美味しい野菜(旬菜)が無くなる

2023.10.28(土)晴れ、最高温度23度、最低温度16度

野菜を食べて歯切れが悪く味や香りを感じなくなったことに気がついた方はおられないでしょうか?

その主な理由は過度な肥料栽培と温室栽培が多くなったからです。有機・無機を問わず肥料栽培やハウス栽培全盛の時代のアンチテーゼとしてうまれてきたのが露地・自然栽培と言う農法なのです。

 

(完熟野菜とは)

現代の農業は成長が早く均一な野菜を多量に得ることに主眼があり、美味しさとか栄養価とか安全だとかの野菜の品質を重要視していない側面があり、窒素過多となりやすい肥料栽培に偏っています。

慣行栽培では通常作物を植えた直後に化学肥料を2~3回施肥し、野菜の生育状況を

見ながら追肥を施しています。有機栽培では鶏糞・豚糞・牛糞の他に米糠・油粕・魚腸・骨粉・海藻・食品残渣などの高窒素肥料を使っています。即効性及び窒素分が多いと言う意味では化学肥料と大差ないのです。

野菜は窒素分があればあるだけ吸収しようとする性質を持っており、いずれも窒素過多の土壌となり成長し続け完熟しません。化学肥料であれ有機肥料であれ土中の窒素分の調整は難しいのです。

 

野菜は土中の窒素分の供給が無くなると成長が止まり、内部に蓄えられた炭水化物やデンプンを分解し、糖分やビタミンに変換し、自らが生き残るためのエネルギーとします。これが完熟野菜の原理です。

完熟野菜となるポイントは成長を終えたあるいは終えつつある野菜の状態にすることです。

生物学の本を読んでいて気になったのは如何にして土中からの窒素供給を止めるかと言うことでした。

そのヒントは窒素肥料の無い時代に日本人が行ってきた土作りにあり、自然界に沢山ある草・柴・葉などの有機物であり、低窒素である草木堆肥を使った土作りのむかしながらの自然循環農法でした。

それでは土壌と野菜完熟へのメカニズムについて御説明致します。

    草・放牧牛糞・剪定枝屑を三層に重ね、混ぜ込んでいる処

 

(草木堆肥により育てられた土壌と野菜完熟へのメカニズム)

(施肥後一ヶ月)

当農園では完熟する一歩手前の未完熟堆肥を使っています。その未完熟堆肥には分解されていない草・葉・木屑が多く残され、その餌に取り付いている菌類や微生物が草木堆肥に含まれている窒素分を吸収して増殖を繰り返します。そのため、草木堆肥は施肥後の一ヶ月間は窒素の供給が極端に少なくなります。

窒素危蛾

多くの学説は20年前では未完熟堆肥の施肥は窒素危蛾を招くため使ってはならないと言っておりましたが、現在はおよそ半分くらいの農学者が完熟堆肥は土を育てるには意味が無いと変わってきております。

完熟した堆肥は肥料にしかならないからです。実践は知識に勝ります。

草木堆肥を施肥後、直ちに野菜の種を蒔き、当初の約一ヶ月間、野菜は目に見えるほどは育っていないように見えます。実はこの間、野菜は芽を吹き、根は土中の少ない窒素分を求めて一生懸命に鬚根を張り、野菜の基部も太くなり、成長の土台作りをしているのです。窒素分の多い土壌では鬚根の発育は必要が無いのですね。

 

(施肥後二ヶ月)

草木堆肥は施肥後の二ヶ月くらいが窒素供給のピークに達します。増殖が一段落し、草木から窒素の供給が始まり、同時に一部の菌類や微生物は死に、内に蓄えた窒素分などを土中に放出するからです。

野菜は根を張りめぐらせ土台をこしらえた段階で一気に成長を始めます。実や葉肉は厚く、茎は筋を張らず太く育ちます。他方で急成長した野菜は倒れないように筋を張り実や葉肉は薄いのです。

 

(施肥後三ヶ月)

野菜を植えてから二ヶ月後、土中からの窒素供給は減少していくと、成長酵素であるミトコンドリアも減少し野菜の成長が止まり始めます。野菜は次第に完熟過程に入っていきます。

野菜は成長が止まると、生き残るために内部に蓄えられて炭水化物やデンプンを分解し、糖分やビタミン類に変換して生きるエネルギーに換えます。これが完熟の仕組みなのです。

種には胚芽に親から引き継いだ栄養素を内包しており、発芽するための養分が蓄えられています。

その養分を出し切らないと歪な成長をします。そのため、種が発芽する際には土中に栄養分が無い方が良いのです。むかしは稲などを育てる際に栄養分の少ない赤土を使っていました。

 

 

私は有機肥料を排して草木堆肥を使った土作りの農法に切り替えた際、菌類・微生物と野菜の完熟作用とのメカニズムに驚かされました。これは約10年やり続けてきた実践の中で見つけたことです。

如何でしたか?少し難しいとは思いますが、成長し続けている野菜を食べても栄養価は少なく、完熟した野菜の方が美味しく栄養価が高いのを納得していただけましたでしょうか。

作物を植える度に草木堆肥を供給し続けますと、有機物残渣が残り微生物・菌類の餌が少量ですが常に残っている土壌となり、土は肥えていくのです。

このようにして自然栽培では年々野菜が美味しくなり20年も経過しますと、収量は慣行栽培よりはるかにに多くなるのですね。先人達の偉大さに気づかされ、数百年以上行ってきた農業の中に真実があったのです。

次項では、草木堆肥とミネラル分について述べたいと思います。