むかし野菜の四季ーPART2

2022.1.21(金)曇り、最高温度8度、最低温度1度

 

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日曜日からまとまった雨が降るとの予報でビニールトンネルを全開する。

すると隠れていた冬野菜・春野菜が姿を現す。

厳しい冬の間はビニールトンネルを張り、野菜達を凍結から守ってやらねばならない。

ただ、寒いからと言ってトンネルを掛けたままでは、徒長したり、弱々しい野菜しか

育たない。水も足りなくなるし、直接に太陽に当ててやらねばならない。

急に剥いでしまうと、ひ弱に育った野菜達は寒気を受けてそのまま落ちてしまう

かもしれない。

そのため、朝からトンネルを剥ぎ、徐々に寒気に晒し、慣れさせて行かねばショックを

受ける。このトンネルを掛けたり剥いだりのタイミングが実に難しい。

これだけは経験と勘が必要となり、何より物言わぬ野菜の気持ちに添った愛情といたわりが最も重要となる。

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

「草木堆肥の使い方」

草木堆肥による土作りがある程度進むと、本格的に多種類の野菜生産に取りかかります。

N/C比の低い草木堆肥であっても3年以上土作りが進んだ土壌は、微生物・菌類などの生物相が出来てきており、野菜の根と共生しながら野菜の生育に絡んできます。

また、有機物残渣も残っており、窒素分が全く無い訳ではありません。

そうした土壌の中に草木堆肥(元肥)を振り、併せてミネラル分補給と酸性土中和のために、草木灰1:蛎殻1:苦土石灰3を混ぜたものを施肥します。

これは酸性雨などによって酸性化が進んだ土壌のペーハー調整と青枯れ病などの病原菌を抑止するためです。

堆肥等を振り終わったら直ちにトラクターで鋤きこみます。

施肥された草木堆肥は完熟一歩手前のものを使うため、未だ増殖中の微生物や菌類が残っており、これらの菌類は太陽には弱いのです。

 

草木堆肥の特質は、以下の通りです。

完熟一歩手前の草木堆肥(元肥)を振り、直ちに種を蒔く、あるいは定植すると、

施肥後約一ヶ月  土中の窒素供給は弱い    野菜はひげ根を伸ばし基部を形成

施肥後二ヶ月目  土中の窒素供給は強い    野菜は急成長する

施肥後三ヶ月目  土中の窒素供給は微弱   野菜の成長は止まる

 

植えられたばかりの野菜は土中の微生物等によって窒素の供給は妨げられ、その間に野菜は窒素分を探して土中に根を張り、約一ヶ月間で十分に基部が育ち、二ヶ月目で微生物の活動が沈静化し始めると土中に窒素分の供給が増え、急速に野菜が生長し始めると言うサイクルが生まれます。不思議ですね。

その2ヶ月半~3ヶ月後に、土中からの窒素分の供給が止まると(窒素を切る)、野菜は内部に蓄えられた糖質(デンプン・炭水化物)を、自らが生き残るために分解し始め、生きるためのエネルギー(糖分やビタミン類)に変える。これを完熟作用と言います。益々不思議な生命のメカニズムですね。

完熟に向かっていく野菜生長のメカニズムを、この草木堆肥によって引き出していたむかしの日本人達の叡智には驚かされます。

 

むかし野菜の邑では、肥料を使わないとは言いましたが、窒素分が少ない草木堆肥の欠点を補い、安定した収量を確保して行くには草木堆肥の使い方に工夫が必要です。

野菜を安定的に育てるには、土を育てる元肥・野菜を育てる先肥・野菜の生長を増長させる追肥があります。むかし野菜の邑ではこれら全てで草木堆肥を使っております。

日本のむかしの農法では、元肥である草木堆肥の他に、人糞・藁・草などを混ぜて醗酵させた肥え(追肥)が使われておりました。

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               生育途上の芽キャベツ

この野菜も元肥・先肥と使います。

芽キャベツは下から徐々に収穫していきます。

枯れた葉っぱは掻いてやり、次第に上へと収穫をしていきます。

食感が命の野菜ですので、食べる際は一端湯がいておき、スープなどへ投入するのは

スープが完成する直後に投入しますと歯切れの良い食感と美味しさが味わえます。

 

 

それでは、むかし野菜の邑での各種野菜に応じた草木堆肥の使い方をご紹介しておきます。

  • キャベツ・白菜などの巻きもの野菜(堆肥量を二倍に)

草木堆肥は肥料ではありませんので、肥料分を欲しがる野菜を栽培する場合は、どうしても堆肥を厚めに撒く必要があります。通常の堆肥の量を二倍にします。

根を張り終わるまでは、土中からの窒素供給はあまり無い方が良いのですが、芯の部位が急成長して巻くキャベツ等については、元肥施肥後、2ヶ月半から3ヶ月で窒素供給がピークに達するようにあらかじめ通常より二倍の堆肥を施肥しておきます。

すると成長期に窒素分が野菜の芯の部位に働きかけ、急速に巻いてくるのです。

窒素供給が少ないと開いてきます。

 

  • ブロッコリー・カリフラワー・セロリ・南瓜などの成長期間が長い野菜(先肥を)

これらの野菜は樹勢が強く、成長期間も長く、多くの窒素分を欲しがります。

そのため、草木堆肥を施肥し耕した後、定植する箇所にスコップ1~2杯分の草木堆肥を施し、野菜を定植します。その際、堆肥は弱酸性のため、苦土石灰と焼き灰を少し足してやります。これを先肥と言っております。

二番果・三番果が次々と出てくるブロッコリーなどの場合は、肥料分が足りないと判断されれば、追肥も行います。

 

実が成る野菜(トマト・茄子・ピーマンなど)は先肥を施し、最初の実を収穫する頃、追肥として堆肥を施します。畑作りのための元肥、植え付けの際の先肥、実成りを良くするための追肥と、三回は草木堆肥を使います。追肥の際は、除草を兼ねて鍬で中耕(畝下をさらう作業)をして堆肥に土を被せます。(畝下を深く掘り下げることによって、根に酸素を供給してやります)

追肥のタイミングは一番・二番果がなり始めた頃です。

茄子などは秋茄子にするため、さらにもう一回堆肥を追肥として施肥することもあります。

こうすると、寒がこなければ11月一杯まで収穫が可能です。

 

※小規模農園や家庭菜園の場合

家庭菜園などでは、草木系の堆肥はそんなに大量には作れません。

元肥をやったとしても急に地力は上がってきませんので、どうしても窒素不足に陥ります。

その場合は、化成肥料やぼかし肥料を追肥として施肥することをお勧めします。

化成肥料だからと言って、土を汚すことにはなりません。要は肥料を過度にやり過ぎなければよいのです。

ぼかし肥料は、家庭の残飯・米糠や油粕や乾燥鶏糞や乾燥牛糞などを混ぜて水をやり、厚めのビニールなどを掛けて、可能ならば、葉っぱなどを加えて約2か月間ほど醗酵させれば、出来上がります。

 

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           巻き始めた春白菜(2月下旬頃)

 

むかし野菜の四季ーPART2

2022.1.15(土)晴れ、最高温度13度、最低温度0度

 

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                  極寒の白菜

 

久しぶりに気温が10度を超えてきたので、日中、お日様に当てるためにトンネルを

剥ぐ。

巻き始めている奴も巻きかねている奴もいる。

白菜やキャベツは芯の部位が急成長して始めて巻きます。この寒い時期には成長が

遅く、ビニールトンネル程度では霜除けにしかなりません。夜間は氷点下に下がります。そのため、個々の野菜の力が強い奴は巻くし、そうでない奴は開きます。

そのため、2月~3月出荷の白菜は「巻かない白菜」として当農園の冬の名物となっております。果して今年はどうか・・・!

 

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白菜の隣は芽キャベツです。

キャベツ系は秋に定植し、真冬の1月~3月頃までの出荷となります。

キャベツ系は冬に強い野菜なのです。

 

毎年のことですが、1月~3月初旬頃、出荷野菜が不足してきます。

中秋から初冬に掛けて、この時季用に野菜の種を蒔き、定植をしてはいるのですが、

野菜の繋ぎが上手くいかず、お客様も増加したことも重なり、今年も相変わらず農園主は頭を悩ませております。

 

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              エンドウ豆系の野菜

 

中秋から晩秋に掛けて種を蒔きます。極寒の間、彼らは根を張り、寒さに耐えて耐えて

育ちます。あまり早くに種を蒔くと感に堪えられない野菜は落ちていきます。

野菜の生命力の強さに驚かされます。

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

「草木堆肥の実践」

草木堆肥は肥料ではありませんので、新規の畑に堆肥を振ったからと言って窒素分が少ないため野菜は成長不足となりますし、栄養価の高い美味しい野菜とはなりません。

土が育つまでちょっとだけ我慢してください。それでは実際にどのように草木堆肥を使って土を育て、野菜を育てていくのかを詳述致します。

 

(新規の畑の場合)

草木堆肥を振った畑で何も収穫物が無いと言うのも困りますので、土がある程度育つまでは以下の作物を植えます。

 

土作りの初期には、麦と大豆の二毛作栽培を行いながら土を育てて行きます。

大豆; 初夏6~7月には大豆の種を蒔き、11月頃収穫。

麦類; 大豆収穫後、11~12月には麦類3~4種類の種を蒔き、翌年梅雨入り前に収穫。

夏の雑草は大豆を覆い尽くす勢いで繁茂しますので、管理機で入念な土寄せを行い、畝下の除草と畝に土を被せます。それでも雑草の勢いは強いので草刈り機で畝間を除草します。

このように除草剤を使わない穀類生産(自然栽培)は中々に厳しいものがあります。

 

初期的な畑でのもう一つの方法が窒素分を好まないさつまいも栽培です。

さつまいもはジャガイモ(茎が変化したもの)などと違って根物野菜です。栄養価に富んだ畑ではさつまいもは茎や葉っぱが育つ蔓ぼけと言う現象を起こします。サツマイモは根物ですから上部が育つと根(芋)は育ちにくいのですね。

そのため、土を育てねばならない初期的な畑では有効なのです。

このように初期の畑では、草木堆肥による土作りを行う約三年間は穀類(麦と大豆の二毛作)を生産したり、窒素肥料が不要なさつまいもなどを生産する。ただ、土が出来ていないため収量が少ない(1/3以下)

草木堆肥歴2年を過ぎた頃から、土は数㎝の深さに団粒化(砂状)の兆候が出始める。

 

尚、化学肥料を使っていた畑は化学物質と除草剤や農薬により、微生物が棲める環境ではなくなり土が死んでいます。さらに、化学肥料や畜糞施肥によって窒素過多となり、塩基濃度が高く、酸性化が進んでいる畑などは、pH調整(中和)とミネラル分の補給をしなければなりません。団粒化した土に変わるのには3年以上掛かることもあります。

そのため、ミネラル分豊富なアルカリ性苦土石灰・蛎殻・焼き灰により土壌改良を行う。尚、籾殻・燻炭なども有効です。炭素分の多い有機物を投入した方が良いのです。

逆に、数年以上放置されていた畑の場合は、雑草に覆われていたため微生物層ができており、草木堆肥歴二年目頃からでも美味しい野菜ができる可能性があります。ただ、雑草の種子が多く残され、しつこい雑草も多く2~3年間は除草作業に追われます。

 

以上のように新規の圃場は穀類の二毛作等で、年間二回草木堆肥を振り、最低2年間の土作りから始めます。

但し、水田の跡地の場合は、泥田が固まっており、土壌の表層(10㎝程度)部分は腐食化が進みますが、水捌けが悪く周囲(側溝)を掘り下げ、水を逃がします。

新規の畑は先ずは土木工事から始めなければなりません。

 

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(草木堆肥歴3年未満の畑)赤ラベル

小麦・大豆・さつまいもなどの栽培で1~2年間ほど土を育てた圃場は、2年ほど経過した後、根の浅い葉物野菜や枝豆等の窒素固定化野菜(根粒菌により空気中の窒素を根に取り込む)穀類を育てていきます。

 

※草木堆肥施肥量の目安

施肥量の目安は、長さ80mの畝二ヶ分に軽トラック1台分の草木堆肥を撒く。

同時に、焼き灰2:苦土石灰6:蛎殻2を蒔き土を耕す。酸性雨が多く降る日本では圃場の土をできるだけ中性に近づけるようにしなければならないことと、元々堆肥は弱酸性ですので、弱アルカリ性の石灰等が不可欠となります。

完熟一歩前の草木堆肥には、増殖中の微生物や菌類が活きており、草木などの有機物残渣と草や菜の花などの鋤き込んだ緑肥を餌にして土の中で増殖し続ける。微生物等の増殖作用そのものが、畑を耕してくれていると言う訳です。

草木堆肥施肥によって土は1年間でおよそ深さ3㎝腐食化(団粒化)が進む。3年間土作りをしてきた畑はおよそ10㎝の深さまで腐食が進む。そのため根の浅い葉野菜から生産を始める。歯切れはあまり良くないが、味香りが出てくる。土壌には明確な団粒化の跡はまだ見えないが、鍬の入りが良くなる。

むかし野菜の邑の等級では「赤ラベル級」の価格を設定している。

葉物野菜は年間4回転はする。初期的な土作り途上の畑は堆肥施肥をなるべく多くするために回転率の高い葉野菜などを育てる。

 

赤ラベル級の畑で育てる主な野菜の種類

小松菜・青梗菜などの葉野菜、レタス系、じゃがいも、分葱、玉葱などの根の浅い野菜

 

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(草木堆肥歴3年以上5年未満の畑)銀ラベル級

 この頃から土壌は深さ15㎝まで腐植が進み、少しずつ団粒化(砂状)の跡が見え始める。

野菜の味にも明確な変化が出始め、味香りが明確になり、歯切れも良くなる。

この段階では大根・ホウレン草・蕪類・胡瓜・ズッキーニ・南瓜などが育てられる。

 

(草木堆肥歴5年以上の畑)金ラベル級

土壌には団粒化の痕跡が顕著に見られ始め、鍬の入りは断然に良くなる。

野菜の味にも明確な変化が出始め、味香り・食感に加えて旨味が出てくるようになる。

野菜を使い慣れたシェフや味覚の鋭い主婦層には違いが分かってもらえる。勿論、普通の舌しかも持たない農業者(私も含めて)はこの違いを見分ける訓練をしなければならない。

木もの・実物・根菜など何でも育てられる。白菜・キャベツ・セロリ・ブロッコリーなど

生育期間の長い野菜には、堆肥の量を増やすか、先肥を行う。(後述)

 

むかし野菜の等級

赤ラベル・・・土作り歴3年未満      土の団粒化は深さ10㎝ほど進む

銀ラベル・・・土作り歴3年以上5年未満  土の団粒化は深さ15㎝ほどに進む

金ラベル・・・土作り歴5年以上      土の団粒化は深さ20㎝まで進む

プラチナラベル・・・土作り歴10年以上  深さ40~50センチまで微生物層あり。

尚、土作り歴10年以上の畑は、オールマイティな畑となり収量も多く、栄養価に富み美味しい野菜ができる。

 

このように、土が育つには長い年月を要します。

ある学者が「一度に大量の草木堆肥を施肥すれば、短時間に土が出来上がる」と書いているのを読んだことがありますが、それは無理です。土壌に小虫・微生物・菌類などの生態系ができあがるには長い年月を要します。

そのため、最初は作物の回転が速く、根の浅い葉物野菜からはじめます。

自然循環の仕組みは人間が一朝一夕にできる業(わざ)では無いのです。

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※小規模農園や家庭菜園を行う場合

草木堆肥を本格的に作るとなると大変なので、以下のようにされると良いと思います。

  • 除草した草や収穫した野菜の屑や残渣を畑の一カ所に集める。
  • 公園や山間から葉っぱを集めてきては草に混ぜておく。
  • 市販の鶏糞や畜糞をその上から時折振りかけておく。
  • 厚手のビニールをその上に掛けておく(微生物や菌類は直射日光に弱い)

ある程度それらが溜まってきたら、フォークなどで高さ1m位に積み上げ、水分量を調整しながら(湿っている程度で良い)踏み固めておく。これを踏み込み堆肥と言います。

高さが足りないため、圧も低く完全発酵には至りませんが、ある程度熟れてきたら隣に切り返します。(酸素を補給)堆肥がぼろぼろになったら土に混ぜ込みます。

 

草木堆肥の切り返し

堆肥の切り返しは季節にもよりますが、約一ヶ月半が目安です。良い堆肥ができたら嬉しくなりますよ。

家庭菜園では、追肥として米糠・油粕などを約2ヶ月間発酵させ使います。

これも水分を加えて厚手のビニールを掛けておきます。(ぼかし肥料と呼びます)

 

むかし野菜の四季ーPART2

2022.1.5(水)晴れ後曇り一時雨、最高温度11度、最低温度3度

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              由布市狭間町の麦畑

 

明けましておめでとうございます。

今年最初の農園日誌ブログとなります。

寒い寒いと言いながらも今のところは極寒の日も少なく、最低温度は1度前後で

ビニールトンネルの中の野菜もほんの少し生長しているように見えます。

この麦畑もほどよく育ち、来週には麦踏みをします。

 

新型コロナの変異株が不穏な広がりを見せ始めており、必ずくると言われている第6波

も大きく広がらなければ良いのですが、経済的弱者への打撃が大きくなることを憂えて

おります。

日本の政治も迷走飛行を繰り返し、相も変わらず日本の経済政策は大手中心の方向しか示さず、地域を含めた経済及び産業構造の変革への道筋は、その言葉すら消えているように見えます。

農林水産業、特に農業しか産業を持たない地域の疲弊は極まっております。

 

世界では独裁と対立の姿が際立ってきており、混沌としており、危険な匂いすら感じてしまいます。

そうした中、中国では農産物が不足してきており、自国の食料を賄えず、外国からの輸入に頼っております。この国は世界の食糧を買い占めることを厭わず、後進国の食糧不足は深刻になってきております。怖いのはインドでも人口が急増しており、その食も輸入に頼ってくることになると、世界的な食糧不足はよりいっそう深刻な度合いを深めていきそうです。

食糧増産政策として各国が除草剤・化学肥料・農薬・成長ホルモン剤などを多用し始める危険も見えてきております。

日本でも加工食品の値上がりは徐々に始まってきております。

 

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待望の雨が降るとの予報で畑のビニールトンネルを一斉に剥ぎました。

普段は閉められているトンネル内の野菜の様子があらわになり、徐々に成長している

野菜が姿を現します。農園はこの時、白い畑から緑の畑へと変わります

 

世界的な食の値上がりの予兆はすでに見え始めており、おそらくは5年、若しくは10年以内に顕著になってくると思われます。

世界が食の確保に走り始めた時、日本はどうするのでしょうか?

食を提供し続けてきた農家は居なくなり、いざ、食糧増産と国が音頭を取ったとしてもその農家は居ないのです。

 

皆様も今年は食の大切さと安全性、そして自分たちの健康を考えて頂きたいと願っております。

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.25(土)晴れ、最高温度11度、最低温度2度

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                3番の畑の夕景色

 

今年最後の農園日誌ブログとなりました。

朝から温度が下がり続けて、写真を撮った時は4度くらいに冷え込んできました。

農園ではビニールトンネルを掛けたり、不織布を掛けたり、寒に備えて冬ごもりの

支度に忙しい一日でした。

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二番の畑は、一面、白の世界になりました。顔を出しているのは寒に強いほうれん草

芽キャベツだけです。

ハウス栽培全盛の時代、露地栽培でのビニールトンネルの畑はここだけです。

これから剥いだり閉めたりの作業となります。

 

一年間ご愛読頂きありがとうございました。

このブログは来年か再来年一冊の本にまとめようと考えており、現在、書き綴っております。「失われた先人達の叡智」に続いて、まだタイトルは決めてはおりませんが、

先の本が入門編でしたので、今度のは、専門編になります。

入門編では書けなかった自然循環農業の実践と真の農業自立に向けた消費者と直接向き合っていくために必要なマーケティング(商品開発・ターゲット戦略・消費者とのコミュニケーション戦略)の知識などを織り込んで行こうと考えております。

 

農業軽視の風潮と効率だけを重視した持続不能な農業に対しての警鐘の意味を込めております。生産者と消費者が真に健全な食を一緒に考えて行くことができたら幸いです。

 

 

むかし野菜の四季-PART2

 

「草木堆肥を使った土作り」

草木堆肥の原料は以下の通りです。

①木屑と葉っぱ

地表面、特に農地は農産物の収穫によってミネラル分が持ち出され続け、慢性的なミネラル不足になっています。その補給はわずかな雨(極く微量なミネラル分)によってもたらされますが、人類の食の営みに追いつくわけもありません。

私は常に不足するバランスの良いミネラル分を畑に補給するにはどうしたら良いのか、考えました。日本の先人達は林から大量の柴を切り出し、1~2年を掛けて土や草や少量の人糞と混ぜて堆肥を作っていることに着目しました。

木は地中深く根を張り、地殻に存在する豊富なミネラル分を吸収しています。その様々なミネラル分を吸収した枝や葉っぱを捨て場所に困っている造園会社にお願いして、当農園の堆肥場に捨ててくれるように頼みました。

その剪定枝を中型破砕機で破砕して堆肥の主原料とします。

さらに太い木や破砕機に掛かり難い短い枝は燃やして焼き灰を作り、草木堆肥と一緒に畑に振ることにしました。

草木堆肥と焼き灰のダブルで圃場にミネラル分を圃場に補給し続けます。

焼き灰を振って「枯れ木に花を咲かせましょう」と言う花咲かじいさんの逸話は実は本当のことだったのです。

次に重要なことは、枝や葉っぱには様々な菌類・微生物が棲んでおり、草・木・葉っぱを使った草木堆肥によって、すでに棲んでいる土中菌と合わせて計測不能な雑多な菌類が投入されることになります。完熟一歩手前の草木堆肥(有機物)を食料にして彼らは畑でさらに増殖していきます。つまりは畑を耕してくれます。

そのことによって圃場には自然循環の浄化機能が果たされることになるのです。

 

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               剪定枝の破砕作業

この破砕機は人間の腕くらいの太さまで破砕できます。

それ以上の太さの木を除けながら破砕しなければなりません。破砕機に掛けた後

破砕機に掛かりにくい小さな枝は葉っぱとより分けて、太い木と一緒に燃やし、焼き灰を作ります。葉っぱの一部は剪定枝を積んでいる間に分解され腐葉土になっているものもあります。

 

②雑草や野菜屑

除草剤を使わない自然栽培では旺盛に茂る草には手を焼きます。

種を蒔いて野菜が芽を吹いても大きく育つまでには、除草作業は2~3回は行わねばなりません。畑の周囲の草の除去もまた大変です。除草した草はまとめて置き、枯れ始めるとこれらを一輪車やフォークなどを使って持ち出し、堆肥場に運び堆肥の主原料として溜めておきます。また、収穫した野菜を整理した残渣もまた、堆肥の原料となります。

畑の有機物は常に循環しているのです。この草集めの作業も中々に手間が掛かり疲れます。

勿論それだけでは草は足らず、河川敷などの草をもらい受けている。ゴルフ場の草は除草剤や農薬を多く使っているため堆肥原料としては当然に除外します。

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収集し備蓄していた草を堆肥場一面に広げている処です。

この作業が中々の重労働です。足で踏んで確かめ厚さを均等にしなければそこだけ

微生物分解されず、均質な堆肥になりません。

 

③牛糞

肥育牛の牛糞・鶏糞・豚糞は使わない。これは家畜飼料のほとんどをアメリカからの輸入に頼っており、その中に含まれている薬品や抗生物質を畑に入れるのを嫌っているからです。そのため、餌の主原料が草である放牧牛や繁殖牛の牛糞を使います。鶏糞や豚糞などは窒素分が多過ぎるため除外します。ほとんどの餌が草である馬糞があればそれが一番望ましい。

 

草や葉っぱだけでは発酵までに約6ヶ月を要し、1ha以上ある畑を年に3~4回転させるには堆肥量が足らず、1カ月半ほどで堆肥にするためにこの放牧牛糞は発酵促進剤としてどうしても必要となるのです。

 

(草木堆肥の作り方)

先ずは熟らせた草を約10センチの厚さに均等に広げます。その上に牛糞を約3センチの厚さに重ねます。さら破砕した木屑・葉っぱ・腐葉土を厚さ3センチに敷き、トラクターのロータリー(回転刃)で二回後ほど混ぜ合わせます。それをタイヤショベルで高さ2mに積み上げ、水分調整をしながら圧を掛けます。堆肥の温度は微生物等の増殖熱で70度前後にまで上がります。これを一次発酵と言います。

約1カ月後に切り返し、空気を補充してやると中塾堆肥が完成する。

二回以上切り返し作業を行うと、完熟堆肥になり易くもはや肥料にしかならない。

何故、中熟堆肥かというと菌類・微生物が活性化しているうちに畑に施肥し、畑の中でさらに発酵(繁殖)させるためです。この繁殖作用により土を耕しているのです。

 

草木堆肥の原料; 草6:葉っぱや木の破砕屑2:放牧牛の糞2

放牧牛の糞は草を主食としており、ほぼ草であり、草木堆肥は草や木・葉っぱなどの窒素分の少ない自然の有機物を発酵させたものです。草木堆肥はN/C比(窒素分と炭素分の比率)は低く、肥料効果は少なく、畑を健全な低窒素土壌にしてくれます。

この畑には小動物から小虫・微生物・菌類・ウィルスに至るまで生命に満ちており、

生きた土です。ふかふかとした団粒構造(粒上の土)が出来上がっています。

 

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草を広げ、牛糞を重ね、さらにその上に破砕屑と葉っぱを重ねている処です。

この後、この上をトラクターで二往復させると草・牛糞・木屑葉っぱが混ざります。

右のビニールを掛けている処にはすでに作っていた堆肥があります。

むかしは1~2年かけて作っていた草木堆肥は今では、機械がありますので随分と

楽になりました。

それでも余りにも手間と労力が掛かり、草木堆肥を作って土作りを行う農業はおそらくはこの農園だけだと思います。

むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.17(金)曇り、季節風強し、最高温度11度、最低温度2度

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   由布市庄内、田北さんの圃場にスタッフみんなで麦蒔きを行う

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         麦を蒔きながら管理機で土寄せ作業を行う。

 

ここには古代麦・裸麦・小麦・大麦の四種類の種を蒔きました。

大麦だけは田北さんとこのベコ(牛)のおやつで、ウメーと言って食べるそうです。

この牛も家族なのですね。田北さんは繁殖牛の牛を4頭飼っております。

彼はお米5町歩、原木椎茸2反、そして、無添加の搗き餅をむかし野菜の邑から

皆様へ出荷しております。

 

農園もこの麦蒔きが終わると、一段落が着き、越冬時季に入ります。

とは言ってもビニールトンネル張りなどの作業は待っております。

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

「美味しい野菜とは?」

これは当農園の大きなのテーマの一つです。

私自身野菜は苦手でした。食卓に出される野菜を食べても美味しいと感じたことはあまりありませんでした。何を食べても野菜の味はせず、香りも無く、いつまでも口の中に残る筋の食感は最悪でした。もはや健康のためと自らを言い聞かせて半ば義務的に食べていたに過ぎませんでした。読者の中にも共感していただける方は多いと思います。

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冬の作物、甘藍系(キャベツなど)の野菜を定植しました(左端)その右は芽キャベツ

です。寒さに耐えながらじっくりと育ち、春3月頃に出荷時期を迎えます。

ただあまりにも小さく極寒に耐えられるか心配で、1月頃にはビニールトンネルを掛けて守ってやらねばならないでしょう。芽キャベツは極寒の1月頃から出荷が始まります

寒さに強いのですね。

 

衰退し続ける地域と農業の現状を見て、「何とかしなくちゃ」という思いを抱き、「有機農産物及びその加工品の商品化」によって地域を再生できるのではないかと考えて始めた有機農業でしたが、その野菜の美味しくないことにそのしょっぱなから疑問が湧いてきました。

様々な有機肥料を施ればやるほど、野菜は味香りを無くしていきました。

まだ小学生の頃、スイカが好きで畑に出て野菜作りを手伝っておりましたが、畑でもいだトマトや胡瓜の鼻に抜けるような味香りやカリッとした食感が私の野菜の美味しさの原点でした。

そこでまだ実験農園段階の時(銀行員時代)、思い切って有機肥料(畜糞・米糠・油粕等)栽培を止め、江戸時代の農業本に基づいて、草木堆肥に絞って土作りからやり直しました。

草木堆肥による土作りを始めて3年が経った頃から、野菜に瑞々しい味香りや歯切れのよい食感が蘇ってきました。

 

野菜には「基本味」である5味があり、甘味・酸味・塩味・苦味、そして旨味と言われております。

料理の世界では、旨味をどの食材で、どうした調理料を加えていくのかが常に問われます。

一番知られている旨味はたんぱく質の中に含まれるアミノ酸の一種であるグルタミン酸です。他には魚介類のイノシン酸やキノコ類のグアニル酸が知られております。

西欧ではこの旨味をトマトやチーズ・ハム類から取り、日本では昆布や鰹節などから取っております。

 

学者や研究者が確認した旨味の元は、その通りであるとは思いますが、私はそれだけで旨味が説明できないと考えております。

窒素過多となりやすい肥料栽培では野菜の「えぐみ」や「苦味」が出易くなります。

料理の世界ではよく「灰汁取りをしなければいけません」と言われます。

それは肥料栽培を基本とした近代農業になってから顕著に言われるようになったのではないかと考えております。

人間の舌の先では甘味や塩味を感じ取り、舌の付け根辺りで苦味やえぐみを強く感じます。

自然栽培の野菜では苦みやえぐみではなく旨味を感じるのです。

つまり、私は絶え間ない土作りを行う自然栽培の野菜を食べてえぐみを感じず様々な複雑な雑味=旨味を感じるのは、グルタミン酸だけでは説明できず、ミネラル分が多い野菜だからではないかと考えるようになりました。

精製塩(純粋な塩化ナトリューム)と岩塩(ミネラル分を含有している)の味の違いに似ております。

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ビニールトンネルを剥ぎ、冬の貴重な雨を待っている処です。
種を蒔いたばかりの野菜は不織布を掛け、その上にさらにトンネルを掛けます。

二重に寒さ対策をしてやらねばこの寒さの中では育ちません。

このトンネルは今日の冬の嵐でみな吹っ飛んでしまいました。復旧作業が大変です。

 

旨味の話はさておいて、それでは「美味しい」とはどういうことでしょう?

美味しいということは多分に人の情緒的な感性から出る言葉ですね。

その場の雰囲気や視覚聴覚から感じ取るものや味香りや食感から感じ取るものです。

そうであれば、人の先入観念で「この野菜は有機野菜だから美味しいのだ」「最高のプロが作った高級料理だから美味しいのだ」と思って食べている方も実際には多いようです。

一般(流通)マーケットでは、味香りや美味しさは評価の対象にはならず、見え形・規格サイズ・新鮮さなどが評価のすべてと言っても過言ではありませんし、虫食いの痕などあろうものならだれも手を出しません。

野菜ソムリエなどが形の悪い野菜、例えば曲がった胡瓜や先が太い胡瓜などは選ばないようになどと、まことしやかに伝えておりますが、それを聞く度に悲しくなります。野菜の美味しさや健全性などには一切関わりは無いのにです。私などはむしろまっすぐな胡瓜のほうがよほど危なく美味しくないのにと思ってしまいます。胡瓜は太陽に当たると当然に曲がり、むしろそれが自然なのです。

このように「美味しい」と言う感じ方は多分に世評や権威、そして概念(観念)に支配されているようです。

ところが「有機JAS野菜だから美味しい」と信じ込んでいた消費者が、何かのきっかけで、ふと疑問を抱き始める。「有機無農薬野菜なのに何故虫食いの痕が無いのだろう」「化学肥料も使っていないのに、何故こんなにスーパーで売られている野菜のように形が揃っているのだろう」

 

自然栽培を始めてすでに20年を迎えようとしております。

私はこの「美味しさ」を追求し続けてきましたし、今まで多くのお客様と接してきました。

私たちの仲間(定期購入者の方々)の全てが自然栽培だからお客様になったわけではありません。むしろ市場の既存価値観(見てくれ)に近い方も多数いらっしゃいました。

それでも仲間となって頂いたのには、理由があります。

食べて美味しいと感じていただいたからですし、ただ、美味しいのではなく、圧倒的な野菜の味香り・食感・鮮度、そして、旨味をわかって頂いたからです。

真に美味しい野菜とは、健全で栄養価が高い。この当たり前のことに気づかされたからです。

私は新規のお客様によくこのように伝えます。

「世評や観念に囚われず、貴方の舌と感性を信じなさい。そうすればきっと貴方が真に探している野菜に出会うでしょう」

 

全国に350名のお客様がおられる中で、10年以上野菜をとり続けて頂いているお客様が120名以上おられます。これらの仲間たちは私にとっては良き理解者であると同時に、良きマーケティング対象者でもあります。

私たちもこの野菜の恩恵に預かっており、20年以上歯医者以外行ったことがありません。

私は、今ではむかし野菜の美味しさの訳は、体にやさしい味がするからだと考えております。

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右側はセロリ、左はニンニクです。

このセロリは地中海原産のセリ科の作物です。セロリは好き嫌いがはっきりとしていて

うちのお客様の中にもその1/4の方は「食べれないので要りません」と言ってきて

農園主を困らせます。そこで私はこのようにお伝えします。

「セロリは万能の調味料であり、旨味の元です。茎の部位は生食でも良いのですが、

葉の部位は細かく刻んでニンニク・玉葱・生姜などと一緒に油で炒めて、カレー・スープ料理・炒飯などにして食べてみてください。おそらくは明日からやみつきになり、

貴方は必ずセロリが好きになります。香味野菜は油と一緒に加熱しますと旨味成分に変わります。尚、当農園のセロリは灰汁や独特の苦みやえぐみが無く、旨味成分をふんだんに持っております」と・・・

それ以降、一度か二度のやりとりは起こるものの、セロリを断ってきたお客様は

おりません。

 

 

 

 

 

 

むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.12(日)晴れ、最高温度16度、最低温度8度

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         由布市庄内の4反の畑に草木堆肥を振る

 

長閑な風景ですね。田園風景と山里が広がり、空は青一色です。

ここは椎茸やお餅を作っているグループの田北さんの畑です。

トラック4台で二回転しました。結いの仕組みを取っておりこのように広い圃場での

作業はみな、共同作業です。

この圃場には遅れてしまった麦蒔きを来週全員で行います。

 

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こちらは3週間前に麦を蒔き終えた由布市古市の圃場です。

青々と麦が育っております。約2反の畑ですが、全行程で2日掛かりました。

皆様には分かり難いとは思いますが、除草剤を使わず、草木堆肥だけで土を育て、

穀類を栽培している農園は世界でも当農園だけです。如何に手間が掛かりリスクが

大きいかはおそらく分かってはいただけないでしょうね。

その貴重な大豆・麦を使って味噌・黄な粉・麦製品・加工品を作っているのです。

これらの穀類ではアレルギー、アトピーも発生しませんし、しっかりとした麦や大豆の味香りがするのです。ここに昔の農法の真骨頂があるのです。

その貴重な農産物はわずか350余名の全国の仲間達だけに配られております。

 

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野菜の自然な色合いは本当にきれいです。自然栽培の野菜ではその色が鮮明に出るから不思議です。

 

§2.自然栽培

「完熟野菜」

野菜が完熟するとはどういうことでしょうか?

結論から言いますと完熟した野菜果物は糖分に富み甘くなります。そのことは皆様の

想像の範囲内です。完熟作用は野菜果物の生理現象です。

ところが、高窒素となり易い肥料栽培は完熟する生理現象が起きないように作用してしまうのです。窒素分の多い肥料を使うと(N/C比は高い)常に土中には有り余る窒素分があり、野菜は出荷まで成長を続けます。土中に窒素分が切れない限りは完熟作用は起きないのです。

 

これに対して自然栽培では炭素分の多い草木堆肥を使うため、土中の窒素分は常に不足気味です。草木堆肥施肥(完熟一歩前)した際には、有機物とまだ活性化している微生物・菌類が同時に圃場に入ります。この時、有機物に含まれる窒素分は微生物等が増殖するためその多くは彼らによって費消されます。これを窒素飢餓と言います。

 

※窒素飢餓

 生の有機肥料は畑に投下してはいけないと言われております。そこに棲む微生物等が有機物に含まれる窒素分を吸収して増殖します。このため、土中は窒素が極端に不足し、野菜は成長できません。

 

草木堆肥施肥後、その圃場に種を蒔いても窒素分は得られませんので、発芽した野菜は土中の窒素分を懸命に探し、髭根を広く深く張ろうとします。発芽してから1カ月程度は目に見えて野菜は成長していないように見えます。実はその一ヶ月間は野菜が成長するための土台作りをしている成長の準備期間であり、根と基部がしっかりと土を掴みつつあるのです。

一か月を経過した頃から基部作りを終えた野菜は、急速に上に伸び始めます。

それは今まで活発に増殖し続けていた微生物等がその活動を鎮静化し始め、一部は死に、逆に窒素分を土中に放出し始めます。加えて有機物残渣からも窒素分の供給が続き、野菜の成長に必要な窒素分が土中に放出されるため、野菜が目に見えて大きく育つのです。(土中に窒素分が増えると野菜の体内に成長酵素ミトコンドリアが増加する)

野菜が生長した頃(約二か月経過)、土中への窒素分の供給が次第に止まり、成長酵素であるミトコンドリアの増殖も止まります。野菜は成長を終えて完熟期を迎えます。

 

※土中に窒素が切れると野菜は完熟期に入る

草木堆肥を施肥してからおよそ一ヶ月経過した頃から土中に窒素分が供給され始め、二ヶ月を経過した頃から窒素分の供給が徐々に減り、およそ二ヶ月半で窒素供給が著しく落ちてきます。これが草木堆肥の不思議な自然の摂理なのです。

 

野菜の体内に蓄積されてきたでんぷん質や炭水化物は、野菜が生き残るために分解され糖分とビタミンに変換され、生きるためのエネルギーに変えて行きます。デンプン質等は人も含めて野菜もそのままでは吸収できないのです。これが自然栽培における完熟のメカニズムです。完熟した野菜は味香りも高く、筋が無く、葉肉は厚く、甘味や旨味が備わっており、栄養価に富んだ野菜となります。

ちょっと難しいですが、お分かり頂けたでしょうか。

 

私は草木堆肥による農業の実践を重ねる中で、この完熟一歩前の草木堆肥の特性を見いだした時には昔の先人達の叡智に驚きました。

健全で栄養価に富んだ完熟野菜とは低窒素土壌の自然栽培でしか生まれないのです。

 

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              除草中の玉葱の畑

青く見えているのが玉葱の畝です。草がびっしりと育っております。

お気づきの方も居ると思いますが、草を抑え地温を上げ強制的に大きく育てる

黒マルチはしていません。

冬の寒暖の差を受け、自然の中で育てるからこそ、野菜は美味しくなり、栄養価に

富んでいるのです。その分、除草の手間は掛かり、大変な作業となります。

およそ数万本の玉葱を植えており、気が遠くなるような除草作業が寒い冬の間、

続きます。

 

ちなみに芋類・南瓜などの追熟と原理は同じです。(芋類などは収穫してから20日程度常温で寝かせて、でんぷんなどを分解させ甘くさせます)

むかし、化学肥料も畜糞も無かった時代、草や葉っぱを熟らせてから畑に施肥して農産物を育てていました。当時の野菜はみな低窒素栽培であり、完熟野菜であり、栄養価の高い美味しい野菜だったことでしょう。

ただ、完熟野菜は野菜の生命を終えようとする寸前ですので、その出荷適期は短く傷みが早く、このリスクは生産者と同時に消費者も同じように負っているのです。その代償は美味しさと栄養価です。

 

自然栽培の場合、常にこの完熟野菜を目指します。ベビーリーフのような栄養価の乏しい野菜は作りたくないのです。

栄養価が高く美味しい野菜を作るためには、草木堆肥の使い方やその性質を熟知しておかねばなりません。

草木堆肥の最大の特性と利点は完熟野菜となる自然の摂理をうまく使っていることです。

ただ、低窒素栽培の欠点もあります。成長に不可欠の窒素分が少ないということは、成長が遅れ、自然の恩恵だけではなく、厳しい自然の変化や害虫被害のリスクに長期間晒されることです。

さらに巻物野菜(キャベツ・白菜等)や実物野菜などはある程度の窒素の力を借りなければ、巻いてくれないし、次々と実を成らせてはくれません。

草木堆肥の実践については「草木堆肥の使い方」の項で詳述いたします。

 

草木堆肥は完熟一歩手前のものを畑に施肥します。

完熟してしまうと最早肥料にしかなりません。完熟一歩手前の堆肥は有機物残渣が残り、微生物や菌類が増え続けている状態のものです。彼らが畑の中で増殖を繰り返しながら畑を耕してくれるのです。60%の農学者は完熟堆肥でなければ窒素飢餓状態に陥るので未完熟堆肥は施肥してはいけないと言っています。(今では40%の学者は完熟堆肥では意味が無いと言い始めております)農業は理論の中だけでは分からないことの方が多く、実践を重ねた現場の農業者のほうが正しい場合が多いのです。

完熟一歩手前の草木堆肥の目安は堆肥の温度が約40度程度、草の繊維がかすかに残り、葉っぱなどは残っていても菌糸に覆われている状態のものを施肥します。

 

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これからビニールトンネルが徐々に増えていき、1月頃にはこの圃場もすっかり白一色の畑となります。

暖かい日や雨の日などはトンネルを剥ぐってやり、太陽や雨に晒します。

その開け閉めの作業が冬中続きます。

むかし野菜の四季ーPART2

2021.12.5(日)晴れ、最高温度12度、最低温度4度

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              ビニールトンネルを張る

 

今年最初のトンネルを張る。人参と白菜が第一号となった。

11月下旬頃から寒気が強まったというものの、例年よりは遅いトンネル張りでした。

12月の中旬頃にかけて寒さが収まり、暖冬の気配すら漂う。

一気にビニールトンネルの白一色の畑とはなりそうもない。

 

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                 大豆の脱穀

およそ半反の畑に植えていた大豆を脱穀しているところ。30キロくらいしか採れなかった。庄内の大豆はいまだ乾燥し切れておらず、年末から初春に掛けての脱穀作業となる。今週はその大豆を収穫した圃場に麦を蒔くため、草木堆肥を振りに全員で出向くことにした。

 

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研修生達がレイキ(熊手のようなもので畝を均している)を掛けているところ。

このところ、毎週誰かが農園に訪れ、農業体験やら研修を行っている。

彼らに作業終了が声を掛けると、みな「楽しかった・清々しい」との評価。

一日弁当を持ってきて、露天で農作業をすると日常とは異なり、思い切り開放感に

満たされるようだ。手取足取りで教える方は大変なのですが・・・!

この中から、未来の自然循環農業の担い手が出てくることを祈る。

 

むかし野菜の四季-2

2. 自然栽培(低窒素栽培=完熟野菜)

 

自然栽培という公の言葉はありません。有機栽培と区別するために他に呼び方が無くこのような表現を使っただけで、あえて言うなれば、むかしの有機農法です。

有機・無機を問わず、現在の農業は肥料栽培です。これに対して自然栽培は根本的に異なります。肥料も無いむかしの農業は草・葉っぱ・木(柴)に人糞をかけて、1年がかりで発酵させた堆肥を使って土を育て、その土の力で野菜を育てていました。

当然に肥料とは違って土壌の中に窒素分は少なく野菜が育つ土を作るのに、数年以上、あるいは、数代をかけていましたから随分と労力がかかっていたのですね。

この昔の農法を破砕機やタイヤショベルを使って発酵が早く進むように改良し、現代に復活させました。機械を使ったからと言っても労力や手間が掛かることには変わりません。

ちなみに牛糞と藁を混ぜた堆肥は厩肥と呼ばれており、畜糞と草・藁・おが屑などを混ぜたものも堆肥と呼んでおりますが、いずれも畜糞(窒素分が多く)が多くN/C比が高くなり肥料に近いものとなっているようです。ただ、これらも数少なくなってきており残念です。

 

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         草木堆肥歴20年の2番の畑の一本葱

12月頃になると、この畑で育った一本葱は直径4センチほどの太さに育ちます。

他の圃場ではこんなに太くはなりません。土の力ののですね。

白根の部位は素揚げや焼き野菜として、葉の部位はてんぷらや煮物に使います。

甘いと言うより極上の果物を食べているようで味が深いのです。

 

「土を育てる」

 当農園の自然循環農法の特性は肥料は使わず、草木堆肥しか畑には投与しません。

肥料は野菜を育てますが土は育ててはくれません。草木堆肥は土を育て、育った土が野菜を育ててくれます。

肥料分(窒素)が無いと野菜は育たないのではと疑問を抱く方も多いかと思いますが、その仕組みは以下の通りです。

完熟一歩手前の草木堆肥(微生物や菌類が活性化したままです)を年間3~4回施肥すると、野菜収穫後も土中には微生物分解されなかった有機物残渣が微量ながら残り、それを食料として残っている微生物や菌類も生き続けます。

さらに野菜の収穫を終えた畝にまた草木堆肥を振り、直ちに次の野菜を植えます。一つの畝に年間3~4種類の野菜を植えますので、その畝には新たな草木堆肥とともに新たな微生物と菌類が加わります。その結果、土壌には炭素分の多い草木堆肥の残渣が残っていきます。これを餌として菌類・微生物が棲み着きます。つまりは、菌類等によって土が耕されていく訳です。これを繰り返し、畑は生物相豊かな持続(再生)可能な圃場となるのです。

 

窒素分の多い畜糞・米糠油粕・魚粉・動物の内臓などは微生物等によってすぐに分解され、窒素肥料として野菜等に吸収されてしまい、有機物残渣は残りにくいのです。

草木堆肥を施肥し続けると3年を経過した頃から土が約10センチの深さまで出来上がっていきます。(一年間でおよそ3センチ団粒化が進みます)

この土の成長は団粒構造(粒々の土の粒子)となって表れてきます。土の粒子の中には水分・空気・肥料分が蓄えられ、それぞれ、保水力・保気力・保肥力が備わってきます。これが肥えた土ということになります。

他より購入してきた有機堆肥や肥料は何が混じっているか分かりませんので、むかしの有機栽培農家は自らの手にて堆肥や有機肥料を作っていました。最近では、ほとんどの有機農家が他から購入しているのは残念です。

変な話ですが、草木堆肥が底を尽き始めると急に貧乏になったような気がしてきます。

腐葉土化した葉っぱや破砕屑を見ると、美味しそうと思ってしまい、気持ちはほぼ菌類や微生物と同じです。

草木堆肥を使った自然栽培では、N/C比(窒素と炭素の割合のこと)が低く、土が育つまでに最低2年~3年を要します。その間は土中に有機物残渣が少なく、当然に微生物層も育っておりませんので窒素分の供給が圧倒的に少なく、野菜は思うように成長しません。

元々の土壌にもよりますが、2年を経過してようやく根の浅い葉物野菜が育ちます。

今まで化学肥料(畜糞も同じ)や農薬・除草剤を使用してきた畑は微生物や菌類が育っておりませんので、土が生き返るのに3年を要します。逆に長年放置されてきた畑には生物層ができており、雑草の種子は多く残されてはいるが、草木堆肥施肥によって化学肥料を使っていた畑よりは1年早く土はできあがります。(その代わり3年間は除草作業に悩まされ続けます)

 

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畑に草木堆肥を振っているとどこからか蝶々が飛んできます。
堆肥に含まれた甘い養分を吸っているのですね。自然界は不思議なことばかりです。

農人は作業を中断し、蝶々にその甘い蜜をしばし吸わせております。

 

むかし野菜では、草木堆肥歴3年以上目安として赤ラベルとし、3年~5年未満を銀ラベルとし、5年以上経過した圃場を金ラベルの土と評価していきます。どのラベルで育ったかによって、当然に野菜の価格にも反映されます。

10年を経過すると団粒構造は30~40センチの深さまで達しております。その土の上を歩くとバウンドしてきます。こうなると、何を栽培しても上手くいきますし、野菜は美味しい。土は最早プラチナラベルです。

草木堆肥をたくさん施肥すると土が早くできあがることはありません。生物相形成には年月を要するのです。日本の先人達は何代も掛けて土を育てていたのです。ちなみに当農園の2番の畑は草木堆肥歴20年です。鍬を入れるとまるで砂をすくっているようで、草取りも鍬打ち作業も楽です。

何の野菜を植えても良くでき、至上の味香りがして美味しいです。ちなみに、味香りのよく分かる人参・セロリはそのプラチナ級の畑をメインにしております。うちのお客様からは人参は・セロリはまだですか?と一番人気です。

 

団粒構造の土

銀行員時代、再建出向したときの話ですが、広大な遊休地にハーブ園を作ることを計画しました。

ものの本によると、ハーブを育てるのに適した土とは「保気力があり、保湿力があり、保肥力がある土」とありました。そんな魔法の様な土はどうしたら出来るのか?当時全く見当も付きませんでした。

農園を開いて草木堆肥を施肥し続けて数年経過し出来上がった土、それが団粒構造の魔法の土でした。

団粒構造の土は小さな砂粒を寄せ集めたような土です。有機物残渣・微生物の死骸を核として、土が粒状に固まった状態のことを指します。土に肥料を与えずとも有機物残渣とミネラル分豊富なその土が野菜を育ててくれます。森の腐葉土と似ています。

団粒構造の土には小動物・小虫・微生物・菌類が棲み着き一定間隔で有機物を与え続けると、絶えず進化していきます。そこには自然循環の仕組みがあり、持続可能な農業に繋がっていきます。