農園日誌ーグループ営農への試みー所有権の意味

28.1.20(水曜日)晴れ、最高温度8度、最低温度ー1度

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               畑は極寒期を迎えて深く休眠中に

今季で一番の厳しい寒さを迎えており、農園は種蒔きもできず、しばらくは稼働せず、極寒が通り過ぎるのをひたすら待っている。
出荷野菜は今まで植え込んできた野菜で凌いでいる。
その間、堆肥場に山のごとく積み上げられた剪定枝の選り分け(枝と葉っぱを分ける)と枝の破砕作業が始まっている。
農園スタッフ達は出荷作業をしており、午後から一人、黙々と選り分け作業を行う
今では8人のスタッフがおり、共同作業を行っている。
農業を始めたころはこの時季、毎日寒風が吹く中、一人で黙々とこの作業を行ったなと、作業をしながら思い出す。
農園を開いた当初は、真冬、溜めていたドラム缶の中に厚い氷が張って、それを掻き出しながら素手で野菜を洗っていたな。小屋もなく、水道電気もまだなかった。
夫婦でお客様に頭を下げながら、野菜をお配りしていた。

今ではレストランも含めて、250余名のお客様(仲間達)への全国発送となり、こつこつと積み上げてきた土作りの歴史があり、何より、仲間よりの信用と信頼がある。
最近、Mマートというネット市場の担当者から、再三再四、電話が入り、何とか、
ネット市場(飲食店専用のネット)への参加ができないだろうかとの勧誘である。
それこそ、今でも手一杯であり、一般のレストランではうちの野菜は使いきらないでしょう、と再三再四、断るが、それでもめげずに今日で5回目の電話が入る。
最後には何故そんなに熱心にお誘いになるの?と質問したら、

「佐藤さんのように、ひたすら土作りに力を注ぎ、美味しい野菜と年間100種類
以上の野菜を作っておられる農園は全国にも無いのです」
「Mマートの(業務用)の中には、そのような野菜を探しても見つけ切らないお客様も多いのです」「是非お願いいたします」
その熱心さにやや心が動き、「研修生を去年卒業した販促担当の後藤君とよく協議してください」と答えてしまった。やや後悔の念が・・・


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開墾から二年目の8番の畑に小麦を蒔く。
麦踏みの時季が来ている。
昨年は大豆を作り、
今年は麦と、草木堆肥を振り、野菜が育つ土になるまでに、後、
一年はかかる。
土つくりに3年、その間は、穀類を育て、3年を経過したら漬物用の野菜つくりを行うことになる。
ほぼ満足のいく野菜が育つ圃場になるには5年は必要。この自然循環農法では、
正しく土つくりの歴史でもある。

今年から、三人の若者たちが佐藤自然農園から巣立っていくことになる。
それぞれの自分の途を歩むことなるのだが・・
新規に圃場を借り得たとしても、そこから土つくりが始まる。
むかし野菜として出荷できるまでには、最低三年間、ある程度の価格が付けられるには五年間という年月がかかる。先ずは穀類生産を行い、ひたすら土を育てる。
その間、彼らは、自分の圃場からの収入はまったくか、若しくはあまり望めない。
化学肥料や牛糞などを投下していけば、即、若しくは二年間で収入は得られるが、
我々のグループでは、その品質では認めない。
当然に買い叩かれる農協への出荷とならざるを得ない。

私の考えているグループ営農の仕組は、土つくりの間は、むかし野菜のチームとして佐藤自然農園の圃場で共同の生産活動を行う。
そこでは自分の圃場であれ、他人の圃場であれ、等しく農作業に従事し続ける。
むかし野菜の邑にグループ内の全ての農産物が集められ、そこから全国の仲間達へ出荷を行うことにしている。
そのため、皆は生産・出荷作業に携わり、そこから得られた収入で明日の糧を得る
という仕組みとなっている。
結果として、むかし野菜の邑はグループの基地として、母体として、参加者全員への分配機能を果たすことになる。
そのことにより、安全で、栄養価の高い、美味しい、高品質の野菜・穀類・加工品が揃うことになる。
と同時に、年月と手間のかかる高品質な野菜生産を始めようとする新規就農の若者が育ちやすい環境が整うことになる。
佐藤自然農園が彼らの父とすると、むかし野菜の邑は彼らの母となる。

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南君が今年初めて、
借りた由布市挟間町の圃場
先ずは小麦生産から
スタートする。

彼は平飼い・有精卵
自家製飼料(自然農の穀類など)の養鶏場
を持つのが希望。
当然に彼は穀類生産が主力となる。


平飼い・有精卵・自然農の自家製飼料の養鶏は簡単ではない。
100羽程度であれば、また、趣味であればできるであろうが、500羽~1000羽となると、自家製飼料の確保が最も困難であり、一農園ではとても無理な話である。
そこで、グループ内の全員に穀類生産を義務付けることにならざるを得ない。
同時に、その穀類はむかし野菜の邑での加工品(味噌・黄な粉・万頭など)になっていく。

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後藤君が二番目に
借りた同じく挟間町の
圃場。
土つくりが遅れ、今年になってから小麦の種を蒔いたため、織布をベタ掛けにして発芽を
促している処。
し残った圃場は来年
大豆を蒔く。
彼は、野菜つくりが希望であり、佐藤自然農園の近くに別途畑を
確保している。

最後の竹内君(三年間、当農園にて研修)は、グループの中核農園である佐藤
自然農園を守り広げていく役割を担う。当農園がこけると皆が路頭に迷うことになってしまう。今後入ってくるであろう新しい研修生の指導も行わねばならなくなる。

やがて、佐藤自然農園も含めて今後開発していくみんなの圃場の農作業や施設作りを共同で行っていくことになる。
一人農業の辛さは今の若者には不向きであり、おそらくは、「心が折れる」ことになるであろうことは容易に想像できる。

この「結い」の概念を持つグループ営農の考え方は、一つの共同体であり、相互扶助の仕組みでもある。但し、ここで最大の問題、若しくは課題となるのが、資本主義の元にもなっている「所有権」という概念である。

「会社は誰の物」
むかしから論じられてきたことではあるが、私が銀行員時代、多くの事業再生事案に取り組んできた際、最も困難を極め、かつ、苦しめられた一つがこの所有権であり、自分の物という考え方であった。
事業再建中は神様・仏様・佐藤様が、ようやく苦労して事業が再生しかかっていくと、一族が顔を見せ始め、やがて、鬼の佐藤、乗っ取りの佐藤となじり始める。
人の欲には際限がない。欲の争いや葛藤が動き始めるともはや収拾がつかなくなることをよく知っている。
そこで、最後に私はこのように言うことにしていた。

「会社という言葉を分解すると、社(やしろ)に集う(会う)と書く。つまりは、そこで
生きているみんなの物であり、決して個人や同族の物ではない」と・・・

農業の世界は会社以上に、その農地については、「自己所有」の概念が強い。
農地法はその典型的な例であり、むかしから一子相伝の世界であった。
このことが農業を継がない子孫が急増し、今の農業壊滅の一つの大きな要因ともなっている。

今日、出荷作業を終えて、男子3人を残し、このように伝えた。
「私のグループ営農の理念には、所有という概念は無い。あるのは、占有という概念のみである。養鶏場の経営も、新たな圃場の経営も、俺の物と言った考え方は捨ててほしい。だからこそ、何の疑問もなく共同作業ができるのであって、助け合うことができるのです。今から数年間は佐藤自然農園を中核としたむかし野菜の邑が皆を助けていく。それに何も恩を感じることは無い。
当グループの占有という概念は、同時に自立するという意味であり、なるべく早く
自立し、次にこのグループに加わってくるであろう新規就農者を、今度は皆が
支援し、補助してやる番である。その役割を果たすのが貴方たちの仕事となる」

と言って、各々の事業設計や事業計画書の作成を一か月以内に行うことを指示する。そこに自分たちの将来の図を描かせることにした。

先のMマートの話に乗ろうとしたのも、大きな課題を課して、小欲を捨てさせ、もっと
大きな欲をもたせることにしたからであり、このグループ営農を根付かせることは、
かなり難しい作業となり、困難なことかもしれない。
それでも、世界の中で、当然に日本の中で、新たな変革の時代を迎えようとしている、というより迎えざるを得ない状況になりつつあることは予感させられている。
皆様はどのようにお感じなのだろうか・・・