農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2020.6.10(水曜日)曇り、最高温度27度、最低温度18度

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新たに加わった M さんにトマトの剪定誘引作業を教えている。

農業は全く未経験ではあるが、畑で働くことが新鮮であるようで

楽しいとおっしゃっている。

ならばと、週2日程度のパートさん扱いで、目下農業の特訓中。

農業はひたすら無心に野菜と、畑と向き合う日々。

野菜から癒やされ、畑仕事はやったことの結果が見えるのも

また楽しい。作業によって整理された圃場の姿が美しい。

唯、作業を終えて家庭に帰れば奥様としての現実が待っている。

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農園は梅雨前の追い込み作業にて毎日夕方8時過ぎまで除草・

剪定誘引作業に追われている。体は重く疲労が溜まっている。

それでも農園主となるには、それなりの覚悟が必要です。

誰も褒めてはくれないし、仕事の過程は評価されず、結果を

出さねば生きてはいけない。

この繰り返しで、自立した農業者になっていく。

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草木堆肥に集まる蝶々の群れ。甘い香りに誘われたのでしょう。

 

2020.6.9 草木堆肥の作り方

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今から18年前、農園を開いた頃、草を刈り、葉っぱを林の中

から集めてきて、牛糞を2トントラックで一台分もらい、

借りたばかりの二番の畑で、フォークを使った手積みで草木

堆肥を作っていた。

全てが手作業で、腰に来て、重労働であったことを思い出す。
発酵させることが難しく、随分と試行錯誤を繰り返していた

ことを思い出す。

発酵は微生物や菌が活発に細胞分裂、つまり、増殖することに

よって起こる。
そのためには、空気(酸素)と水が必要であり、水分が多すぎる

と嫌気性菌が増殖し易くなり腐敗発酵(ドブ臭)となってしまう
好気性菌の増殖が発酵であり(味噌醤油のような甘い香り)、

適度な密度と水分が必要であり草木の密度が低いと中々発酵して

くれない。

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先ずは、草を刈り取り、あるいは、除草作業によって出た草を軽トラで集めて回り

溜めておく。その草を厚さ10~15㎝に均等に広げる。この作業もきつい。

 

第一次発酵は70度までに温度が上昇し、あまり高温になると

今度は菌が死んでしまう。唯、温度が上がらない場合は酸素が

不足している場合が多く、ひっくり返してやる必要があると

言う風に中々に難しいものである。
一次発酵が終わると、切り返しを行い、酸素を入れてやり、

二次発酵を促す。
ここで問題なのは、教科書通りに三次発酵を行うと、完全発酵の

堆肥となってしまい、単なる肥料になってしまう。

私が自然循環農業を始めた頃、多くの学者は不完全発酵の堆肥は

土壌は窒素飢餓となり、作物が育たなくなると言うのが定説で

あった。
それでは、堆肥としての意味が無い。草木堆肥は、活発に活きて

いる微生物や放線菌が、土壌の中で有機物残渣を食糧として増殖

することによって土を育てる(耕す)。
私はそのことに気がついており完熟発酵一歩手前の状態で畑に

施肥していた。
18年経過した今では、およそ60%以上の学者が完全発酵では

堆肥としての意味が無いと主張しはじめている。

ようやく学説が農業現場に追いついてきた。

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次に、繁殖牛の牛糞を広げた草の上に厚さ3㎝程度に敷く。

牛糞独特の鼻にツンと来るようなアンモニア臭の匂いがほとんどしない。

これは牛を産ませるためには、栄養価の高い配合飼料の餌を多くは与えず、

牧草を牛の主食としているからです。

肥育牛は肥え太らせるために、配合飼料を多く与える。

配合飼料(99%はアメリカからの輸入)には、除草剤・薬品・ホルモン剤

そして、最も問題の抗生物質が大量に含まれている。畜舎で病気が蔓延するのを

防ぐために菌を殺す抗生物質を投与する。

 

 

残念なのは、今では、ほとんどの有機農家が堆肥を他所から買っ

てきているか、若しくは畜糞を畑に施肥していることが多い。
私の有機の先輩は、このように話していた。

「何が入っているか分からん堆肥?を他所から買ってきて有機

農家であるなどと言っているのは、有機の語りだよ」と・・・
確かにその通りである。まして、畜糞を使っているからと言って

有機野菜だと言うのも可笑しな話ではある。
これも有機JAS法(有機物なら何でも良い)を制定した日本の

大きな過ちとなっている。
悲しいのは、現在、草木堆肥の作り方も知らない有機農家が

ほとんどであることである。
作り方を教えても、余りにも労力が掛かるため、皆、敬遠して

しまう。
当農園では、化学物質・抗生物質を畑に持ち込まないため、

草木堆肥しか使っていない。
牛糞は発酵促進剤として使ってはいるが、この牛糞は繁殖牛の

ものであり、飼料のほとんどが草である。肥育牛のように抗生

物質や薬品の入った配合飼料を与えていない。
ちなみに、抗生物質は、悪性耐性菌によって家畜が病気になら

ないように配合飼料には必ず入っている。しかも大量に。
その抗生物質が畜糞と共に畑に施肥されると、微生物や菌は

死滅してしまい、畑は不毛の大地となってしまう危険性が高い。
さらにそうした畜糞は高濃度の窒素肥料となり易く、土壌は

むしろ窒素過多となり、毒素である硝酸態窒素が多く含まれた

農産物となってしまうこともある。
学者の一部からは、「有機野菜が危ない」との声が上がっている

のはこう言った現実があるからです。

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最後は、剪定枝の破砕屑と葉っぱを敷き、草・牛糞・葉っぱの三層に重ね、

ラクターで混ぜ込む。何故草木堆肥に、葉っぱや破砕木屑が必要かというと、

ここには、計測不能な種類の多様性のある微生物や菌類が棲んでおり、有機物を

餌として増殖してくれる。

さらには、生命体に不可欠なミネラル分がバランス良く含まれているからです。

木は地中深く根を張り、マントルの中に多く存在しているミネラル分を絶えず

吸収して育っている。

草木堆肥は科学的知識も無かった日本の先人達の経験から学んだ叡智です。

有機野菜は農薬を使っていないから安全である!ではなく、

どのような土作りが行われているのかが、実は問題なのです。
日本の先人達の時代には、肥料と言えば人糞しか無かった。

人糞もそんなにあるわけでは無く草木による堆肥を作り、土を

育ててきた。畑には化学物質も存在せず、野菜はみな美味しく
栄養価が高かったし、何より健全であった。

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