むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.12(日)晴れ、最高温度16度、最低温度8度

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         由布市庄内の4反の畑に草木堆肥を振る

 

長閑な風景ですね。田園風景と山里が広がり、空は青一色です。

ここは椎茸やお餅を作っているグループの田北さんの畑です。

トラック4台で二回転しました。結いの仕組みを取っておりこのように広い圃場での

作業はみな、共同作業です。

この圃場には遅れてしまった麦蒔きを来週全員で行います。

 

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こちらは3週間前に麦を蒔き終えた由布市古市の圃場です。

青々と麦が育っております。約2反の畑ですが、全行程で2日掛かりました。

皆様には分かり難いとは思いますが、除草剤を使わず、草木堆肥だけで土を育て、

穀類を栽培している農園は世界でも当農園だけです。如何に手間が掛かりリスクが

大きいかはおそらく分かってはいただけないでしょうね。

その貴重な大豆・麦を使って味噌・黄な粉・麦製品・加工品を作っているのです。

これらの穀類ではアレルギー、アトピーも発生しませんし、しっかりとした麦や大豆の味香りがするのです。ここに昔の農法の真骨頂があるのです。

その貴重な農産物はわずか350余名の全国の仲間達だけに配られております。

 

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野菜の自然な色合いは本当にきれいです。自然栽培の野菜ではその色が鮮明に出るから不思議です。

 

§2.自然栽培

「完熟野菜」

野菜が完熟するとはどういうことでしょうか?

結論から言いますと完熟した野菜果物は糖分に富み甘くなります。そのことは皆様の

想像の範囲内です。完熟作用は野菜果物の生理現象です。

ところが、高窒素となり易い肥料栽培は完熟する生理現象が起きないように作用してしまうのです。窒素分の多い肥料を使うと(N/C比は高い)常に土中には有り余る窒素分があり、野菜は出荷まで成長を続けます。土中に窒素分が切れない限りは完熟作用は起きないのです。

 

これに対して自然栽培では炭素分の多い草木堆肥を使うため、土中の窒素分は常に不足気味です。草木堆肥施肥(完熟一歩前)した際には、有機物とまだ活性化している微生物・菌類が同時に圃場に入ります。この時、有機物に含まれる窒素分は微生物等が増殖するためその多くは彼らによって費消されます。これを窒素飢餓と言います。

 

※窒素飢餓

 生の有機肥料は畑に投下してはいけないと言われております。そこに棲む微生物等が有機物に含まれる窒素分を吸収して増殖します。このため、土中は窒素が極端に不足し、野菜は成長できません。

 

草木堆肥施肥後、その圃場に種を蒔いても窒素分は得られませんので、発芽した野菜は土中の窒素分を懸命に探し、髭根を広く深く張ろうとします。発芽してから1カ月程度は目に見えて野菜は成長していないように見えます。実はその一ヶ月間は野菜が成長するための土台作りをしている成長の準備期間であり、根と基部がしっかりと土を掴みつつあるのです。

一か月を経過した頃から基部作りを終えた野菜は、急速に上に伸び始めます。

それは今まで活発に増殖し続けていた微生物等がその活動を鎮静化し始め、一部は死に、逆に窒素分を土中に放出し始めます。加えて有機物残渣からも窒素分の供給が続き、野菜の成長に必要な窒素分が土中に放出されるため、野菜が目に見えて大きく育つのです。(土中に窒素分が増えると野菜の体内に成長酵素ミトコンドリアが増加する)

野菜が生長した頃(約二か月経過)、土中への窒素分の供給が次第に止まり、成長酵素であるミトコンドリアの増殖も止まります。野菜は成長を終えて完熟期を迎えます。

 

※土中に窒素が切れると野菜は完熟期に入る

草木堆肥を施肥してからおよそ一ヶ月経過した頃から土中に窒素分が供給され始め、二ヶ月を経過した頃から窒素分の供給が徐々に減り、およそ二ヶ月半で窒素供給が著しく落ちてきます。これが草木堆肥の不思議な自然の摂理なのです。

 

野菜の体内に蓄積されてきたでんぷん質や炭水化物は、野菜が生き残るために分解され糖分とビタミンに変換され、生きるためのエネルギーに変えて行きます。デンプン質等は人も含めて野菜もそのままでは吸収できないのです。これが自然栽培における完熟のメカニズムです。完熟した野菜は味香りも高く、筋が無く、葉肉は厚く、甘味や旨味が備わっており、栄養価に富んだ野菜となります。

ちょっと難しいですが、お分かり頂けたでしょうか。

 

私は草木堆肥による農業の実践を重ねる中で、この完熟一歩前の草木堆肥の特性を見いだした時には昔の先人達の叡智に驚きました。

健全で栄養価に富んだ完熟野菜とは低窒素土壌の自然栽培でしか生まれないのです。

 

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              除草中の玉葱の畑

青く見えているのが玉葱の畝です。草がびっしりと育っております。

お気づきの方も居ると思いますが、草を抑え地温を上げ強制的に大きく育てる

黒マルチはしていません。

冬の寒暖の差を受け、自然の中で育てるからこそ、野菜は美味しくなり、栄養価に

富んでいるのです。その分、除草の手間は掛かり、大変な作業となります。

およそ数万本の玉葱を植えており、気が遠くなるような除草作業が寒い冬の間、

続きます。

 

ちなみに芋類・南瓜などの追熟と原理は同じです。(芋類などは収穫してから20日程度常温で寝かせて、でんぷんなどを分解させ甘くさせます)

むかし、化学肥料も畜糞も無かった時代、草や葉っぱを熟らせてから畑に施肥して農産物を育てていました。当時の野菜はみな低窒素栽培であり、完熟野菜であり、栄養価の高い美味しい野菜だったことでしょう。

ただ、完熟野菜は野菜の生命を終えようとする寸前ですので、その出荷適期は短く傷みが早く、このリスクは生産者と同時に消費者も同じように負っているのです。その代償は美味しさと栄養価です。

 

自然栽培の場合、常にこの完熟野菜を目指します。ベビーリーフのような栄養価の乏しい野菜は作りたくないのです。

栄養価が高く美味しい野菜を作るためには、草木堆肥の使い方やその性質を熟知しておかねばなりません。

草木堆肥の最大の特性と利点は完熟野菜となる自然の摂理をうまく使っていることです。

ただ、低窒素栽培の欠点もあります。成長に不可欠の窒素分が少ないということは、成長が遅れ、自然の恩恵だけではなく、厳しい自然の変化や害虫被害のリスクに長期間晒されることです。

さらに巻物野菜(キャベツ・白菜等)や実物野菜などはある程度の窒素の力を借りなければ、巻いてくれないし、次々と実を成らせてはくれません。

草木堆肥の実践については「草木堆肥の使い方」の項で詳述いたします。

 

草木堆肥は完熟一歩手前のものを畑に施肥します。

完熟してしまうと最早肥料にしかなりません。完熟一歩手前の堆肥は有機物残渣が残り、微生物や菌類が増え続けている状態のものです。彼らが畑の中で増殖を繰り返しながら畑を耕してくれるのです。60%の農学者は完熟堆肥でなければ窒素飢餓状態に陥るので未完熟堆肥は施肥してはいけないと言っています。(今では40%の学者は完熟堆肥では意味が無いと言い始めております)農業は理論の中だけでは分からないことの方が多く、実践を重ねた現場の農業者のほうが正しい場合が多いのです。

完熟一歩手前の草木堆肥の目安は堆肥の温度が約40度程度、草の繊維がかすかに残り、葉っぱなどは残っていても菌糸に覆われている状態のものを施肥します。

 

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これからビニールトンネルが徐々に増えていき、1月頃にはこの圃場もすっかり白一色の畑となります。

暖かい日や雨の日などはトンネルを剥ぐってやり、太陽や雨に晒します。

その開け閉めの作業が冬中続きます。

むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.5(日)晴れ、最高温度12度、最低温度4度

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              ビニールトンネルを張る

 

今年最初のトンネルを張る。人参と白菜が第一号となった。

11月下旬頃から寒気が強まったというものの、例年よりは遅いトンネル張りでした。

12月の中旬頃にかけて寒さが収まり、暖冬の気配すら漂う。

一気にビニールトンネルの白一色の畑とはなりそうもない。

 

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                 大豆の脱穀

およそ半反の畑に植えていた大豆を脱穀しているところ。30キロくらいしか採れなかった。庄内の大豆はいまだ乾燥し切れておらず、年末から初春に掛けての脱穀作業となる。今週はその大豆を収穫した圃場に麦を蒔くため、草木堆肥を振りに全員で出向くことにした。

 

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研修生達がレイキ(熊手のようなもので畝を均している)を掛けているところ。

このところ、毎週誰かが農園に訪れ、農業体験やら研修を行っている。

彼らに作業終了が声を掛けると、みな「楽しかった・清々しい」との評価。

一日弁当を持ってきて、露天で農作業をすると日常とは異なり、思い切り開放感に

満たされるようだ。手取足取りで教える方は大変なのですが・・・!

この中から、未来の自然循環農業の担い手が出てくることを祈る。

 

むかし野菜の四季-2

2. 自然栽培(低窒素栽培=完熟野菜)

 

自然栽培という公の言葉はありません。有機栽培と区別するために他に呼び方が無くこのような表現を使っただけで、あえて言うなれば、むかしの有機農法です。

有機・無機を問わず、現在の農業は肥料栽培です。これに対して自然栽培は根本的に異なります。肥料も無いむかしの農業は草・葉っぱ・木(柴)に人糞をかけて、1年がかりで発酵させた堆肥を使って土を育て、その土の力で野菜を育てていました。

当然に肥料とは違って土壌の中に窒素分は少なく野菜が育つ土を作るのに、数年以上、あるいは、数代をかけていましたから随分と労力がかかっていたのですね。

この昔の農法を破砕機やタイヤショベルを使って発酵が早く進むように改良し、現代に復活させました。機械を使ったからと言っても労力や手間が掛かることには変わりません。

ちなみに牛糞と藁を混ぜた堆肥は厩肥と呼ばれており、畜糞と草・藁・おが屑などを混ぜたものも堆肥と呼んでおりますが、いずれも畜糞(窒素分が多く)が多くN/C比が高くなり肥料に近いものとなっているようです。ただ、これらも数少なくなってきており残念です。

 

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         草木堆肥歴20年の2番の畑の一本葱

12月頃になると、この畑で育った一本葱は直径4センチほどの太さに育ちます。

他の圃場ではこんなに太くはなりません。土の力ののですね。

白根の部位は素揚げや焼き野菜として、葉の部位はてんぷらや煮物に使います。

甘いと言うより極上の果物を食べているようで味が深いのです。

 

「土を育てる」

 当農園の自然循環農法の特性は肥料は使わず、草木堆肥しか畑には投与しません。

肥料は野菜を育てますが土は育ててはくれません。草木堆肥は土を育て、育った土が野菜を育ててくれます。

肥料分(窒素)が無いと野菜は育たないのではと疑問を抱く方も多いかと思いますが、その仕組みは以下の通りです。

完熟一歩手前の草木堆肥(微生物や菌類が活性化したままです)を年間3~4回施肥すると、野菜収穫後も土中には微生物分解されなかった有機物残渣が微量ながら残り、それを食料として残っている微生物や菌類も生き続けます。

さらに野菜の収穫を終えた畝にまた草木堆肥を振り、直ちに次の野菜を植えます。一つの畝に年間3~4種類の野菜を植えますので、その畝には新たな草木堆肥とともに新たな微生物と菌類が加わります。その結果、土壌には炭素分の多い草木堆肥の残渣が残っていきます。これを餌として菌類・微生物が棲み着きます。つまりは、菌類等によって土が耕されていく訳です。これを繰り返し、畑は生物相豊かな持続(再生)可能な圃場となるのです。

 

窒素分の多い畜糞・米糠油粕・魚粉・動物の内臓などは微生物等によってすぐに分解され、窒素肥料として野菜等に吸収されてしまい、有機物残渣は残りにくいのです。

草木堆肥を施肥し続けると3年を経過した頃から土が約10センチの深さまで出来上がっていきます。(一年間でおよそ3センチ団粒化が進みます)

この土の成長は団粒構造(粒々の土の粒子)となって表れてきます。土の粒子の中には水分・空気・肥料分が蓄えられ、それぞれ、保水力・保気力・保肥力が備わってきます。これが肥えた土ということになります。

他より購入してきた有機堆肥や肥料は何が混じっているか分かりませんので、むかしの有機栽培農家は自らの手にて堆肥や有機肥料を作っていました。最近では、ほとんどの有機農家が他から購入しているのは残念です。

変な話ですが、草木堆肥が底を尽き始めると急に貧乏になったような気がしてきます。

腐葉土化した葉っぱや破砕屑を見ると、美味しそうと思ってしまい、気持ちはほぼ菌類や微生物と同じです。

草木堆肥を使った自然栽培では、N/C比(窒素と炭素の割合のこと)が低く、土が育つまでに最低2年~3年を要します。その間は土中に有機物残渣が少なく、当然に微生物層も育っておりませんので窒素分の供給が圧倒的に少なく、野菜は思うように成長しません。

元々の土壌にもよりますが、2年を経過してようやく根の浅い葉物野菜が育ちます。

今まで化学肥料(畜糞も同じ)や農薬・除草剤を使用してきた畑は微生物や菌類が育っておりませんので、土が生き返るのに3年を要します。逆に長年放置されてきた畑には生物層ができており、雑草の種子は多く残されてはいるが、草木堆肥施肥によって化学肥料を使っていた畑よりは1年早く土はできあがります。(その代わり3年間は除草作業に悩まされ続けます)

 

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畑に草木堆肥を振っているとどこからか蝶々が飛んできます。
堆肥に含まれた甘い養分を吸っているのですね。自然界は不思議なことばかりです。

農人は作業を中断し、蝶々にその甘い蜜をしばし吸わせております。

 

むかし野菜では、草木堆肥歴3年以上目安として赤ラベルとし、3年~5年未満を銀ラベルとし、5年以上経過した圃場を金ラベルの土と評価していきます。どのラベルで育ったかによって、当然に野菜の価格にも反映されます。

10年を経過すると団粒構造は30~40センチの深さまで達しております。その土の上を歩くとバウンドしてきます。こうなると、何を栽培しても上手くいきますし、野菜は美味しい。土は最早プラチナラベルです。

草木堆肥をたくさん施肥すると土が早くできあがることはありません。生物相形成には年月を要するのです。日本の先人達は何代も掛けて土を育てていたのです。ちなみに当農園の2番の畑は草木堆肥歴20年です。鍬を入れるとまるで砂をすくっているようで、草取りも鍬打ち作業も楽です。

何の野菜を植えても良くでき、至上の味香りがして美味しいです。ちなみに、味香りのよく分かる人参・セロリはそのプラチナ級の畑をメインにしております。うちのお客様からは人参は・セロリはまだですか?と一番人気です。

 

団粒構造の土

銀行員時代、再建出向したときの話ですが、広大な遊休地にハーブ園を作ることを計画しました。

ものの本によると、ハーブを育てるのに適した土とは「保気力があり、保湿力があり、保肥力がある土」とありました。そんな魔法の様な土はどうしたら出来るのか?当時全く見当も付きませんでした。

農園を開いて草木堆肥を施肥し続けて数年経過し出来上がった土、それが団粒構造の魔法の土でした。

団粒構造の土は小さな砂粒を寄せ集めたような土です。有機物残渣・微生物の死骸を核として、土が粒状に固まった状態のことを指します。土に肥料を与えずとも有機物残渣とミネラル分豊富なその土が野菜を育ててくれます。森の腐葉土と似ています。

団粒構造の土には小動物・小虫・微生物・菌類が棲み着き一定間隔で有機物を与え続けると、絶えず進化していきます。そこには自然循環の仕組みがあり、持続可能な農業に繋がっていきます。

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.11.27(土)晴れ、最高温度14度、最低温度7度

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        自然栽培大豆の収穫作業風景(4反の圃場)

 

 一見すると大豆畑とは思えない光景が広がる。

除草剤も農薬も使わない大豆の栽培とは、このようになってしまうことが多いのです。

大豆は7月に種を蒔き、11月中下旬頃に枯れた大豆の収穫を行う。

この時季は夏草の繁茂する時季と重なり、旺盛な草に大豆が負けてしまう。

畝間の草刈りは行うのだが、それくらいではどうにもならないくらいに草の勢いが

強い。

そのため、大豆を探しながら草刈りを行い、草を除去した後に数回耕して、今度は

麦の種を蒔く。大豆と麦の二毛作と言うことになります。今年は遅くとも12月中旬

頃には麦を蒔きたい。折しも急激な寒波が襲ってくると予想され、心は逸る。

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まだ青く、大豆は青刈りの状態では脱穀ができない。一端農園の作業場に持ち帰り、

自然乾燥させてから脱穀となります。

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むかし野菜の邑の社屋軒下は青い大豆で一杯となっている。年内には脱穀作業はできないだろう。味噌・黄な粉作りは来年の2月頃になってしまうでしょう。

 

 

「農薬の話」-Ⅱ

 

それでは危険な農薬について詳しく説明いたします。

前項では農業者にとって危険な農薬(劇薬)の話をしました。これは分解スピードが

速く、約1日で光合成分解などで無害となるように設計されていると説明いたしました。

つまりは劇薬は出荷直前まで使わない限りは消費者にとって一番安全な農薬と言うことになります。

 

農薬は分解スピードが遅い農薬(緩効性農薬)ほど効き目が長く続きます。

普通は10日間ほどその農薬の効能は残ります。繰り返し使っているとそれを残存農薬と言います。通常、この緩効性農薬は3~5日間隔で使用されております。特に出荷直前に害虫に葉などを食い荒らされては流通も消費者も買ってはくれませんので、出荷間際まで使われることが多い。これが消費者にとっては危険なのです。

 

農薬はその後、より農業者の人体に危険性が少なく、出荷直前まで使わなくて済むようにと、散布量を減らしてより効能持続性の高い農薬に改良されるたネオニコチノイド(人体に大きな影響を及ぼす可能性が高い)を代表とした浸透性農薬が誕生した。

その農薬は野菜に浸透していき、散布した野菜を食べた虫が死ぬ、あるいは、生殖能力を失わせるというものです。

浸透性農薬は害虫だけでは無く、虫・微生物・菌類も殺してしまいます。土に潜んで居る害虫(線虫・夜登虫など)を駆除するため、土中消毒と称して使われている浸透性農薬は生態系を破壊します。自然の生態系の破壊は自然の循環機能・浄化・再生の仕組みまでも壊してしまうことになります。

浸透性農薬の代表であるネオニコチノイド系の農薬は何故か日本では使用禁止になっておりません。使用量が少なくて済むからと言ってむしろ国が奨励しているくらいです。

残念なことに、この浸透性農薬は農薬使用の70%を超えております。農薬が浸透した野菜を食べた虫が死ぬ。そして生き残った野菜を人が食べることになる。誠におかしな話です。

 

ちなみに最近になって有機無農薬と言う表現を国が禁止しております。農業生産活動において農薬の使用は避けられなくなってきており、有機無栽培栽培は有機農家ですら、やむを得ず虚偽表示をし始めたからです。さらには、有機JAS規定が自然界の変化の実態に合わなくなってきており、ついには、「減農薬野菜」と言うわけの分からない野菜を認めております。

どの農薬をどの程度使っているのが減農薬野菜か消費者の方は分からないですね。

 

 

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        漬け物用の高菜を天日干ししているところ

毎年、11~1月頃まで冬野菜の漬け物作りが行われる。その代表的な漬け物が高菜

です。干した高菜を塩もみして大樽に漬け込みます。その後、2~3段階で出てきた汁を搾り出し、漬け込み直すことにより、本高菜漬けとなるのです。

この頃、大根に米糠と天然塩で昔ながらの大根漬けも作ります。

当農園では、昆布や削り節などのグルタミンも使いません。乳酸菌発酵をさせ、素材の

味を大切にしているからです。勿論、甘味料・防腐剤・酸化防止剤など一切加えません

 

 

もう一つ問題となるのが、除草剤です。除草の手間を掛けさせないようにと除草剤の改良も進み現在ではほとんどの農業者が除草剤を使用するようになってきた。作物毎に細かく除草剤の濃度などの説明がなされている。(遺伝子組み換え作物の種子を作っているモンサント社の枯れ葉剤が日本で多く使われるようになってきた。良く効きますと宣伝されている)

さらには野菜を立派(大きく)にするために成長ホルモン剤が開発され、野菜に限らず果物・家畜の肥育にも使用されるようになってきた。アメリカの知識階層では自国産の牛肉を食べないそうです。

 

浸透性農薬の普及と残存農薬・除草剤の恒常的使用・高窒素肥料施肥などにより、農地の土壌は深刻な汚染状態に陥っております。その結果、さらなる大きな問題が発生し始めた。

アトピー・アレルギー・神経疾患・癌などの現在病の多発です。看過できないのは自然の秩序破壊の問題であり、農家にとって野菜果物の受粉を行ってくれていたミツバチが死滅し始めていることです。

国の支援を受けている農学者(有識者とされている)は、「決められた一定の農薬使用であれば人体及び環境に深刻な影響は出ない」としている。一つの作物にその一定量であれば問題は発生しないと言うなら、毎日数種類の野菜や果物を摂り続けるとどうなるのですか?と敢えて問いたくなる。

その説明の仕方は人体に悪影響を及ぼし、未だ増え続けている数限りない食品添加物とよく似ている。

食品添加物にしてもホルモン剤にしても、除草剤にしても、浸透性農薬にしても、継続して使用していれば人体だけではなく自然界の浄化再生機能を壊し続ける事になる。

欧米ではすでに癌などの現在病を引き起こす恐れの強いネオニコチノイドなどの浸透性農薬を使用禁止あるいは、大きく制限するようになっている。それをしていない先進国は、唯一、日本と言う国なのです。

欧州では「日本の食は危険」と見られていることは、オリンピック選手団が食糧の持ち込みを考えていたと言う笑えない話が出てくるくらいです。

 

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            2年前に行った農園体験会

200人を超えるご家族が参加していた。子供達に収穫鋏を持たせての収穫体験でしたが、驚くほど、無心で鋏を野菜の根元に入れる幼子達の顔、顔、顔が心に残っております。コロナが長引き体験会が開かれないのが残念です。

食育活動の一環ですが、本当に学ばなければいけないのは親御さんなのですが・・

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.11.18(木)晴れ、最高温度20度、最低温度9度

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11月中旬、この時季は冬の寒さが訪れる前の最も忙しい季節に当たります。

玉葱は一年間のストック分を大量に定植し無ければならない。(数万本です)

秋麦は蒔かねばならない。(約6反分)

大豆は収穫しなければならない。(除草剤を使わない分、収量は他の農家の1/4)

これに加えて、秋冬野菜を今、種を蒔き、苗を定植しておかないと12~3月

までの出荷野菜が無いということになってしまうからです。

最高気温が10度を切ると発芽が難しくなってしまいます。そのため、この時季

一斉に種蒔きを行う訳です。

発芽さえしてしまえば、後はビニールトンネルを掛け、成長を促すことができます。

あとはあまりにも厳しい寒さが来ませんようにと天に祈るしか無いのですが・・・

 

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              定植中のレタス系野菜

 

むかし野菜の四季ーⅡ

 

「農薬の話」-1

 

※野菜が持つ害虫からの自己防衛機能

野菜本来の味と香りや微毒は害虫から身を守るために野菜が備えている防衛機能であり、肉厚な葉もその防衛機能の一つです。高窒素栽培では味香りが薄く害虫も食べやすくなります。近代農業(高窒素栽培)では化学肥料と農薬は一つのセットであり、近代農業の歴史は窒素肥料と農薬の発明の歴史でもある。畜糞肥料(窒素過多)等の有機栽培もその意味では同じ事なのです。

 

農園のメールに時折、「貴農園は有機無農薬野菜ですか?」との問い合わせが舞い込む。

その度に、農薬の話を詳しくして差し上げるのだが、大概の方は「えっ!農薬を使っているのですか?」と・・・、正直またか!と思ってしまう。

いつの間にか、「有機野菜は無農薬である」と言う間違った概念が定着してしまった。

近年は地方自治体からカメムシやアカダニの異常発生情報が流され、全地域の農家に農薬の散布を要請されることもしばしばです。何故なら、一気に撲滅しないとその地域全体に大きな被害がもたらされるからです。昨年は当農園もピーマン・パプリカ・万願寺とうがらしなど、その90%以上がカメムシ被害に遭い、出荷不能となった。

 

近年になって地球温暖化による異常気象が常態化し始め、害虫の異常発生が続いている。

例えば、種を蒔き、4日ほどするときれいに新芽が芽吹く。二週間後、本葉が出揃ったころ、その新芽がことごとく食べられている。又、成長し始めたキャベツの葉っぱはすだれ状になり、何とか巻き始めても底のほうから夜登虫が大穴を空け、中から芯を食い尽くす。シュウ酸と言う微毒性を有するほうれん草や臭いの強いニラなどにも害虫が付く。こうなると最早為す術がない。

この姿をその質問者に見せてやりたいとの衝動に駆られる。有機無農薬と言う言葉が独り歩きを始めたものですから、ほとんどの有機農家は、こう答える。「はい!農薬は全く使用しておりません」と・・・

そう答えないと、その有機農家から野菜を買ってもらう人が居なくなってしまいます。

これが有機JAS認定を取得した農家であっても農薬を使わないと死活問題になります。特に蛹から成虫となった蛾などが飛び回り始める5月中旬頃から11月初旬頃までが農薬を使用する頻度が上がります。葉っぱなどに産み付けた卵が孵化し、幼虫が葉っぱを食い荒らすからです

これが農業現場の実態です。消費者はもっと現在の農業現場を知る必要があります。

消費者や国家の誰が農業者を守ってくれるでしょうか。慣行農業であれ、有機栽培であれ、自然栽培であれ、農業者も生きていかねばならないのです。

通常の農家では一ヶ月の間に5~7回ほど農薬を散布します。減農薬栽培でも10日に一回は散布します。特に出荷直前になると使用頻度は上がってきます。何故なら虫食い痕のある野菜は消費者が買ってくれないからです。責められるのは流通や消費者達なのです。

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表面は何事も無いきれいな白菜ですが、中に夜登虫が入り込み、食い荒らしている

ことも多いのです。時にはアブラムシがびっしりと付いていることも。

 

 

むかし野菜の邑でも、こんなメールが飛び込んで来ることもあります。

「こんなにひどい状態の葉物にはお金を払えませんよ。流石にこれはひどいですね」と写真を添付して送られてきた。確かに葉っぱは虫食いの痕が多く、葉っぱを食いちぎられている。

それでもせっかく育った野菜ですから、煮込んでしまえばどうと言うことも無いのですが。

お客様の野菜定期購入のお申し込みの際、お断りを入れて居たことはすっかり忘れていらっしゃるようでした。

そこで農園主はこうお返ししました。

「出荷できた葉野菜は畝全体の1/3しかないのです。後はみな鋤き込んでしまいました。

何とか出荷に耐えうるものだけをお送りしたのですが、お支払い頂けないのであればやむを得ないですね。この時季は3~4日間隔で農薬を使用すれば良いのですが、私たちもお客様と同じものを食べますので、農薬の使用はいたしませんでした。次回からは虫食いの痕の無い野菜をいずれからかお買い求めください」と・・・このお客様は以降、返信は無いが、未だにご継続頂いております。分かって頂いたと信じたい。

気持ちは分かるのですが、農薬の怖さと虫の怖さといずれが本当に恐ろしいのでしょうか?

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玉葱の定植は一年間に一回しかありませんので、一年分を植えておかねばなりません。
厳しいのは面積を取られ、他の秋冬野菜を植える場所に苦労しています。

 

草木堆肥を使って土を育てる「自然栽培」でも、畑には普通に害虫はおります。

そもそも、野山の土には小動物を頂点にして、みみず・小虫・微生物・菌類などが棲んでおり、自然の生態系を作り上げている。そのような野山の土壌に近づけようとして、有機物を施肥していますから当然害虫も居るわけで、彼らも生きていくためには野菜を食べねばなりません。ですから、当農園も害虫発生が続く時季、害虫を瞬殺する劇薬を2回は使います。ある程度野菜が大きくなってくると、自力で育ってもらいます。

ある程度の虫食い痕のある野菜については、当農園の定期購入のお客様とのコンセンサスは得ているからです。ただ、出荷に耐えられ無いほど食い荒らされ、一畝全滅することもしばしばです。

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       野菜の自然な色合いにはびっくりさせられます

むかし野菜の四季ーPART2

2021.11.5(金)晴れ、最高温度21度、最低温度11度

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              玉葱の植え込みが始まる

 

昨日、8千本の玉葱を植え込んだ。ここ10番の畑だけでおよそ6,500本の

苗を植え込みました。年間約7~8万本の苗を植え込みます。

定期購入の全国のお客様、3百数十名の方の年間食べる量が必要となり、年々増えて

おり、植え込む畑を探すのがこの時季の悩みです。

 

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      麦大豆専用の圃場に草木堆肥を振っている風景

 

この畑で軽トラック4杯分の堆肥が必要です。

例年、この季節は玉葱の植え込みと麦蒔きの作業が重なります。

除草剤を使わないため、草が生えたらトラクターで起こすを繰り返し、雑草被害を

防ぎます。

この時季は次第に寒さが増してくる季節であり、10度を下回ると種が発芽し難く

なるため、秋冬野菜の種蒔きも急ピッチで行わねばならず、夏野菜の撤去作業と並行

して、忙しい毎日です。秋の日はつるべ落とし、暮れるのが早く時間が足りません。

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            農園マルシェの野菜売り場

 

むかし野菜の四季

「高密度・多品目栽培の勧め」

農協も含めて農業本には、「この野菜は点蒔き(あるいは筋蒔き)をしてある程度

成長したら、成長の遅い小さな苗を間引き、苗の間隔を12㎝程度に空けます」など

とあります。

これだと、間引き手間がかかり個体の数量が著しく減り、当然に収量も大きく減り

ます。しかも害虫が数少ない個体に群がりますので、3~4日毎に農薬を散布しない

と野菜は一瞬で消えてなくなります。

 

当農園の自然循環農業(高集約農業)では葉野菜や蕪類などを筋蒔きしたら、小さな

苗を間引くのでは無く、そのままの密集状態で育てて行きます。

密集植えされた野菜は競争し合って大きく育とうとしますし、害虫被害のリスクや

厳しい自然の淘汰のリスクも減ります。

競り合って育った野菜は根を精一杯張り、強く育ちます。成長したら、大きな野菜

から収穫を始めます。すると、次に大きい野菜が育ってきます。それを繰り返しな

がら一つの畝で数回収穫を行います。つまり、大きい野菜から順に間引いていくと

言う感覚です。

ただ、野菜より雑草の方が強く草取り作業は野菜が育つまでに2~3回は行います。

高密度栽培は、季節によって種の播き方が変わります。湿気が多く蒸れの起こりや

すい時季は少なめに、畝間はまめに除草作業を行い、共倒れを防ぎます。

この除草作業が大変なため多くの農家は除草剤を使います。

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実物野菜は虫害などがあっても生き残るために、リスクヘッジとして旺盛な側枝・

脇芽や葉っぱが茂らせます。すると、風が通らず、光も差さず害虫の温床となって

しまいます。

そのため、茄子・トマトなどは旺盛に茂った葉を摘除し、枝を誘引し風の途と太陽

の光が入りやすくしてやります。するとミツバチも花を見つけやすくなり、受粉が

進みます。

トマト・茄子などは出荷している間中、剪定誘引作業を続けます。

トマトは一本立ちではなく、枝を3~4本残し、支柱を添えて太陽に向けて南側に

斜め50度に誘引していきます。(畝は当然に南北に切ります)

一本立ちではせいぜい8~10段までしかトマトは成りませんが、この方法だと

12~15段、長さにして3~5メートルまで枝を伸ばすことができます。当然に

収量は数倍になります。ただ、この剪定誘引作業は手間の塊となります。念のために・・・

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草木堆肥による土作りは実際には数年がかりです。そのため、狭い農地で最大の収

量を得なければ成りません。

粗放農業は単作栽培ですから、一つの畑で多くとも2品目程度ですからせいぜい年間

2回転です。

高集約型農業では、一つの畑で年間3~4回転します。しかも、同時に10品目以上

の旬の野菜が一つの畑に植えられておりますから、年間25~30品目の野菜が出荷

される計算になる。これが多品目生産です。

当農園ではおよそ10反の畑がありますので、年間栽培する品目は100種類を超え

ます。一つの季節に30~40種類の野菜を育てております。

単作栽培では、台風・気候不順・虫害などによって出来不出来があり、また、豊作に

なれば農産物価格は一気に暴落するなどのリスクが付きまといます。

多品目栽培の場合は、あれがダメならこれがあるというふうに、農産物の出来不出来

や豊作による価格暴落のリスクは少ない。

日本の農業を壊滅の危機に追い込んでいったもう一つの要因は、量の確保ばかりを唱え、中山間地農業の実態も把握せず単作栽培を奨励していった国及び農協にあり、

その責任は大きいのです。

 

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          農園マルシェの菓子・惣菜売り場

 

奥ではコロッケ・ピザなどをオーダーを受けてから作り始めます。出来たてを

食べてもらいたいからです。

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.10.29(金)晴れ、最高温度21度、最低温度15度

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12月初旬から寒波が来るとの予報で、それまでに冬野菜の種を蒔き発芽させて

おかねばと、急ピッチで畑作りを進めねばならない。

 

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               人参の種蒔き

研修生に種の蒔き方を教えているところ。先生は農園歴15年のベテラン女性。

この圃場は草木堆肥歴15年目の畑。人参は当農園の顔であり、プラチナ級の

畑にしか蒔かない。マルシェで「人参はまだか」の催促がかまびかしい。

 

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こちらは農園の李の木。10月なのに季節を勘違いしたのか、花が咲いている。

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

「高集約型農業」

アメリカ型の大規模農業の場合は、人の労力を抑えて大型機械を駆使して、広大の農地を耕さねばなりません。従って、化学肥料や農薬、そして除草剤を使う粗放農業が適しており、北海道や干拓地にはその粗放農業が行われております。大豆・麦類・とうもろこし・じゃがいもなどの大量生産型の近代農業が発展してきました。

大量の除草剤を使うため、(除草剤でも死なない)アメリカでは遺伝子組み換え作物が普及しています。

農産物の品目は年間2~3種類程度の大量生産型の単作栽培が行われております。

広大な農地を大型機械を使って栽培する作物は量の確保や拡大が優先され、大量流通に載せるために均一化された農産物が要求されます。これが粗放農業です。もちろん量産型であるため反当収量は少ないです。そこでは、農産物の安全性とか、栄養価とか、美味しさとかはあまり評価されません。

例えば、ジャガイモの種蒔き前に除草剤を使い、収穫直前にじゃがいもの茎や葉を枯らすためにもう一度除草剤を使います。大型の収穫機械を使い易くするためです。

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一つの畑に10数種類の野菜が育っている。昔であれば当たり前の農園風景でした。

家庭菜園の大型バージョンです。

 

日本の国土は狭く、農地は一反(300坪)単位であちこちに点在しており、特に中山間地を多く抱えた日本の農地には大規模(大型)機械化農業は効率が悪く不向きです。

日本では古来から狭い農地を労力を掛けて年間3~4回転させる少量多品種型の高集約農業が行われてきました。反当収量は粗放型農業と比べて3~4倍と高いが、労力や手間が掛かるわけです。

肥料や堆肥にも個性やこだわりがあり、土作りに力を入れて品質や美味しさの競い合い、手作り感がありました。草木堆肥などは大量には作れず施肥する手間も掛かるが、栄養価・安全性・美味しさなどの高品質農産物でした。

むかし野菜の邑は、高集約型農業の現代のモデル農園とも言えます。

しかしながら、戦後、食糧増産を目的としてアメリカ型の近代農業が国策として農協などを通して推進され、急速に日本型の高集約型農業は衰退していきました。

日本の農産物は農産物の内外価格差(4~5倍以上の格差)という課題に直面し、品質の同じ大陸の農産物と競い合わねばならず、大規模な機械化農業と競争しても勝てるわけがありません。このことによって「日本の農産物は安全である」という神話は崩壊しました。

その結果、日本の風土に合わない大規模機械化農業を国策として推進した日本の農業は衰退の一途を辿り、農業生産者は減少し、農業環境や基盤の消滅の危機を迎えております。

今では政府も国民も日本の農業の再生に関心を失い、農業政策が無く未来が見えない農業劣等国に落ちてしまいました。

農産物の自給ができないとなると、食の確保は海外に頼るしか無くなり、気候変動の問題を加味すると国の安全は確保できなくなります。食料安全保障の大きな問題です。

 

同じ品質では数倍の価格差がある安価な海外産の農産物と対抗できないとすれば、日本の農業は、小さな農地でしか、なし得ない労力と手間の掛かる品質重視や安全性を追求した農産物作りを目指し、安価な海外産の農産物に対抗すべきではないでしょうか。

これが日本古来からの高集約型農業です。

次の項で述べますが、高品質野菜は必ず低窒素栽培に行き着きます。

高集約型農業だからといって有機肥料などを多投すると、化学肥料と同じく高窒素土壌となり、土壌は汚れ、品質は落ちていきます。肥料が多いと野菜は良くできるというのは大きな間違いなのです。

草・藁・籾殻・葉っぱ・木屑などの炭素分の多い植物性有機物が土を育てていきますので、念のために申し上げておきますが、肥料は野菜は育てるが土は育ててはくれないのです。

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草木堆肥を作っているところです。草を厚さ10センチに広げ、その上に放牧牛の
牛糞(草が飼料であり輸入飼料を使っていない)を厚さ3センチに置き、さらに剪定屑

や葉っぱを5センチに厚さに重ね、混ぜ合わせます。

草木堆肥は窒素分が少なく炭素分が多く低窒素となり、かつ、ミネラル分の宝庫です。

 

量では無く品質で勝負するとすれば、消費者の支持を得ることが重要になります。

日本の流通事情では、質で評価を得たい農業者は流通を介すること無く消費者と直接やりとりができる直接販売方式が適しているということになります。

そこで、品質志向の農業者はマーケティング能力(販売ターゲット戦略や戦術・商品開発能力・販売促進を行うための消費者とのコミュニケーション能力など)が必要となってきます。

これは別項で詳述致します。

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.10.22(金)晴れ、最高温度19度、最低温度13度

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               サラダセットの畝

この一畝に7種類のサラダ系野菜が植わっている。

水菜・赤水菜・赤辛子水菜・緑辛子水菜・赤マスタード・緑マスタードルッコラ

です。別の畝では赤ほうれん草とスイスチャート、時にはサラダ小松菜などを一セットとして皆様にお届けしている。農園の定番野菜の一つです。

定期購入のお客様が一週間でおよそ140余名・農園マルシェで60余名・レストラン

10数軒に出荷するのに、この一畝で二週間しか持たない。

そのため、この季節だと二週間間隔で他の畝に種を蒔かねばならない。

農園で人気の高いアイテムなので切らす訳にはいかない。この4番の畑に瞬間的には

4畝のサラダセットの畝を用意しなければならなくなります。

写真で言うと白い不織布を掛けているあたりに出荷途中の畝と併せて4畝見えます。

 

同じように葉物野菜・ほうれん草・人参・蕪類・大根系などの定番野菜は概ね4~5本の畝が必要となります。

これを繰り返して野菜が途切れないように頭の中のコンピューターは常に数えているのです。ただ、みなうまく育ってくれるとうれしいのですが、時には気候や虫害などによりそんなにうまく行かない時の方が多いのです。

 

むかし野菜の四季-Ⅱ

 

「露地栽培の危機」

毎年、異常な気候変化が続いており、特に最近の数年間はその異常さは際立っている。気温は乱高下し、雨は降る月と降らない月が極端になり始めている。

蕪類の球が育たず葉っぱだけ大きく葉を広げているが、球は極端に小さく、すでに莟立ちし始めている。九条葱はまだ3月の初めだと言うのに白っぽく葉の色を変え始めている。例年では4月上旬頃葱坊主が出始めるころに見られる変化です。

以上のようにハウス栽培とは異なり、露地栽培は常に気候変化の影響を大きく受ける。

平均気温が1~2度違えば、野菜の成長は狂ってくる。それが一気に10度近く乱高下する気候が続けば、野菜にとっては迷惑な話であり、伸びてよいのか、縮こまったほうがよいのか、迷ってしまい、結果として異常な発育をしてしまう。

 

昨日、ある県会議員が農園を訪れて有機野菜を育てていた農家が廃業したという話をして帰った。(その農家はうちの農園でノウハウを学び独立していった一人でした)

その農家はこう言ったそうだ。「ある予定の時季に出荷を見込んで育てた野菜が早く育ってしまったり、間に合わなかったり、今までの経験が全く役に立たない。出荷先との約束ももうできない。露地栽培は止めてハウス栽培に切り替えるしか無い。それならもうしない」

有機生産者は市場ではなく特定の流通業者へ出荷している。それはいつ頃何をどれくらい

出荷するといった約束事で成り立っている。それが守れなくなったことは生産者にとっては大きい。

 

当農園は農協も含めて流通へは一切出荷をしていない。

全て飲食店や個人消費者などの定期購入顧客や農園マルシェなどで直接販売している。

そこには規格・均一・出荷時期などの制約は無い。常に畑での出来あいの野菜を届けることで成り立っており、サイズは大小様々、見え形は不揃い、虫食いの痕も時季によってはひどいものもある。自然栽培ですから揃っている方が不思議なのです。その代わり、美味しさ・食感・味香り・栄養価などは数倍以上あり、それを評価して頂く消費者との信頼関係が全てと言うことになります。

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3番の畑(左から白菜・キャベツ・露地ニラ・秋の菜花・ほうれん草・大根)

 

それでもこの異常な気候変動による影響は大きく、年間百種類以上の野菜を作り続け、全国のお客様に15種類以上の野菜を定期的に届け続けねばならない。

野菜の安定的な生育が見込めねば、アイテム数の不足と量の確保が難しくなる。

土作りを行い無肥料で育てる自然栽培では、野菜の成長は遅く、気候変動や害虫被害などの影響を受けやすく生産リスクの塊となる。

それに加えて露地栽培には端境期というものがある。ハウス(施設)栽培では加温ハウスも含めて季節を調節できる。わかりやすいのはトマトやイチゴなどです。

トマトは夏の作物でしたが、今では秋・冬の野菜となっています。野菜に旬が消えてしまっています。

露地栽培では気温や天気を調節できませんので季節に順な作物しかできません。植物の種子は元々それが生まれた地域に即した遺伝子を持ち、その野菜にあった気候で育つものです。さらに寒暖の差・雨・風・太陽などの自然に晒され、淘汰され生き残った植物だけが成長します。ですから、季節に順な作物は美味しく栄養価もあるのです。これが旬菜です。

ただ、最近の10年間の露地野菜達は気候変動が激しくいささか戸惑っております。

そこで、当農園では絶えず変化する気候に合わせて数年前から捨て植えを行っている。

例えば、出来るかどうか不安の残る野菜は種蒔き時期をずらし、2~3週間置きに植え込むようにしている。そうするとどちらかが上手く行くという目算です。

ただ、両方とも上手く育ってしまうと野菜がだぶつくことになってしまう。その場合は、増量された野菜が定期購入者(仲間たち)に安価に配られ、農園には出荷手間が

かかるが、お客様は喜ぶ。せっかく自然からもたらされた野菜ですから・・

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          3番の畑(晩秋の定番野菜セロリ)
除草後、草木堆肥の追肥を施し土寄せを完了したセロリの畝。2番の畑にも植わっている。2・3番両方の畑とも草木堆肥歴は15年を超えており、農園主力の畑。

 

欧州では国家が露地栽培農家を手厚く保護している。

例えば、一ヶ250円のキャベツを出荷すれば、同額の支援金を受け取れる。但し、

ハウス栽培には補助金は出ません。利益を追求する商業的施設栽培であるからです。

欧州においては国民の意識の中に、露地栽培農家が「食の確保と国土を維持管理して

くれている」と言う考え方があるからです。

果たして日本の国民にそのようなコンセンサスが得られるでしょうか・・・!

 

日本の場合は露地栽培には支援金は0ですが、ハウス栽培には規定の条件(作物指定等)を満たせば、農協を通して30%前後の補助金が出る。施設には多額の費用が掛かると言う理由のようです。(ただ、この補助金にはがんじがらめの制約が掛けられ、

農家の自由さは一切無いため、この補助金を受けた農家は次第に追い込まれていくことになる)

中山間地を多く抱えている日本の農地は狭く生産効率が悪く手が掛かる。農業離れが

進み、地域から子供の声が消えつつある。それでも日本の食と国土を守ってきたのは、

地域の農業者達でした。膨大の水路や豊かさの象徴であった田園風景を維持する農業者が居なくなれば、中山間地は荒れ果て、雑木が生い茂り鳥獣の住処となり二度と元に

戻すことはできないでしょう。

近い将来、世界が自国の食料確保に走る時、日本では食べるものはすべて海外から得られることになるのでしょうか?

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     日曜日開催の農園マルシェにて販売しているピロシキ