むかし野菜の四季ーPART2

2021.10.22(金)晴れ、最高温度19度、最低温度13度

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               サラダセットの畝

この一畝に7種類のサラダ系野菜が植わっている。

水菜・赤水菜・赤辛子水菜・緑辛子水菜・赤マスタード・緑マスタードルッコラ

です。別の畝では赤ほうれん草とスイスチャート、時にはサラダ小松菜などを一セットとして皆様にお届けしている。農園の定番野菜の一つです。

定期購入のお客様が一週間でおよそ140余名・農園マルシェで60余名・レストラン

10数軒に出荷するのに、この一畝で二週間しか持たない。

そのため、この季節だと二週間間隔で他の畝に種を蒔かねばならない。

農園で人気の高いアイテムなので切らす訳にはいかない。この4番の畑に瞬間的には

4畝のサラダセットの畝を用意しなければならなくなります。

写真で言うと白い不織布を掛けているあたりに出荷途中の畝と併せて4畝見えます。

 

同じように葉物野菜・ほうれん草・人参・蕪類・大根系などの定番野菜は概ね4~5本の畝が必要となります。

これを繰り返して野菜が途切れないように頭の中のコンピューターは常に数えているのです。ただ、みなうまく育ってくれるとうれしいのですが、時には気候や虫害などによりそんなにうまく行かない時の方が多いのです。

 

むかし野菜の四季-Ⅱ

 

「露地栽培の危機」

毎年、異常な気候変化が続いており、特に最近の数年間はその異常さは際立っている。気温は乱高下し、雨は降る月と降らない月が極端になり始めている。

蕪類の球が育たず葉っぱだけ大きく葉を広げているが、球は極端に小さく、すでに莟立ちし始めている。九条葱はまだ3月の初めだと言うのに白っぽく葉の色を変え始めている。例年では4月上旬頃葱坊主が出始めるころに見られる変化です。

以上のようにハウス栽培とは異なり、露地栽培は常に気候変化の影響を大きく受ける。

平均気温が1~2度違えば、野菜の成長は狂ってくる。それが一気に10度近く乱高下する気候が続けば、野菜にとっては迷惑な話であり、伸びてよいのか、縮こまったほうがよいのか、迷ってしまい、結果として異常な発育をしてしまう。

 

昨日、ある県会議員が農園を訪れて有機野菜を育てていた農家が廃業したという話をして帰った。(その農家はうちの農園でノウハウを学び独立していった一人でした)

その農家はこう言ったそうだ。「ある予定の時季に出荷を見込んで育てた野菜が早く育ってしまったり、間に合わなかったり、今までの経験が全く役に立たない。出荷先との約束ももうできない。露地栽培は止めてハウス栽培に切り替えるしか無い。それならもうしない」

有機生産者は市場ではなく特定の流通業者へ出荷している。それはいつ頃何をどれくらい

出荷するといった約束事で成り立っている。それが守れなくなったことは生産者にとっては大きい。

 

当農園は農協も含めて流通へは一切出荷をしていない。

全て飲食店や個人消費者などの定期購入顧客や農園マルシェなどで直接販売している。

そこには規格・均一・出荷時期などの制約は無い。常に畑での出来あいの野菜を届けることで成り立っており、サイズは大小様々、見え形は不揃い、虫食いの痕も時季によってはひどいものもある。自然栽培ですから揃っている方が不思議なのです。その代わり、美味しさ・食感・味香り・栄養価などは数倍以上あり、それを評価して頂く消費者との信頼関係が全てと言うことになります。

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3番の畑(左から白菜・キャベツ・露地ニラ・秋の菜花・ほうれん草・大根)

 

それでもこの異常な気候変動による影響は大きく、年間百種類以上の野菜を作り続け、全国のお客様に15種類以上の野菜を定期的に届け続けねばならない。

野菜の安定的な生育が見込めねば、アイテム数の不足と量の確保が難しくなる。

土作りを行い無肥料で育てる自然栽培では、野菜の成長は遅く、気候変動や害虫被害などの影響を受けやすく生産リスクの塊となる。

それに加えて露地栽培には端境期というものがある。ハウス(施設)栽培では加温ハウスも含めて季節を調節できる。わかりやすいのはトマトやイチゴなどです。

トマトは夏の作物でしたが、今では秋・冬の野菜となっています。野菜に旬が消えてしまっています。

露地栽培では気温や天気を調節できませんので季節に順な作物しかできません。植物の種子は元々それが生まれた地域に即した遺伝子を持ち、その野菜にあった気候で育つものです。さらに寒暖の差・雨・風・太陽などの自然に晒され、淘汰され生き残った植物だけが成長します。ですから、季節に順な作物は美味しく栄養価もあるのです。これが旬菜です。

ただ、最近の10年間の露地野菜達は気候変動が激しくいささか戸惑っております。

そこで、当農園では絶えず変化する気候に合わせて数年前から捨て植えを行っている。

例えば、出来るかどうか不安の残る野菜は種蒔き時期をずらし、2~3週間置きに植え込むようにしている。そうするとどちらかが上手く行くという目算です。

ただ、両方とも上手く育ってしまうと野菜がだぶつくことになってしまう。その場合は、増量された野菜が定期購入者(仲間たち)に安価に配られ、農園には出荷手間が

かかるが、お客様は喜ぶ。せっかく自然からもたらされた野菜ですから・・

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          3番の畑(晩秋の定番野菜セロリ)
除草後、草木堆肥の追肥を施し土寄せを完了したセロリの畝。2番の畑にも植わっている。2・3番両方の畑とも草木堆肥歴は15年を超えており、農園主力の畑。

 

欧州では国家が露地栽培農家を手厚く保護している。

例えば、一ヶ250円のキャベツを出荷すれば、同額の支援金を受け取れる。但し、

ハウス栽培には補助金は出ません。利益を追求する商業的施設栽培であるからです。

欧州においては国民の意識の中に、露地栽培農家が「食の確保と国土を維持管理して

くれている」と言う考え方があるからです。

果たして日本の国民にそのようなコンセンサスが得られるでしょうか・・・!

 

日本の場合は露地栽培には支援金は0ですが、ハウス栽培には規定の条件(作物指定等)を満たせば、農協を通して30%前後の補助金が出る。施設には多額の費用が掛かると言う理由のようです。(ただ、この補助金にはがんじがらめの制約が掛けられ、

農家の自由さは一切無いため、この補助金を受けた農家は次第に追い込まれていくことになる)

中山間地を多く抱えている日本の農地は狭く生産効率が悪く手が掛かる。農業離れが

進み、地域から子供の声が消えつつある。それでも日本の食と国土を守ってきたのは、

地域の農業者達でした。膨大の水路や豊かさの象徴であった田園風景を維持する農業者が居なくなれば、中山間地は荒れ果て、雑木が生い茂り鳥獣の住処となり二度と元に

戻すことはできないでしょう。

近い将来、世界が自国の食料確保に走る時、日本では食べるものはすべて海外から得られることになるのでしょうか?

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     日曜日開催の農園マルシェにて販売しているピロシキ