2021.12.12(日)晴れ、最高温度16度、最低温度8度
由布市庄内の4反の畑に草木堆肥を振る
長閑な風景ですね。田園風景と山里が広がり、空は青一色です。
ここは椎茸やお餅を作っているグループの田北さんの畑です。
トラック4台で二回転しました。結いの仕組みを取っておりこのように広い圃場での
作業はみな、共同作業です。
この圃場には遅れてしまった麦蒔きを来週全員で行います。
こちらは3週間前に麦を蒔き終えた由布市古市の圃場です。
青々と麦が育っております。約2反の畑ですが、全行程で2日掛かりました。
皆様には分かり難いとは思いますが、除草剤を使わず、草木堆肥だけで土を育て、
穀類を栽培している農園は世界でも当農園だけです。如何に手間が掛かりリスクが
大きいかはおそらく分かってはいただけないでしょうね。
その貴重な大豆・麦を使って味噌・黄な粉・麦製品・加工品を作っているのです。
これらの穀類ではアレルギー、アトピーも発生しませんし、しっかりとした麦や大豆の味香りがするのです。ここに昔の農法の真骨頂があるのです。
その貴重な農産物はわずか350余名の全国の仲間達だけに配られております。
野菜の自然な色合いは本当にきれいです。自然栽培の野菜ではその色が鮮明に出るから不思議です。
§2.自然栽培
「完熟野菜」
野菜が完熟するとはどういうことでしょうか?
結論から言いますと完熟した野菜果物は糖分に富み甘くなります。そのことは皆様の
想像の範囲内です。完熟作用は野菜果物の生理現象です。
ところが、高窒素となり易い肥料栽培は完熟する生理現象が起きないように作用してしまうのです。窒素分の多い肥料を使うと(N/C比は高い)常に土中には有り余る窒素分があり、野菜は出荷まで成長を続けます。土中に窒素分が切れない限りは完熟作用は起きないのです。
これに対して自然栽培では炭素分の多い草木堆肥を使うため、土中の窒素分は常に不足気味です。草木堆肥施肥(完熟一歩前)した際には、有機物とまだ活性化している微生物・菌類が同時に圃場に入ります。この時、有機物に含まれる窒素分は微生物等が増殖するためその多くは彼らによって費消されます。これを窒素飢餓と言います。
※窒素飢餓
生の有機肥料は畑に投下してはいけないと言われております。そこに棲む微生物等が有機物に含まれる窒素分を吸収して増殖します。このため、土中は窒素が極端に不足し、野菜は成長できません。
草木堆肥施肥後、その圃場に種を蒔いても窒素分は得られませんので、発芽した野菜は土中の窒素分を懸命に探し、髭根を広く深く張ろうとします。発芽してから1カ月程度は目に見えて野菜は成長していないように見えます。実はその一ヶ月間は野菜が成長するための土台作りをしている成長の準備期間であり、根と基部がしっかりと土を掴みつつあるのです。
一か月を経過した頃から基部作りを終えた野菜は、急速に上に伸び始めます。
それは今まで活発に増殖し続けていた微生物等がその活動を鎮静化し始め、一部は死に、逆に窒素分を土中に放出し始めます。加えて有機物残渣からも窒素分の供給が続き、野菜の成長に必要な窒素分が土中に放出されるため、野菜が目に見えて大きく育つのです。(土中に窒素分が増えると野菜の体内に成長酵素=ミトコンドリアが増加する)
野菜が生長した頃(約二か月経過)、土中への窒素分の供給が次第に止まり、成長酵素であるミトコンドリアの増殖も止まります。野菜は成長を終えて完熟期を迎えます。
※土中に窒素が切れると野菜は完熟期に入る
草木堆肥を施肥してからおよそ一ヶ月経過した頃から土中に窒素分が供給され始め、二ヶ月を経過した頃から窒素分の供給が徐々に減り、およそ二ヶ月半で窒素供給が著しく落ちてきます。これが草木堆肥の不思議な自然の摂理なのです。
野菜の体内に蓄積されてきたでんぷん質や炭水化物は、野菜が生き残るために分解され糖分とビタミンに変換され、生きるためのエネルギーに変えて行きます。デンプン質等は人も含めて野菜もそのままでは吸収できないのです。これが自然栽培における完熟のメカニズムです。完熟した野菜は味香りも高く、筋が無く、葉肉は厚く、甘味や旨味が備わっており、栄養価に富んだ野菜となります。
ちょっと難しいですが、お分かり頂けたでしょうか。
私は草木堆肥による農業の実践を重ねる中で、この完熟一歩前の草木堆肥の特性を見いだした時には昔の先人達の叡智に驚きました。
健全で栄養価に富んだ完熟野菜とは低窒素土壌の自然栽培でしか生まれないのです。
除草中の玉葱の畑
青く見えているのが玉葱の畝です。草がびっしりと育っております。
お気づきの方も居ると思いますが、草を抑え地温を上げ強制的に大きく育てる
黒マルチはしていません。
冬の寒暖の差を受け、自然の中で育てるからこそ、野菜は美味しくなり、栄養価に
富んでいるのです。その分、除草の手間は掛かり、大変な作業となります。
およそ数万本の玉葱を植えており、気が遠くなるような除草作業が寒い冬の間、
続きます。
ちなみに芋類・南瓜などの追熟と原理は同じです。(芋類などは収穫してから20日程度常温で寝かせて、でんぷんなどを分解させ甘くさせます)
むかし、化学肥料も畜糞も無かった時代、草や葉っぱを熟らせてから畑に施肥して農産物を育てていました。当時の野菜はみな低窒素栽培であり、完熟野菜であり、栄養価の高い美味しい野菜だったことでしょう。
ただ、完熟野菜は野菜の生命を終えようとする寸前ですので、その出荷適期は短く傷みが早く、このリスクは生産者と同時に消費者も同じように負っているのです。その代償は美味しさと栄養価です。
自然栽培の場合、常にこの完熟野菜を目指します。ベビーリーフのような栄養価の乏しい野菜は作りたくないのです。
栄養価が高く美味しい野菜を作るためには、草木堆肥の使い方やその性質を熟知しておかねばなりません。
草木堆肥の最大の特性と利点は完熟野菜となる自然の摂理をうまく使っていることです。
ただ、低窒素栽培の欠点もあります。成長に不可欠の窒素分が少ないということは、成長が遅れ、自然の恩恵だけではなく、厳しい自然の変化や害虫被害のリスクに長期間晒されることです。
さらに巻物野菜(キャベツ・白菜等)や実物野菜などはある程度の窒素の力を借りなければ、巻いてくれないし、次々と実を成らせてはくれません。
草木堆肥の実践については「草木堆肥の使い方」の項で詳述いたします。
草木堆肥は完熟一歩手前のものを畑に施肥します。
完熟してしまうと最早肥料にしかなりません。完熟一歩手前の堆肥は有機物残渣が残り、微生物や菌類が増え続けている状態のものです。彼らが畑の中で増殖を繰り返しながら畑を耕してくれるのです。60%の農学者は完熟堆肥でなければ窒素飢餓状態に陥るので未完熟堆肥は施肥してはいけないと言っています。(今では40%の学者は完熟堆肥では意味が無いと言い始めております)農業は理論の中だけでは分からないことの方が多く、実践を重ねた現場の農業者のほうが正しい場合が多いのです。
完熟一歩手前の草木堆肥の目安は堆肥の温度が約40度程度、草の繊維がかすかに残り、葉っぱなどは残っていても菌糸に覆われている状態のものを施肥します。
これからビニールトンネルが徐々に増えていき、1月頃にはこの圃場もすっかり白一色の畑となります。
暖かい日や雨の日などはトンネルを剥ぐってやり、太陽や雨に晒します。
その開け閉めの作業が冬中続きます。