むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.5(日)晴れ、最高温度12度、最低温度4度

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              ビニールトンネルを張る

 

今年最初のトンネルを張る。人参と白菜が第一号となった。

11月下旬頃から寒気が強まったというものの、例年よりは遅いトンネル張りでした。

12月の中旬頃にかけて寒さが収まり、暖冬の気配すら漂う。

一気にビニールトンネルの白一色の畑とはなりそうもない。

 

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                 大豆の脱穀

およそ半反の畑に植えていた大豆を脱穀しているところ。30キロくらいしか採れなかった。庄内の大豆はいまだ乾燥し切れておらず、年末から初春に掛けての脱穀作業となる。今週はその大豆を収穫した圃場に麦を蒔くため、草木堆肥を振りに全員で出向くことにした。

 

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研修生達がレイキ(熊手のようなもので畝を均している)を掛けているところ。

このところ、毎週誰かが農園に訪れ、農業体験やら研修を行っている。

彼らに作業終了が声を掛けると、みな「楽しかった・清々しい」との評価。

一日弁当を持ってきて、露天で農作業をすると日常とは異なり、思い切り開放感に

満たされるようだ。手取足取りで教える方は大変なのですが・・・!

この中から、未来の自然循環農業の担い手が出てくることを祈る。

 

むかし野菜の四季-2

2. 自然栽培(低窒素栽培=完熟野菜)

 

自然栽培という公の言葉はありません。有機栽培と区別するために他に呼び方が無くこのような表現を使っただけで、あえて言うなれば、むかしの有機農法です。

有機・無機を問わず、現在の農業は肥料栽培です。これに対して自然栽培は根本的に異なります。肥料も無いむかしの農業は草・葉っぱ・木(柴)に人糞をかけて、1年がかりで発酵させた堆肥を使って土を育て、その土の力で野菜を育てていました。

当然に肥料とは違って土壌の中に窒素分は少なく野菜が育つ土を作るのに、数年以上、あるいは、数代をかけていましたから随分と労力がかかっていたのですね。

この昔の農法を破砕機やタイヤショベルを使って発酵が早く進むように改良し、現代に復活させました。機械を使ったからと言っても労力や手間が掛かることには変わりません。

ちなみに牛糞と藁を混ぜた堆肥は厩肥と呼ばれており、畜糞と草・藁・おが屑などを混ぜたものも堆肥と呼んでおりますが、いずれも畜糞(窒素分が多く)が多くN/C比が高くなり肥料に近いものとなっているようです。ただ、これらも数少なくなってきており残念です。

 

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         草木堆肥歴20年の2番の畑の一本葱

12月頃になると、この畑で育った一本葱は直径4センチほどの太さに育ちます。

他の圃場ではこんなに太くはなりません。土の力ののですね。

白根の部位は素揚げや焼き野菜として、葉の部位はてんぷらや煮物に使います。

甘いと言うより極上の果物を食べているようで味が深いのです。

 

「土を育てる」

 当農園の自然循環農法の特性は肥料は使わず、草木堆肥しか畑には投与しません。

肥料は野菜を育てますが土は育ててはくれません。草木堆肥は土を育て、育った土が野菜を育ててくれます。

肥料分(窒素)が無いと野菜は育たないのではと疑問を抱く方も多いかと思いますが、その仕組みは以下の通りです。

完熟一歩手前の草木堆肥(微生物や菌類が活性化したままです)を年間3~4回施肥すると、野菜収穫後も土中には微生物分解されなかった有機物残渣が微量ながら残り、それを食料として残っている微生物や菌類も生き続けます。

さらに野菜の収穫を終えた畝にまた草木堆肥を振り、直ちに次の野菜を植えます。一つの畝に年間3~4種類の野菜を植えますので、その畝には新たな草木堆肥とともに新たな微生物と菌類が加わります。その結果、土壌には炭素分の多い草木堆肥の残渣が残っていきます。これを餌として菌類・微生物が棲み着きます。つまりは、菌類等によって土が耕されていく訳です。これを繰り返し、畑は生物相豊かな持続(再生)可能な圃場となるのです。

 

窒素分の多い畜糞・米糠油粕・魚粉・動物の内臓などは微生物等によってすぐに分解され、窒素肥料として野菜等に吸収されてしまい、有機物残渣は残りにくいのです。

草木堆肥を施肥し続けると3年を経過した頃から土が約10センチの深さまで出来上がっていきます。(一年間でおよそ3センチ団粒化が進みます)

この土の成長は団粒構造(粒々の土の粒子)となって表れてきます。土の粒子の中には水分・空気・肥料分が蓄えられ、それぞれ、保水力・保気力・保肥力が備わってきます。これが肥えた土ということになります。

他より購入してきた有機堆肥や肥料は何が混じっているか分かりませんので、むかしの有機栽培農家は自らの手にて堆肥や有機肥料を作っていました。最近では、ほとんどの有機農家が他から購入しているのは残念です。

変な話ですが、草木堆肥が底を尽き始めると急に貧乏になったような気がしてきます。

腐葉土化した葉っぱや破砕屑を見ると、美味しそうと思ってしまい、気持ちはほぼ菌類や微生物と同じです。

草木堆肥を使った自然栽培では、N/C比(窒素と炭素の割合のこと)が低く、土が育つまでに最低2年~3年を要します。その間は土中に有機物残渣が少なく、当然に微生物層も育っておりませんので窒素分の供給が圧倒的に少なく、野菜は思うように成長しません。

元々の土壌にもよりますが、2年を経過してようやく根の浅い葉物野菜が育ちます。

今まで化学肥料(畜糞も同じ)や農薬・除草剤を使用してきた畑は微生物や菌類が育っておりませんので、土が生き返るのに3年を要します。逆に長年放置されてきた畑には生物層ができており、雑草の種子は多く残されてはいるが、草木堆肥施肥によって化学肥料を使っていた畑よりは1年早く土はできあがります。(その代わり3年間は除草作業に悩まされ続けます)

 

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畑に草木堆肥を振っているとどこからか蝶々が飛んできます。
堆肥に含まれた甘い養分を吸っているのですね。自然界は不思議なことばかりです。

農人は作業を中断し、蝶々にその甘い蜜をしばし吸わせております。

 

むかし野菜では、草木堆肥歴3年以上目安として赤ラベルとし、3年~5年未満を銀ラベルとし、5年以上経過した圃場を金ラベルの土と評価していきます。どのラベルで育ったかによって、当然に野菜の価格にも反映されます。

10年を経過すると団粒構造は30~40センチの深さまで達しております。その土の上を歩くとバウンドしてきます。こうなると、何を栽培しても上手くいきますし、野菜は美味しい。土は最早プラチナラベルです。

草木堆肥をたくさん施肥すると土が早くできあがることはありません。生物相形成には年月を要するのです。日本の先人達は何代も掛けて土を育てていたのです。ちなみに当農園の2番の畑は草木堆肥歴20年です。鍬を入れるとまるで砂をすくっているようで、草取りも鍬打ち作業も楽です。

何の野菜を植えても良くでき、至上の味香りがして美味しいです。ちなみに、味香りのよく分かる人参・セロリはそのプラチナ級の畑をメインにしております。うちのお客様からは人参は・セロリはまだですか?と一番人気です。

 

団粒構造の土

銀行員時代、再建出向したときの話ですが、広大な遊休地にハーブ園を作ることを計画しました。

ものの本によると、ハーブを育てるのに適した土とは「保気力があり、保湿力があり、保肥力がある土」とありました。そんな魔法の様な土はどうしたら出来るのか?当時全く見当も付きませんでした。

農園を開いて草木堆肥を施肥し続けて数年経過し出来上がった土、それが団粒構造の魔法の土でした。

団粒構造の土は小さな砂粒を寄せ集めたような土です。有機物残渣・微生物の死骸を核として、土が粒状に固まった状態のことを指します。土に肥料を与えずとも有機物残渣とミネラル分豊富なその土が野菜を育ててくれます。森の腐葉土と似ています。

団粒構造の土には小動物・小虫・微生物・菌類が棲み着き一定間隔で有機物を与え続けると、絶えず進化していきます。そこには自然循環の仕組みがあり、持続可能な農業に繋がっていきます。