を持ち始めている。10月に種を蒔いた大根もすでに莟立ちを始めた。

九条葱は3月の初めだと言うのに白っぽく葉の色を変え始めている。

例年は3月下旬頃葱坊主が出始めるころに見られる変化です。

これに反して、寒で成長が見込めないため、緊急避難的に育苗ハウスに種を

蒔いたホウレンソウや葉物野菜は頗る順調に一か月半で大人になっている。

(露地だと二ヶ月半掛かる)

昨日、二宮県会議員が農園を訪れて有機野菜を育てていたある農家が廃業

したという話をして帰った。「ある予定の時季に出荷を見込んで育てた

野菜が早く育ってしまったり、間に合わなかったり、今までの経験が全く

役に立たない。出荷先との約束ももうできない。露地栽培は止めてハウス

栽培に切り替えるしか無い。それならもうしない」と言ったそうだ。

有機生産者は市場ではなく特定の流通業者へ出荷している。それはいつ頃

何をどれくらい出荷するといった約束事で成り立っている。

それが守れなくなったことは露地生産者にとっては大きい。

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           ハウス横の李(スモモ)に花が咲く


 ここ数年、異常な気候変化が続いており、特に去年から今年にかけては

その異常さは際立っている。気温は乱高下し、雨は降る月と降らない月が

極端に動き始めている。

ハウス栽培とは異なり、露地栽培は常に気候変化の影響を大きく受ける。

温度が1~2度違えば、野菜の成長は狂ってくる。それが一気に10度近く

変化している気候が続けば、野菜にとっては迷惑な話であり、伸びてよい

のか、縮こまったほうがよいのか、迷ってしまい、結果として異常な発育

をしてしまう。

 当農園は流通業者へは一切出荷をしていない。

全て直接、飲食店や個人消費者などの定期購入顧客へ届けている。

そこには規格・均一・出荷時期などの制約は無い。常に畑での出来あいの

野菜を届けることで成り立っており、消費者との信頼関係が全てと言うこと

になっている。

 それでもこの異常な気候変動による影響は大きく、年間百種類以上の野菜を

作り続け、全国のお客様に安定的に、かつ、15種類以上の野菜を届けるには

別の悩みがある。

野菜の安定的な生育が見込めず、アイテム数の不足と不出来の場合の量の確保

が難しくなるということです。

土作りを行い無肥料で育てる自然栽培では、野菜の成長は遅く、気候変動や

害虫被害などの影響を受けやすく生産リスクの塊となる。

そこで、当農園では絶えず変化する気候に合わせて数年前から捨て植えを

行っている。

例えば、出来るかどうか不安の残る野菜は種蒔き時期をずらし、二週間置き

に植え込むようにしている。そうするとどちらかが上手く行くという目算です。

ただ、両方とも上手く育ってしまうと野菜がだぶつくことになってしまう。

 

 気候の変化をまともに受けてしまう露地栽培農家は、年々減り続けている。

自然に順に育つ露地物野菜は益々希少価値が出てくることになる。

ハウス栽培と比べて季節に合った美味しい露地野菜の事を知らない消費者が

多い。

その意味では、私達の取組を伝える市場啓発活動は続けて行かねばならない。

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                冬のビーツ

 

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2021.2.24(水)晴れ、最高温度13度 最低温度4度

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             雑草に覆われた玉葱の畝

数万個の玉葱の苗を植付け、毎年除草作業に追われる。

手が足りず、中々除草作業が追いつかない。

そのため、多くの農家は黒マルチをしているが、当農園は自然と呼吸をしない

マルチはしたくない。

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             日曜日の農園直売所の風景

 

最近新規のお客様が多い。直売所を始めた頃は通常の直売所とは異なり、

価格が高いと見られ、中々お客様が増えては来なかったが、次第に常連さんが

訪れるようになってから、一年間経過した頃から新規のお客様が増えてきた。

野菜も売れ残ること無くほぼ完売状態となっている。

水曜日はおやつや惣菜のアイテムも少ないが、野菜のみを目当てにするお客様

が中心となっている。

このコーナーでは漬物・味噌・黄な粉・自然農米・麦ものがたりシリーズも

置いてあり、次第に関心が集まりつつある。

最近目立ってきたのは、自然農米であり、定期購入のお客様だけではなく、

直売所でも売れ始めている。

農園の仲間の一人である田北さんに今年から自然農米作りを始める。

当農園の長老格である平野さん(78歳)が先生となる。

こうして未来へ繋げていく。

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           お菓子類・おやつ・惣菜のコーナー

 

農園のブレンド小麦粉を使った加工品は女性スタッフのアイデアと頑張りにより

人気コーナーとなっている。

土曜日,まるっと一日がかりで仕込んでおり、準備が大変です。

家庭で農園のブレンド小麦粉を使っておやつ類を作って頂きたく始めたコーナー

でした。次第にお客様との会話が弾み「うちでもつくれるかな!」と言いながら

買って帰られている。

そのせいか、麦ものがたりシリーズも次第に定着化し始めており、買い求めて

頂くお客様も増えてきた。

できれば、おかあさんの手作りのおやつを子供さんに食べさせて欲しいとの

願いがある。