2021.12.17(金)曇り、季節風強し、最高温度11度、最低温度2度
由布市庄内、田北さんの圃場にスタッフみんなで麦蒔きを行う
麦を蒔きながら管理機で土寄せ作業を行う。
ここには古代麦・裸麦・小麦・大麦の四種類の種を蒔きました。
大麦だけは田北さんとこのベコ(牛)のおやつで、ウメーと言って食べるそうです。
この牛も家族なのですね。田北さんは繁殖牛の牛を4頭飼っております。
彼はお米5町歩、原木椎茸2反、そして、無添加の搗き餅をむかし野菜の邑から
皆様へ出荷しております。
農園もこの麦蒔きが終わると、一段落が着き、越冬時季に入ります。
とは言ってもビニールトンネル張りなどの作業は待っております。
むかし野菜の四季ーPART2
「美味しい野菜とは?」
これは当農園の大きなのテーマの一つです。
私自身野菜は苦手でした。食卓に出される野菜を食べても美味しいと感じたことはあまりありませんでした。何を食べても野菜の味はせず、香りも無く、いつまでも口の中に残る筋の食感は最悪でした。もはや健康のためと自らを言い聞かせて半ば義務的に食べていたに過ぎませんでした。読者の中にも共感していただける方は多いと思います。
冬の作物、甘藍系(キャベツなど)の野菜を定植しました(左端)その右は芽キャベツ
です。寒さに耐えながらじっくりと育ち、春3月頃に出荷時期を迎えます。
ただあまりにも小さく極寒に耐えられるか心配で、1月頃にはビニールトンネルを掛けて守ってやらねばならないでしょう。芽キャベツは極寒の1月頃から出荷が始まります
寒さに強いのですね。
衰退し続ける地域と農業の現状を見て、「何とかしなくちゃ」という思いを抱き、「有機農産物及びその加工品の商品化」によって地域を再生できるのではないかと考えて始めた有機農業でしたが、その野菜の美味しくないことにそのしょっぱなから疑問が湧いてきました。
様々な有機肥料を施ればやるほど、野菜は味香りを無くしていきました。
まだ小学生の頃、スイカが好きで畑に出て野菜作りを手伝っておりましたが、畑でもいだトマトや胡瓜の鼻に抜けるような味香りやカリッとした食感が私の野菜の美味しさの原点でした。
そこでまだ実験農園段階の時(銀行員時代)、思い切って有機肥料(畜糞・米糠・油粕等)栽培を止め、江戸時代の農業本に基づいて、草木堆肥に絞って土作りからやり直しました。
草木堆肥による土作りを始めて3年が経った頃から、野菜に瑞々しい味香りや歯切れのよい食感が蘇ってきました。
野菜には「基本味」である5味があり、甘味・酸味・塩味・苦味、そして旨味と言われております。
料理の世界では、旨味をどの食材で、どうした調理料を加えていくのかが常に問われます。
一番知られている旨味はたんぱく質の中に含まれるアミノ酸の一種であるグルタミン酸です。他には魚介類のイノシン酸やキノコ類のグアニル酸が知られております。
西欧ではこの旨味をトマトやチーズ・ハム類から取り、日本では昆布や鰹節などから取っております。
学者や研究者が確認した旨味の元は、その通りであるとは思いますが、私はそれだけで旨味が説明できないと考えております。
窒素過多となりやすい肥料栽培では野菜の「えぐみ」や「苦味」が出易くなります。
料理の世界ではよく「灰汁取りをしなければいけません」と言われます。
それは肥料栽培を基本とした近代農業になってから顕著に言われるようになったのではないかと考えております。
人間の舌の先では甘味や塩味を感じ取り、舌の付け根辺りで苦味やえぐみを強く感じます。
自然栽培の野菜では苦みやえぐみではなく旨味を感じるのです。
つまり、私は絶え間ない土作りを行う自然栽培の野菜を食べてえぐみを感じず様々な複雑な雑味=旨味を感じるのは、グルタミン酸だけでは説明できず、ミネラル分が多い野菜だからではないかと考えるようになりました。
精製塩(純粋な塩化ナトリューム)と岩塩(ミネラル分を含有している)の味の違いに似ております。
ビニールトンネルを剥ぎ、冬の貴重な雨を待っている処です。
種を蒔いたばかりの野菜は不織布を掛け、その上にさらにトンネルを掛けます。
二重に寒さ対策をしてやらねばこの寒さの中では育ちません。
このトンネルは今日の冬の嵐でみな吹っ飛んでしまいました。復旧作業が大変です。
旨味の話はさておいて、それでは「美味しい」とはどういうことでしょう?
美味しいということは多分に人の情緒的な感性から出る言葉ですね。
その場の雰囲気や視覚聴覚から感じ取るものや味香りや食感から感じ取るものです。
そうであれば、人の先入観念で「この野菜は有機野菜だから美味しいのだ」「最高のプロが作った高級料理だから美味しいのだ」と思って食べている方も実際には多いようです。
一般(流通)マーケットでは、味香りや美味しさは評価の対象にはならず、見え形・規格サイズ・新鮮さなどが評価のすべてと言っても過言ではありませんし、虫食いの痕などあろうものならだれも手を出しません。
野菜ソムリエなどが形の悪い野菜、例えば曲がった胡瓜や先が太い胡瓜などは選ばないようになどと、まことしやかに伝えておりますが、それを聞く度に悲しくなります。野菜の美味しさや健全性などには一切関わりは無いのにです。私などはむしろまっすぐな胡瓜のほうがよほど危なく美味しくないのにと思ってしまいます。胡瓜は太陽に当たると当然に曲がり、むしろそれが自然なのです。
このように「美味しい」と言う感じ方は多分に世評や権威、そして概念(観念)に支配されているようです。
ところが「有機JAS野菜だから美味しい」と信じ込んでいた消費者が、何かのきっかけで、ふと疑問を抱き始める。「有機無農薬野菜なのに何故虫食いの痕が無いのだろう」「化学肥料も使っていないのに、何故こんなにスーパーで売られている野菜のように形が揃っているのだろう」
自然栽培を始めてすでに20年を迎えようとしております。
私はこの「美味しさ」を追求し続けてきましたし、今まで多くのお客様と接してきました。
私たちの仲間(定期購入者の方々)の全てが自然栽培だからお客様になったわけではありません。むしろ市場の既存価値観(見てくれ)に近い方も多数いらっしゃいました。
それでも仲間となって頂いたのには、理由があります。
食べて美味しいと感じていただいたからですし、ただ、美味しいのではなく、圧倒的な野菜の味香り・食感・鮮度、そして、旨味をわかって頂いたからです。
真に美味しい野菜とは、健全で栄養価が高い。この当たり前のことに気づかされたからです。
私は新規のお客様によくこのように伝えます。
「世評や観念に囚われず、貴方の舌と感性を信じなさい。そうすればきっと貴方が真に探している野菜に出会うでしょう」
全国に350名のお客様がおられる中で、10年以上野菜をとり続けて頂いているお客様が120名以上おられます。これらの仲間たちは私にとっては良き理解者であると同時に、良きマーケティング対象者でもあります。
私たちもこの野菜の恩恵に預かっており、20年以上歯医者以外行ったことがありません。
私は、今ではむかし野菜の美味しさの訳は、体にやさしい味がするからだと考えております。
右側はセロリ、左はニンニクです。
このセロリは地中海原産のセリ科の作物です。セロリは好き嫌いがはっきりとしていて
うちのお客様の中にもその1/4の方は「食べれないので要りません」と言ってきて
農園主を困らせます。そこで私はこのようにお伝えします。
「セロリは万能の調味料であり、旨味の元です。茎の部位は生食でも良いのですが、
葉の部位は細かく刻んでニンニク・玉葱・生姜などと一緒に油で炒めて、カレー・スープ料理・炒飯などにして食べてみてください。おそらくは明日からやみつきになり、
貴方は必ずセロリが好きになります。香味野菜は油と一緒に加熱しますと旨味成分に変わります。尚、当農園のセロリは灰汁や独特の苦みやえぐみが無く、旨味成分をふんだんに持っております」と・・・
それ以降、一度か二度のやりとりは起こるものの、セロリを断ってきたお客様は
おりません。