農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.9(水曜日)晴れ、最高温度26度、最低温度19度

 

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          きれいに整備された二番の圃場

この圃場だけは、奇跡的に害虫被害が少ない。理由は分からない。

このため、農園では、10カ所以上に畑を分散させている。リスクヘッジのため。

 

むかし野菜の四季―土中から湧き出る虫達

 

季節は10月に入った。農園では、秋野菜の主力となる葉物野菜・大根蕪類・白菜・キャベツ類などの種蒔きや定植を行う。秋野菜は本来、8月下旬頃から9月に掛けて種蒔きを行うが、何しろこの気候である
酷暑が終わる間もなく、秋雨前線や台風の接近によって日照不足は続くし、常に雨が降っている状態が虫たちには、繁殖し易い環境が整っている。
このため、発芽した途端に新芽が喰われ、何とか虫の難を逃れた畝でも少し野菜が成長し始めた途端気がついたら葉っぱはすだれ状に喰い荒らされ、惨めな状態を晒し始め、やがて命尽きて落ちていく。
野菜農家にとって悩みの季節ではある。

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茶色に変色したサラダ蕪と、すだれ状になりかろうじて蕪の原型を留めている中蕪

奥のサラダ蕪はこの後、撤去した。中蕪はもう少し様子を見ることにした。


この時季、一度目の種蒔きは8月下旬~9月中旬頃に行う。今までの経験では、第一陣がまともに育ったという実感は無い。収穫できたとしても、葉野菜は穴だらけで、葉を無くした蕪などはやせ細り傷だらけとなり、とても商品には成らない。丁度今頃の出荷となっている筈である。
第二陣は9月下旬頃の種蒔きとはなるが、これすら、すでに葉っぱの1/3は無くなっている。
そして、10月、秋も終わろうとしているこの時季、祈るような気持ちで種を蒔いている。

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この日、ジャガイモ・九条葱の土寄せ作業と併せて、大根・蕪類などの第三陣の種を蒔いた。種を蒔いた跡にパオパオ(織布)をベタ掛けしている。湿度保持のため。

農園主は二番の圃場に第一陣のキャベツを定植した。

 

これを避けるためには、浸透性農薬で土中消毒を行った後、防虫ネットを張るハウス栽培か、土中消毒の後、一週間毎に絶え間なく緩効性農薬(薬の持続効力が強いため残留性が高い)を出荷直前まで遣り続けるかの選択を迫られる。
有機栽培であろうと、慣行農業であろうと、避けられない気候変動の、あるいは、自然の摂理の現実がそこにある。虫たちも生き残るためには必死なのです。


※浸透性農薬; ネオニコチノイド系農薬が多いが、要するに根から吸収させ、その野

        菜の葉っぱを囓ったら害虫が死ぬと言う農薬の事。

 

これに対して、有機JAS法制定以前のむかしの有機農家では、幼苗時、あるいは、第一次成長時期に、2~3回ほど、瞬殺効果のある劇薬を散布する。後は、野菜の成長により、多少の害虫が取り付こうとも野菜の旺盛な生命力に任せ、収穫まで農薬散布はしない。
この農法を当農園は取っている。そのため、時には害虫が食べ尽くすか、人が食べるかの競争になることもしばしばである。


※劇薬; 劇薬指定されている農薬は、農業者にとっては甚だ危険であるが、消費者にとっては実にやさしい農薬である。劇薬は分解(無能力化)速度が早く、条件によっては半日か一日で分解されるように設計されている。何故なら、人に触れたり吸い込むと危険であるからである。
分解には、光合成分解・水溶性分解・微生物分解及び自然分解がある。

有機JAS規程では、むかしの有機農家のそんな知恵も知識も活かされないまま「化学合成した農薬は使わない」とだけ規程がある。それ故に有機の圃場では建前と現実が遊離してしまい、甚だ信用力に欠ける。このこともあり、世界のオーガニック野菜の認定は、日本の有機JAS野菜には適用されない。
有機発祥の地である日本人としては誠に悲しいことである。

これらの基本的な知識も無く、現実を知らされていない消費者の理不尽な声は、懸命に安全な野菜作りを目指している本来の自然循環型農業を行っている農業者にとっては、辛い現実もある。
「農薬を使っているのですか?」「無農薬では無いのですか」と叫ぶ消費者の声はとても冷たく聞こえてくる。
有機JAS規程が消費者に有機とは無農薬のことであると言う概念を植付け、消費者から無農薬ですよね!と念を押され、「そうです!」と頷かざるを得なくなった有機農家の無念を知っている。
それもあってか、近時、国も「有機無農薬」と言う表示を禁じている。おそらく、押し寄せてくる気候変動の中で、現実的では無いとようやく悟ったのかもしれない。それでも最早遅い判断であったと言わざるを得ない。
その厳しい理想と現実の挟間の中で、有機農業者は減り続けており、同時に有機農業を目指す若者も減少の一途を辿っている。
とても一人でこの厳しい農業環境に立ち向かっていける人は少ない。

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今年の夏、酷暑だけではなく、日照不足と湿気、押し寄せてくる害虫の群れに、夏野菜はほとんど壊滅状態となった。

これは大量発生したカメ虫による被害の本の一部です。


当農園では、その最初から、数人の共同作業でスタートしているため、一人農業を志向する人は出てこない。農業は互いに支え合って生きていかねばならないことをうちのスタッフ達は体験で知っている。
唯、彼らには一度たりとも甘い言葉を掛けたことは無い。
自然循環農業とは、元々、社会の中では、圧倒的なメジャーになることはなく、大成功となる事も無い。
自然の中で生かされており、雑草であり、生き物である。唯、誰にも忖度して生きることも無く、社会の理不尽さに抗って生きていくことはできる。それ故、心はいつも自由でありたいと思う。

 

そんな若者達に闘い続けていくことを教えているつもりではある。

 

それでも、今年から始めた農園直売の中で、見ず知らずの多くの消費者と触れあい、自分たちの試みや生き方を話すと良い。その方々との触れあいの中から、生きていくことの意味や楽しさを学び取って欲しいと願っている。
個々に訪れてくる消費者の多くは自分たちの仲間であることを実感して欲しいとも思う。その方々の大切さを心に刻んで欲しい。

 

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試食コーナーで歓談しているお客様達。野菜を買い求めているお客様へ孫の一人が

お世話を焼いている風景。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季

2019.10.2(水曜日)曇り、最高温度30度、最低温度24度

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        2019.9.20.現在の雑草に覆われた大豆畑

7月に草刈り機と管理機で除草作業を行うも、二ヶ月後はこんな感じに草に覆われてしまっている。大豆も大きく育っており、草刈り機や管理機は最早入れられない。

このまま大豆が育つか、草に負けてしまうか待つしか無い。

 

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2019.7.3.全員でようやく発芽した大豆畑の除草作業をし、この後、管理機を使って土寄せを行う。

 

「むかし野菜の四季」ー実りの秋―除草剤


春から夏にかけて草が生い茂り始め、「夏草はしつこい」と言われている。
それでも最近の日本では、梅雨が明けると、途端に酷暑がやってくる。梅雨時期に夏草を刈り取る間もなくしつこく夏草が茂り始める。暑い盛りに何度も草刈り機や手作業で除草をし続けねばならない。
それでも酷暑の中は、流石の雑草もやや抑えられるが、初秋頃から勢いを盛り返し、旺盛な勢いで繁り始める。例えば、露地の人参など、種まきから収穫までに最低4回は除草に手を割かれる。
農業にとって過重な労力のかかる除草作業は大きな課題となっている。
それでも自然栽培を標榜している当農園では、草を抑える黒マルチは使用していない。産業廃棄物の山となることも嫌だが、外気や太陽・風雨との交流を妨げ、野菜の自然生長を阻害しているためである。

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じゃがいもの土寄せ作業

一畝に二列ジャガイモの種を蒔き、発芽し、この程度まで成長すると、土寄せを行う。

この時、同時に除草作業を兼ねる。大きな草は手で抜き、小さな草は鍬で掻き込んで根元に寄せ、さらに深く鍬を入れ、葉っぱ毎、土を被せる。

葉物や根菜などは、成長するまで最低3回は除草作業が必要となる。除去した草は集め草木堆肥の原料とする。

 

野菜畑の場合はまだ良い。これが穀物畑となると、広すぎるために、手作業での除草が事実上できない。
そのため、穀類栽培では、水田も含めて除草剤散布が当たり前になっている。このことを消費者は知らない。除草剤には人体に有害な成分が多く含まれ、生命のDNA(遺伝子)を変質させる危険がある。
最近急増してきた穀物アレルギー・アトピーは、これが大きな要因ではないかと農園主は考えている。何しろ穀類は御飯・パン・麺類・菓子類など、人が生きていくためには不可欠な主食となっている。

特に問題となるのは、ゲノム編集によって生産される小麦・大豆・とうもろこしなどである。遺伝子組み換えの穀類は、より強力な除草剤を使用しても死なない穀類の種子のことである。危険な農薬(除草剤)を吸い込んだ小麦や大豆を人間や家畜が食べているのですから・・・


 2019.9月、国はゲノム編集の野菜や穀類を解禁した。聞こえは良いが、遺伝子組み換え穀類を日本で販売することを許すことに繋がる。メディアもこのことを正確には伝えようとしていない。
アメリカの大統領に日本の農業を攻めても良いとしたことであり、国を挙げて、メディアも黙認し、国民の健康をまもろうとする気概は無い。一党独裁状態にした国民の責任であり、そのことが何より悲しい。

さらには、穀類栽培には、農薬の散布を二回以上は行う。それよりも課題となるのは、窒素肥料を多く投入しなければ、粒は小さく、タンパク質(小麦の場合はグルテン)が増えない。そのため、農業普及センターでは、化成肥料などの追肥を呼びかけているほどである。
様々な化学物質がかなりの量、圃場に蓄積していき、農産物の体内には硝酸態窒素(毒素)が残される。
これを数十年繰り返していった結果が現代病の多発では無いだろうか・・・
むかし野菜の邑グループでは、この大きな課題に数年前から取り組んできた。

数年前、新たに水田を借り、穀類畑に変えていった。
水田は湿田と乾田に分かれる。水分が常に多い湿田では、深水管理と言って、常に水を張り、水田に水を環流させておき、山からの栄養素を常に取り入れ続け、深く水を張っているため、雑草が生え難い。
さらに米糠を投入すると、稲より背の低い雑草は呼吸ができなくなり、除草にも繋がる。これが自然栽培(無肥料・無農薬)のお米である。
乾田は、稲作には不向きではあるが、麦や大豆栽培には適しており、当農園はこれを借り受け、穀類畑へと転換しようとした。勿論草木堆肥のみ施肥し、土のチカラを付けようと試みた。
処が、除草剤も使わないため、いつも草に負けて穀類が生長しないばかりか、全滅してしまうこともしばしばであった。それでも何とか収穫までに漕ぎ着けた小麦は、背が低過ぎて、コンバインに掛からない。
農業試験場の所長が言っていたことが頭をよぎる。
「佐藤さん、除草剤も使わない、化成肥料も使わないでは、絶対に麦は出来ません。できたとしてもグルテンはほとんど無く、商品にはなりませんし、買う人も居ません」

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穀類畑は、大豆・麦(小麦・裸麦・古代麦)・とうもろこしなどの二毛作を行う。

この穂は古代麦であり、髭が小さく、熟すと紫色(通常の麦は黄金色)に変る。

5年前はわずか1リットルの種をもらい受け、5年掛かりで増やしていった。

一粒であり、実は小さく、収量は通常の麦の1/4程度となる。

 

それでも若いスタッフ達と頑張り続け、5年が経過した。ようやく土が育ち、ある程度の量まで採れるようになった。先ずは、裸麦と古代小麦(日本の原生種)のセットをした「麦ご飯セット」と「弥富ブレンド粉」を試作した。
アレルギーなどの現代病に対応できる麦の生産しか頭に無かったのだが、粉にして食べてみたら、麦に味があり、香りがあり、甘みまであるではないか。その美味しさに驚かされた。中でも日本原生種である古代麦は、味香りが強く、粘りがあり、圧倒的な存在感がある。
唯、少量しか採れない、調理しにくい、個性が強すぎる、粉が纏まりにくいなどの難点があり、九州産の筑後イズミ(中力小麦)とのブレンド比率に苦労したが、何とか、その美味しさを保ちつつ、ようやく「弥富ブレンド粉」が完成した。
裸麦と古代もち麦をセットした麦ご飯セットは、すんなりと商品として完成した。唯のお米が別物の麦ご飯に変身していた。

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昔懐かしい小型の小判型にした。弥富パンを作り、手作りのパン粉を使用した。

これで丸ごと全ての材料がむかし野菜の邑の野菜(農産物)である。肉は違いますが。

そのため、アレルギー体質の方にも対応できる。

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パウンドケーキ(かぼす風味)

かすかなカボスの香りが心地よく、何より、麦の香りがしてくる何処にも無いケーキが

誕生した。危険な化学物質が入っているとされているベーキングパウダーも排した。

 

ここから、やせうま・クレープ(流し焼き)・団子汁・石垣餅・野菜饅頭などの中間食、弥富パン粉を使ったコロッケ・ピロシキなどの惣菜、グルテンが少ないためパンとは呼べないかもしれないが、弥富パン・パウンドケーキ・ドーナツ・クッキーなどの菓子類が誕生していった。
全て現代病への対応を考えて、製作したものであり、ベーキングパウダーなども排して、麦から起こした天然酵母を使用している。
9.29より、これら穀類を原料とした加工品も含めて、毎週日曜日、農園マルシェを開催し始めた。
大分市場の消費者が支持してくれるかどうか、これから、さらに新たな闘いが始まる。

農園日誌Ⅲーむかし野菜の四季ー日本の農業の原点

2019.9.25(晴れ)最高温度30度、最低温度17度

 

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            稲穂染む曼珠沙華咲く里の秋

去年は実り多く随分と楽をさせてもらったが、今年の秋は何となく不安が頭をよぎる。

毎年のことだが、年々ひどくなってくる害虫の発生と気候の不安定化が定着しているような気がする。

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               きれいに発芽した人参

隣は、第一陣の白菜の畝、さらにセロリの幼苗。今の処、順調に育ってくれている。

 

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APU・九州大学・関西の大学などの混成チームで「農業の未来を考える」と言うサマーキャンプが開かれ、当農園に学生たちが見学に訪れた。

東アジアや日本の大学生が混じっているため、同時通訳でセミナーを開いた。

久しぶりに大学生たちと接したが、皆、高慢で、畏れを知らず、幼く、そしてかわいい。私も若い頃はそうであったのだろう。

それでも、今時の学生気質が垣間見えて、うちの若いスタッフ達の気質が学べたような気がしている。

唯、一つ言えることは、訪れた若い学生に比べて、うちのスタッフ達は随分と大人に見えてきた。現実社会が見えてきて、それなりに迷い悩み苦しんでいるのだろう。

 

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台風17号により、折角ゆったりと伸びあがってきていた九条葱を吹き倒してしまった

この畝は畝揚げによりその手直しを終わったばかり。

 

(日本の農業の原点)―2
有機農業の研修会・説明会が県及び有機農業研究会によって催された。
私もその会に名目上所属していたため、誘われ、参加した。
その会に招かれていたある学者が、最後の方で、有機農業に対してこう切り出した。
有機農業も窒素過多になり易く、かつ、土壌が汚染され、慣行農業より、必ずしも安全とは言えない」
その際参加していた数人の有機農業者(有機JAS認定農場)が猛反論していた。
その内の一人が私の方をちらちら見て、「何故佐藤さんは反論しないのか」と言う目で睨んできた。

仕方なく、私もその議論に加わらざるを得なくなり、こう切り出した。


「貴方が言われていることは、こう言うことですか?」と前提条件を出して反論した。
「現在の有機野菜は、畜糞主体になっており、さらには、米糠油粕などの高窒素栽培となっている」
「そうであれば、逆に適正な化学肥料を使った慣行農業の方が、窒素過多に成り難く、つまりは、硝酸態窒素過多の土壌に成り難い」
「それでも、有機農家の方は、危険な農薬を極力避けてより安全な野菜を生産しようとしており、その努力と労力を貴方は知らない。机上の空論では有機農家の方が怒るのもやむを得ないでしょうね」

「貴方の言われることも一理はあります。配合飼料で育てられた家畜の糞には、抗生物質及び薬が多く含まれており、その畜糞を大量に投下され続けた土壌は、微生物や放線菌も棲めなくなっており、次第に汚染されて行き塩基濃度も高くなっていきます。それを私は、有機肥料の化学肥料化と称しております。
その救済策は、畜糞だけの肥料ではなく、微生物や放線菌の餌となる自然の草や葉っぱなどを加えたより低窒素の堆肥を施肥することによって、より低窒素土壌を育てることでしょう」

この最後の私の発言によって、学者も有機農家の方々も黙らざるを得なくなってしまい、この会の雰囲気を著しく壊してしまった。
有機JAS規程が制定された以降は、有機農業とは言っても、以前の持続可能な農業であった自然循環農業には戻れなくなってしまっているのかと痛切に感じた一幕でした。

それでも消費者はそんな議論は知らない。勝手に有機JAS規程を定めた国も有機農業がそれほど深刻になっていることも知らない。有機農業者は様々な壁にぶち当たり、理想と現実の狭間で、もがいている。


欧州のオーガニック農業は、国が監視していると言うよりも、そこに直接訪れる消費者(市民)自体がその圃場の有り様を見ている。つまりは、欧州の有機農業は市民参加型で行われており、日本のように、法令と実態が乖離している有機農業では無い。
当農園での自然栽培は、市民参加型を目指しており、害虫被害の実態や土作りの実情を見てもらうようにしており、なおかつ、健全で美味しい農産物作りのセミナーや料理体験会を定期開催して啓発・啓蒙活動を行っている。
消費者も有機農業の実態を、如何に手間を掛けた農産物作りを行っているかを、知ってもらい、その労苦に対する代償=購買への評価をしてもらいたいと願っている。

 

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7番の圃場。蕪系の種を蒔いて3週間後。害虫が次第に葉っぱを食い荒らし始めている

 

農園日誌Ⅲー「むかし野菜の四季」ー日本の農業の原点ーⅠ

2019.9.18(水曜日)晴れ、最高温度31度、最低温度24度

 

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              小麦を使ったおやつ作り

今年9月29日(日曜日)オープンする農園マルシェのため、現在、様々な商品開発

を行っている。この写真はほぼ完成に近いパウンドケーキです。

自然栽培による九州産の筑後イズミと言う品種の小麦と日本原産の古代麦(弥富麦)

の全粒粉のブレンド小麦粉がその原料です。

穀類の自然栽培と簡単に言うが、これが実に難しく、本来、窒素を欲しがる麦の栽培を

草木堆肥と言う低窒素栽培で行うため、土作りに約5年を要した。

さらには、農薬はおろか除草剤も使えないため、労力とリスクの塊となった。

 

これは、ハイグルテン仕様の麦が使われたパンや麦を原料としたおやつは、一度、アレルギーが発症するともう食べられない。多くの消費者の声に背中を押され、それならと

ノン化学物質栽培で育てた九州原産の小麦と、日本原産の古代小麦を加えたブレンド

を作ろうではないかとチャレンジし始めた訳です。

 

危険性が問われているベーキングパウダーも使わず、しかも、もさもさした食感になりがちな全粒粉麦(中力粉と古代麦)で麦の味香りを残しながら、もちっとした美味しさ

を表現しようと試行錯誤を繰り返し、おそらくは、全国何処にも無いケーキが完成した

現在、パンなども始め、数種のおやつ作りを試作中です。

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「むかし野菜の四季」

(日本の農業の原点)
日本には四季があり、国土の中央に山があり、山間から流れる大小の河川がある。河川は扇状地を作り、やがて平野へと繋がる。
豊かな自然があり、河川には、落ち葉が堆積した腐葉土からミネラルを含んだ栄養価に富んだ水が流れ、
豊かな土壌を形成している。その豊富な水により、日本では稲作が発達していった。
そのため、水田には肥料分を入れる必要が無く、古来から自然循環型の農業が営まれていた。
水を取り入れることが難しい土地は、野菜や麦類・雑穀が植えられる畑作が行われてきた。
そんなに広くも無い畑作用地には、入会地から柴を刈り取り、草と混ぜて、わずかな人糞を発酵促進剤として加え、一年も掛けて草木堆肥を作ってきた。
その草木堆肥によってミネラル不足と窒素不足を補ってきた。これが日本の有機農業の原点であった。

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戦後、西欧から硫安(化成肥料)が導入され、化学肥料と農薬のセットによる近代農業によって、日本の農業は一変していった。
ミネラル分豊かな低窒素栽培から、高窒素栽培への転換は、農業生産量の大幅な増大ができると国を挙げて、大規模化・機械化が進められていった。その当初こそ、確かにお米の増産には成功していたが、次第に土は痩せていき、反当当たりの生産量は、戦前よりも減産に陥っていった。
それは同じく導入された近代農業によって他のアジア諸国も同じです。
大量に投下され続ける化成肥料と農薬によって、次第に農地は汚染されていき、食味や栄養価は落ち、当然に農産物はかっての輝きを失っていった。
日本の農産物は安全であると言った神話は今では過去の物語になっている。
加えて、日本の農業者は、機械化と化学肥料・農薬(除草剤含む)によって、楽な農業を覚え、有機農業の発祥の日本の伝統的な農業である自然循環農業のDNAも消えてしまっている。

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問題なのはここからである。
近代農業による安全性への危惧から、有機農業と言う概念が生まれてきた。その元となった農業こそ、
日本の古来からの農業であった草木堆肥及びそれに近い有機物を使った農業であった。
処が、今から10数年前、日本政府によって、消費者保護という名目で、有機JAS規程が生まれた。
この法令によって、折角復活し掛かっていた日本の有機農業は急速に頓挫した。
何故なら、法令施行以前の有機農業者達の野菜は有機野菜と呼んではいけなくなったからです。
そのため、古来から延々と受け継がれてきた自然循環農業(本来の有機農業)の歴史はここで途絶えた。
今では、特に欧州が使っているオーガニックと言う「称号」は日本の有機JAS野菜には適用されない。
何故なら、信用性がきわめて薄いと判断されているからです。

当農園が「むかし野菜」と名付けたのは、その理由からでした。

農園日誌Ⅲ

2019.9.11(水曜日)曇り、最高温度33度、最低温度26度

 

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                ニラの花咲く

 

 長雨は終わりつつあるが、相変わらず蒸し暑く厳しい残暑が続いている。

スタッフ達も相当に参っている。この清楚な白い花を愛でる余裕も無いようだ。

農園主も流石に歳には勝てず、気力も奪われつつある。

 

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盆明け頃、種蒔きを強行したのが功を奏したか、葉物野菜達の薄緑色の若葉が、眩しく映るほど元気に育っている。

今年の秋はいつもの秋とはどこか違う予感がしている。日頃旺盛に繁殖してくる害虫の姿が見えない。今からか?油断は出来ない。

 

「健全な食を目指して、農業を未来へと繋ぐ」
                                 
農業は、国民の食糧を生み出す産業です。
その農業の担い手がいなくなると、国内での食糧の確保ができなくなる。それは世界的な天候異変による食糧危機や自国主義が進んだ後の経済戦争の道具にされることに繋がります。
欧州各国では、農業特に露地栽培農家に対して手厚い保護政策を行っている。国土保全・食糧確保は国力維持に繋がることを知っているからです。(施設栽培には補助金は出ません)
農産物国内生産確保に、関心を寄せない日本の政治・社会を消費者の皆様は如何お考えでしょうか?

農業を17年やってきました。そこで感じたことは、如何に農産品が安いかと言うことです。
サラリーマンも経験してきただけに、労働対価として割に合わず、「農業は苦労するだけで生計が立たない」
親が農業をしてきた子供さん(跡取り)ほど、農業を嫌って出て行きます。その親も子供には農業をさせようとはしない。結果として、地域には、田舎には、人が居なくなっているのです。
長い時間を掛けて、農産物は流通に支配されてきた。それは低価格ということだけでは無いのです。「見栄え・形・規格サイズ」が揃わないと、流通では価値がありません。
高回転の効く見栄えの良い施設栽培野菜、化学肥料と農薬で生産される規格野菜、土作りに三年以上の時間を掛けて生産された自然野菜、いずれも流通では同じ野菜なのです。従って、それは消費者にとっても同じです。
品質や安全性は、評価されない。つまりは、生産者の思いや努力は評価されるべき対象では無いのです。
今ではほとんどの農家に、品質に掛ける農家の思い、希望、そして誇りは、すでに無くなっております。
地域を支えてきた農業は、国から見捨てられつつあります。少なくとも国民の関心の外に置かれております。

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         OBSのアナウンサーと待機中の一コマ

9月7日、全国民間放送協会によって、開催されたトークセッションの大会

テーマは「農業の力を地域のチカラへ」

イベントそして開かれた会であったため、気乗りしないままパネリストとして参加しましたが、当日の夜、佐藤放送部長さんからメールが届いた。

「全理事達が佐藤さんを絶賛していましたよ」と・・・「救われました」とのメールに

こちらこそ!とお返しした。

この放映は9.23,14:55分頃、OBSにてなされます。

 

 

私は、どうしたら地域の生活を支えてきた農業を未来へ残せるのか?考え続けてきました。
良質な野菜を消費者へ直販することから始めた。生産方法を開示し「安全性」「圧倒的な品質の差」・「美味しい野菜」を示すことが必要でした。ほぼ美味しいでは、消費者は評価してくれません。
また、定期的に購入して頂ける消費者にいつも同じ野菜では、飽きられてしまいます。そのためには、季節毎に、30種類以上の野菜を栽培するノウハウを身につけることでした。露地栽培には必ず訪れる端境期でも野菜を切らさない工夫をし、「年間百種類以上の野菜」を作り続けることになりました。
さらに考えたことは、野菜だけで良いのか?と言うことでした。アレルギー・アトピーなどの現代病が多発してきており、「生きるための糧とは穀類である」と言う思いに至りました。「草木堆肥のみ施肥し、穀類生産には欠かせない除草剤を排し、健全な土を育てることに3~5年を要し、味香りがあり、穀類の旨みが感じられる」
これを目標にして栽培実践を繰り返し、数年後に出来た麦を食した時に、農園主は驚きました。
今まで感じたことの無い味や香りが、そして、美味しさがそこにありました。
この穀類の素朴な美味しさを粉にして、加工品の商品開発にスタッフ達と取組始めました。野菜饅頭・団子・石垣餅・パン・ピザ・パウンドケーキ・クッキー、そして全て原料をグループ内で調達したコロッケ等々でした。
アレルギー・アトピー・癌などに苦しむ消費者にやさしい農産物及加工品に取り組んでおります。

化学物質を極力排した健全な農産物作りは、手間と労力と、生産リスクに満ちております。
それでも、自然循環農業によって産出された農産物及びその加工品は、人々や、未来を担う子供達の健康を守ってくれる。
農園主はその自負心を持った新たな農業者が育ち、地域が再生されていくことを願っております。

 

9月29日、むかし野菜の邑にて、農園直売所を本格的にオープンします。

現在、その準備に大忙しです。

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       幻の金時生姜、その艶やかな色が、一際、光を放っている

 

 

農園日誌Ⅱー「活きること」最終章

2019.9.4(水曜日)曇り、最高温度30度、最低温度23度

 

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           甲州とうもろこしを軒先に陰干し

 

 今年もわずかしか採れなかったとうもろこし。

除草剤・土中消毒・浸透性農薬を使えば、量が確保できるのだが、それでは意味が無く、あくまでも自然栽培にこだわるため、例年、収量は通常栽培に1/5以下となる。

これは、小麦・古代もち麦・大豆粉などとブレンドし、自然栽培だけの粉作りを行うために生産しているためです。

農園では、9月末頃から毎日曜日午前、野菜だけでは無く、自然栽培のお米・ブレンド粉・麦ご飯セット・麦茶などの穀類、その粉を使ったパン・ピザ・野菜饅頭・焼き菓子・コロッケなどの直売所を開催しようとしており、現在、その商品開発中です。

同時に販売に際しては、ブレンド粉を使ったやせうま・クレープ・団子汁・石垣餅などのレシピを添えて皆様にご紹介していきます。

 

 

「活きること」最終章ーこの国の行方

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2019年9月  この国の行き着く先は?
日本という国は資源を持たない。そのため、資源を輸入しそれを加工して外国へ商品輸出し外貨を稼ぐ。それらの加工産業やそれに関連した産業によって、多くの国民の生活が成り立っている。
そのため、常に日本を取り巻く国々と仲良くして行かねばならない。武力行使を行う事を放棄し、ひたすら自国防衛に徹しなければならない。経済戦争を仕掛けることも出来ない。そこに独立国家としての日本経済や政治外交の難しさがある。

但、この時代、世界が民族主義自国主義の闘いが始まると、加工貿易による産業だけで、グローバルな大企業を中心とした産業だけで日本経済が支えられるのか、それらの大企業が豊かな日本の経済を雇用を消費を担ってくれるのかと言った疑問が湧いてくる。
今まで、長い時間を掛けて日本という国は、殖産興業に邁進し、世界NO3の経済力も身につけてきた。そのため、世の中の、あるいは、政治・経済・社会の関心は、全て中央に向けられてきた。
その行程の中で、地域は次第に見捨てられてきた。地域の産業は、極論すれば、農林水産業しか無い。
今、その地域産業に大きな危機が訪れている。担い手がいなくなっている。それは特異な技術や優れたノウハウを蓄積してきたを職人・地場産業もまた、同じこと。

日本のGDPのうち、貿易に占める割合は30~40%と言われており、国内循環しているGDPは60~70%もある。その産業に従事している人達は生産者であるだけでは無く、消費者でもあるわけで、国内消費を支えている。
「国力の物差し」は、何も殖産興業・加工貿易、ひいては、大企業だけにあるわけではないのです。

特に農業は、国民の食糧を生み出す産業です。
その農業の担い手がいなくなることは、国内での食糧の確保ができなくなると言うことです。それは世界的な天候異変による食糧危機や自国主義が進んだ後の経済戦争の道具にされることに繋がります。
これは余り知らされていないことですが、欧州各国では、農業特に露地栽培農家に対して手厚い保護政策を行っております。国土保全・食糧確保は国力維持に繋がることを知っているからです。(施設栽培には補助金は出ません)
先進各国が農業維持を重たいテーマと捉えていることに、関心を示そうとしない日本の政治家のみならず、日本の消費者も、実は、大きな問題なのです。

 

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農業を17年やってきました。そこで感じたことは、如何に農産品が安いかと言うことです。
サラリーマンも経験してきただけに、労働対価として、割に合わないのです。
これが農業を嫌う農業後継者の実態です。親が農業をしてきた子供さん(跡取り)ほど、農業を嫌って出て行きます。その親も子供には生計も成り立たない農業をさせようとはしない。結果として、地域には、田舎には、人が居なくなっているのです。

「農業では苦労するだけで生計が立たない」これが真の事情です。
長い時間を掛けて、農産物流通(販売)は流通に支配されてきた。それは低価格ということだけでは無いのです。流通し易い形こそ、「規格野菜」なのであり、「見栄え・形・規格サイズ」が揃わないと、流通では価値がありません。
年間高回転の効く施設栽培野菜、化学肥料と農薬で生産される野菜、土作りに三年もの時間を掛けて生産された有機野菜、いずれも流通には同じ野菜なのです。そして、それは消費者にとっても同じです。
品質や安全性は、評価されない。つまりは、生産者の思いや努力は評価されるべき対象では無いのです。
高品質農産物を生産すると言う農家の誇りは、すでに無くなっており、誇りを持てない農業に何の希望も持てないからなのです。これでは、後継者が農業を嫌うのは当たり前です。
地域は、農業は、国からも、メディアからも、そして、国民からも見捨てられつつあります。少なくとも国民の関心の外に置かれております。

 

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私はそこで、どうしたら地域の生活を支えてきた農業を未来へ残せるのか?考えてきました。
その一つの試みが、農業者が良質な野菜を作ろうとすることが消費者へ伝わるには、「消費者との直接対話方式」、つまりは直販方式を採用することでした。
消費者への直販を行うには、「圧倒的な品質の差」・「美味しい野菜」を示すことが必要でした。ほぼ美味しいでは、消費者は評価してくれません。
また、定期的に購入して頂ける消費者にいつも同じ野菜では、飽きられてしまいます。そのためには、季節毎に、30種類以上の野菜を栽培するノウハウを身につけることでした。露地栽培には必ず訪れる端境期も野菜を切らさない工夫をし、「年間百種類以上の野菜」を作り続けることになりました。
さらに考えたことは、野菜だけで良いのか?と言う疑問でした。「生きるための糧とは穀類である」と言う思いに至りました。
「草木堆肥のみ施肥し、穀類生産には欠かせない除草剤を排し、健全な土を育てることに3~5年を要し、味香りがあり、穀類の旨みが感じられる」
これを目標にして栽培実践を繰り返し、数年後に出来た麦を食した時に、農園主は驚きました。
今まで感じたことの無い味や香りが、そして、美味しさがそこにありました。
この穀類の素朴な美味しさを粉にして、加工品の商品開発にスタッフ達と取組始めました。
野菜饅頭・団子・石垣餅・パン・ピザ・パウンドケーキ・クッキー、そして全て原料をグループ内で調達したコロッケ等々でした。
アレルギー・アトピー・癌などに苦しむ消費者にやさしい農産物及加工品に取り組んでおります。

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彼は、当農園にて研修し、卒業し、独立農園主となる一人です。

6人の中で、一番若くて最近研修生となったばかりの子です。彼らの未来を導いて行き

やがて、彼らの足で立つ日が来ることを祈っております。

それも皆様の持続したご支援があってこそです。

 

化学物質を極力排した健全な農産物作りは、手間と労力と、生産リスクに満ちております。それでも、自然循環農業によって産出された農産物及びその加工品は、人々や、未来を担う子供達の健康を守ってくれる。
その自負心を持った新たな農業者が育ち、地域が再生されていくと言う志を持ち続ける邑が生まれる。

この壮大な実験はこれからも若いスタッフ達に受け継がれていき、未来へ繋がってくれることを祈り、
地域の農業が量から質の農業へ転換を果たし、それを消費者が理解し、支持していただけることを願って「活きること」と言う重たいテーマに取り組んできた農園日誌Ⅱは終わりたいと思います。

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ご愛読頂きありがとうございました。

皆様が、ご健康で常に幸あれと願います。

 

                               農園主より、