農園日誌Ⅱー「活きること」PART25

2019.7.10(水曜日) 雨、最高温度26度、最低温度18度

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             梅雨の中休みの夕暮れ時ー夏野菜達

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 今年、あちこちから電話が入る。
「茄子の様子が変だ」「どうしても茄子が育たず、生き着いている」「何か方策は無いか」など。
ご覧の通り、当農園でも茄子に最適の圃場でもこの通り。正に生き着いている。
農業を始めて、実験農園から通算して25年が経過した。
それでも毎年の気候の変動や異変は尽きない。この茄子も同じである。
その原因が分からないため、方策が打てない。
土は固くしまって酸欠になっているわけでも無く、雨不足のため、梅雨の長雨で蘇ると思っていたら、ますますひどくなってきている。
インゲン・胡瓜・ズッキーニなどの初夏野菜や盛夏の野菜であるトマト・ピーマン系も順調に育っているのに、何故に茄子だけが悪い。
何年やっても農業は分からない。

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大豆は少し時季は早いが、およそ4.5反に種を直播きした。
例年であれば、大豆の蒔き時季は7月中旬頃、この時季は梅雨も終わり水分不足で育たないこともしばしばであったが、今年は梅雨の入りが遅れたため、梅雨の真っ最中に何とか種が蒔けた。
今年は、雑草対策さえ施せば、去年のように坊主と言うことにはならないだろう。

{活きること」PART25

2018.5.2  軽トラ販売
 
 東京において、マルシェ販売を行っている会社がある。二年ほど前から週に二度ほどそこへ野菜を送ってきていた。関東では、野菜のマルシェ販売がブームになっている。
土日のみの販売でとても採算に乗るとは考えられないので、こちらも半信半疑でお付き合いをしてきた。
当農園もメイン市場は関東であり、全国定期購入のお客様の50%が東京・横浜・埼玉に集中していた。
そんな中、その会社でメインの立場にいたH君から、会社の運営を巡り社長と意見が合わず、独立したいとの申し出があった。
かれは取り組み姿勢も前向きで、実にまじめに働く青年であり、当農園も支援の方針を固めた。
東京はショップの大型化が進み、地域の小さなスーパーは全てその波に飲み込まれていき、車を持たない人達の買い物難民化が進んでいた。
そこで思い立ったのが、機動力のある軽トラックでの野菜及び海産物(干物等)販売であった。
農園主がイメージした販売方法は、最寄りの中小型スーパーが配転し、買い物に不便な大型団地の公園
や車止めの空き地に毎週定期的に訪れ、固定顧客を付けていくと言った地道な戦略であった。
彼とは、一年間、独立採算が取れるまで、当農園が一定の手当てを出し、軽トラックも買ってあげ、早速に動いてみることで話がなった。

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H君はすっかりうちの孫達と打ち解けて、固い決意を込めて東京へ帰っていった。皆の期待とちょっぴりの不安を載せて、結いの屋号で旅立っていった。
 
ネーミングは意見を出し合って、「結いの屋」とすることになった。
 
やがて、3ヶ月が過ぎ、一週間に2回、箱一杯、合計2万円ほどの野菜を送った。収支採算が成り立つには、週に少なくとも加工品も含めて10万円の野菜を売らねばならない。
彼からは中々良い報告が届かず、お客様を掴まえ切れていないようである。
麦類・漬物・味噌他の加工品についても冷蔵保管が難しく、野菜以外の商品ラインの展開もはかばかしくできないようだった。
 
今まで、彼は、大きなマルシェ展開の場、つまりは、イベント販売には慣れていたが、個別にお客様を開拓していくことの経験はなく、個人にて売ることの難しさを痛感していったようだ。
また、彼がようやく捉まえた販売拠点が彼の自宅から遠く、ガソリン代などの経費ばかりが嵩み、半年を経過したあたりから、著しい伸び悩みが見え始めていた。当農園のスタッフ達との溝も徐々に広がっていった。
 
そこで、彼に問いかけた。
団地の空き地や公園の片隅での拠点作りはどうか?と、彼の回答はこうだ。
東京と言うところは、公園の車除け地などに駐車していると、すぐに近隣の方から通報が入り、すぐに立ち退かねばならなくなり、半商業地の事業所などの駐車場を借り受けると、一回当たり1万円の駐車代金を後に請求された。東京では、そもそもが、空き地に車を置いて何かの販売行為をすることはもはやできなくなっている。
 
東京での人気のファーマーズマーケット(マルシェ)への出店はどうか?と聞くと、農園主の勧めで青山通りのマルシェを尋ねていくと、そこでは、野菜もあるにはあるが、多くは花屋さん・雑貨店・惣菜店弁当屋が主体となっており、イベント販売に変ってしまっている。
そこに出店する意義は感じない、とのこと。
 
これらの情報を総合的に考えていくと、こうである。
①東京では、行政の規制強化が進み、自由なマーケットとは遠くなってお
 り、住民の意識も実に無機質で、公園横にでも駐車しようものなら、すぐ
 に通報されてしまうなど、暖かみや寛容性を感じないものなっている。
②野菜も含めて食品に対する意識が高い消費者も居るに居るようだが、大多数の消費者は安売り販売や珍しい商品にのみ目が行き、野菜の美味しさや安全性を見極めることに慣れていない。
意識の高い方々への接触は、軽トラは販売では、極めて可能性に乏しいようだ。
 
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虚しく帰ってきた結いの屋号、この車の使い道は果たして如何に?
大分でのイベント販売に使うことになる。

東京のマーケットは、自然栽培の野菜の評価と支持率は低く、値段が高いと言う方が圧倒的に多く、美味しいと言ってはくれるが、その野菜等の価値や意義を認めてくれる人はやはり少なく、かなりの難しさが出ている。
野菜だけで人を集めていくことは難しく、東京の有名八百屋さんすら、惣菜店及び弁当店に変わっていっているようだ。マーケットも大型化するに連れ、野菜の専門家がお客様と遣り取りをし、コンサルを受けながら、野菜を買い求めると言う習慣から、「安近短」化が進み、会話することも面倒に成り、人と人の触れあいを無くして行っている。
となると、日本では、欧州のような農産物の健全性・ナチュラルさを前面に出した農園マルシェが定着することはかなり難しい市場環境にあるのかもしれない。日本では良質で健全な食を手に入れようとするオーガニック市場の形成は難しくなっていると言わざるを得ない。

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    むかし野菜の邑の農産物及び加工品の直売所

 
このようにして、残念ながら、むかし野菜の邑の農産物、東京への進出の試みは、中止にするしか無かった。H君には無理を強いた形に終わった。
それでも彼に事業の立ち上げの困難さを経験させたことは、彼の将来の財産になることを祈る。
唯、真に健全な農産物を作り続けることは、販売において、相当に付加の掛かる市場啓発・啓蒙活動をやり続けねばならないということになる。
これは農産物に限らず、品質の高い「ものつくり」や専門家及び職人の育てにくい市場環境になってしまっていることが実に気がかりとなる。