農園日誌Ⅱー「活きること」ーPARTⅨマーケティング的思考

31.3.13(水曜日)晴れ、最高温度12度、最低温度4度

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                  6番の畑に菜の花満開

この後、この花達は鋤きこまれ、緑肥になる。
草木堆肥・焼き灰を振られ、緑肥(有機物)と一緒に微生物達により、分解され、
土壌が肥沃に育っていく。

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スタッフ総出で麦踏み、孫達も参加して
             

「活きること」ーPARTⅨー農業にもマーケティング的思考を!

(市場創造)
 現在マーケットに出回っている既存の商品群を顕在的ニーズと言う。
その一方、このような形の、品質の、あるいは、用途の商品があったら良いのに!と感じている人も多い。これを潜在的ニーズと称するとしよう。
市場創造とは、その消費者の潜在的な欲求やニーズを掴まえ、それを形にした商品作りのことを言う。
  
むかし野菜が現在取り組んでいる自然栽培を原料とした加工品に例を取ってみる。
当農園のお客様は、健全で安心できる美味しい農産物を求めている。その方々とのメール交換において、アトピー・アレルギー・癌などに苦しんでいるとの話も随分と聞いた。
「うちの子は、パンやお菓子が食べれません」と言ったかわいそうなお話しも多く寄せられた。
2012年頃から、草木堆肥しか使わず、除草剤も排し、大豆を育て、自然農のお米に麹菌を付け、手作り味噌を製造していた。自然栽培原料による完全無添加・無化学物質の発酵食品でした。
2013年頃から、人が生きて行くには、お米だけではなく穀類が必要であると考え始め、大分県振興局に相談し、種子の選択や手配を相談してきた。
偶々、自然農のお米生産をしている平野さん(むかし野菜の仲間の一人)の手配により、弥富小麦(実際は餅麦のようだが)と言う、日本古来からの麦の種子(一粒小麦)が1リットルだけ手に入った。
さらに、農業試験場に問い合わせ、遺伝子組み換えや外国産の麦と交配していない日本固有の麦や大麦についての情報を収集し、早速、彼らの推薦する種子を購入、実験的に麦生産に着手した。
 
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           由布市庄内の麦畑(4反)

黄金色に実った麦畑を見ていると、その荘厳さに、米とはまた異なり、人々の生きる糧なんだな!と心を揺り動かせる。それは大豆も同じ。
一口に自然栽培と言っても、これが中々に難しく、草木堆肥と焼き灰を振って耕し、後で
除草ができるように、管理機が入る幅を確保しながら細い畝を立てていく。
除草剤を使わず育てる自然栽培は、草との闘いでもあり、どうしても草に押されて、収量は
慣行栽培の良くて半分、悪ければ全滅の場合もある。


この実験生産から、九州産の裸麦(大麦)と古代小麦である弥富小麦をブレンドした「麦ご飯セット」と言う新商品が誕生(米と一緒に炊く)。同時にそれを自家焙煎した結果、味香り高く旨みのある「麦茶」が出来上がった。最近になっては、九州産の小麦(50%精麦)と古代小麦(全粒)を製粉ブレンドした「小麦粉セット」と言う新商品もできた。
麦は元来味も香りもしない無味無臭だと思っていたが、草木堆肥で育てた麦類は味香りが強く出ており、生産者すら驚くほど、普段食べていたものとはまったく別の物に仕上がっていた。これはすでに大豆で実証済みであった。
すぐにアレルギーに苦しむ子供さんに少量ずつテストしてもらったが、拒絶反応は出なかった。
 
これらの自然栽培による穀類を使った新商品の開発は、当グループの中で、進化し続けており、念願であった「むかしおやつ」へと進んでいる。例えば、「野菜万頭」・「やせうま」・「石垣餅」・「クレープ状にした包み焼き」などである。
私は、今はほとんど見られなくなっているむかし何処の家庭でも作られていたむかし懐かしい母の味を再現したいとの思いが強くあった。

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 これらの新商品は、お母様達の子供への思いから発せられた新たな商品群であり、既存のマーケットには無かったものである。「アレルギーの発症しない麦及び麦商品があったら」と言った潜在的なニーズを形にしたものでもある。但、自然栽培は、リスクと労力の塊であり、生産量は少ない。その意味では、これらの穀類及びその加工品は、現在の処、希少価値がある。
但、この商品群は、既存商品とは差別化された品質を持っており、生産リスクが高く、生産量も少なく、価格も割高となり、通常通り店頭に並べられても消費者の認知を得難い。
「こんな商品があったらよいのに!」の段階では、まだ、単なる欲求であり、お金を払ってまで求めたいと言うニーズにまで至ってはいない。消費者の欲求をニーズにまで高めていくことが、実は、コミュニケーション(伝達)戦略なのです。
 
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            大豆の脱穀作業の風景

この頃は、大豆を引き、天日乾燥させ、ビール瓶などで叩き、豆を取り出していた。
実に原始的と言うか牧歌的というか、頗る手間の掛かる作業であった。

 品質の高い商品を開発し、その商品は通常市販されているものとは異なり、明確な差別化が図られている。良い商品は絶対に売れると、経営者は自信を持って言う。
果たしてそうでしょうか?
 
あるレストランで、オーナーシェフがこう激高して私に言った。「この辺の人達は、こんなに美味しく、素材にもこだわり、品質の高い料理の価値が分からない」
私は彼にこう伝えた。「確かに美味しく素材感溢れた料理ですね。でも貴方は、この料理を理解してもらうために、お客様にその価値を伝える努力をしてきましたか?」と・・
 
農園を開いてから数年後、無肥料の自然農を志向している若者達に出会った。
食べてみると、透明感のある素材であり食感も良い。唯、味香りに深みも旨みも無い。土が育っていない証左であり、明らかにミネラル不足であった。
これをいくらで売っているのですか?と聞くと、我が農園より遙かに高い金額で販売していた。
お客様もわずか10数人であった。
少し高すぎやしませんか?と聞くと、彼らは、「自然農なのだからこの価格は当然でしょ」と・・
如何に差別化され、品質の高い商品を生産してもそれを購って頂ける消費者に、伝える言葉やその表現力などのコミュニケーション方法を考え、価格もリーズナブルにしていく工夫をしないと、その商品は特定市場でも、評価をされない。
 
「望」「見」「知」「認」。
お客様がある商品を知って、理解し、購入に結びつくまでの4つの段階がある。
つまり、眺めて、見て、知って、認めねば、お金という対価(痛み)を払っては買わない。
特にむかし野菜グループが生産している自然農産物や加工品は、市場啓発・啓蒙をし続け、市場を切り開いていく努力をし続けなければ、成り立たないと言う宿命を帯びている。
消費者の認知を得るためには、同時多発的に、差別化された商品情報をマーケットに、一気に拡散し続けねばならない。
有効な伝達方法として、記事扱い、直接伝達、口コミがある。
気をつけねばならないのは、逆口コミであり、良い情報は一人から1/3人にしか伝わらないが、悪い情報は千里を駆ける。そこで品質の高い商品を開発しても、それを理解しないお客様は早めにご遠慮頂いた方が良いし、また、万一商品事故やクレームが起きた場合、速やかな対応や解決を図るべきである。
 
事業とは、どれだけ工夫し続け、人の数倍努力したとしても成功するとは限らない。
むしろ、失敗することのほうが多い。時には、運に恵まれない限り、花を咲かせ、実を結ぶことはできない場合も多い。それでも、一所懸命に「伝える」という努力や工夫をやり続けなければ天地の神様は微笑んではくれない。そのことは、たくさんの中小企業の社長達の活動から学んだ。
 
農業の真の自立とは何か?
 
現在は八百屋などの小売りや漬物・総菜などの専門店が成り立たないほど、巨大流通マーケットの仕組みができあがっている時代である。ただでも小さい事業者(農業者)などは飲み込まれてしまう。
むかしのように生産者の代弁をしてくれていた八百屋さんはもう無い。
品質の高い有機農産物は、本来が、味良く、安全で美味しいが、形が悪く、見栄えもあまりよくない。
現在のように大量流通社会では流通業者は大量に売り易い規格サイズや見栄え形を最も重要視しており、見てくれの悪い不揃いな高品質の有機農産物は評価さえしてもらえない。
農業者が消費者へ提供したい農産物や加工品を誇りを持って生産するには、それを欲している消費者へ直接伝え、届ける販売以外には、なし得ないことだと農園主は考えている。
農園主の答えを導き出すためには、また、これから農業を志す人達は、健全で、安心して食べられる美味しく、栄養価に富んだ農産物作り(商品開発)をするだけでは、足りない。どうしても、上記のマーケティング及びそのコミュニケーションの手法を学ばねばならない。

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              農園直売所

農園を引き継ぐ若者達に直にお客様に接する機会を作ろうと、直売所を開く。農園主はできるだけ出ないようにしている。今後どのような展開を見せるか、多くの出会いによりむかし野菜の伝達(コミュニケーション)の難しさを感じて欲しい。