3,健全な農産物とは?「肥料栽培による土壌汚染―過剰な硝酸態窒素(毒素)」

2023.12.26(火)晴れ、最高温度13度、最低温度0度

 

「肥料栽培による土壌汚染―過剰な硝酸態窒素(毒素)」

―農薬より怖い除草剤・抗生物質・化学物質・硝酸態窒素による土壌複合汚染―

有機農産物は安全?有機無農薬野菜?についてどこまで消費者は知っているのでしょうか?

消費者は農産物の安全性について農薬のことしか言いませんが、農産物の安全性を阻害している以下のような四つの課題があるのです。

麦作りの圃場に草木堆肥を振っている処

ここの畑も4年目です。今年は沢山の小麦が採れることを期待しております。

 

「消費者の皆様は有機無農薬と言う概念や言葉に踊らされている」と私は思うのです。

農薬より怖い窒素過多による土壌汚染のことを知っておられますか?

これは有機農業も含めて近代農業の大きな課題点なのです。

18世紀の終わり頃、欧州では硫安という窒素肥料を発明したことにより簡便な肥料栽培に移行してから二世紀を経ようとしています。それは食糧大量生産ができる近代農業の夜明けでした。

その欧州で20世紀後半、硝酸態窒素による水質汚染が起こり、ブルーベイビー(青い血液)の問題が発生し、それを契機にして化学肥料を使わない有機農業(オーガニック)が提唱されるようになりました。

さらに土壌に蓄積され続けた窒素(硝酸態窒素)分により塩基濃度(塩分と言った方が

分かり易い)が上昇し続けて土壌が風化していきます。農地の砂漠化です。

アメリカ中西部・ロシアやウクライナなどの大穀倉地帯の砂漠化が憂慮されています。

 

※ブルーべービー問題

化学肥料はどうしても過剰投下に陥り易くなり、継続して使い続けるため土壌は窒素

過多になり易く、硝酸態窒素という形で河川に流れ出し、土壌に浸透していきます。

特に恒常的に使用している圃場は土に交わりにくくなり、地下に浸透していきます。

これが地下水汚染です。飲料水の汚染を招いたと言う訳です。

体内に入った場合は亜硝酸態窒素と変化し、血液のヘモグロビンに結合し、酸欠状態

になり、呼吸困難に陥る。

やっかいなのは、野菜は土中に窒素分があればあるほど吸収してしまうという性質を

持っており、野菜に取り入れられた窒素は硝酸態窒素として蓄積されますから、

野菜の成長のエネルギーとして消化されない分は、大量に残ったままで出荷されて

いきます。野菜にもどうしても硝酸態窒素は残留します。

これは毒素なのです。

 

日本でも戦後、化学肥料と農薬を使った近代農業が急速に発達していきました。

日本古来からの草・藁・人糞などを使った農業(日本式有機農業)は次第に駆逐され、

1960年頃にはほとんど消滅していました。

その中でも小規模ながら有機農業を提唱する農業者が現れ始めました。

牛糞・鶏糞・油粕・米糠・魚腸・骨粉に稲藁・籾殻などを加えた有機堆肥を主には

使っていました。

2003年頃、国は消費者保護の名目で欧州の有機農業を真似て有機JAS法を制定

しました。この資格を取らないと有機農業とは名乗ってはいけないと言うことで

多くの既存有機農業者は憤り、資格を取得せず、かつ、老齢化も進みこの段階で

日本の有機農業者は一旦壊滅してしまいました。

 

日本の有機JAS法では化学合成していない肥料・農薬を使わないことが有機農業と言う定義となっています。有機物ならば何でも良いのです。

ここで高窒素肥料施肥=硝酸態窒素の問題がすり替わってきました。

高窒素肥料を使う農業が問題とされていたのに、「化学合成している肥料・農薬」と言うことにされました。

有機野菜は有機無農薬栽培であると言う誤った認知が進み、「有機野菜は安全である」

と言う思い込みに変わっていったのだと思われます。

 

有機肥料に最も多く使われている畜糞も化学肥料と同じく高窒素肥料なのです。しかも、家畜の餌に含まれている抗生物質・化学物質が新たな問題を起こしています。

有機肥料による高窒素栽培及び飼料に含まれている抗生物質・化学物質・農薬などの

理由によって農学者の一部からは「有機野菜が危ない」と問題提起されるようになっています。

麦踏みの風景

この圃場は草木堆肥歴8年目の畑です。

今ではこのような麦踏みの光景は見られないでしょうね。

 

さらに、小麦アレルギーも社会問題となっています。

農業試験場の所長に小麦アレルギーに苦しむ子供達のために草木堆肥による低窒素栽培で麦を作ることを相談しました。

即座にこう言われました。「佐藤さん、それは無理ですよ。麦は窒素分を欲しがる穀物です。特に昨今は高タンパク(ハイグルテン)の麦で無いと市場からは見向きもされませんよ」と・・・

それでも、当農園ではひたすらアレルギーの起こらない麦作りのために、草木堆肥に

よって土作りと除草剤を排する麦作りにチャレンジしました。4年間にようやく

グルテン仕様の麦が採れました。

当初はその啓発啓蒙活動に苦戦しましたが、今ではアレルギーを発症しない小麦粉として農園の定番商品になっています。


そもそも農園主が低窒素栽培が可能となる草木堆肥による土作りと肥料を使わない

自然栽培に梶を切ったのは、有機肥料を多投する有機栽培では土壌は育たず、

むかし懐かしい美味しい完熟野菜ができないと言う結論を得たからです。

今では草木堆肥による土作りを行っている農業は、おそらくは世界でも唯一の農園と言うことになっているのかもしれません。

これは実は悲しいことです。

欧州のモデルとなった日本の古来からの農業が無くなっていると言うことになるからです。

現在は、おそらくですが、唯一無二の農法となっていることは、日本の農業の中では孤立していることになり、中々に消費者の理解を得にくい事に繋がります。

それでもむかし野菜の邑では、地道に消費者への啓発・啓蒙活動をしながらこの農業の承継者を育成することに傾注しております。