農園日誌ー東京行き

27.12.16(水曜日)曇り、最高温度14度、最低温度7度

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富士の山、眼下に見下ろす、空の窓ー久方ぶりの東京行きを祝ってくれたのかな

先週の土曜日、数年ぶりに東京に上る。
目的は、大分県のアンテナショップ東京坐来と新規取引先のイタリアンAPEの
視察。横浜南魚市場が民営化に伴って、そのうちの一軒がむかし野菜の販売を
行ってみたいとの問いかけに応じて、面談に赴く。
引っかけて、国・県・地公体が行っている農業者誘致の面接活動の視察を兼ねていた。大分県からも由布市他、3先の市町村が出張っていた。
三人の研修生(今年自立予定)のうち、教育の一環として一人を同行させる。

飲食店の視察は農園の発足以来続けていることであり、料理を食べてみて、シェフとの意見交換が目的となる。未だ訪問していないお店が数件残っており、時間を割いて赴かねばならない。
むかし野菜はその特性として、虫食い痕あり、傷あり、割れあり、サイズ不均等あり
分岐ありで、一般の(他の有機野菜も含めて)野菜の見た目きれいとは明らかに異なる。草木堆肥・自然循環農法・低窒素栽培・露地栽培と難しい条件が揃っている

イメージ 2年末には必ず出荷している金時人参
この品種は栽培期間が長いため、特にむかし野菜の特徴が色濃く出てくる。(分岐・不均等)

低窒素・露地栽培では
野菜は栄養素(特には窒素)を求めてひげ根ははびこるし、分岐して
地中深く縦横無尽に
暴れまわる。

それでも自然なうつくしさがあり、食べると独特の嫌な香りよりも甘さや旨味が際立ち、草木堆肥の特性も色濃く出てくる。

みてくれよりも味・香・旨味・食感などの美味しさをを重視するが、一番の特性は
調理の際、その美味しさを引き出すためには、火加減が命となる。
通常の野菜だと筋が多いため、火をかなりな時間をかけて通さねばならない。
むかし野菜は、筋を感じさせないため、通常の野菜の半分若しくは1/3の時間でよく、さらに歯切れや歯触りを楽しませるためには、半生でも良いくらい。
歯触りを楽しませるためには、切り方にも特性を理解する必要がある。
繊維を断ち切るか、繊維を残すかで味は全く異なってくる。
さらには、同じ野菜でも焼き野菜・蒸し野菜・生野菜を同時に盛り付けることによって、異なった味が出せる。
その意味ではイタリアンAPEのシェフはむかし野菜の特性を理解していた。
この他にも味付けや出し方など様々な調理の意見交換が必要となり、生産者と
料理人には話し合い、これは違った意味では闘いが必要となる。
闘った末の料理は必ずお客様を喜ばせてくれるとの確信を持っている。

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暖冬の今年、未だ
トンネルを閉めること
が少なく、逆に、管理が
難しくなっている。
蒸れや虫害が発生するため、その対策が
難しい。

今日、長らくむかし野菜を食べ続けているお客様から電話があり、
用件の終わりに、こう言われた。

「今年、農法を変えましたか?」すぐに気づき、「野菜が美味しくないのでしょ」と答える。流石にこの方は敏感で、食べ慣れた野菜の味が変わったことに気が付いたようだ。
「安心してください。農法は変えませんから。但、さすがですね。実は私も今年の野菜は味香りともに薄く、甘みが少ない。食感も微妙に異なっています。全て気候不順のせいです。寒が来ないと、この季節の野菜は旨味が出ません」
野菜もびっくりとしていることでしょう。秋冬野菜はそのDNAに季節の移り変わりをインプットしており、その祖先の記憶と異なるため、違った成長をしてしまいます。
「これが今年の野菜は味が違う」原因なのです、と説明する。


民営化され、規制解除となった魚市場では将来の存続をかけての闘いがあるようだ。彼は嘆く。
魚市場では、今では、スーパーマーケットの下請けと化しているそうだ。
一匹の姿で取引されるはずが、切り身にして、パック詰めして、出荷しているところが多いとのこと。魚市場本来の機能が失われつつあり、そこでは、飲食店や魚屋さんに卸すだけではなく、一般市民に開放される市場を目指したいとのことだが、
既存の多くの仲卸さんたちは、朝市を開いても、午前8時頃に早々と店じまいして帰ってしまうとのこと。これでは市民が訪れても何の意味もない。
彼は市民開放するならば、魚市場でも安全で美味しい野菜に限定した野菜も併せて販売したいとの考え。

難しいのは、卸と小売りは元来、商品に対する考え方が異なる。
量を捌くことと、個のお客様を捌く(個のニーズを把握)ことは、やり方だけではなく商品陳列や「個の商品」の捉え方が異なる。
このようにお答えした。
他の仲卸さんたちを説得することは、農業で言うと既存の農家(楽な農業を覚えてしまった)を説得し、グループ営農を説く難しさと共通しており、彼らが気が付くまで待っていたら、自分が先に潰れてしまいます。
今回は貴方が先ずは突出して、ミニ成功して、その間にハウツウを習得され、成功事例を示すことでしょうね。
販売の仕方など、知りうる限りのことはお伝えしますから、頑張ってみてください。
野菜を取り扱うリスクを最小限に抑えるやり方はこちらで考えます、と・・・
早速、月曜日から彼のもとへ、野菜を出荷し、その試みが始まった。
様々な方法を、工夫をお伝えして帰ってきた。

農業も、漁業も、林業も日本の大切な基幹産業であり、命の源であり、地域の課題ではある。
戦後積み上げてきた巨大流通システムの構築は、原産業を根本から変えており、
地域や田舎の原風景を壊しつつあり、大きく揺さぶっている。
これを解決する方法は唯一生産者と消費者の直接交流、つまりは直取引を如何にして残していくか、あるいは、再構築していくかしか今のところは見当たらない。
それはむかし野菜グループの大きなテーマでもある。

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選別中の大豆

自然農と言えば、聞こえは良いが、大型機械を駆使して行うものではなく、すべてが手作業の連続となる。
価格がやや高くなってしまうのは致し方がないことだが、果たして
それを消費者が、どのように理解してくれるかにかかっている。

それでも、むかし野菜グループでは、自然農だから倍の価格を取るのではなく、
如何にリーズナブルな価格でそれを求めている極く普通の消費者にお届けすることを事業の大命題として掲げることにしている。

農業者誘致の面接会では、聞こえ知った有機及び自然農の農園30社ほどが
会場の主要な場所に陣取っており、かれらも働き手を大きく募集していた。
安全・自然志向の市場は徐々に大きく育っているのではあろう。
特筆すべきは、会場に高校生や担任の先生が多数訪れていた。
そんな先生と面談してみると、このようにおっしゃられていた。
「現在農業高校に入ってくる生徒たちの96%が親元で農業をしていない方の子弟であり、邪気が無く、農業をしたいとの子供さんも多い。それでも、現実はその場が無く、就職活動に苦労している。本当にかわいそうです」と・・・
当グループでは、一度社会に出て、揉まれてから、農業を目指す若者を育てようとの考え方ではあったが、その思いを強く揺さぶられて帰ってきた。
帰ってから、三人の若者たちに高校生を受け入れることはどうか?と聞いてみる。
「・・・」の答えしか出てこない。
つまりは、農園主は農業技術を教えるが、子供たちの面倒を見るのは彼ら研修生達である。子供を預かることは人生も教えることであり、人一倍の苦労は覚悟しなければならないから、二の足を踏むことになる。

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農園主としては、もっと若い時であったらとの思いもあるが、日本の農業を考えるとき、これからを担う子供たちの育成は必ず必要となる。
しばし、考えてみることにした。
この子たち(孫です)もやがては、今の日本の、社会の難しさを知る時が来る。
それが農業高校生とオーバーラップしてしまう。