農園日誌ー本物の野菜願望の時代到来?

28.8.10(水曜日)晴れ、最高温度35度、最低温度26度

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草を広げ、牛糞を敷き、葉っぱや破砕した木屑を三層に重ねる草木堆肥作りの風景

 先日、ショルジュマルソーのオーナーシェフ、小西さんから電話がある。
かなりハイな感じであった。
彼は福岡でフレンチとして確固たる地位をこの10年間で築き上げている。
九州観光列車の七つ星のメインシェフとしても有名なようである。
と言うのも、彼は、時折、常に無理な要望を、しかも、農園に野菜(料理)の提案を求めてくる。今回も、「何か変わった食材がないか」との無理押しの依頼。
丘ひじきは?蔓紫は?と聞いても、納得しない。「それは以前にも七つ星で使った」
との回答。
仕方なく、とっておきの丘わかめがあるが、どうだ!と答えると、「さっそく試作したいので送ってくれ」との要望。
但し、わずかしか採れないし、葉っぱ一枚一枚摘み取らねばならないのだよ、と答えても、もう頭の中は、七つ星のメニュー作りで一杯のようで、意に介さない。
料理に対する熱意は買うが、こちらの意向や苦労などお構いなし、さっそく担当の
寛子さんに恐る恐る、今回も小西さんからの無理押しが来たぞ!と頼む。

すぐに結果の報告が小西シェフから入る。それが今回の電話の話。

「七つ星のお客様から絶賛の声が上がった。JRからは、佐藤さん処の丘わかめは
次回も出してもらえるのだろうか?と言っていたぞ!頼むよ!」

 これはかなりオーバートークをしているらしい、と感ずる。
「何しろ、今時、全て露地栽培で草木堆肥なんどの前近代的な農法を堅持している
のだから、現在のロビンソンだよ」と賜ったらしい。
JRの担当もそれで納得しているようだ。ついでに七つ星のお客様たちにも、同じ話を自慢げにしているようだ。

 確かにその通りなのかもしれない。この農法や草木堆肥作りをすでに10人以上の農業者に実演してみせたり、多くの方に教えてみたものの、未だにこの農法に取り組んでいる人は一人もいない。

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集めてきた草を広げているところ。

草を集めるのも大変なのだが、これを堆肥場一面に広げる作業が
また、大変。

二週間に一回は、堆肥作りを行う。




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草を広げた後、牛糞を
薄く敷き詰める。
その上に葉っぱや木屑を重ねる。

ラクターのロータリーで混ぜ合わせて、
タイヤショベルで2mの高さに積み上げる。

二回ほど切り返し作業を行ってようやく堆肥が完成する。

これが本当の堆肥(所謂元肥)であり、牛糞・鶏糞主体のものは醗酵させたとしても
窒素分の多い肥料になる。(多くの堆肥と称するものは実は肥料なのです)

 当農園では、この草木堆肥しか使わず、(肥料となる)高窒素の肥料は使わない。
むかし野菜の美味しさは、この高い労力を要するこの堆肥作りからきている。

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堆肥の切り返し作業

この堆肥は現在一次
醗酵中。
温度は70度にも昇る。
うかつに手を差し込むと火傷する温度。

微生物が大量に分裂を繰り返し増殖しているために高温となる。


夏の盛りにこの一連の作業、剪定枝の破砕・葉っぱの選り分け作業・堆肥作り・切り返し作業は、かなりな重労働となり、過酷でもある。

 昨日、東京からグローバルコンサル(名前はいかついが、マルシェ運営店)の若い二人がおいでになった。(ナンバーワンとツウ)共に30代前半。

 彼らは、東京において、12カ店のマルシェを開いている。所謂、露天商。
突然にメールが入り、電話がかかってきた。
佐藤自然農園(むかし野菜グループ)では、流通への野菜の出荷はしていない。
いつもであれば、即座にお断りしているが、農園主としては、何か心の琴線に引っ掛かったのであろうか?受けてしまった。
取引を始めて一か月前後であったが、突然に農園を訪ねてこられた。

話をお聞きしてみると、国の定める有機JAS野菜には興味がないとのこと。
あくまでもしっかりとした農法で、美味しく栄養価に富んだ野菜を生産している農家の野菜しか販売しないとのこと。安心安全なのは当たり前であり、今更と言うしかない。

さらに突っ込んで話を聞いてみると、かれらも国(所謂役人)に勤めていたそうだが、
農薬と肥料及び農産物の安全性について調査検討する部署にいたそうだ。
なるほど!と納得した。
それなら、国の定める有機JASの本質や実態には詳しく、当農園の目指しているところの野菜生産に関心を寄せたというのも理解できる。

 かれらの言葉の中で、支援先を回っていると何度も口に出していたのが気になり、
今回も宮崎の生産者たちのもとを訪れた帰りに当農園に立ち寄ったとのことであるが、その支援先とは農家のことらしい。
「貴方達、その言葉は可笑しいよ!それは支援先ではなくて、同行の仲間達ではないのですか?」と逆質問をすると、勿論その考え方ですと答える。
「であれば、今後は仲間達と言う表現をしなさい」と、「そのほうが、貴方達の行おうとしている事業の趣旨により合致するよ」

これも何かの縁であり、私の琴線に響いた数少ない若者達でもあり、これからも全面的に応援するよ、ということで、別れた。

最後に、「今その時代かな?}と聞くと、少し間をおいて、「東京でもすこし早いですけど」という答えが返ってきた。
だから私たちは、真に消費者が求めている農産物、これを潜在的ニーズと表現するが、その本当に消費者が求めている農産物を生産し、販売するだけではなく、その
生産工程・農法や生産者の信念を昔の八百屋さんのように、真に美味しく栄養価に富んだ野菜を探し、伝えるという大事な役割があるでしょう。
そのコミュニケーション方法や言質を工夫し、勉強してくださいね、とお願いした。

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胡瓜の棚を作っているところ。これからは台風シーズンが到来する。
この胡瓜は地胡瓜(在来種)のため、大きくて重たい胡瓜がこれから育っていく。
右隣はゴーヤの棚。

当農園の後継者達二人から、今日嬉しい話があった。
明日は今年最高の猛暑日となり、早朝作業だけにして、午後は休もうとしていたが、
このところの猛暑と日照りで、大豆がほとんど育っていないことを話すと、
「明日蒔き直しましょう」と力強い言葉が返ってきた。

マルシェの二人と言い、当農園の後継者達と言い、次世代の若者たちが自覚し、育ち始めていることに、疲れ果てた体ではあるが、先の楽しみを見つけた、という、さわやかな風が吹き始めているようだ。
明日、また頑張ろう。
研修生の二人も腹が立つほど、動かないし、先が見えていないと思う一方、泥だけになりながら、ふらふらにもなりながら、頑張っている姿を見ると、いじらしくもある。

この世の中、まんざら捨てたものでもないか!と今日は思うことにしているが・・・
明日は知らない!